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映画『7人のマッハ!!!!!!!』ネタバレ感想

■あらすじ『デュー(ダン・チューボン)は国家特殊部隊に所属し、麻薬売買を取り締まる刑事。部隊長リーダムロンとともに、麻薬王ヤン将軍を逮捕するため組織への潜入に成功する。だが、逮捕寸前にして正体を見破られてしまった。壮絶な大追跡の末、将軍を逮捕はしたものの隊長が命を落としまう。失意の日々を過ごすデューを見かねた妹ニュイは、兄を励まそうとトップ・アスリートの一団との地方慰問に誘う。穏やかな田園風景の中、傷ついた心を癒すデューだったが、その頃復讐に燃える麻薬組織は村を包囲していた!CG隆盛の時流に逆らうかのごとく、高度で危険極まりないスタントに挑んだ「マッハ!」に続いてタイ映画界が放つアクション巨編。ある村に集結したテコンドー、セパタクロー、サッカー、ムエタイ、器械体操などのエキスパートたち7人が、凶悪なテロ集団の襲撃に自らの肉体と技で戦いを挑む!』


というワケで『七人のマッハ!!!!!!!』である。“タイ製のアクション”という内容とそのタイトルから、一見トニー・ジャー主演の『マッハ!』の続編かと思ってしまうが全く関係ない(原題は「BORN TO FIGHT」)。

映画『マッハ!』では、ノーワイヤー、ノーCG、ノースタントという“金が無い事を逆手に取った超絶アクション”を次々と繰り出し、観る者のド肝を抜きまくったが、今回も負けず劣らず、“人権”という言葉などこの世に存在しないかのような凄まじいアクションが炸裂するぞ!ウヒョー!

まず、冒頭からいきなり壮絶なガンアクションを展開。主人公はジョン・ウーばりの二挺拳銃で敵を倒しながら、麻薬組織のボスを追跡する。トラックの荷台から地面にダイレクトに落下したり、並走する車にぶつかってから落下したりと、落下のバリエーションも工夫を凝らしており飽きさせない。

さらに、爆走するトラックのタイヤのすぐ側に落下するという、我が目を疑うようなスタントまで飛び出す始末。一歩間違えれば頭を轢かれる事は確実で、とても正気の沙汰とは思えない。『マッハ!』の時には“アクション・バカ”と書いたが、もはやそんなレベルは通り越し、“キチガイ”の領域にまで達している。良くやるなあ。

そして最終的には、暴走した大型トラックが山の斜面に建てられた大量の家をなぎ倒しながら突き進むという、『ポリス・ストーリー』みたいなシーンも出現(実際、監督は『ポリス・ストーリー』を意識したそうだ)。オープニンングだけで物凄いボリューム感を醸しだしており、「これは期待出来そうだ」と観客のテンションも当然の如く上昇しまくり!

だが、本編に入るといきなりテンションがダダ下がる。まず、どうでもいいような日常描写が長い。セオリー通りキャラクターの説明をしているワケだが、今回は7人もいるので一人一人を紹介していると必然的に長くなってしまうのだ。

おまけに、緩いBGMが絶えず流れているので睡眠を誘発させる効果も絶大ときている。この辺にもう少し工夫が欲しかったなあ(アクション映画を観てて眠くなるなんて最悪だろ)。

しかし、この映画の本当の問題点は別にある。それは、“お笑い”の要素が全く無いということだ。『マッハ!』の場合は、真面目なトニー・ジャーと、「お笑い担当」のキャラクターを別々に配置する事により、彼のアクションを正当化していた。

つまり、常識では有り得ないような超絶アクションに対してお笑い担当者が「そんなバカな!」と突っ込むことにより、アクションの凄さを際立たせ、なおかつ映画の中で“現実にはあり得ないような凄いアクション”を成立させていたのである。

ところが、『7人のマッハ!』にはお笑い(ツッコミ)担当者がいない。全員真面目で熱血漢、おまけにストーリーも“超”がつくほどシリアスときている。なんせ、子供の目の前で父親が殺されるという悲惨極まりないシーンが平然と飛び出すのだから、とても笑うどころではない。

挙句の果てに、女子供も情け容赦無く撃ち殺され、手足はバラバラに吹き飛び、人体はバズーカ砲で木っ端微塵に砕け散るという、まさに阿鼻叫喚の地獄絵図が繰り広げられるのだ。

だがそんなハードなストーリーなのに、凶悪テロリストに立ち向かうアスリートたちは、なぜかそれぞれ自分の特技を生かして攻撃を仕掛けるという不自然さ。それって、なんかおかしくない?

たしかに、ムエタイやテコンドーで戦うのは問題ないだろう。ラグビーや器械体操もギリギリOKかもしれない。しかし、サッカーとセパタクローはどう考えても無理があるのではないか?

なにしろ、彼らはボールを蹴ることしか出来ないのである。いくら「自分の特技だから」と言っても、目の前に機関銃を持った凶悪犯が迫っている非常時の中、悠長にボールを蹴ってやっつけようとするサッカー選手がいるだろうか?ベッカムでもそんな事はしないと思うぞ。

いや、そういう設定にしたこと自体は別に問題じゃない。要は、ストーリーとの整合性が取れていないことが問題なのだ。どうしてもこの設定を生かすのであれば、もっとギャグっぽい映画にするべきだったと思う。

たとえば『少林サッカー』は、サッカーを使ったアクションを全てギャグとして見せているからこそ成立しているのだ。あれがもし超シリアスなストーリーだったら、とんでもない映画になっていたに違いない。

また、『マッハ!』の場合も、劇中の人物が「そんなアホな!」と突っ込んでくれるからこそ、現実離れして状況でも受け入れられるのである。

ところが、『7人のマッハ!』では誰も突っ込んでくれる人がいない。となれば、必然的に観ている観客が「そんなアホな!」と突っ込むしかないワケである、トホホ(苦笑)。

あるいは、ボクシングや空手など、全員を“格闘技のエキスパート”という設定にしてしまえば、このストーリーでもなんとか成立出来たかもしれない(異種格闘技戦ですな)。要は、「その技をそこで使う」というシチュエーションに不自然さが無ければそれでいいのだ。

器械体操にしても、偶然現場に鉄棒や鞍馬(に似た機材)があったりなど不自然さは隠せないが、それでもセパタクローに比べればずっとマシであろう。それぐらい、「ボールを使って敵を倒す」という設定には無理があり過ぎる(必然性が皆無)。

とは言え、突拍子もない現象を描いてそれを観客に納得させることは非常に難しい。一歩間違えれば「お笑い」と同義になるからだ。たとえば、本作の中で「ヨボヨボのじーさんが子供を助ける」という名シーンがある。

80歳ぐらいの普通のお爺さんが、小さな子供たちが悪人に襲われているのを見た途端、いきなり強くなって凶悪テロリストをあっと言う間に格闘技でなぎ倒してしまう、というもの。

そして敵をやっつけたじーさんは一言、「さあ、みんなワシについて来るんじゃ!」と言い放ち、スローモーションで走り出す。ご丁寧に、バックにはかっこいいBGMまで流れているという有様だ。ジェリー・ブラッカイマーの映画かと思ったぞ(笑)。

あまりにもヘンテコなシーンなので「ここは笑う所だろうか?」と一瞬悩んだが、バタバタと人が死にまくっている周りの状況を考えるととても笑っている場合でないのは明らかなので、監督は真面目なシーンとして撮ったのだと思われる。

このように、『7人のマッハ!』には「笑っていいものかどうか?」と迷うシーンが非常に多いのだ(セパタクローのシーンも、本来は笑うべきシチュエーションなのかもしれないが、状況が悲惨すぎて笑うに笑えない)。一つ一つのアクションは確かに派手で面白いが、シリアスなドラマと噛み合っていない為にイマイチのめり込む事が出来なかったのが非常に残念であった。

細かい事にいちいち突っ込まず、素直にアクションを堪能すれば良いのだろうが、気になってしまうものはどうしようもない。破天荒なアクションと真面目なストーリーは、良い組み合わせとは言えないんじゃないかなあ。

ついでに、ギャガが作っている予告編についても一言言いたい。でかい声でキーワードを連呼するだけの、ストーリーすらまともに紹介されない“勢いオンリーバカ予告編”スタイルを貫いているが、あれでいいのか?本編とのイメージがかけ離れ過ぎているような気がして仕方が無いんだが。

あの予告編を見て劇場に来たお客さんは、ギャップの凄さに絶句したに違いない(PG-12である事を知らない人も多いハズ)。娯楽アクション映画を観に来たのに、いきなり重たいテーマを見せられては面食らうのも当然だ。

新作の『トム・ヤム・クン』も、見分けがつかないぐらいそっくりな予告編となっているけど、ホントに大丈夫?まあ、何だかんだ言いつつもたぶん観に行くと思いますが(笑)。

ちなみに、ジャッキー・チェンの映画と同様、本作もエンディングにNG集が流れるんだけど、あまりにも凄絶な映像の数々に客が引いてるぞ(笑)。なんせ、「カット!」の声がかかった瞬間スタッフ全員が役者の側に駆け寄り、「大丈夫かッ!?あ、生きてる。よかったよかった」と”生死を確認する作業”が毎回行われているのだからタダ事ではない。

映画の撮影風景というよりも、事故現場の映像である。監督は「今の所、まだ一人も死者は出ていない」と豪語しているらしいが、威張って言うことじゃないだろ!


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