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実写映画版『ピンポン』ネタバレ感想/解説/評価

■あらすじ『卓球をこよなく愛し、勝つことへの絶対的な自信を持ちながら天真爛漫で気分屋のペコ(窪塚洋介)と、常に彼の背後に隠れ、「所詮、卓球は死ぬまでの暇潰し」と公言するクールで笑わないスマイル(ARATA)。幼なじみであり片瀬高校の卓球部員でもある二人は、夏のインターハイ地区予選大会に出場する。だが、スマイルは中国から留学してきたチャイナ(サム・リー)と接戦の末に敗れ、ペコは、やはり幼なじみで名門・海王学園に進んだアクマ(大倉孝二)に、まさかの敗退。その後、顧問の小泉(竹中直人)に天賦の才能を見出されたスマイルは、小泉の指導の下、めきめきとその頭角を現わしていく。一方、アクマに敗れた事で腐っていたペコだが、ホームグラウンドである卓球場タムラの主人・オババ(夏木マリ)の特訓を受け、徐々に自信を取り戻していった。そして訪れた二度目の夏、生まれ変わった二人の天才が、熱く激しく火花を散らす!ピュアなまでに卓球に打ち込む高校生たちの姿を清々しいタッチで描いた、スポーツ青春ドラマの決定版!』


本日は、松本大洋の同名人気漫画を実写映画化した『ピンポン』のお話。この映画を監督した曽利文彦氏は、普段はTBSの開発局デジタル開発センターでCG製作を担当しているサラリーマンだが、『ピンポン』ではその実力を発揮してVFXスーパーバイザーも兼任している。また、曽利監督はかつてジェームズ・キャメロンのデジタルドメイン社で働いていた事もあり、映画タイタニックでは船上の人間をフルCGで作ったりしていたらしい。

こうした経験を経て、初めての監督作品として選んだ題材が、ビッグコミック・スピリッツに連載されていた松本大洋原作のコミック『ピンポン』の実写化である。このマンガを選んだ理由は、ストーリーに重きを置いた青春ドラマでありながら、演出上、曽利監督の強みであるCGの使用が必要不可欠であるからだ。中でも最も多くCGが用いられたのが、ピンポン球の表現である。

そもそも高校の卓球部員たちの活動を描いている作品だけに、映画の大部分が卓球シーンとなっており、そのため登場するピンポン球の90%以上がCGで作られ、さらに場面によっては卓球台や背景もフルCGで製作。クライマックスに至っては、なんと応援している大勢の観客までもCGで作ってしまったのだから凄すぎる。一見すると単なる青春ドラマに見えるが、実は「某SF超大作」にも匹敵するような、大量のCG技術が投入されていたのだ。

特に圧巻は、冒頭、窪塚洋介演じるペコが橋から飛び降りるシーンだろう。飛び降りた瞬間にカメラがグルっと180度回り込みながら、一気に上空まで引き上げられていくこの場面、背景も建物も人物も全てCGなのだ!3Dで造形したCGに現場で撮影した写真素材などを貼り付けて作成された驚愕の映像は、CGだからこそ可能な、有り得ないほどダイナミックなカメラワークで観る者のド肝を抜きまくる。

一見すると『マトリックス』ぽいが、単なる『マトリックス』のパクりではなく、挫折した主人公が、絶望のどん底から再び立ち上がろうとする感情までもがこの映像で表現されているところが素晴らしい。さらに、本作の凄さはCGだけではない。魅力溢れる個性的なキャラクターたち、全編を彩る軽快な音楽、目を見張る卓球シーン、そして切なく美しい青春ドラマ。それらが混然一体となって繰り広げられる熱い物語こそが、映画『ピンポン』の真骨頂なのだ。

エキセントリックな言動で観る者を釘付けにするペコ。独特の“窪塚ワールド”が炸裂した、明るく元気なキャラクターで、ぐいぐいとドラマを引っ張っていく。それとは対照的にARATA演じるスマイルは、内向的で協調性が無く、ぼそぼそとつぶやくようにしゃべる暗いキャラクター。抜群の卓球センスを持ちながらも、「他人を蹴落としてまで勝ちたくない」という性格が災いし、勝てる試合まで落としてしまう。

そして、大倉孝二演じるアクマは二人の幼馴染みである。小さい頃から三人で卓球をしていたが、いつしか対抗意識を燃やすようになってしまった。特に、スマイルに対する“嫉妬心”は強烈で、対外試合を申し込むもののあっさりと敗北。体育館の中で叫ぶアクマ。「オレはお前の何十倍も努力したよ!何でオレじゃねえんだよ!」それを聞いてスマイルは残酷に言い放つ。


「君に卓球の才能が無いからだよ」


この物語を貫くキーワード、それは“才能”だ。本作の登場人物は大きく二つに分けられる。「才能を持つ者」と「持たない者」。才能に恵まれなかったアクマは自らを“凡人”と蔑み、スマイルに負けた夜、街でチンピラにケンカを吹っ掛けた挙句退学になってしまう。自信に満ち溢れたチャイナも、ペコとの二度目の対決で、彼の“才能”に気付き負けを認める。

そして、最強のキャラクターとして皆に恐れられているドラゴン(中村獅童でさえ、試合前は押しつぶされそうなプレッシャーから逃れるようにトイレに引き篭もり、スマイルやペコの才能に嫉妬するしかないのである。“天才”と“凡人”という二つの視点からドラマを描いている点が、他のスポ根映画と一線を画している所以であろう。

しかし、そんな彼らの憧れの的であるはずの“二人の天才”もまた、自らの“才能”に気付かず、悩み苦しんでいたのだ。対戦相手の事を思いやるあまり、無意識のうちに手を抜いてしまうスマイルにドラゴンは、「真剣に試合をしている相手に対して、手心を加える君のプレーは実に醜い!」と罵倒し、竹中直人「頂点に立たなければ、見えない風景もあるんだ!」と全力を出すように指示する。

一方、すっかりやる気を無くしたペコは、地元のゲーセンに入り浸る毎日を送っていた。ある日学校を退学になったアクマに「続けろよ、卓球。お前のセンスはズバ抜けてるんだからよ…」と言われてびっくり。「でないと、お前に憧れてきたオレやスマイルが浮かばれねえんだよ!」。いくら努力しても“凡人”には超えられない壁がある。それを悟ってしまったアクマは、それでもまだ、卓球を愛していたのだ。

そんなアクマの気持ちに何かが吹っ切れたのか、ペコは「アイ・キャン・フライ!」と叫び、橋の上から飛び降りる!暗く深い川の底に、ゆっくりと沈んでいくペコ。だが、それは終わりではなく、復活の儀式なのだ。彼が、もう一度“ヒーロー”として立ち上がるために…!

スポ根モノの定番と言えるような展開だが、この後の特訓シーンは素直に燃える。まさに「これが青春だ!」と言わんばかりのシチュエーション。う〜ん、熱い!熱すぎるぜ!

そして物語の後半、試合会場にやってきたアクマは、久しぶりにドラゴンと会話を交わす。「風間さんは、誰の為に卓球をやってるんですか?」。必ず勝つ事を宿命付けられたドラゴンにとって、卓球はもはや苦痛でしかなかった。それを知ってしまったアクマは静かにその場を立ち去り、駆け寄ってきた彼女に一言、「来るな!少し、泣く…」。ああ、何度観てもいいシーンだなあ。

この映画には、天才と凡人、栄光と挫折、そして友情と努力と勝利という、少年ジャンプのような(笑)素晴らしい要素が目一杯詰まっているのだ。さらに、スピード感溢れる音楽の数々が、もっと熱くもっと激しく、クライマックスへ向けてドラマを無限に加速させる!

臨場感たっぷりの試合シーンもまた、実に見事な出来栄えだと言わざるを得ない。超絶的なテクニックで相手の球をカットするスマイル。フォアで取れる球を、わざわざバックに回り込んで返してくるドラゴン。そして、苦手なバックを克服する為に編み出した必殺の裏面打法で闘いを挑むペコ。三者三様のプレイスタイルを、激しいカメラワークでリアルに映し出す。思い切りカメラを振り回しているにも関わらず、完璧にCGのピン球を合成している技術も凄いとしか言いようがない。

僕が中学・高校と卓球部に所属していたので余計に思い入れがあるのかもしれないが、それを差し引いても尚、この映画の面白さはタダ事ではない。それは、恐ろしいほどに深くキャラクターが描き込まれ、それぞれのドラマがしっかりと存在しているからだ。

メインの登場人物だけでなく、竹中直人夏木マリなどの脇役(失礼)までにもきっちり背景が用意されているこだわりにも感心する(卓球部の先輩の荒川良々とスマイルの間にさえ、ちょっとしたドラマが生まれているのだ)。

そうした多くのドラマの中でひときわ光輝いているのが、ペコとスマイルのドラマであろう。ペコにとってスマイルは、幼馴染みであり、ライバルであり、掛け替えの無い友人。そして、スマイルにとってペコは、唯一無二の“永遠のヒーロー”であり続けたのだ。久しぶりに試合会場で再会した二人の会話は驚くほど短い。

ペコ「いくぜ、相棒!」
スマイル「お帰り、ヒーロー」

だが、たったこれだけで十分なのだ。言葉なんか必要ない。“卓球”という強い絆で結ばれたペコとスマイル。二人の想いはまさに、この短いセリフに全て集約されている。ああ、いかん涙が(笑)。キャラクター、ストーリー、映像、音楽、あらゆる要素が奇跡のようなバランスで配置された、まさに青春スポーツドラマの傑作!観ていない人は是非一度ご覧あれ。マジで泣けます!


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