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映画『男たちの大和/YAMATO』ネタバレ感想


昨年12月17日の公開以来順調に観客動員数を増やし続け、なんと興収40億にも迫る勢いで大ヒット記録を更新中の『男たちの大和』。東映では「最終50億は堅い!」と自信満々だ。ロングラン上映も決定したようなので、それもあながち大げさではないだろう。

僕もかなり以前から「観たい観たい」と思いつつなかなか都合がつかなかったのだが、今回ようやく鑑賞できた。それにしても、いったい何故『男たちの大和』はここまで大ヒットしたのだろうか。その秘密を検証してみたい。

■あらすじ『昭和19年の春。特別年少兵として戦艦大和に乗り込んだ神尾たちは、憧れの大和を前に目を輝かせていた。しかしその喜びも束の間、彼らを待ち受けていたのは厳しい訓練の日々だった。神尾たちは上官である森脇・内田の叱咤激励のもと訓練に励んでいたが、彼らの努力もむなしく、日本は日増しに敗戦の色を濃くしてゆく。そして翌年の4月。米軍が沖縄上陸作戦を開始したのを受け、ついに大和は沖縄特攻の命を下された!』



まず、本作は極めてシンプルな映画である。ストーリーに捻りは全く無く、恐ろしいほどストレートなドラマ展開だ。そして、日本が戦争に負けて「最後に戦艦大和が撃沈される」という歴史的事実が既に存在し、観客も皆それを承知しているという事が大前提となっている。すなわち、この映画を観て「内容が理解できない」という人はほぼ皆無という事だ。これは非常に重要な要素で、普段あまり映画を観ない人などを含め、老若男女どんな層の観客であろうとも、安心して観ていられるというワケである。

更に、負け戦さを背景にした母と子のドラマ、恋人とのドラマ、親友とのドラマというように、感情を盛り上げる起伏が連鎖している点も大きな特徴と言えるだろう。一種のシチュエーションドラマなのだが、それらのエピソードは理屈抜きであらゆる観客の感情にガンガン訴えかけてくるのだ。はっきり言ってあざとい。あざといが、泣いてしまうものは仕方が無い(笑)。東映がこれまで連綿と作り続けてきた日本人の感情の襞に入り込んでくる独特の情緒性が、『男たちの大和』の根底には脈々と流れているのである。

しかし、この映画を観てある事に気付いた。「作品としてのベクトルが、『ALWAYS 三丁目の夕日』と全く同じじゃないか?」と。どちらも、「昭和の日本」と「ベタな感動ドラマ」を、「最新VFX技術」を駆使して描き出し、多くの観客を呼び込んで大ヒットを飛ばした作品である。なるほど、ヒットの秘密はこれだったのか(笑)。

また、観る前は「もっとナショナリズムに溢れた映画」かと思っていたのだが、全く思想的ではない映画になっていたので、それが逆に良かったのかもしれない。これを観て「反戦映画」と呼ぶ人もいるようだが、それは間違っている。本作は純然たる「エンターテイメント」であり、そこに余計な“思想”は無い。悪く言えば、万人受けを狙ったありきたりな戦争ドラマ。しかし、その方向性は“商業映画”としては完全に正しいのだ。

それから劇中、渡哲也が「大和が負ける事によって、日本が変わるんだ」というような発言をするが、こういう、「今までの戦争映画では決して言わなかったようなセリフ」を盛り込む事によって、今の時代に即した戦争映画として成立できたのだと思う。

また、主人公の乗組員たちは15歳で、彼らが生きていると今は75歳。ギリギリ大和を知っている年代がいるという設定である。この「15歳の兵士」という目線から戦争を見た点も、従来の戦争映画とは一線を画していると言えるだろう。同じ戦争映画でも『二百三高地』や『大日本帝国』、あるいは松竹の『226』などとは明らかに印象が異なっているのだ。

今までの戦争映画は上級指揮官からの、すなわち“上からの目線”で物語を俯瞰していたのに対し、本作では“下からの目線”。つまり、下級兵士たちの心情や活躍を丁寧に描く事によって感情移入し易くさせ、多くの観客たちの共感を得る事に成功したのである。

ちなみに“戦争映画”というカテゴリーで考えてみると、去年『ローレライ』や『亡国のイージス』が20億そこそこのヒットを記録したが、これらは所詮”擬似戦争映画”であり、完全なフィクションだ。若い世代が、“新規軸としての戦争映画”を打ち出したものの(僕は結構好きだが)、やはり『男たちの大和』が持っている“本物のドラマ性”にはかなわない。

そして、何よりも素晴らしいのは圧倒的な“大和”の存在感だ。広島県尾道市に総工費6億円をかけて実寸大のセットを作ってしまうあたり、“大和”に対する並々ならぬ思い入れの強さを感じさせる。

日本人にとって“大和”は単なる戦艦ではなく、ある種の“シンボル”なのだ。日本人の“魂”と言い換えてもいいかもしれない。その“大和”をベースとしたドラマを、余計な小細工無しで正面から堂々と描き切った事に、多くの観客が感動したのではないだろうか。

特撮レベルの低さや、ぶつ切りのエピソードなど不満点は多々見受けられるが(特に、少年兵のキャラクターにはもっとメリハリが欲しかった。誰が誰だか分からんぞ)、娯楽大作としてはなかなか上出来だと思う。少なくとも『パールハーバー』の250倍ぐらいは面白かったです(笑)。

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