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映画『アイズ・ワイド・シャット』ネタバレ感想/解説

アイズ・ワイド・シャット
映画『アイズ・ワイド・シャット』より
■あらすじ『ビル(トム・クルーズ)はNYで開業する内科医である。アリス(ニコール・キッドマン)と結婚して9年目、7歳になる娘ヘレナをもうけ、高級アパートメントに暮らし、幸せな生活を送っていた。だが、あるクリスマスの夜、富豪の友人のパーティーから帰ったビルは妻から意外な告白を受ける。それは平穏な夫婦生活を脅かす発端だった。患者の娘からの求愛。娼婦の誘惑。魔性の美少女。会員制仮面乱交パーティーへの侵入。自らを犠牲にしてビルを救う謎の女…。疑うことの無かった夫婦という絆が、多くの秘密のために揺らいでしまう。ビル夫妻に今すぐ必要な事とは果たして何なのか?ある夫婦の愛と性をめぐる心の相克を冷徹に映し出した衝撃の問題作!監督・製作は「2001年宇宙の旅」「時計じかけのオレンジ」などの巨匠スタンリー・キューブリックで、88年の「フルメタル・ジャケット」以来11年ぶりとなる本作完成直後に死去、本作が遺作となった。』



「なんじゃこの映画は?」
これが本作に対する僕の率直な感想である。とにかく、形容しがたいほどにヘンテコな映画なのだ。一見、仲睦まじい夫婦に見えるビルとアリス。だが、ある日ビルが妻の浮気を疑い出した頃から、彼の周りで次々と奇妙な事件が起こり始める。ビルに付きまとう謎の組織、突如行方不明になった彼の友人、知り合いの女性が不幸な事故で死亡…。隠された真実を知る為に奔走するビル。

こう書くとサスペンス映画みたいだが、そうではない。もちろんSFでもなければラブ・ストーリーでもない。いったい”ナニ映画”なのかさえ、はっきり分からないのだ。あえて言えば“官能映画”だろうか。ニコール・キッドマンを始めとして、ありとあらゆる裸体が堪能できる点が見所の一つなのは間違いない。

内容を要約すれば、「奥さんの浮気を疑った旦那が、嫉妬心に駆られて娼婦を買ったり、エッチなパーティーにこっそり参加したりして自分の欲望を満たそうとするが、意気地が無い為に何も出来ず、結局奥さんに泣いて謝る」という、どうでもいいような物語だ。

トム・クルーズのヘタレぶりは存分に発揮されているものの、なぜキューブリックがこんな映画を撮ったのか不思議でしかたがない。ましてや本作が”遺作”ともなれば、「『2001年宇宙の旅』や『シャイニング』を撮ってきた巨匠の集大成がコレかよ?」と文句の一つも言いたくなるだろう。

だが、つまらないのかと言えば決してそんなことはない。完璧主義のキューブリックが撮っただけあって、全編に漂う緊張感が只事ではないのだ。単なる会話シーンなのに、画面に目が釘付けとなってしまう、この求心力は凄いとしか言いようが無い。

さらに、現代のニューヨークが舞台となっているにも関わらず、映画はどこか現実離れしており(撮影はロンドンで行われたらしい)、ある種ファンタジーの世界へ足を踏み入れているとさえ言える。”緊張感”と”非現実感”が最後まで持続する、実に不思議な映画なのだ。

ビルは奥さんの告白にショックを受け、フラフラと街を徘徊するが、そこで起きた出来事は果たして現実だったのだろうか?一方、アリスは夢の中でビルとそっくりな体験をするが、それは本当に夢なのだろうか?夢と現実が複雑に交錯する奇妙な物語。

アリスはビルに「それらが夢だったにせよ、現実だったにせよ、彼らのアヴァンチュールから生還できた事に感謝しなくてはいけないわ」と謎の言葉を投げ掛ける。つまり、どちらが夢でどちらが現実なのかはもはや意味を成さなくなり、虚構とリアルの境界線は消失しているのだ。

ちなみに、原作小説のタイトルは『夢小説』となっており、はっきり「この物語は夢ですよ」と宣言している(ただし、映画の中ではどこからどこまでが夢なのか明確にしていない)。

一つ言える事は、「この映画に深い意味は無い」ということだ。謎の組織の正体は何なのか?友人は生きているのか?女性はなぜ死んだのか?貸衣装屋の親父の娘(リリー・ソビエンスキー)は何をやっているのか?などの数々の謎や疑問が解明されることは一切無い。


それらは”抑圧された性”を描き出す為のメタファー(フロイト的解釈)に過ぎず、特に意味なんて無いのだ。エンディング間際、ニコール・キッドマンは一言「FUCK!」と言い放ち、物語は終了する。

すなわち、この映画が訴えている事は夫婦円満の秘訣はセックスである」という事だったのだ。いや、冗談ではなく、キューブリックは本作で「夫婦の仲が悪くなったら、とりあえずやっちゃえばいいんだよ!」と言いたかったらしい。

なぜなら、映画のタイトル『Eyes Wide Shut』とは、「Keep your eyes wide open before marriage, and half shut afterwards.」という結婚式などで良く使われる常套句をもじった一種の駄洒落で、「結婚前は目を大きく見開いて相手を確認し、結婚後は目を半分閉じよ」という意味だからだ。

つまり、「たとえ夫婦間でも、見てはいけないものに対してはしっかり目を閉じておきなさい」という戒めだったのである。あまり深読みしすぎると、余計にわけがわからなくなる恐れがあるのでご注意を(笑)。

ちなみに、スタンリー・キューブリックリテイク(撮り直し)回数の多さは昔から有名で、俳優やスタッフたちは本作でも、うんざりするほど何度も何度も同じテイクを繰り返させられたらしい。

噂によると、トム・クルーズは建物のドアをくぐるだけのシーンで、95回も違うバージョンのテイクを撮らされたそうだ。また、娼婦ドミノ役の女優の撮影予定は当初2週間のみだったが、リテイクの回数が多すぎてとうとう1年もかかってしまった。

当然、撮影スケジュールは遅れに遅れ、18週間の予定がなんと14ヶ月を超えてもまだ終わらない!ついには、あまりのリテイク数の多さにネを上げたジーグラー役のハーベイ・カイテルが降板し、急遽シドニー・ポラックが代わりにキャスティングされるというとんでもない事態が勃発!

結局、本作品は全ての撮影を終えるまで46週(400日)以上もかかり、「撮影期間が最長の映画」という部門でギネスブックに認定されてしまったのである。

しかし、そんな酷い現場の中で、只一人やる気満々の役者がいた。それがニコール・キッドマンだ。彼女は、50回以上のリテイクを繰り返した挙句にようやくOKを出したキューブリックに対して、なんと更なる”撮り直し”を要求したのである。

これにはさすがのキューブリックもド肝を抜かれたらしく、「長年監督をやっているが、僕に”もうワンテイクお願いします”と言った役者は君だけだよ!」と仰天したそうだ。すげえぜ、ニコール・キッドマン


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