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なぜ実写映画『バクマン。』は成功したのか?ネタバレ解説/感想


■あらすじ『高校生の真城最高(佐藤健)は、今は亡き叔父で漫画家の川口たろう(宮藤官九郎)を尊敬し、その仕事ぶりに漠然とした憧れを抱いていた。ある日、教室で密かに片想いのクラスメイト:亜豆美保(小松菜奈)の絵を描いていると、その高い画力に目をつけた秀才の高木秋人(神木隆之介)から「俺と組んで漫画家になろう!」と誘われる。最初は渋っていたものの、声優を目指す亜豆美保と「お互いの夢が叶ったら結婚する」という約束を交わし、漫画家になることを決意。こうして秋人が原作、最高が作画を担当して漫画家コンビを結成した2人は、日本一売れている漫画雑誌:週刊少年ジャンプの連載を目指して悪戦苦闘の日々へと身を投じていくのだった…!大場つぐみ小畑健コンビによる大ヒット・マンガを、「モテキ」の大根仁監督が実写映画化した熱血青春ストーリー!共演に山田孝之染谷将太桐谷健太リリー・フランキーら豪華キャストが多数出演!』



10月初めに公開された大根仁監督の最新作バクマン。は、全国325スクリーンで上映され、オープニング2日間で動員18万4263人、興収2億5160万7900円を稼ぎ、初登場1位を獲得した。その後も順調に成績を伸ばし続け、16日間で興収10億円をクリアー。そして、25日目でついに観客動員数は100万人を突破し、累計興行収入も既に13億円を超えているらしい。

さらに映画を観た人の反応も上々で、一般人だけでなく、山里亮太糸井重里などの著名人からも「面白かった!」と大絶賛されている点が特徴的だ。また、「Yahoo!映画」も4.05点という高評価で安定しており、”漫画を実写化した映画”の中では完全に「成功した部類に入る」と言っていいだろう。






では、なぜ『バクマン。』の実写化は成功したのか?近年は人気漫画やアニメを実写化するパターンが非常に増えているが、必ずしも全てが成功しているわけではない。むしろ実写版『進撃の巨人』のように、酷評される可能性の方が高いぐらいだ。

原作に忠実に作ったからでは?……と思いきや全くそんなことはなく、それどころか逆にキャラクターやストーリーが改変されまくっており、原作ファンから「全然違うじゃん!」と言われてしまうほどの激変ぶり。にもかかわらず、どうして『バクマン。』は上手くいったのだろう?以下、どこがどう変わったのか、具体的に検証してみたい。


●キャラクターの変更
まず、登場キャラクターの数が違う。人数が大幅に減っていて、見吉香耶や蒼樹紅や岩瀬愛子などの女性キャラがほとんど出て来ない。真城最高(サイコー)と高木秋人(シュージン)以外の主要キャラでは、亜豆美保が唯一の女性となっており、後は全員男性なのだ。

これは明らかに、サイコーとシュージンとアズキの物語に焦点を絞った映画にするための変更で、原作ファンとしては賛否が分かれるところではないだろうか。また、ジャンプ編集者側もサイコーたちを担当する服部以外は特に目立った活躍もなく、その他大勢の扱いになっている(家族すら出て来ない!)。

このような”キャラクターの整理”は、大根監督の判断で意図的に行われたものだという。例えば、サイコーとアズキの恋愛を描きながら、シュージンと見吉香耶の関係も描こうとすると、どうしても2時間には収まらない(実際、最初に書いた脚本では3時間以上の分量になったらしい)。

そこからキャラクターやエピソードをどんどん絞り込んでいって、最終的には見吉も削除。見吉がいなくなったことでサイコーとシュージンの共同ペンネーム「亜城木夢叶」もなくなってしまった。原作ファンの神木隆之介は、「なんで亜城木夢叶じゃないんですか!?」と文句を言っていたようだが、大根監督は「あれは原作が中学生の設定だから成立している突っ込みどころなので、それを無くせたのは逆に良かった」とコメントしている。

この変更に関しては、個人的には「上手い」と思った。確かに『バクマン。』の面白さの一つは、魅力的なキャラクターにあることは間違いない。でも、2時間の映画で全部のキャラに気を配ることは出来ないし、無理に出しても目立たないキャラや不要なキャラになるだけだ。それなら思い切って人数を絞り込み、その分メインのキャラをじっくり描いた方が絶対にいい。

ただ、エピソードを絞り込みすぎて福田真太(桐谷健太)や中井巧朗(皆川猿時)などの活躍場面まで減ってしまったのはやや残念。特に、平丸一也を演じた新井浩文は『バクマン。』の大ファンで、自ら大根監督に「平丸役をやらせてください!」と立候補するぐらいこのキャラに入れ込んでいたのに、いざ台本をもらったらあまりにも出番が少なくて、「え?俺のセリフたったのこれだけ!?」とビックリしたらしい。ちょっと可哀想だな〜(^_^;)

●ストーリーの変更
そしてキャラクターだけでなく、内容の方も大きく変更されている。原作の漫画では、「主人公たちの成功と挫折」を中心に、「男女の恋愛模様」や「漫画家同士のライバル関係」、さらに「漫画家と編集者との絆」や「作家と少年ジャンプ側との対立」など、色んな軸が複雑に絡み合って大きなドラマを生み出していたが、2時間の映画でこれらを全て描き切ることはほぼ不可能だ。

そこで大根監督は、「若者たちの青春ドラマ」と「漫画家の業界物語」という2つの軸に焦点を絞ったのである。そして、それを念頭に置いて原作を読み直し、「サイコーが倒れてもう一回復活していくまでの場面(単行本第6巻)をクライマックスに持っていったらギリギリできるかもしれない」と思い立ち、北野武監督の『キッズ・リターン』と伊丹十三監督の『マルサの女』みたいな映画を目指して脚本を書いたという。

この大胆な取捨選択によって、実写版『バクマン。』は「青春ドラマ」 + 「漫画業界モノ」というシンプルかつ王道的なサクセス・ストーリーへと生まれ変わり、多くの観客から「わかりやすい!」「感情移入しやすい!」と受け入れられたのではないだろうか。


●リアリティレベルの変更
原作の『バクマン。』は、実在する編集者を登場させたり、実際の少年ジャンプ編集部で行われている仕事を克明に描写するなど、漫画業界を描くにあたって可能な限りリアリティを追求している。それに対して実写版の方は、漫画家の仕事部屋や編集部の様子など、リアリティに拘っている場面がある反面、敢えてウソをついている場面も多いのだ。

例えば、編集部の社内ではアンケートの結果をランキング表みたいに貼り出しているが、実際はメールで各担当者のパソコンに順位を送信しているので、あんな表は存在しない。しかし、パソコン画面を映すだけではインパクトに欠ける。どうすればアンケート結果の発表をドラマチックに描けるか…と考えた結果、ああいう形になったらしい。つまり、あれは観客のエモーションを煽るための意図的なウソなのだ。

これは、娯楽映画を作る上では完全に正しい判断と言えるだろう。ドキュメンタリーを作っているわけではないのだから、どれだけ観客にわかりやすく伝えることが出来るか、どれだけ観客の気持を盛り上げることが出来るか、その点に注力すべきであり、事実と異なるかどうかは問題ではない。そういう意味では、非常に適切な変更だと思う。


●設定の変更
原作漫画『バクマン。』の最大の特徴、それは「漫画の主人公が漫画の中で”どうすれば面白い漫画を描けるか?”ということを真剣に考え、その結果を漫画の中で描いてしまう」という”究極のメタ構造”になっている点だ。これは極めて奇抜な設定であり、それ故に『バクマン。』はとんでもなく戦略的でロジカルな内容になっている。

「読者にウケるためにはどうすればいいか?」という”漫画家にとっての最重要課題”を論理的に検証し、漫画家と編集者が必死になってアイデアを捻り出していく姿は少年漫画において”異端”とも思える描写ではあるものの、同時に他の漫画には無い、『バクマン。』独自の面白さでもあったのだ(セリフの分量も尋常ではなく、普通の少年漫画に比べて圧倒的に会話シーンが多い)。

ところが、実写版ではそのロジカルな部分をバッサリとカットしている。理由は明白で、ただでさえ漫画家が漫画を描いている場面は地味になりやすいのに、その上「漫画家と編集者の打ち合わせ場面」まで付け加えたら、映像の変化に乏しくなり、ほとんどの観客が途中で退屈してしまうからだ。

そこで大根監督はそういう地味な要素をできるだけ排除し、代わりに”アクション”を加えたのである。漫画家が他の漫画家と競い合って順位を上げていく様子は、ある種”バトル漫画的な展開”ではないか…そう考えた監督は、サイコーとシュージンがライバルの新妻エイジと順位争いするシーンを、なんと文字通り”バトルシーン”として描いて見せたのだ。

周囲に漫画のコマが飛び交うファンタジーな空間で、それぞれが手に持った巨大なペンを振り回しながら、香港映画さながらの激しい対決を繰り広げるこの場面は、『まんが道』のような普通の漫画業界モノでは決して有り得ない斬新すぎるスタイルを生み出すことに成功!演じた染谷将太も、「まさか『バクマン。』でワイヤーアクションをやらされるとは思わなかった」と驚いていたらしい。


というわけで、実写版『バクマン。』の要点をざっくり振り返ってみたのだが、改めて成功の要因を考えてみると、その一つは「圧倒的なわかりやすさ」だと思われる。キャラクターの数やエピソードを徹底的に減らし、ストーリーを限界まで簡略化することによって、誰もが楽しめる普遍性を獲得したこと。つまり、とことん間口を広く、敷居を低く作ったからこそ、原作を知らない人でも理解できるような映画になり、大勢の観客から支持されたのだ。

そしてもう一つの要因は、「観客を飽きさせない工夫」である。CGとワイヤーアクションを組み合わせたバトルシーンや、プロジェクションマッピングの導入など、「漫画家の仕事」という一見地味で映像化しにくい場面を、全く新しい表現として提示したその発想が素晴らしい。そういう作り手の熱意はエンドクレジットの”単行本”に至るまで貫かれており、「最後の1秒までお客さんに楽しんでもらおう」という心意気が画面全体からビンビン伝わってくる。実に天晴れだ!

それから、「『まんが道』的な青春ドラマ」という側面を強調している点も見逃せない。もちろん、原作もそういうドラマなんだけど、実写版の方がよりストレートに「これぞ青春!」って感じを全面に出しているのが良かった。しかも、劇中で少年ジャンプのテーマでもある「友情・努力・勝利」を何度も連呼しているのに、連載が再開されたサイコーたちの漫画は、必死に頑張ったおかげでついにアンケート1位を獲得するものの、その後ズルズルと落ち続け、最終的に打ち切られてしまう。

おまけに亜豆美保との恋も成就しないまま終了。つまり、主人公たちは明確な”勝利”を手にしていないのだ。しかしこの展開は「それでも俺たち、これで終わりじゃない。まだまだこれからだろ!」という、『キッズ・リターン』や『スラムダンク』をも彷彿とさせるような、まさに”ほろ苦い青春の1ページ”的なラストシーンへと帰結している。そこにかぶさるサカナクションの主題歌『新宝島』も凄くいい!

実は、シナリオよりもこの曲の方が先に出来上がっていたようで、大根監督は『新宝島』を聴いて、「次回作のアイデアを黒板に描きながら2人が会話する」というラストを思い付いたらしい。ちなみに、黒板のマンガは撮影現場へ見学に来ていた小畑健が、「きっと小畑さんも1日くらい現場に来たがるだろうから、そこに照準を合わせてお願いしよう」という監督の策略にまんまと引っ掛かって描かされたそうだ(笑)。

あと、「漫画作品に対するオマージュ」も重要な要素として挙げておきたい。この映画は『バクマン。』を実写化したものだが、藤子不二雄の『まんが道』や井上雅彦の『スラムダンク』など、他の漫画の影響が至る所に見え隠れしている。特に終盤の「ライバルたちが仕事場に集まってサイコーを手伝う」という展開は、ちばてつやの『トモガキ』という漫画から着想を得たそうだ。

トキワ荘時代のちばてつやが、右手を大ケガして絵を描けなくなったとき、石ノ森章太郎赤塚不二夫ら漫画家仲間たちが集まって、「困ったときはお互い様だ」とみんなで手分けして原稿を仕上げたという。大根監督はこのエピソードを今回の映画に引用しているのだ(後日、ちばてつやと対談した際、「勝手に拝借してすみません」と伝えたらしい)。

こういう、「漫画に関する実話エピソード」を積極的に盛り込むことで、フィクションの世界に揺ぎ無い説得力を与え、同時に溢れんばかりの”漫画愛アピール”によって、多くの観客から共感を得たのである。エンドクレジットの単行本なんて、1冊1冊オリジナル漫画の背表紙を、全てCGで作ったというのだから凄すぎる!このシーンだけでも漫画好きには感動ものだろう。


なお、『バクマン。』には(原作にも実写版にも)編集長がサイコーたちに向かって、「マンガは面白ければいいんだ!」と言い放つ場面が出てくる。このセリフはそのまま映画にも当てはまるのではないだろうか。「映画は面白ければいいんだ!」と。そして、これこそが『バクマン。』の実写化が成功した最大の要因なのではないかと。

近年、漫画やアニメの実写版が次々と公開され、その度に「また原作レイプか!」とか「ちゃんと原作通りにやれよ!」みたいな批判を目にするが、原作を完璧に再現することが本当に一番重要なことなのだろうか?いや、決して原作を忠実に実写化することだけが正解ではない。

どんなに原作のストーリーを改変しても、どんなにキャラクターが違っていても、最終的に出来上がった映画が面白ければ観客からは高く評価されるのだ。まさに「当たり前」の話であり、実写版『バクマン。』は、それを自ら証明してみせたのである。そう、「漫画を実写化する」とはこういうことなのだ。「素晴らしい」としか言いようがない!


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