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「映像化不可能」と言われている小説は本当に不可能なのか?

乾くるみの大ヒット小説イニシエーション・ラブが、松田翔太前田敦子の主演で映画化されることが決まったそうです。

2004年に出版された本なんですけど、バラエティー番組『しゃべくり007』(日本テレビ)の中で、くりぃむしちゅー有田哲平が「これはもう最高傑作のミステリーだ!」と絶賛したことから、翌月には発行部数100万部を突破。現時点で112万部に到達し、今なお売れ続けているらしい。

でも、ミステリーファンは本作の映画化発表を聞いて仰天しました。なぜなら、物語の性質上「絶対に映像化は不可能だ」と言われていたからです。

イニシエーション・ラブ』の内容は、「合コンで出会った奥手な大学生・鈴木(松田翔太)と、歯科助手・マユ(前田敦子)のぎこちない恋愛模様をSide-Aで描き、就職して上京した鈴木と静岡のマユの遠距離恋愛が徐々に崩壊し、美弥子(木村文乃)も交えた三角関係をSide-Bで描き出す」という、一見するとよくあるラブストーリーに見えるでしょう。

しかし、実はこの恋愛話には”あるトリック”が仕掛けられていて、何でも無いような会話シーンにも様々な伏線が張られているのですよ。そして、小説の最後の2行にはそれまでのストーリーを根底からひっくり返すようなとんでもない”ワード”が記されており、それを読んだミステリーファンはド肝を抜かれたのです。「なんて凄いオチなんだ!」と。

こうして『イニシエーション・ラブ』は、「読み終わった後に必ずもう一度読み返したくなる本」として話題になりました。

しかし、世の中には『イニシエーション・ラブ』のように「映像化不可能」な原作小説がたくさんあるにもかかわらず、結構あっさりと映画化されてしまうパターンが多いような気がするんですよねえ。

例えば、殊能将之ハサミ男も発表された当時は「絶対に映像化は不可能だ」と言われていたのに数年後には堂々と映画化され、多くのミステリーファンが驚愕しました。

また伊坂幸太郎アヒルと鴨のコインロッカーも、作者自身が「この作品を映画にするのは極めて難しいと思っていた」とコメントするぐらい「映像化不可能」と言われていたんですけど、濱田岳瑛太の主演で映画化決定。

再現が難しいシーンも見事に映像化していました。……てことはもしかして、今「映像化不可能」とされている小説も、頑張れば映像化できちゃうんじゃないの?

まあ確かに、今から30年〜40年ぐらい前までは、『ロード・オブ・ザ・リング』のようなスケールの大きいファンタジー小説に対して、「映像化は(技術的な理由で)不可能」という表現を使っていました。

しかし、CG技術が発達した現代においては映像を再現するための障害はほぼ無くなり、もはや「映像化できない小説はない」と言っても過言ではありません。

そんな状況の中でも、いまだに「映像化不可能」という常套句を使い続けているのがミステリー小説なのです。なぜなら、トリックの種類の中には「文章でなければ成立しない特殊な仕掛け」が存在するからで、どんなにCG技術が進歩しても、これを映像化することは著しく困難なのですよ(『イニシエーション・ラブ』もこのパターン)。

というわけで、本日は「絶対に映画化は不可能だ!」と称されている日本のミステリー小説をいくつか選んでみました。果たして今後これらの小説が映画化される可能性はあるのでしょうか?

なお、「なぜ不可能なのか」に関してはネタバレになるため書けませんので、気になった場合は実際に小説を読んで確認してみてください(^.^)



●『殺戮にいたる病』 我孫子武丸

■あらすじ『永遠の愛をつかみたいと男は願った――東京の繁華街で次々と猟奇的殺人を重ねるサイコ・キラー。犯人の名前は、蒲生稔。くり返される凌辱の果ての惨殺。冒頭から身も凍るラストシーンまで恐るべき殺人者の行動と魂の軌跡をたどり、とらえようのない時代の悪夢と闇を鮮烈無比に描き出す。そして最後に辿り着いた衝撃の結末とは…?』

初めてこの小説を読んだ時は本当に仰天しましたよ。犯人の名前が最初から分かっている状態でいったいどんな結末を迎えるのかと思ったら、まさかそんなオチだったとは!殺害シーンの描写が残酷すぎて不快感をもよおすかもしれませんが、想像力を刺激する表現の数々は実にリアルで迫力満点。なによりも、ラストシーンを読んだ時の「足元からひっくり返されるような衝撃」が圧倒的に素晴らしい!これが映画化できたら凄いんだけどなあ。


●『慟哭』 貫井徳郎

■あらすじ『連続する幼女誘拐事件の捜査は行きづまり、捜査一課長は世論と警察内部の激しい批判をうけていた。異例の昇進をした若手キャリアの課長をめぐり、警察内に不協和音が漂う一方、マスコミは彼の私生活に関心をよせる。こうした緊張下で事態は新しい方向へ…。幼女殺人や怪しげな宗教の生態、現代の家族を題材に、人間の内奥の痛切な叫びを鮮やかな構成と筆力で描破した本格ミステリー!』

物語は、精神的な苦痛に苛まれ怪しげな宗教にのめり込んだ挙句、”最悪な事件”を起こしてしまう男:松本の姿と、連続幼女殺人犯を必死になって捜し続ける警視庁捜査一課長:佐伯の姿を交互に描くサスペンス。やがて二人の背景が徐々に明らかになっていき、最後には恐るべき真相が…!強烈に怖くて最高に面白い、まさにどんでん返しミステリーの傑作です!


●『葉桜の季節に君を想うということ』 歌野晶午

■あらすじ『成瀬将虎は、ある日後輩のキヨシから、彼が密かに想いを寄せる愛子の相談に乗ってほしいと頼まれる。久高愛子の依頼は、轢き逃げに遭い亡くなった身内が悪徳商法業者によって保険金詐欺に巻き込まれていた証拠を掴んで欲しいというものだった。同じ時期、将虎は地下鉄に飛び込もうとした麻宮さくらという女性を助ける。それがきっかけとなり、以後何度かデートを重ねる仲になっていった。将虎の恋の行方と保険金詐欺事件の真相究明、2つの出来事が交錯した時、想像を絶する真相が明らかになる!』

本作は一応ミステリー小説なんですけど、面白さのポイントは「真犯人捜し」とか「殺人トリックの解明」などという”謎解き”の部分ではありません。予想の斜め上から飛んでくる”想定外のサプライズ”こそが本作最大のポイントであり、「映像化不可能」と言われる所以なのですよ。あまりにも想定外すぎて、「……だから何?」ってなる人もいるかもしれませんが(笑)。


●『倒錯のロンド』 折原一

■あらすじ『精魂こめて執筆し、受賞まちがいなしと自負した推理小説新人賞応募作が盗まれた。その“原作者”と“盗作者”との緊迫感溢れる駆け引きを描いた驚愕のサスペンス!巧妙極まりない仕掛けと、リフレインする謎が解き明かされたときの衝撃たるや筆舌に尽くし難い。鬼才:島田荘司氏が「驚嘆すべき傑作!」と賞替した、本格推理の新鋭による力作長編推理小説!』

折原一といえば○○トリックの作家として知られており、『倒錯の死角』と『倒錯の帰結』と本作を含めた”倒錯三部作”が特に有名ですね。執筆する作品のほとんどに例のトリックが使われているため、必然的に映像化が難しくなっているのでしょう(いいことなのかどうなのかは分かりませんけどw)。


●『十角館の殺人』 綾辻行人

■あらすじ『半年前、凄惨な四重殺人の起きた九州の孤島に、大学ミステリ研究会の7人が訪れる。しかし、島に建つ奇妙な建物「十角館」で彼らを待ち受けていたのは恐るべき連続殺人の罠だった!生きて残るのは誰か?そして犯人はいったい…?鮮烈なトリックとどんでん返しで推理ファンを唸らせた新鋭のデビュー作品!』

ミステリー物では定番の「クローズド・サークル」を題材としたオーソドックスな推理小説で、「真犯人捜し」や「密室トリック」など、謎解きの楽しみを存分に味わえる名作ですよ。

イニシエーション・ラブ』や『葉桜の季節に君を想うということ』を”変化球”とするなら、本作は完全に”直球ド真中”ですね。ただ、ラストのどんでん返しは今読んでも「見事!」としか言いようがありません。本屋で手に取った時は帯にデカデカと「映像化不可能」と書かれていましたが(笑)、出来るならぜひ映画化して欲しい。

ちなみに、最近『十角館の殺人』は映像化ではなく”漫画化”されたんですが、実際に読んでみたら「なるほど、映像化は無理でも漫画化ならイケるのか!」と感心しました。トリックを知っている身としては「ええ~?アレをどうやって…?」という感じだったんですけど上手くクリアーしてましたね(でもアニメ化はギリ不可能だと思うw)。

※追記

なんと『十角館の殺人』がHuluで実写ドラマ化されることが決まりました!「映像化不可能」と言われたあのトリックをどうやって映像化するのか?非常に気になりますねぇ(^^;)


●『ロートレック荘事件』 筒井康隆

■あらすじ『夏の終わり、郊外の瀟洒な洋館に将来を約束された青年たちと美貌の娘たちが集まった。ロートレックの作品に彩られ、優雅な数日間のバカンスが始まったかに見えたのだが…。二発の銃声が惨劇の始まりを告げた。一人また一人と美女が殺される。邸内の人間の犯行か?アリバイを持たぬ者は?動機は?推理小説史上初の仰天トリックが読者を迷宮へと誘う、空前絶後のメタ・ミステリー!』

筒井康隆と言えば『時をかける少女』が有名ですが、他にも『七瀬ふたたび』や『パプリカ』など多数の作品が映像化されてきました。その中でも唯一「映像化不可能」と謳われているのが本作なのです。SF作家として知られる筒井康隆が書いた推理小説ということであまり期待しないで読んでみたら、意外にも本格ミステリーの傑作でビックリ仰天!まんまと騙されてしまいましたよ。


●『向日葵の咲かない夏』 道尾秀介

■あらすじ『夏休みを迎える終業式の日。先生に頼まれ、欠席した級友S君の家を訪れた僕。しかしS君は首を吊って死んでいた。だがその衝撃もつかの間、彼の死体は忽然と消えてしまう。一週間後、S君はあるものに姿を変えて現れた。「僕は殺されたんだ」と訴えながら。そして僕は妹のミカと、彼の無念を晴らすために真犯人を追いはじめた…』

この小説は、とにかく設定が奇抜なんですよ。「死んだ人が生まれ変わる」という現象を”ありえること”と定義しているのが前提で、主人公は”生まれ変わった生き物”と普通に会話ができるのです。「それってミステリーというよりファンタジーじゃないの?」という疑問は当然あると思いますが、とにかく受け入れてもらうしかありません(「なぜそんな設定になっているのか」に関しては、物語を最後まで読めば分かりますので)。個人的には、伏線もしっかり張ってあるし、トリックも意外とまとも(?)で悪くないと思うんですけど、ミステリーファンの評判はやっぱりイマイチのようですねぇw


●『消失!』 中西智明

■あらすじ『高塔市―赤毛の人々が数多く住む奇妙な街で、その事件は起こった。美しい赤毛の持ち主ばかりを次々に殺害し、忽然と「消失」する黒ずくめの男の謎。痕跡ゼロ、関連性ゼロの完全犯罪に名探偵:新寺仁が挑む!』

一つの大きなトリックをメインに据えるのではなく、複数のトリックを巧みに使い分け、最後に予想外のラストへ帰結させるタイプの推理小説です。トリックの一つは「ネタ」としてなら他の短編小説でも見たことはありますけど、まさか長編のミステリーでこれを使うとは思いませんでした(真面目なミステリーファンは激怒したそうですがw)。


●『弁護側の証人』 小泉喜美子

■あらすじ『ヌードダンサーのミミイ・ローイこと漣子は、八島財閥の御曹司・杉彦と恋に落ち、玉の輿に乗った。しかし幸福な新婚生活は長くは続かなかった。義父である当主・龍之助が何者かに殺害されたのだ。真犯人は誰なのか?弁護側が召喚した証人をめぐって、生死を賭けた法廷での闘いが始まる。「弁護側の証人」とは果たして何者なのか?日本ミステリー史に燦然と輝く、伝説のどんでん返し小説!』

1925年に発表されたアガサ・クリスティの『検察側の証人』に対抗意識を燃やしたことがバレバレなタイトルですけど、中身の方もなかなか優れた推理小説で、古い作品ながらミステリーファンの間ではいまだに高く評価されている一作です。『検察側の証人』の方はマレーネ・ディートリッヒが出演し、ビリー・ワイルダー監督の手によって映画化されましたが、本作の映画化はちょっと難しいでしょうねえ。


●『鏡の中は日曜日』 殊能将之

■あらすじ『鎌倉に建つ梵貝荘は法螺(ほら)貝を意味する歪な館。主は魔王と呼ばれる異端の仏文学者。一家の死が刻印された不穏な舞台で、深夜に招待客の弁護士が刺殺され、現場となった異形の階段には1万円札がばらまかれていた。眩暈と浮遊感に溢れ周到な仕掛けに満ちた世界に、あの名探偵が挑む!』

「名探偵が難事件に挑む」みたいにスタンダードなミステリーと思わせておいて実は…という展開が殊能将之らしい。殊能将之と言えば『ハサミ男』が有名ですが、「映像化は不可能」と呼ばれていた『ハサミ男』があっさり映画化されてしまったことを考えると、本作も頑張れば映画化できるかもしれませんね。


●『螢』 麻耶雄嵩

■あらすじ『オカルトスポット探険サークルの学生六人は、京都山間部の黒いレンガ屋敷「ファイアフライ館」に今年も肝試しにやって来た。ここは十年前、作曲家の加賀螢司が演奏家六人を殺した恐ろしい場所だ。去年と違うのは、半年前、一人の女子メンバーが連続殺人鬼ジョージに惨殺されたこと。しかも犯人はまだ捕まっていない。そんな中で始まった四日間の合宿。そして嵐の山荘での第一の殺人は、まるで呪われたようにすぐに起こった…』

これまた、典型的な「閉ざされた嵐の山荘殺人事件」のように見えるんですが、実は2つの大きなトリックが仕掛けられていました。そのうちの一つは、オーソドックスな「○○トリック」をさらに捻った見事などんでん返しが炸裂しており、意外すぎる結末にビックリ!

普通、こういうトリックは「作中の人物が知っていることを読者が知らない(誤認している)」というのがセオリーなんですけど、本作は逆に「読者が知っていることを作中の人物が知らない」という状況を作り出し、それを事件解明の手掛かりとしているところがミソなのですよ。意表を突いたその発想に「こんなやり方があったのか!」と驚嘆させられました。

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