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山崎貴監督『Returner リターナー』ネタバレ映画解説


■あらすじ『依頼者からの情報をもとに闇の取引現場に潜入し、ブラックマネーを奪還、そして依頼者にその金を送り戻す非合法的職業“リターナー”。少年時代に親友を殺され、その犯人を捜していたリターナーのミヤモト(金城武)は、やがて溝口(岸谷五朗)を見つけ出したものの、激しい銃撃戦の末、取り逃がしてしまう。だが、その現場に居合わせた謎の少女ミリ(鈴木杏)から地球の存亡にかかわる“重大なモノ”の奪還を依頼された。信じ難いそのミッションに与えられた時間は僅か2日間。果たしてミヤモトは無事に任務を完了させ、宿敵の溝口を倒すことができるのか!?』



本日、BSプレミアム山崎貴監督のSFアクション映画Returner リターナーが放送されます。山崎監督といえば、2014年の日本映画興行収入ランキングで、1位の『永遠の0』が88億円、2位の『STAND BY ME ドラえもん』が84億円、合わせて172億円というとてつもない成績を叩き出した稀代のヒットメーカーです。

もちろん、大ヒットを飛ばす映画監督は他にもいますが、同じ年に1位と2位を独占したのは日本映画史上初の快挙らしい。さらに、近年の作品を振り返ってみると、『ALWAYS 三丁目の夕日』から『寄生獣 完結編』まで、手掛けた映画が全て10億円以上のヒットを飛ばしているのですから、その打率の高さに驚嘆せざるを得ません。

ALWAYS 三丁目の夕日』 32億円
ALWAYS 続・三丁目の夕日』 46億円
BALLAD 名もなき恋のうた』 18億円
SPACE BATTLESHIP ヤマト』 41億円
『friends もののけ島のナキ』 15億円
ALWAYS 三丁目の夕日'64』 34億円
永遠の0』 88億円
『STAND BY ME ドラえもん』 84億円
寄生獣』 20億円
寄生獣 完結編』 16億円

本日取り上げる『Returner リターナー』は、そんな山崎監督が『ALWAYS 三丁目の夕日』の前に撮ったSF映画であり、知名度的にそれほど知られていない頃の作品です。ただ、マイナーな割には興行収入を13億円近くも稼いでいるので、一応ヒット作ではあるんですよね(そんなにヒットしていたとは意外だった)。

当時の山崎監督は、長編第1作目の『ジュブナイル』(子供が主人公のSF映画)がヒットしたので、その続編をオファーされていたそうです。そのため、『ジュブナイル』の数年後を舞台にした『ジュブナイルネクスト』というプロットを作成。大人になった主人公たちが活躍する”ティーンエイジャー向けの映画”を作ろうとしていたらしい。

ところが、脚本家が参加し、プロデューサーたちとシナリオを検討する過程でどんどん内容が変化していき、最終的には全く別の物語になっていました。当初の案ではミリが主役で、ミヤモトは彼女をサポートするその他大勢のキャラクターの一人にすぎなかったそうです。

しかし山崎監督は、単なる脇役だったミヤモトを主役に昇格させることで、ストーリー全体の流れを大幅に変更。「親友の敵討ちのために日本へやって来たミヤモトが、偶然出会った少女のために、とんでもない事件に巻き込まれる」というバディ・ムービー的な要素を付け加え、その上でミヤモト役を金城武にオファーしました。

当時の金城武は、香港や台湾など主にアジアを中心に活躍する俳優でしたが、本広克行監督の『スペーストラベラーズ』に出演したことで日本映画に良い印象を持ち、しかも『リターナー』が『スペーストラベラーズ』を制作した「ROBOT」というクリエイティブ集団の企画だったこともあり、出演を決めたという。

そして、もう一人の主人公ミリ役には、当初から山崎監督が推していた鈴木杏に決定。ミヤモトとミリを追い詰める溝口役には、岸谷五朗が初の悪役に挑むことになりました。面白いのは謝役の樹木希林で、脚本では”年老いた男性”となっていたのに、「ミヤモトと謝の関係性を母子のように見せたい」という山崎監督の意向で急遽女性キャラに変更。

しかし直す時間が無かったため、男性の設定のまま樹木希林にシナリオを読んでもらうことに…。山崎監督曰く「ダメもとで依頼した」とのことですが、結果的に本人がこの役を気に入り、出演を承諾。こうして物語を形作る主要な俳優が決まっていったそうです。

さて、山崎貴監督作品第2弾として公開された『リターナー』は、非常に画期的な映画でした。なぜなら、日本映画では滅多に無い「SFアクション」という趣味性の強いジャンルを、完全オリジナル・ストーリーで撮っているからです。これ、相当ハードルが高いんですよ。人気漫画やアニメを実写化するパターンを除けば、過去にこういう話が映画化された例はまずありません。

もちろん、作り手にとっては関心が高いジャンルだから、今までにも低予算・無名俳優で作られた作品はあるでしょう(ほぼインディーズみたいな映画で)。しかし、業界最大手の東宝が配給し、フジテレビの主導で大規模な予算とVFXを投じて、多くの有名俳優が参加した大作映画としては、ここまで本気で作られた邦画のSFアクションは前代未聞だと思います。

むしろ、「どうしてこんな企画が通ったんだろう?」と不思議で仕方がないぐらいですよ。なんせ、山崎監督の好きなものを全部ブチ込んでますからね(笑)。「俺はこういう映画が観たいんだ!」という監督の初期衝動をそのまま投影したような、あるいはクリエイターの純粋な創作願望を最も理想的な形で結晶化したような、実に幸福な作品だなあと『リターナー』を観る度に思うわけです。今はもう、作りたくても作れませんからね、こういう映画は。

人間の体感時間を20倍に引き延ばして猛スピードで活動できる”ソニックムーバー”というガジェットや、変形するハリアー戦闘機みたいな映像表現など、SF好きをワクワクさせる仕掛けが満載なところも素晴らしい。

CG合成やミニチュア特撮は山崎監督の得意技なので当然文句なし。そして銃撃戦やカーアクション、ワイヤーアクションや大爆発など、派手な見せ場もてんこ盛り。ここまで娯楽性を極めてくれたら、内容的に少々不満があったとしても気にならないというか、十分に楽しめるんじゃないでしょうか。

なお、山崎監督はこの映画を撮った後、続編として『リターナー2』の製作を考えていたそうです。しかし、プロデューサーからALWAYS 三丁目の夕日を撮るように打診され、企画は一旦保留に。その際、「『三丁目の夕日』みたいなSF要素が全く無い話を、なんで俺が撮らなきゃいけないの?」と思ったらしい。

ところが、そんな『ALWAYS 三丁目の夕日』が予想外の大ヒットを飛ばし、以降の山崎監督は「人情ドラマ」を絡めた感動的な作品が目立つようになりました。個人的には、「もう一度『リターナー』みたいな映画を撮ってくれないかなあ」と思ってるんだけど、無理でしょうねえ。

ちなみに、『ALWAYS 三丁目の夕日』に全くSF要素が無いことを不満に思ったのか、吉岡秀隆演じる茶川竜之介の部屋をよく見ると、なんとソニックムーバーが転がってるんですよ!茶川は加速して小説を書いていたのか?それとも未来から昭和33年にタイムスリップしてきたヤツがいるのかなあ(^_^;)


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