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テリー・ギリアム監督『ブラザーズ・グリム』映画感想(ネタバレ)


■あらすじ『ウィル(マット・デイモン)とジェイコブ(ヒース・レンジャー)のグリム兄弟は、イカサマの魔物退治で賞金稼ぎをする旅を続けていた。しかし、ドイツの村で芝居がばれて、その地を支配するフランス将軍に逮捕されてしまう。将軍はグリム兄弟に命じ、森で10人の少女が姿を消した事件の調査に向かわせた。猟師の娘アンジェリカをガイドに、森の奥深くに立つ塔にたどり着いたグリム兄弟は、その塔に伝わる女王の逸話を知る。その頃、森に不気味な異変が起こり始めていた・・・!グリム童話の誕生に隠された、誰も見た事が無い驚愕のファンタジー・ワールドが今甦る!』



本日はBS日テレのプレシャスタイムで『ブラザーズ・グリム』が放映されます。公開当時は「鬼才:テリー・ギリアム監督の、『ラスベガスをやっつけろ』以来なんと7年ぶりの新作!」ということで話題になりました。しかしテリー・ギリアムといえば、映画ファンにとっては業界きってのトラブル・メーカーというイメージが定着しまくっているため、「まあ、“7年間の沈黙を破って”みたいにカッコ良く言ってるけど、要するに製作会社が嫌がって企画が通らなかっただけの話だろw」と半笑い気味な反応でした。

それもそのはずで、とにかくギリアム監督の映画制作にまつわる揉め事は枚挙にいとまがありません。『未来世紀ブラジル』では、配給元のユニバーサルと編集をめぐって大喧嘩となり、裁判沙汰にまで発展。あまりにも理不尽な製作会社側の対応に激怒したギリアムは、なんと自費で新聞の一面を丸ごと買い取り、ユニバーサルに対する抗議文を大々的に掲載してしまったのですよ。

この大騒動は映画史に残る大事件としてハリウッド中を震撼させ、事の顛末を綴った「バトル・オブ・ブラジル」という本まで出版されました(かなり面白い本でオススメなんですが、現在は絶版になってるらしい)。

また、『バロン』では撮影が遅れて製作費が予算を遥かにオーバーし、興行成績もボロボロで掛かった費用の半分も回収出来ず、会社が傾くほどの大赤字に!さらに、『ラスベガスをやっつけろ』では、アレックス・コックスが書いた脚本をギリアムが勝手に破棄した為に、全米脚本家協会からクレームが殺到。それに逆ギレしたギリアムは協会の会員書をライターで燃やした挙句、その映像をインターネットで公開するという暴挙に出るなど、まさにやりたい放題のテロ行為(笑)。

そして、『ドンキホーテ』を撮影中、悪天候や主演俳優の急病等、次から次へと災難に見舞われたギリアムは、とうとう映画の製作中止を余儀なくされてしまいました。この時の様子は『ロスト・イン・ラ・マンチャ』というドキュメンタリー映画として一般公開され、こちらも必見の面白さ!僕なんかはもう、ギリアムの新作よりも「今度はどんな騒動を巻き起こしてくれるんだろう!」って事の方が気になって仕方がないぐらいですよ(笑)。

そんな“歩く厄介事”と化しているギリアム監督ですが、『ブラザーズ・グリム』でも相変わらずトラブル続出だったようで、ちっとも進歩している様子が無い(笑)。当初はMGMの出資で撮影が開始されたものの、危険を察したMGMはすぐに手を引き、ミラマックスに引き継がれる事に。

ところが、ミラマックスの最高責任者ハーヴェイ・ワインスタインとギリアムが映画の内容をめぐって激しく衝突し、突然撮影が中断。その後も両者は事ある毎に対立し、劇場公開まで何と2年もかかってしまったのです、トホホ。

そんな状況を反映してか、世間の評判もイマイチ。全米の興行成績も惨敗で、「内容が暗い」とか「ストーリーがおかしい」とか、惨憺たる有様でした(日本での評価も似たような感じ)。僕自身は「まあ、テリー・ギリアムの作風は元々一般受けしないからなあ」と、大した期待も持たずに映画館へ観へ行ったんですよ、そしたら……「あれれ、普通に面白いじゃん!」

登場人物もそこそこ魅力的で、ストーリーも分かり易く、最新VFXを駆使したヴィジュアルも非常に豪華で見応えがある。また、定番の“兄弟愛”や“親子愛”もしっかり盛り込み、泣かせるドラマも標準装備。もちろん、スリル満点のアクションシーンも満載です。なんだなんだ?一体どーしたんだギリアム?アンタがこんな“まっとうな映画”を撮るなんて(笑)。

確かに、グロテスクなシーンもあるし、正統派ファンタジーを期待した観客には受けが悪いかもしれません。しかし、奇想天外なイマジネーションと、風刺の効いたブラックユーモアこそがギリアムの持ち味であることを考えると、この程度の描写はグロテスクの範疇に入らないと言っていい。

そういう意味では、本作はむしろ本来のギリアム・テイストを抑え、“エンターテイメントに徹した作品”に仕上がっていると思います。どうやら、映画会社の締め付けが強過ぎて、自分の思い通りに映画を作れなかったらしい。

たとえば、ギリアムは当初、特殊メイクでマット・デイモンの鼻を醜く潰れた状態にしようとしていたのですが、「マットのファンが来なくなるだろ!」と猛反対されて断念。また、ヒロインを中世的なサマンサ・モートンに依頼しようとした際も、「地味すぎる!」とセクシーなレナ・ヘディに変更させられてしまったとか。

さらに、いつもは俳優の歯に汚いメイクを施してリアリティを出しているギリアムなのに、「俳優を汚く撮るなんてけしからん!」と言われた為、本作の登場人物は全員綺麗な歯をしています。

ギリアム監督曰く、「いかにもハリウッド流だろ?でも僕はどうしてもヒット作が欲しかったから、今回はあえてそれらを受け入れる事にしたんだよ…」との事。う〜ん、事情は分かるけど何だか寂しいなあ。ファンの目には“ハリウッドの商業主義に屈したか”と映るかもしれない。この映画には、かつてギリアムが放っていた“強烈な作家性”が欠けているからです。でも、ヒットしなけりゃ次の映画も作れないんだもんねえ…。

というわけで、自分の個性を抑え、映画会社の意見に渋々従った結果、驚くほどエンターテイメント要素の高いダーク・ファンタジーが出来上がりました。「ニセモノを名乗っていた主人公が事件に巻き込まれ、いやいやながら戦っているうちに本物以上の大活躍をする」という良くある作劇パターンは、上手く作れば『ギャラクシー・クエスト』みたいな傑作が生まれる可能性を秘めているので侮れません(残念ながらそこまで上手くいってないけど)。

その他、後半の展開がちょっとゴチャゴチャしていたり、アンジェリカと父親とのエピソードが描き切れていなかったり、モニカ・ベルッチの出番が意外と少なかったり、ギャグがことごとくスベっていたりと不満点も色々ありますが、娯楽映画としてはまあ及第点なのではないでしょうか。最大の見所は、モニカ・ベルッチの人間離れした美しさ。「ホントに魔法を使ってるんじゃねえの!?」と、呆気にとられるほどの美貌に言葉を失う!“絶世の美女”とは、まさにこの事ですよ!

ちなみに、ギリアム監督は最初ジョニー・デップに出演を依頼するものの、「ロケ地が気に入らない」という理由であっさり断られてしまったそうです、トホホ。『ドン・キホーテ』がポシャったので警戒したのでしょうか?ただ、『ロスト・イン・ラ・マンチャ』を観ると、実に楽しそうに映画を撮っている監督の姿が映し出されていて、「ああ、この人は本当に映画を作るのが好きなんだなあ」という事が、はっきりと映像から伝わってきます。

それだけに、映画の製作が中止された時の落ち込む姿が一層痛々しい。7年間、一本も映画を作れない日々が続いた時は、「もう、このまま二度と映画を作れないのかと思って怖かったよ」と、苦しい胸の内を暴露していました。そんなギリアム監督も今年で72歳となり、普通ならとっくに引退している年齢だと思われますが、まだまだ映画を撮り続ける気満々なようです。なんて元気なおっさんだ(笑)。

前作『Dr.パルナサスの鏡』では主演のヒース・レジャーが突然死亡するなど、相変わらず「疫病神に取りつかれている」としか思えないような酷い状況が続いてますけど、どうかこれからもトラブルにへこたれる事なく、どんどんヘンテコな映画を撮り続けてもらいたいものです。負けるな、テリー・ギリアム


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