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実写版を完全再現?劇場アニメ『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』

『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』

打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?


どうも、管理人のタイプ・あ~るです。

さて本日、金曜ロードショーで劇場アニメ打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?が地上波初放送されます。

この作品は、岩井俊二監督が1993年に手掛けたTVドラマをアニメ化したもので、2017年に全国の劇場で公開され、興行収入16億円のヒットを記録しました。

主人公の島田典道の声は当時アフレコ初挑戦だった菅田将暉が演じ、ヒロインの及川なずなを広瀬すずが担当。その他、宮野真守梶裕貴三木眞一郎花澤香菜など豪華な声優陣も話題になりました(ヒロインの母親役は松たか子)。

ちなみに原作のTV版は、もともと『if もしも』というオムニバス・ドラマシリーズの一編として作られたもので、島田典道役は山崎裕太が、そして及川なずな役は当時、美少女子役として人気を集めていた奥菜恵が演じています。

打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか? - New Color Grading -

「12話~13話ぐらいの連続ドラマが高視聴率を獲得して映画化決定」というパターンはよくありますが、本作のような「1話完結型のオムニバス・シリーズ」の一編が劇場公開される例は非常に珍しいですね。

さらに、このドラマは多くのクリエイターに影響を与えたことでも知られており、今回のアニメ版に脚本として参加した大根仁もその一人。大根仁といえば、人気漫画『モテキ』の実写版が有名ですが、なんと『モテキ』の中で『打ち上げ花火』のワンシーンを丸ごと再現してしまうほどの大ファンだったのですよ。

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その映像を見た岩井俊二監督は「お芝居は全然違うことをしているのに、アングルやカット割りまでピッタリ合っていたので度肝を抜かれました。ちょっと衝撃でしたね。ここまで原作をなぞることが出来るんだ!と。その極め方がすごいなと感動してしまいました。あまりにもそっくりなんで、うちのスタッフは”これ大丈夫でしょうか?”と心配してましたけどね(笑)」と絶賛。なお、大根さんは岩井監督に会った時、「無断でパロディにしてすいません」と謝ったらしい(笑)。

そこまで『打ち上げ花火』に思い入れのある大根さんがアニメ版の脚本を書いたわけですから、当然ながら実写版を忠実に再現したシーンが満載です。『モテキ』でパロディにした「なずなが母親に連れ戻されるシーン」も、カメラアングルやカット割りを完全コピーするほどのこだわり!

『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』

打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?

さらに監督の武内宣之も「原作ドラマをそのままアニメ化しよう」と考え、なんと”ロトスコープ”を採用したそうです。ロトスコープとは「実写の映像をなぞってアニメーションを作る手法」で、昔の海外作品でよく使用されていましたが、日本のアニメではあまり例がありません。以下、武内監督のコメントより。

この映画を作るにあたり『モテキ』も拝見しました。森山未來さんと満島ひかりさんが『打ち上げ花火』をそのままやっていて、大根さんの『打ち上げ花火』に対する愛情を強烈に感じたんです。ここまですごいものを見せられたら、どうしようと。こうなったら、大根さんの『モテキ』をもう一段飛び越えた”完コピ”をするしかない。そこでロトスコープでそのままやろう!」と決断したんです。

A・Bパートは、なるべくカット割りを同じようにする、セリフのテンポも同じにする、そしてロトスコープを使って、原作を完璧にコピーしてみようと。岩井さんの実写版のアングルをほぼそのままアニメで再現したんです。奥菜恵さんの芝居をロトスコープして作画し、広瀬すずさんの声を当ててみることで、20年以上前のドラマと今回の映画が時代を超えるような面白さが出ればいいなと思いました。 (『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』公式ビジュアルガイドより)

 一般的に「漫画をアニメ化する」とか「アニメを実写化する」というパターンはよく見ますが、「実写をアニメ化する」例はそれほど多くありません。しかし、「アニメ → 実写」は衣装・小道具・背景などを忠実に再現することが難しいのに比べ、「実写 → アニメ」の場合は全て絵で描けるため、その気になれば完璧な再現が可能なのです。

例えば、主人公の典道が病院で傷の手当てをしてもらう場面では、「パターの練習をしている医者が手前に歩いて来てゴルフの本を手に取り、また奥へ戻っていく」という映像を、構図や動きのタイミングに至るまでそっくりそのままコピーしているのですよ!スゲー!

『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』

打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?

しかも、『化物語』や『偽物』などの〈物語〉シリーズでキャラクターデザインを務めた渡辺明夫が本作でもキャラデザを担当しているため、ロトスコープ特有の写実的でリアルな表情ではなく、適度に記号化されたキャラクターで描かれている点もいいですね。

ただ、「原作を忠実に再現しよう」としている一方で、アニメ版ならではの表現やアイデアも当然入っています。中でも典道が投げる”不思議な玉”はアニメ版のみに登場するオリジナルのアイテムで、実写版には出て来ません。

なずなが海で拾い、重要な場面で効果を発揮するこの玉はスタッフの間で「もしも玉」と呼ばれており、物語の中でキーアイテムとなっています。発案者は岩井監督自身ですが、なぜこの「もしも玉」をストーリーに加えようと考えたのでしょうか?以下、岩井監督の説明より↓

もともと『打ち上げ花火』は『if もしも』というTV番組の一つとして作られ、その番組内では「もしも〇〇だったら」というルールに従って物語が進んでいく”お約束”があったんですよ。ところが、のちに劇場版を作って公開した時に、観た人から「何が起きたんですか?」「どうして時間が巻き戻ったのかわからない」という質問が多くて。『打ち上げ花火』を単体で切り出した時に、話をわかりやすくするようなギミックを入れた方がいいんじゃないか?と思ったんです。それで、僕の方からわかりやすくするためのアイデアを出させていただきました。 (公式ガイドブックより)

その他、原作では小学生だったキャラクターの年齢を中学生に変えたり、典道となずなが電車に乗ったり、松田聖子の『瑠璃色の地球』を歌ったり、設定やストーリーを変更した個所は多数あります(もともとTVドラマ版が49分の短編だったため、90分のアニメ版を作る際に色んな要素が追加された模様)。

特に、後半パートからクライマックスにかけては、美しいビジュアルを駆使したアニメ版オリジナルのファンタジックな表現がバンバン出て来るので、その辺も見どころの一つでしょう。

『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』

打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?

また、総監督を務めた新房昭之は『魔法少女まどか☆マギカ』や〈物語〉シリーズなどで圧倒的な人気を獲得しており、その作風はアニメ制作会社「シャフト」の名と共に広く知れ渡っていますが、本作でも独特の作風は健在で、その分、好き嫌いがわかれるかもしれません。

好き嫌いといえば、本作のラストシーンも評価がわかれるポイントと言えるでしょう。当初の案では典道が学校にいるのかどうかは曖昧にしていたそうです。しかしプロデューサーの川村元気が「それでいいのか?」と悩み、最終的に岩井監督がドラマ版でやろうとしていた「幻のエンディング」を採用することになりました。

それがすなわち「教室で点呼を取っているが、典道の返事がないまま物語が終わる」というエンディングです。

新房監督はこのラストに対し、「個人的にはどうなのかな?と思いましたが、ただ”典道がそこにいない”という結末はファンタジーとして受け止められると思うんですよね。観ている人は気持ちがいいかもしれない」とコメントしています。

というわけで、公開当時はラストの展開や独特の作風も含めて賛否両論だったようですが、金曜ロードショーを観た視聴者がどんな反応を示すのか気になりますね(^.^)