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この演奏が泣ける!映画『オーケストラ!』ネタバレ感想


■あらすじ『ロシアのボリショイ交響楽団で清掃員として働く中年男アンドレイ。彼は30年前、この楽団で天才指揮者と持てはやされ活躍していた。しかし、共産主義時代、国がユダヤ人排斥の政策を強行し、ユダヤ系の演奏家たちも解雇されてしまったのだ。そんなある日、パリの劇場から届いたファックスを偶然目にしたアンドレイは、とんでもない考えを思いつく。それは、かつての仲間を集めて偽のオーケストラを結成し、夢のパリ公演を実現させようという突拍子もない計画だった!こうして、タクシー運転手、蚤の市業者、ポルノ映画の効果音担当など、様々な職業で生計を立てていた仲間が集まり、いざパリへと乗り込むことに…。果たしてコンサートは成功するのか?名門オーケストラの元天才指揮者が、ひょんなことから昔の仲間を中心にオーケストラを再結成し、かつての栄光を取り戻そうと奮闘する姿をユーモラスに描いた愛と奇跡の物語!』



本日、BSプレミアム「プレミアムシネマ」で『オーケストラ!』が放送されます。この映画は、見るからに怪しい集団がボリショイ交響楽団を騙っているのに全然バレないとか、空港の中で堂々と偽造パスポートを作っていても逮捕されないとか、有り得ない描写が続出する完全なコメディです。なので「リアリティがない!」などという野暮なツッコミは止めましょう(笑)。

ただ、リアリティ云々以前にストーリー自体が類型的なコメディ映画の域を出ておらず、大体想像していた通りの出来事しか起こらないのはちょっとどうなのかと思ったり。予告編を見ればほぼ全ての内容が分かってしまうレベルなので、驚きが少ないんですよね(しかも予告編にはラストシーンまで映ってるし。いいのかアレ?)。

いくらコメディ映画でも、大した障害も無くストーリーがスルスルと進んでいくのは説得力がありません。ヘタすると単なる”ご都合主義”に見えてしまう恐れがあるからです。

娯楽映画のセオリーから考えると、クライマックスの手前に大きな障害を配置し、それを主人公達がなんとかして乗り越えることによって観る者に驚きと感動を与える、というのがお約束でしょう。なので、「もう少しシナリオを捻っていれば大傑作になったかもしれないのに…」と感じました。

例えば、「コンサートの開始直前に彼らの正体がバレてしまい、絶体絶命の大ピンチに追い込まれる」ぐらいのハラハラドキドキな展開でもあれば、もっと話が盛り上がったんじゃないかなあ。いくらコメディとは言え、あまりにも都合良く話が進み過ぎると観ている側も白けてしまうんですよねえ。

一応、アンヌ・マリーに関しては”あるサプライズ”が仕掛けられ、序盤からガンガン前フリを入れてるんだけど、いざ種明かしをしてみれば特に驚くようなエピソードでもなく拍子抜け。お母さんの話は確かに泣けるんですが、ほぼ予想通りだし…(あの程度の謎で引っ張りすぎじゃない?)。

とは言え、登場人物がそれぞれ魅力的な人ばかりなので、キャラクター劇として観ても十分に楽しめました。私用で勝手に救急車を乗り回すデブのチェリストや、旧ソ連共産主義復権を画策する元KGBや、パリで携帯電話を売りまくる親子や、演奏がヘタすぎて本番で手足を縛られる男など、実に多彩なキャラで面白い。

こういうコメディ映画のポイントは何か?と言えば、バカバカしい場面が多ければ多いほど、シリアスなシーンとのギャップが大きくなり、より深く感動できるところだと思います。実際、クライマックスの演奏シーンでは、それまでふざけていたキャラクター達が一斉に楽器を演奏し始めるやいなや、途端に感動モードへ突入!クラシック音楽の圧倒的な迫力と相まって、神懸かり的な高揚感をもたらしてくれますよ。

この「チャイコフスキー」のヴァイオリン協奏曲(コンチェルト)の演奏シーンはまさに”圧巻”の一言で、第一楽章の冒頭から終曲部までなんと延々12分間に及ぶ長丁場なのです。元々が非常に長い楽曲なので短縮アレンジ版なんですが、それでもこの長さ!ちなみに本物の演奏時間は36分にも達するらしい。スゲエな(笑)。

コンサートのシーンはパリのシャトレ座の全面協力を得て撮影され、ヴァイオリン指導にはフランス国立管弦楽団の第一奏者サラ・ネムタヌ、音楽監督には多くのバレエ音楽を作曲し、『サガン 悲しみよこんにちは』などを手掛けたアルマン・アマールを迎え、本物のコンサートに匹敵する迫力と感動を生み出そうとしたようです。

しかも単に音楽の演奏を見せるだけでなく、登場人物たちそれぞれの想いや心の叫びが、このコンチェルトを演奏することにより一瞬で解き放たれ、昇華され、さらには見事なまでに一つに集約される様子を克明に描き出しているのですよ。これぞ”エンターテイメントの真骨頂”と呼ぶべき名場面でしょう。もう、この演奏シーンだけで「雑なストーリー展開」というマイナス面を全部帳消しにしてしまうぐらいのインパクトを放っていました。実に素晴らしい!

中でも一番驚いたのが、アンヌ・マリーを演じたメラニー・ロラン。普通、こういう楽器演奏シーンでは、プロの演奏家を呼んで手元のアップのみを撮影したりするものです。ところが、なんと彼女は本物のヴァイオリン演奏者から4カ月に渡って猛レッスンを受け、実際に自分で演奏しているのですよ。その見事な演奏技術にも要注目!

ただし、弓が弦に当たる部分のみを集中的に練習したため、映像ではフィンガリングを見せるシーンはほとんど無く、ボウイングが中心となっていました(それでも十分に凄いけど)。

さらにメラニー・ロランはその立ち振る舞いと美しさでも、抜群の存在感を発揮しています。『イングロリアス・バスターズ』の時にも「綺麗な人だな〜」と感心しましたが、本作ではそれ以上に光り輝いていて眼福すぎる。いや〜、いいもの見せてもらいましたよ(笑)。

というわけで、『オーケストラ!』は笑って泣ける良質な娯楽ドラマとして万人にオススメできると思います。モーツァルトチャイコフスキー、バッハ、ロッシーニシューマンドビュッシーパガニーニマーラー、ハチャトリアン、リムスキー=コルサコフ、ラロ、メンデルスゾーンなど、クラシックの名曲が「これでもか!」と言わんばかりに使われまくっているので、クラシック音楽が好きな人はそれだけでも観る価値があるでしょう。フランス映画にもかかわらず、「ボリショイ交響楽団」という設定のため全編に渡ってロシア語とフランス語がミックスされている点も妙な雰囲気を醸し出していて面白かったですよ(^.^)

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