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『機動警察パトレイバー』はこうして生まれた

『機動警察パトレイバー』

機動警察パトレイバー


どうも、管理人のタイプ・あ~るです。
さて、本日8月10日は何の日でしょう?
そう、パトレイバーの日」です!

いや、「山の日」だろ!

という指摘はその通り(笑)。
しかし2018年に30周年を迎えたことを記念し、株式会社HEADGEARが8月10日を「機動警察パトレイバーの象徴的な日」にしようと考え、一般社団法人・日本記念日協会によって正式に認定・登録されたのですよ(日付は「パ(8)ト(10)」と読む語呂合わせから)。

機動警察パトレイバー』は1988年に最初のOVAが発売されて以来、漫画、小説、ゲーム、TVアニメ、劇場アニメ、実写版など様々な媒体でメディアミックスを展開した先駆的な作品ですが、その誕生までには色んな苦労がありました。

というわけで本日は、『機動警察パトレイバー』が生まれるまでのエピソードをご紹介します。


●企画のゆうきまさみ
時は1980年代初頭、漫画家のゆうきまさみが仲間たちと喫茶店に集まり、「ロボットアニメの企画」を考えていたそうです。最初は『電光石火ギャラクレス』というタイトルで、作業用ロボットが別の惑星で活躍する内容でしたが実現しませんでした。

次に考えた『バイドール』という企画は、「近未来の2人組の婦警さんがロボットに乗って事件を解決する」という、「『逮捕しちゃうぞ』のSF版」みたいなストーリーだったらしい(ゆうきまさみ曰く「あの頃はミニパトの婦警さんが人気だったので…」とのこと)。

ちなみに、『バイドール』の頃は「ロボットをできるだけ小さくしたい」と考え、3~5メートル程度のいわゆる”パワードスーツサイズ”だったようです(しかも白バイがロボットに変形する案まであったとか)。

パトレイバーの原型?

パトレイバーの原型?

結局、この企画もボツになりましたが「警察用のロボット」というアイデアは残し、当時一緒に企画を練っていた”とまとあき”が「レイバー」という名称を考え、ゆうきまさみが「じゃあ戦うレイバーでバトレイバーだ!」と。ここから「パトレイバー」が生まれたそうです(ゆうき氏曰く「いつの間にか”バ”が”パ”に変わっちゃったけどね(笑)」)。


●メカの出渕裕
続いて企画に参加したのが出渕裕でした。出渕さんといえば、『戦闘メカ ザブングル』や『聖戦士ダンバイン』や『逆襲のシャア』などで優れたデザインを生み出した人気メカデザイナーで、衣装デザインや監督としても活躍しています。

そんな出渕さんが『パトレイバー』の企画内容を聞いた時、「人が死なないロボットもの」という設定に可能性を感じたとのこと。

兵器じゃないロボット、人があまり死なない、戦争じゃないという部分で「なるほど、そういう切り口はあるな」と感じましたね。ゆうきさんは、戦争で人が死ぬのが日常になっているようなものはやりたくないと言ってたんですよ。ガンダム以降、その部分をトレースしているアニメが非常に多かったので、同じロボットものというカテゴリーの中で、ガンダム的ではない別のやり方もあるんじゃないか…という可能性を感じました。 (『機動警察パトレイバークロニクル』より)

そこで、出渕さんの友人でSF作家の火浦功を含めて3人で企画書を作り、アニメ制作会社のサンライズへ提出。しかし、これまた実現しませんでした。

当時は玩具メーカーがロボットアニメのスポンサーになるケースがほとんどで、「変形・合体するメカじゃないと企画が通らない」と言われた出渕さんは「そんなもの描きたくない!」と言いつつ、”変形するパトカー”のデザインを描いたのですが、それもボツに…。

なお、『パトレイバー』を通すための”ダミー企画”として『ガルディーン』というロボットものの企画も一緒にサンライズへ提出したのですが、『パトレイバー』よりも先に『ガルディーン』の方が小説として世に出てしまい、ゆうきさんは複雑な気持ちになったそうです(笑)。

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●シナリオの伊藤和典
サンライズに断られた『パトレイバー』の企画は一旦引き上げられ、ゆうきまさみ出渕裕が「さてどうしよう?」と思案している頃に合流したのが脚本家の伊藤和典でした。

伊藤さんといえば『うる星やつら』や『魔法の天使クリィミーマミ』などTVアニメシリーズの脚本を手掛け、後に平成ガメラ三部作でも優れた手腕を発揮した人気シナリオライターです。

出渕さんから企画内容を聞いた伊藤さんは「『ポリスアカデミー』みたいな内容でロボットアニメをやったら面白くなるんじゃないかな?」と考え、シナリオを執筆。

その時に、泉野明や後藤喜一など具体的なキャラクター名が決まっていったそうですが、実はパトレイバーに登場するキャラは実在の人物をモデルにしてるんですよね。

例えば「野明(のあ)」って非常に珍しい名前ですが、証券会社の窓口にこういう名前の人が実際にいたそうです。また、「進士幹泰」は伊藤さんが当時通っていたダイビングスクールの生徒さん。「山崎ひろみ」スタジオディーンのアニメーター。「香貫花」は離島で暮らす家族のお姉さんの名前らしい(香貫花に関しては伊藤さんと面識はなく、「テレビで見た」とのこと)。

『機動警察パトレイバー』

機動警察パトレイバー

こうしてキャラの名前や設定が出来上がり、当初はTVアニメシリーズを目指していたため4~5話分ぐらいのプロットも作り、『パトレイバー』の原型みたいなものが完成しました。

ちょうどその頃、伊藤さんの自宅でパーティーをやる機会があり、「どうせならこの企画を関係者に見せようか」という話になって、伊藤さんが仕事で知り合いになったバンダイビジュアル鵜之澤伸(うのざわしん)に声をかけました。

パーティーの席でいきなり伊藤さんから「これTVアニメにしたいんだけど…」と企画書を渡された鵜之澤さんは驚きつつも、とりあえず上司に相談したら「無理!」と一蹴されたらしい。

ただ、当時はOVAが流行っていたので「テレビは無理でもビデオならいけるんじゃないか?」と考え、さらにその頃のビデオは1本1万円以上していましたが、「これを4800円で売ればヒットするはずだ!」と思い付いたそうです。

ちなみに、このパーティーが開催された日付は1985年の12月、つまりクリスマス・パーティーでした。鵜之澤さんは「”楽しいパーティーをやるからおいでよ”と誘われたのに、まさか仕事の話だったとは…」と微妙な気持ちになったという(笑)。


●キャラクターの高田明美
そして、このクリスマス・パーティーのメンバーの中に、パトレイバーでキャラクターデザインを担当する高田明美も参加していました。

うる星やつら』や『魔法の天使クリィミーマミ』などで伊藤和典とすでに仕事をしていた高田さんは、伊藤さんから「今こういう企画を考えてるんだけど一緒にやらない?」と声をかけられたらしい。

企画書を作る段階でゆうきまさみがラフなデザインを描いていましたが、そのままではアニメに使えないため、キャラクター設定として正しく描き直す必要があったからです。

また、キャラクターの名前も高田さんの知り合いからもらっているようで、「榊清太郎」は高田さんの祖父の名前が”清太郎”だったから。「篠原遊馬」は病院に行った時に見たおじいちゃんの診察券から。「太田功」は高田さんが通っているダイビングスクールのインストラクターから…など。

さらに『パトレイバー』を実現するために作られた組織「ヘッドギア」のネーミングも高田さんの発案らしい。

最初、他のメンバーが地球防衛軍とか言ってたので、それはやめようよって(笑)。「私たちは企画を立てる集団で、頭が道具なんだ」という意味を込めてヘッドギアってどうかなと思ったんです。「地球防衛軍」よりはいいんじゃないかなと(笑)。 (『機動警察パトレイバークロニクル』より)

こうして、『機動警察パトレイバー』の制作準備が着々と進行する中、いよいよ”あの人”がメンバーに加わることになるのですが…


●監督の押井守
他のヘッドギアのメンバーが忙しく働いている頃、押井守監督は全く仕事がありませんでした。

うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』でアニメファンから一定の評価は得たものの、制作会社や原作者の意向を無視して好き勝手に作る押井監督のやり方に反感を覚える人もいたようです。

さらに、オリジナル企画の天使のたまごが難解すぎて全くヒットせず、とうとう押井監督に仕事を依頼する人がいなくなってしまったのですよ(本人曰く、「本当に数年間仕事がなかった」「完全に業界から干されていた」とのこと)。

この件について、スタジオジブリ鈴木敏夫プロデューサーは次のように語っています。

天使のたまご』という作品は、その後の押井さんの方向性を決める大きなものになりました。そのことに直接関係した者として、僕はいまだに引っ掛かりを感じています。本当に良かったのかな…って。というのも、彼は本来「大衆娯楽映画」を作れる人で、実際TV版『うる星やつら』でもそういうことをやってきたわけですよ。それが『天使のたまご』をきっかけに変わってしまった。いわゆる作家としてのデビューになるわけですが、それをオリジナルビデオという形で用意した僕の方にすれば、彼のその後の作品の範囲を狭くしたのではないか…と。今でもその疑問は残っています。反省としてね。 (キネマ旬報押井守全仕事」より)

天使のたまご』は押井守監督の作家性が爆発した初期の作品として、熱心なファンの間ではいまだに高く評価されていますが、業界では「難解なアニメを作る監督」という噂が広まり、すっかり暇になってしまったのです。

天使のたまご Blu-ray

しかし、いくらゲームの中でお金を稼いでも、現実世界で裕福になれるわけではありません。「パチンコは金になるのに、なんでゲームじゃ食えないんだ…」と不満に思っていた時、「ゲーム内で金品を稼いで暮らしているプレーヤーたちの物語」を思い付いたそうです(このアイデアは後に実写映画『アヴァロン』で実現する)。

アヴァロン

しかし、当時の押井監督は(暇を待て余していたにもかかわらず)あまりやる気はなかったそうです。自分が参加する前からキャラや設定がほとんど決まっていて口出し出来る部分が少ない上に、制作費がメチャクチャ安かったからです。

当時、30分のOVA1本当たりの制作費はおよそ2000万円~3000万円ぐらいでしたが、鵜之澤プロデューサーが提案した「定価4800円」を実現するには、必然的にコストも削減しなければなりません。

そこで鵜之澤さんは「複数の話をまとめて作れば設定や色指定を共有できるから単価を下げられるのでは」と考え、6本分を一度に作ることを決断。総予算は6000万円なので、1本当たり1000万円で作ることになったわけです。

現在、テレビアニメ1話当たりの制作費は1300万円~2000万円ぐらいだから、それよりも安い計算になりますね(ちなみに初期OVAは全7話構成だが、これはビデオが売れたことにより1本追加されたため)。

さらに低予算のしわ寄せはスタッフにも及び、ヘッドギアのギャラも極限まで抑えられ、ビデオの売り上げに応じて発生するはずの印税すら払えない事態に…。当然メンバーは不満を訴えましたが、鵜之澤プロデューサーが「100万本売れたらハワイへ連れて行くから!」と言って何とかごまかしたらしい(結局、ハワイには行ってないw)。

『機動警察パトレイバー』

機動警察パトレイバー

そんなわけで、押井監督としてはあまりやる気が無かったんだけど、とにかく当時は仕事が全然なかったので、「背に腹は代えられない」と引き受けることになりました。

しかし、やはり現場では相当揉めたようで、予算が無いから作画枚数を使えない。じゃあロボットアニメだけどロボットが活躍しない話にしようと。ロボットが出て来ても立ってるだけ。出来るだけ動かすな!と。そんな感じで徐々にフラストレーションが溜まっていったらしい。

中でも一番揉めたのはパトレイバーのデザインで、押井監督は作業用機械みたいなスクラップ寸前のポンコツレイバーを考えていたのに、出渕裕が描いてきたデザインはスマートでカッコいい”典型的なヒーローメカ”だったため、「こんなので出来るか!」と大激怒。

いざロボットのデザインに入ったら、ブッちゃん(出渕裕)がイングラムを出してきた。「何だこれは!こんなカッコいいロボットでどうするんだ!」って。「大体、こんなロボット動かすの大変なんだぞ、分かってるのか!」って話。空飛ぶガンダムならともかく。ガンダムってまともに歩いてるシーンってほとんどないんだから。「それがわかってるのか!」って言ったら、「分かってる。でも、どうしてもこれでなきゃ嫌だ」とか言って、ゆうきまさみ君も「ヒーローロボットの典型でなきゃ企画に反する」とか言って。伊藤君と僕は「反対だ!ポンコツにしろ!」って言って。それで高田明美さんが向こうに着いちゃった。結果的に3対2で負けた。 (ロマンアルバム押井守の世界」より)

こうしてモチベーションが上がらないまま制作に入った押井監督ですが、1話、2話、3話…と作っているうちにだんだん乗ってきて、5話と6話の頃には「かなり面白くなっていた」そうです。

そしてついに『機動警察パトレイバー』のOVAが完成!しかし、「いっぺんに6話作ったのはいいけど、1話目が売れなかったらどうするんだ?」と上司からプレッシャーをかけられた鵜之澤プロデューサーは、なんとヘッドギアのメンバーを引き連れて日本全国を回る大々的なキャンペーンを実施しました。

一見「景気がいいなあ」と思えますが、実際は宣伝費がありません。押井監督もほぼノーギャラで全国数十カ所を回らされ、「これじゃボランティアだ」とぶつぶつ文句を言っていたそうです。ただ、そのおかげでビデオは大ヒットを記録し、ついに劇場版の制作が決定!

というわけで、パトレイバーはここから本格的にメディアミックス展開していくわけですが、その話はまた別の機会にしたいと思います(^.^)

 

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