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ガイナックスが「丸投げ仕事」で借金を返済していた頃の話

OVA版『アップルシード』

OVA版『アップルシード


どうも、管理人のタイプ・あ~るです。

さて先日、「アニメ制作会社のガイナックスが破産した」というニュースが話題になりました。

ガイナックスといえば劇場アニメ王立宇宙軍 オネアミスの翼を作るために1984年に設立された会社で、以降もトップをねらえ!ふしぎの海のナディアなど数々の人気作品を生み出した老舗のアニメスタジオです。

中でも最大のヒットとなった新世紀エヴァンゲリオンは最初のTV放送から30年近く経った今でも高い人気を保ち続けており、まさにガイナックスの代表作の一つと評しても過言ではないでしょう(※なお、現在エヴァの権利は庵野秀明氏の会社「カラー」が保有している)。

そんなガイナックスがなぜ破産したのか?詳しい経緯は公式ホームページにも載っているので、興味がある方はご覧ください(ちなみに株式会社カラーもこの件について見解を発表しています)。

ガイナックス公式サイト

www.khara.co.jp

どうやら2012年頃から経営状態が悪化し、庵野監督の株式会社「カラー」から1億円を借りたり、ガイナックス保有していた『フリクリ』などの権利を売却するなど、かなりお金に困っていたようですね(負債額は約3億8000万円)。

しかし、そもそもガイナックスという会社は王立宇宙軍 オネアミスの翼』を公開した時点からすでに経営難に陥っていたのですよ。

今でこそ高く評価されている『オネアミスの翼』ですが、1987年に公開された当時はほとんどヒットせず、ガイナックスは大きな借金を背負ってしまいました。

そのため、元々は映画を作った後に解散する予定だったにもかかわらず、借金返済のために経営を継続しなければならなくなったのです。

王立宇宙軍オネアミスの翼

王立宇宙軍オネアミスの翼

しかし、庵野秀明さんが初監督を務めた『トップをねらえ!』や、初のTVシリーズふしぎの海のナディア』など次々と新作を作り続けたものの、借金は一向に減りません(むしろ作れば作るほど負債額が増えていったという)。

当時、ガイナックスの社長を務めていた岡田斗司夫は「このままでは会社が潰れてしまう。何とかしなければ…」と焦っていたそうです。

そんな時、バンダイビジュアルから「ガイナックスさんでアップルシードのアニメを作りませんか?」との依頼が舞い込みました。

アップルシード』といえば、『攻殻機動隊』で知られる士郎正宗先生が手掛けたSFアクション漫画で、2004年には劇場アニメが公開され、2011年には全13話の『APPLESEED XIII』が配信されるなど、過去に何度もアニメ化されている人気作品です。

そんな『アップルシード』を初めてアニメ化したのが、実はガイナックスだったのですよ。

しかもこの時、ガイナックスの苦境を見かねたバンダイビジュアルから「下請けに丸投げして、中間マージンを抜いてもかまわない」とまで言われたらしい(以下、岡田氏の証言より)

アップルシード』は、当時では予算枠がかなり大きいビデオアニメでした。それを「丸受け丸投げしてかまわない」とスポンサー様が言ってくれるわけです。

「丸受け丸投げ」というのは、何もしないで下請け会社に発注し、マージンだけ抜くというやり方です。例えば『アップルシード』という企画を仮に7000万円で受けたら、5000万円ぐらいで下請けの会社にばーんと発注しちゃう。何もしないで、間で2000万円抜いちゃう。

別に珍しい話ではありません。大きい会社だったらどこでもある程度はやってるんですよ。大きい会社はなんでそんなことが出来るのかっていうと、マージンを抜くかわりに納品保証や品質保証をするからです。

岡田斗司夫著「遺言」より)

こうして岡田社長はOVA版『アップルシード』で得た2000万円を借金の穴埋めに使ったそうですが、それでも完済するにはまだまだお金が足りません。そのため、何度も「丸受け丸投げ仕事」を手掛けることになったのです。

OVA版『アップルシード』

OVA版『アップルシード

次に岡田社長が考えたのは、レンタルビデオ屋の店員にアピールできるような作品を作ろう」ということでした。

当時、洋画や邦画は店長がどのタイトルを仕入れるかを決めていましたが、アニメは主に店員が決めていたため、「だったら店員の興味を引くようなアニメを作れば仕入れてもらえるんじゃないか?」と考えたわけです。

そこで色んなビデオ屋をひたすら訪ねてバイトの店員に話を聞いたり、休憩中にどんな雑誌を読んでいるか等を徹底的に調査したところ、最も多い雑誌は週刊プレイボーイであることが判明。

それに気付いた岡田社長は、当時『週刊プレイボーイ』に連載されていた『Beat Shot !!(ビートショット!!)』という漫画に目を付けたのです。

『Beat Shot !!』とは、レーシング漫画『サーキットの狼』で有名な池沢さとし先生が手掛けたゴルフ漫画で、かなり大人向けの内容でした(メインはゴルフだがセクシーな場面も多い)。

岡田社長は「『Beat Shot !!』をアニメ化すれば、『週刊プレイボーイ』を読んでいるビデオ屋の店員が興味をもって発注してくれるに違いない!」と考え、さっそく原作者の池沢さとし先生のところへ依頼に行ったそうです。

当時の池沢先生は『サーキットの狼』で大儲けしていたため、1階が駐車場で高級車が何台も並び、2階は全面ガラス張りという豪邸に住んでいました(岡田社長曰く「ファミレスのジョナサンみたいな家だった」とのこと)。

そして「ガイナックスの総力を結集して凄いアニメを作ってみせます!」などと熱心にアピールした結果、なんと見事にアニメ化決定。ところが、会社に戻って山賀博之さん(『オネアミスの翼』の監督)に脚本を依頼したところ、「そんな仕事はやりたくない」と断られてしまったのですよ。

困った岡田社長が「何でもいいから脚本の代わりになるものを作ってくれ」と言うと、山賀さんは『Beat Shot !!』の漫画をバラバラにして束ねてホッチキスで留めて「はい」と渡してきたそうです(これは酷いw)。

しかも下請けのアニメ会社(マジックバス)に丸投げする際にも「ホッチキスで留めた漫画」をそのまま渡したら、「担当者が一瞬絶句した」とのこと(笑)。

あまりにも適当すぎる制作経緯ですが、この仕事でガイナックスバンダイから制作費として1700万円を受け取り、下請け会社に1200万円で発注し、中間マージンの500万円をゲットしたそうです。

 

次に岡田社長は、レンタルビデオ屋の店員が『週刊プレイボーイ』の他に近代麻雀もよく読んでいることに着目しました。

そこで「『近代麻雀』の人気漫画といえば哭きの竜だ。『哭きの竜』をアニメ化すればレンタルビデオ屋が買ってくれるに違いない!」と考え、さっそく原作者の能條純一先生のところへGO!

そして竹書房の担当者と能條先生に、「全編ロトスコープ(俳優を実写で撮影してトレースする技法)を駆使した作画で、キャラクターがリアルに動きまくる画期的な麻雀アニメを作りましょう!」などと景気のいい話を連発しました。

能條先生は「それはいいね!」と喜び、竹書房の担当者も「お願いします」となって無事にアニメ化決定。しかし、下請けのアニメ会社(マジックバス)に話を持って行ったら「岡田さん、そんなの出来るわけないでしょう」と一蹴されたそうです。

それで仕方なく、「ポンやチーをした時に透過光で派手なエフェクトが光りまくる」という演出でごまかすことにしました。完成したアニメを観た能條先生は「岡田さんの話と違う」「キャラが全然動いてない」などと指摘したものの、「透過光が竜の形になって麻雀牌を食う演出は良かった」と概ね満足したらしい(結局『哭きの竜』のアニメは計3本が制作された)。

ガイナックスはこの仕事を5000万円でバンダイから受注して3500万円で下請けに丸投げし、1500万円の利益を得たそうです。

OVA版『哭きの竜』

OVA版『哭きの竜

こうして岡田社長は、『アップルシード』(1988年)、『Beat Shot !!』(1989年)、『哭きの竜』(1988年~1990年)、『サーキットの狼II モデナの剣』(1990年)など、借金を返済するために次から次へと「丸投げ仕事」を引き受けていったのです。

そのため、この時期にガイナックスが手掛けた(でも実制作は違う)これらのOVAは総じてクオリティが低く、1991年にリリースされた『マネーウォーズ 狙われたウォーターフロント計画』に至っては、あまりにも出来が悪すぎて納品を拒否され、3回作り直してようやく受け取ってもらえたというぐらい酷かったらしい(ただ個人的には、『哭きの竜』は割とよく出来ている方だと思う)。

なお、岡田斗司夫氏は当時の気持ちを以下のように語っていました。

会社が赤字だからこんなことをやるしかないんだけど、実はあんまりやりたくない企画です。本当にその頃は、日銭が欲しかったんですよ。

岡田斗司夫著「遺言」より)

このように「丸受け丸投げ仕事」で日銭を稼いでいたガイナックスですが、ほぼ同時期に赤井孝美さんが作ったPCゲーム『電脳学園』が大ヒットし、さらに『サイレントメビウス』、『バトルスキンパニック』、プリンセスメーカーなど次々とヒット作が生まれ、急速に会社の経営状態が回復していったのです。

そして1995年、ついに新世紀エヴァンゲリオンが誕生!日本中に社会現象を巻き起こし、コミックの発行部数は累計2500万部、LDやDVDの売上は約430万本、『残酷な天使のテーゼ』のセールスは約150万枚(ダウンロード数は200万以上)など驚異的な数字を叩き出しました。

1997年に劇場版が公開されるとブームはさらに過熱し、大量の”考察本”が出版されまくり、ホビーやゲームや様々なキャラクター商品が世に送り出されて好調な売り上げを記録するなど、エヴァがもたらした経済効果は計り知れません。

だがしかし!これでガイナックスも安泰か…と思いきや、なんと1999年に粉飾決算が発覚!約15億円の所得隠しにより5億8000万円を脱税したとして東京国税局から告発されてしまったのですよ、トホホ…

さらにその後も、社長(巻智博)が未成年女性への準強制わいせつ容疑で逮捕されたり、優秀なスタッフが次々と辞めて行ったり、借入金1億円の支払いをめぐってカラーから提訴されるなど、良くないニュースが相次ぎました。

そしてとうとう、2024年5月29日にガイナックス破産…

というわけで約40年に及ぶガイナックスの歴史をざっくり振り返ってみたんですが、もともと設立当初から危ういバランスで成り立っていた会社ではあったんですよね。

だから、もっと早い段階で潰れていてもおかしくなかったと思うんですけど、たまたまゲームやエヴァがヒットしたおかげで何とか経営が継続していた…という感じもするんですよ。

そもそも当時、新規のアニメ制作会社といえば東映動画虫プロタツノコプロなど大手のアニメスタジオに勤めていた人たちが独立して立ち上げるというパターンが多数を占めていた中で、ガイナックス学生時代に自主制作アニメ等を作っていた素人たちが集まって立ち上げた会社なのだから、不安定な経営状態も当然といえば当然だったのかもしれません。

なお、庵野さんや今石さんなど主要なスタッフが抜けた後はアニメ制作会社としての機能はほとんど失われていたようですが、それでも庵野さんはガイナックスを支援しようと経営改善の提案などを申し入れていたそうです(しかしガイナックス側が受け入れなかったらしい)。

この辺の経緯を鑑みると余計に悲しいし、80年代からガイナックスの作品に触れてきたファンにとっても実に寂しい出来事でしょうが、現在はカラーが「ガイナックス」の商標や称号を取得管理しているので、いつか何らかの形で復活してくれることを願っています。

 

遺言

岡田斗司夫氏がガイナックスや作品について様々なエピソードを綴った自伝的な本