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『風の谷のナウシカ』と庵野秀明「巨神兵のシーンは失敗だった」

巨神兵と庵野監督

巨神兵庵野秀明監督


どうも、管理人のタイプ・あ~るです。
さて先日、金曜ロードショー宮崎駿監督作品風の谷のナウシカが放送されました。

劇場アニメ版ナウシカといえば、若手時代の庵野秀明さんがアニメーターとして参加し、クライマックスの「巨神兵王蟲を薙ぎ払うシーン」を担当したことでも有名ですね。

ところで現在、庵野さんは『新世紀エヴァンゲリオン』のアニメーション監督として知られ、さらに『シン・ゴジラ』や『シン・仮面ライダー』など実写映画も撮っています。

しかし『風の谷のナウシカ』に参加する前は、イベントで上映するための自主制作アニメ(『DAICONⅣ』)を手掛けており、ほぼ素人同然の若者でした。

一応、TVアニメ『超時空要塞マクロス』で原画を描いてはいたものの、その時点ではまだ大阪芸術大学の学生で、プロとしての経験はほとんどありません。そんな庵野さんがどうして『風の谷のナウシカ』へ参加することになったのでしょうか?

当時の状況を、スタジオジブリのプロデューサー:鈴木敏夫さんは次のように語っています。

ふらりと阿佐ヶ谷にあったスタジオに何の予告もなく現れて、「俺をアニメーターにしろ」と(笑)。たぶん何かやりたかったんでしょうね。「とにかく宮崎駿に合わせろ」と。それで僕が宮さんのところへ行って「こんなやつが来てるんだけど…」って言ったら「面白いじゃん。ちょっと会ってみよう」と。そしたら急遽、宮さんがアニメーターとして彼を起用したんです。

その面接が終わった直後、僕は宮さんに訊いたんですよ、「彼の何がよかったんですか?」って。まぁ持って来た絵とか大学で作った自主制作アニメとか色々あるんですが、宮さんは「雰囲気がよかった」って。何ですかそれ?って訊いたら「テロリストみたいだ」って(笑)。こういうテロリストみたいなやつは、きっと黙々と仕事をやってくれるに違いないと。実際そうだったんですよ。

(「アニメージュジブリ展」の内覧会でのコメントより)

鈴木敏夫プロデューサー

鈴木敏夫プロデューサー

一方、宮崎駿監督は庵野さんに初めて会った時の印象を以下のように語っていました。

宇宙人が来たと思いましたよ。友人から借りた背広の上下を着てるんだけど、ハダシの足にビーチサンダルを履いてたんです。それを見た瞬間に「あ、こいつ面白い」と思ったから「(『風の谷のナウシカ』を)やれ」って言ったの。

巨神兵っていうのが光線を発射して、核爆発みたいなことを起こすんですよね。そのシーンを描くための資料に「核爆発ばっかり集めたビデオ」を持って来て、それをずーっと見てるんです。あいつ頭おかしい(笑)。家にも帰らずスタジオに住み着いて、だからあいつ一日何時間仕事したんだろう?

朝来ると机の下からハダシの足が出てるんですよ。汚い足で”原人の足”って呼んでたんです(笑)。ひび割れが走ってるぐらいゴワゴワで、風呂が大嫌いなんですよね。庵野はそういう男です。

NHK「さようなら全てのエヴァンゲリオン」より)

宮崎駿監督

宮崎駿監督

どうやら初対面から強烈なインパクトを放っていたようですが(笑)、こうして庵野さんは1983年の11月1日から『風の谷のナウシカ』の制作拠点である「トップクラフト」に入り、翌年の2月まで作業をすることになりました。

その間、ずっと会社に寝泊まりし(そもそもカバン一つで東京に出て来て住む場所もなかった)、起きている時間はひたすら原画を描き続け、腹が減ったら近所の定食屋で”あつあげ”を食べ、またスタジオに戻って仕事をする…ということを繰り返していたそうです。

なお、最初は前半の空中戦(アスベルがバカガラスを攻撃するシーン)を担当する予定でしたが、「巨神兵のシーンを誰もやりたがらないんだ」「やってみないか?」と言われ、「やらせて頂けるなら何でもやります!」と答えて決まったらしい。

ところが、後に「こんなに大変なカットだったのか!?」とビックリ仰天。作画にもの凄い手間がかかり「1週間でようやく1カット、長い時には10日ぐらいかかっていた」と語り、さらに朝起きて机の上を見たら「遅い!」「早くカット上げろ!」など宮崎監督のメモが貼ってあったとのこと(笑)。

そんな苦労の末にようやく完成した「巨神兵のシーン」ですが、実は庵野さんはいまだに納得していないそうです。一体なぜなのか?その理由を以下のように説明していました。

あれは僕の中では失敗なんです。本当に申し訳ない。細かいことですけど、原画と原画の間に動画が3コマで5枚なんですよ。宮さん(宮崎監督)の指示で「これ中5(なかご)でいい」って言われたから素直に中5にしたんですけど、なんであの時抵抗して中7(なかなな)にしなかったんだろうって…今でも後悔してます。枚数が増えて大変なのは分かるけど、中7にした方が絶対に良かった。ありゃ溶けるのが早すぎますね。

もう2枚、間にもう6コマあれば良かったんです。そうすれば完璧だったんですけど。あれは今でも悔しいですね。宮さんの中では中5だったと思うんですけど、僕は中7の方が良かったんです。あのラッシュを見た時、死にたくなりました。もう「失敗した~!」って。他の人が褒めてくれる分、余計に辛かったですね。もっと良くなったハズなのに…。あれ以来、宮さんの言うことを聞かなくなったんです。

NHKトップランナー』2004年5月9日放送回より)

庵野秀明監督

庵野秀明監督

というわけで、「宮さんの言うことを聞かなくなった」と語っていた庵野さんですが、『風の谷のナウシカ』から29年後の風立ちぬでは主人公の声を演じています(当時の記者会見で「宮さんに頼まれたら断れない」と証言)。やっぱり仲がいいですねぇ(^.^)