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宮沢りえ主演『紙の月』ネタバレ映画感想/評価/解説

■あらすじ『1994年。エリート会社員の夫(田辺誠一)と2人暮らしの平凡な主婦、梅澤梨花(宮沢りえ)は、銀行の契約社員として外回りの仕事を任されていた。顧客の信頼も得て、上司からも高く評価される彼女だったが、家庭では夫との冷めた夫婦関係に空しさを抱く日々。そんなある日、外で顔見知りの大学生・平林光太(池松壮亮)から声を掛けられる。これをきっかけに、若い光太との逢瀬を重ねるようになり、徐々に関係を深めていく梨花。しかし、それが転落へと向かう暴走の始まりだった…。NHKでもドラマ化された角田光代の同名ベストセラーを、「桐島、部活やめるってよ」の吉田大八が映画化したヒューマン・クライム・サスペンス!』


※ラストまでネタバレしてます。


本日、WOWOWシネマ宮沢りえ主演のサスペンス映画『紙の月』が放送されます。本作は「銀行員が好きな異性のために金を横領する」という、現実世界でも非常によくあるお話で、角田光代の原作も実際に起きた横領事件をベースに書かれたそうです。

この映画では、宮沢りえ演じる主人公が、池松壮亮演じる大学生に心惹かれ、金に困っている彼を助けるために銀行の金を使いこむ、という流れになっていました。そしてその行為は次第にエスカレートし、やがて横領額は莫大なものに…

こういうストーリーを読むとですね、「ああ、きっと男女の背徳的な恋愛事情とか、お金の絡んだドロドロの人間模様とか、暗くて破滅的な映画に違いない」と思うじゃないですか?僕もそう思ってたんですよ(どう考えてもハッピーエンドになりそうにないし)。ところが、意外とそうじゃないんです。いったいなぜか?

この映画って、主人公の梅澤梨花の倫理観がちょっと独特なんですよね。一見すると、彼女は会社からも顧客からも信頼されるような、道徳や常識をわきまえた人格者みたいに見えるんです。しかし梨花は、高校生の頃に「愛の子供プログラム」というボランティア活動に出会ったことで、”人を助ける喜び”に目覚めてしまっていたのですよ。


しかも「受けるより、与える方が幸いであれ」というシスターの教えを、彼女は「他人の金を盗んで与えても、それは正当な行為である」と歪めて解釈し、父親のサイフから5万円を盗んで寄付しました。当然、シスターからはとがめられるわけですが、彼女は「なぜそれがダメなんですか?」と反発。

そして大人になってからも、梨花は同様の行為を繰り返すのです。つまり、この物語の主人公は「犯罪を犯している」という自覚はあるものの、「他人を助けるため」という理由を楯に正当化しようとしている。その”歪んだ倫理観”が映画全体に奇妙な疾走感を生み出し、本来は暗い話になるはずなのに、最後まで緊張感が途切れることなく飽きさせないのです。


また、梅澤梨花と絡むキャラクターとして、大島優子演じる相川恵子と、小林聡美演じる隅より子というタイプの違う2人の女性が登場するんですけど、この2人がいいんですよねえ。相川恵子は奔放かつ小悪魔的な言動で梨花道徳心を揺さぶり、一方の隅より子はそんな彼女たちに目を光らせる厳しい先輩社員という位置付け。大島優子小林聡美も見事にキャラにハマッてます。

特に使い込みが発覚した後の、隅より子と梅澤梨花のやり取りが素晴らしかった!「なぜ横領したの?」と問い詰めるより子に対し、「ある夜、月を見ていたら…」と語り出す梨花。「見上げた月を指でこすったら消えてしまった。ああ、ニセモノなんだと。ニセモノだから、いつかは終わる。ニセモノなんだから、壊したっていい。怖くない。」


それを聞いて、「確かにお金なんてニセモノかもね。ただの紙だもの」と答えるより子。梨花の横領を告発したより子ですが、梨花がなぜ犯罪に走ったのか、そして彼女が考える”自由”というものに少なからず興味を抱いていたことを打ち明けます。しかし、この直後に急展開が!

なんと、梨花がいきなり部屋の椅子を持ち上げ、窓ガラスに叩き付けたのです。そして割れた窓から逃げようとする彼女の腕をより子が掴んだ瞬間、「一緒に行きますか?」と一言。一瞬、何が起こったのか分からず手を放してしまったより子を残し、2階から飛び降りて全力疾走する梨花

その姿をカメラが延々と映し出すクライマックスシーンは、普通のクライム・サスペンスでは有り得ないような躍動感と開放感に満ち溢れていました。

明るく美しい日差しの中を、ただひたすら走り続ける宮沢りえ。「必死で警察から逃げている犯罪者」とは思えないような映像ですが、吉田大八監督は「原作を読んだ時、まず最初にこのシーンを思い付いた」そうです。

今回の『紙の月』は、最初に”主人公の梨花が走って逃げる映画”だと思ったんですよ。それが一番強く読後に残ったので、どこをどう走るのかとか、いつ走り始めるのかとか、どこへ向かって走るのかということから脚本の打ち合わせを始めました。梨花が最後に走るためには、そこまでの話の中で、どういう感じで圧力が高まっていけばいいのかと、そういう風にスタートしました。
(「Creativevillage」のインタビューより)

つまりこの映画は”まず梨花の疾走シーンありき”で始まってたんですねえ。そして映画は梨花の全力疾走を映した後、遠くタイまで逃亡した彼女の姿を見せています。そこで彼女が出会ったのは、なんと「愛の子供プログラム」で寄付を送っていたあの少年!今ではもう大人になっているものの、顔の傷が一緒です。

驚く彼女の側へ現地の警察が近づく…。物語はここで終わりますが、雑踏の中へ消えた梨花はあの後どうなったのか?全てから解き放たれ、”自由”になれたのか?色々なことを考えさせられる映画でした。

ちなみに、宮沢りえの相手役として池松壮亮がキャスティングされてるんですけど、『海を感じる時』や『愛の渦』などで立て続けに濡れ場を演じたことから、僕の中ではすっかり「女優とエッチしまくってる俳優」というイメージが定着しております(なぜそういう役ばっかりなんでしょうか?羨ましいw)。


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