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映画『ゴーン・ガール』はここが凄い!ネタバレ解説/感想/評価


■あらすじ『ミズーリ州のとある田舎町。結婚して5年目になるニック(ベン・アフレック)とエイミー(ロザムンド・パイク)は、誰もが羨む理想のカップルだった。ところが結婚記念日に、エイミーは突然姿を消してしまう。室内には争った跡があり、警察は他殺と誘拐の両面から捜査を開始。美しい人妻の謎めいた失踪事件はたちまち注目を集め、小さな町に全米中からマスコミが殺到した。次第に不可解な言動が明るみとなり、疑惑と批判の矢面に立たされていくニック。だが、そこには恐るべき真相が隠されていた!ギリアン・フリンの同名ベストセラー・ミステリーを「セブン」ファイト・クラブ」のデヴィッド・フィンチャー監督が完全映画化。一組の夫婦が繰り広げる衝撃の事件はやがて想像を絶する結末に…!』


※ラストまでネタバレしています。まだ映画を観ていない人はご注意ください。


本日、スターチャンネルゴーン・ガールが放送される。本作は2014年10月3日に北米の劇場3014館で公開され、最初の週末で3700万ドル以上を稼ぎ出し、初登場1位を記録した大ヒット映画だ。全米では10週連続トップ10をキープし、全世界の興行収入累計が、フィンチャー監督のこれまでの最高記録だった『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』を上回り、自身のキャリア最高記録を樹立するなど、大変な人気を博した超話題作である。

いや〜、それにしてもこれは凄い映画だ!何が凄いかと言えば、まず話の構成が凄い。最初、物語は夫であるニックの場面から始まり、妻がいなくなって慌てる様子が映し出される。この段階では妻の姿が(回想シーンでしか)描かれていないため、家出をしたのか、誘拐されたのか、あるいは殺されたのか、判断がつかない。

やがてニックの行動や性格が明らかになるに従い、観客は「もしかしてコイツが殺したんじゃ…?」と思い始める。さらに、エイミーが書いた日記の内容や、彼女が妊娠していたこと、ニックに若い愛人がいたことなどが次々に明らかにされていくと、地元住民が「あいつが怪しい!」と決め付け、マスコミの報道もヒートアップ。映画が始まって1時間ほど経過した時点で、完全に「ニック=犯人」という図式が出来上がってしまうのだ。

ところが、その直後に今度はエイミーのターンが始まる。今までニックの視点で描かれていたドラマが、一転してエイミーの側から描かれ、しかも「これまでの事件は全部エイミーが企てた計画です」ということをネタばらししてしまうのだ。普通のサスペンスなら、オチのどんでん返しに使われそうな展開だが、この映画が凄いのは「まだストーリーが半分も過ぎていないのに真相をバラしている」ってこと。

つまり、「ニックが悪い夫と思わせて実はエイミーの策略だった」という逆転劇を見せつつ、さらにここから物語が続く驚きの構成になっており、「むしろここからが本番!」と言わんばかりの急展開に至るところが凄いのだ!エイミーは夫の浮気に気付いて復讐を決意し、自分が夫に殺されたように見せかけるための偽装工作を済ませた後、別人に変装して人里離れたモーテルへ身を隠す。

エイミーが仕掛けた罠にはまり、どんどん追い詰められていくニックの姿を「ざまあみろw」という表情でテレビやネットで確認しながら、優雅な新生活を満喫するエイミー。だが、そんな楽しい暮らしも長くは続かなかった。今度はエイミーが悪い奴に全財産を奪われ、窮地に立たされてしまう。一方、そのころニックは、唯一自分を信用してくれる弁護士を見つけて反撃のチャンスを窺っていた…。

という具合にこの映画、中盤以降は「ニックとエイミー、どっちが勝つか?」というバトル要素が加わってくるのだ。予告編を見た段階では、「エイミーを殺したのはニックか?」「違うなら真犯人は誰なのか?」というミステリー映画だと思っていたのに、いつの間にか謎解き要素はどこかへ消え失せ、「夫と妻のガチンコ対決ストーリー」へと変貌を遂げてしまうのである。予想を裏切りまくる怒涛の展開が抜群に面白い!

さらに終盤、無一文に成り果てたエイミーはやむを得ず「金持ちの元彼」という禁断のカードを切り、どうにか窮地を脱する。しかし、この元彼はストーカー行為で接近禁止令を受けるほどのキモい野郎だったので、「超ウゼー、こいつ消えて欲しいわー」とイライラが爆発。ついに「強姦された」という状況を偽装し、ベッドの上で元彼を殺害してしまうのだ。

夫を殺人犯に仕立てる目的でついたウソが発端となり、想定外のアクシデントを経た結果、とうとう自分が殺人犯になってしまった妻エイミー。この後、いったいどうするんだ?と思ったら、なんと大量の返り血を浴びたまま車を運転して自宅へ帰還。大勢のマスコミが見守る中、夫ニックと感動の再会を果たすというウルトラC級の大技を炸裂させる!なんじゃそりゃあ!?

当然、警察からは鋭い追及を受けるものの、「私は元彼に無理矢理誘拐され、何日間も暴行を受けた。警察は夫を疑って助けに来てくれなかった。あのままではいずれ私は殺されていたでしょう」と正当防衛を主張。エミリーの話には突っ込みどころも多かったが、世論を味方につけることで疑惑を払拭、逆に「サイコキラーから自力で生還した奇跡のヒロイン」として一躍脚光を浴びることに…。

一方、ニックは「お前のような恐ろしい女とは一緒に暮らせない!」と離婚を切り出すものの、エイミーは「今別れたらあなたが損するだけよ」と全く聞く耳を持たない。仕方なく”殺人鬼嫁”との夫婦生活を継続することになったニックに、弁護士は半笑いで「君たちみたいなイカれた夫婦は初めて見たよ。まあ、有名になったんだからしっかり儲けろよw」と捨て台詞を残して去って行った。

だがエイミーが帰宅して7週間が経った頃、マスコミのインタビューを受けることになったニックは我慢の限界に達し、「今日こそ妻の悪事を全て暴露してやるぞ!」と決意。ところがその直後、エイミーから妊娠していることを告げられ衝撃を受ける。そして「確かに君のことを愛してたよ!でも俺たちは互いを支配し、憎み合うだけ!結局は傷つけ合うだけだろ!?」と激怒するニック。そんな彼を冷やかに見つめながらエイミーは静かに言い放つ。「それが結婚よ」

その言葉を聞いた瞬間、ニックは全身の力が抜け落ち、抵抗する気力も失って、エイミーの言う通りにインタビューに応じることになった。「子供が出来たの」と嬉しそうにカメラの前で微笑むエイミーとは対照的に、死んだ魚のような目で一点を見つめるニック。二人の姿を映しながらドラマは終了。こうしてニックとエイミーの「人生を賭けた壮絶なパワーゲーム」は、最終的にエイミーの勝利で幕を閉じたのである。

というわけで、『ゴーン・ガール』は男性側から見ればとんでもなく恐ろしい映画だ。「こんな女が嫁だったら…」と想像しただけで寒気がしてくる。だがこのドラマ、良く考えたら意外と自分たちにも当てはまるのでは…という気がしなくもない。いやもちろん、状況自体はとても「一般的」とは言えないんだけど、根底に流れるメッセージは案外「普遍的」なのではないかと。

つまりこの作品は、「結婚とは何か?」という問いに対し、状況だけを極端に誇張しつつ、でもその本質的な部分は変えることなく、恐ろしいほど正論でシンプルな回答を突き付けているのだ。「夫婦とは、互いに”役割”を演じることで良好な関係性を保つことができるのだ」と。デヴィッド・フィンチャー監督は、身も蓋もないほど”夫婦”というものの真理を突いている。フィクションとはいえ、あまりにも真に迫りすぎていて、だからこそ余計に怖いのだろう。

そして本作における最大のポイントが、エイミーのキャラクターである。とにかく、思考も行動もムチャクチャで、絶対に身内になりたくない女性なのだが、そのキャラクターがあまりにも面白すぎるのだ。用意周到に計画を立てている割には、潜伏先で全財産を盗られて枕を抱えて泣き叫ぶなど、妙に人間臭くて笑えてくる。

さらに、どんな窮地に追い込まれても決して諦めないバイタリティといい、この期に及んでもまだニックのことを「愛してる」と言い張るふてぶてしさといい、「自分勝手を極限まで極めたらこんな人間が出来上がる」という大迷惑な性格も含めて、「何周も回って逆に面白い」みたいな状態になっている。人間的には最悪だが、単なる悪女ではないところが大きな特徴だ。

もしエイミーがこういうキャラじゃなかったら、この物語はもっと悲惨で救いようの無いものになっていただろうし、映画もここまで面白くならなかっただろう。まさにエイミーの圧倒的な存在感が『ゴーン・ガール』を極上のエンターテインメントとして成立させたのだ。素晴らしい!

※以下、デヴィッド・フィンチャー監督が自らこの映画について解説しているコメント(撮影裏話等)をいくつか集めてみたので、もう一度映画を観る際に合わせて読めば、さらに楽しめるのではないかと思います。



●物語の舞台
ゴーン・ガール』の舞台は、原作小説ではミズーリ州の架空の町になっていた。そこで我々はイメージに合う場所を探してあちこちロケハンに行ったんだ。そして、3週間かかってようやくケープジラードを見つけた。すぐ原作者のギリアン・フリンに電話して「ピッタリの町があったよ。ケープジラードだ!」と伝えたら、「ああ、それは私が執筆中にイメージしていた場所です」だって。だったら最初に教えてくれよ(苦笑)。

ベン・アフレックについて
最初は、主人公のニック役をベン・アフレックに依頼するつもりはなかった。当時、ベンは他の映画を監督する予定だったので、「忙しくて無理だろう」と思っていたから。しかし、「一応会ってみたら?」とスタッフに言われて会うことにした。するとベンも乗り気になって、すぐにスケジュールを調整して『ゴーン・ガール』の方を優先してくれることになったんだ。

この映画では、ベン扮するニックが好ましく思われるか否かが問題だった。最初のベッドシーンも、普通の正常位を想定していたが、何度やっても上手くいかない。どう撮ればいいのか迷っていたら、ふと思いついた。ニックがエイミーにオーラル・セックスをしたらどうだろうと。ロザムンドは「エイミーは喜ぶと思うわ」と賛成してくれて、ベンもノリノリ。いいシーンになったよ。

ロザムンド・パイクについて
当初、エイミー役はリース・ウィザースプーンが自ら「演じたい」と希望していた。彼女はこの映画のプロデューサーで、誰よりも原作に惚れ込んでいたからね。でも、僕が監督に決まると意見が分かれた。そこで、僕が思い描く映画化のイメージを伝えると、彼女は僕を信頼してくれて、自分はプロデューサーとしての職務に専念することを決めたんだ。

ロザムンドはもちろん完璧に美しい。彼女が出ている映画も何本も観ている。ところが、彼女の印象を思い出そうとしたら、思い出せないんだ。外見は覚えていたけど、彼女の人柄や俳優としての具体的な印象が無かった。監督は役者に対して即座に何らかの評価を下すのに、彼女は白紙だったんだ。でも、「それこそがエイミー役に好都合なのでは…」と思い始めた。

エイミーは複数の印象を持つキャラクターだから、印象が計り知れない方が彼女らしいわけだ。そして実際にロザムンドに会い、本作がいかに残虐で難しいかを伝えた。5,6時間かけて話し合ったよ。育った環境を聞いたら、彼女は一人っ子だった。エイミーを演じるには大人に囲まれて育った人が相応しい。そういう違いは必ず行動に表れる。まさにこの役にピッタリだ。

もう一つ彼女に聞いたのは、「4カ月で体重を5〜7キロ増やして、また減らすことは出来る?」ってこと。それから「数週間、裸のまま血みどろになって過ごせる?」、「エイミーがしでかす凶悪な事柄を抵抗なくやれると思う?」と聞いた。彼女はやる気満々だった。それで決まったよ。

●外観に比べて家の中が広すぎる?
ニックたちが暮らす家は、周囲の景色も含めてイメージにピッタリのものを探すのに苦労した。だから、この住宅街を見つけた時は嬉しかったよ。この家に住んでいる人に出来る限りの交渉をして、外観を使わせてもらえるよう懇願した。

ところが、交渉している途中に気付いたんだ。僕が考えていた室内はもっと大きなものだったということにね。想定していた家の方が、外観より186平方メートルほど広かったんだ。プロダクション・デザイナーを呼んで、室内のどこを削れるか検討したが、そのうち関係ないような気がしてきた。心が離れてしまった二人の関係性を表現するには、広い室内の方が好都合だったし、空いている部屋が多いことも2人の空虚な暮らしぶりをよく表わしている。

そこで僕は考えた。「室内と外観が必ず正確に一致していなければならないのだろうか?」と。もちろん、リアルな物語を構成するには、本来は厳密で正確な事実関係を要するものなんだけどね。でも結局、無視することにした(笑)。常識的に考えるとニックの家は、外観に比べて室内が広すぎる。今回、映画で見せた室内の半分さえも、外観として使った家の中には入らないだろう。でも、それで良かったと思う。

●警察署
ベンが取り調べを受ける警察署は『ゾディアック』で使った建物と同じだ。前にも使った場所だから「またここで10日間缶詰になるのか…」って思ったよ(笑)。中に裁判所と拘置所があるが、拘置所はケープジラードで撮った。

●ニックの父
ニックの父親役のレナード・ケリー=ヤングが腕をかきたいと言うので、「どうぞ」って言ったらずっと腕をかき続けてたよ(笑)。俳優の思い付きで癖とか味を出すのは大歓迎だ。それがシーンの本筋とは無関係でもね。たとえ脱線気味であっても、人物描写には計画に沿うより重要だったりするんだ。レナードは特にアドリブが多かったので、撮影中は楽しかったよ。

●ニックの行動
ニックがマーゴの家に入るシーン。ここで重要なのは、ニックが秘かに昔の彼女と連絡を取ろうとしているところだ。観客に気付かれないように伏線をいくつか張っておいた。例えば、マーゴに見えないように携帯電話をチェックするとか。やり方が目立つ人もいるが、ベンは非常にさりげない。誰も気にとめない程度にサラリとやってのける。生粋の二枚舌なのかもしれないね(笑)。

●エミリーとノエルの会話シーン
エミリーとノエルが会話しているフラッシュバックのシーンはほとんどアドリブだ。「よし、今からワイン片手に昼下がりのガールズトークを始めよう。話題はエイミーの性生活だ!」って指示してカメラを回すと、ロザムンドとケイシー・ウィルソンが5分間ノンストップで喋りまくる。まるでオプラ・ウィンフリートーク番組みたいで、とても面白かったよ。

ケイシーは人を笑わせるのが上手くて、撮影現場はいつも皆が笑っていた。2人が話し込み、思わず泣き出すロザムンドに対するケイシーの対応が最高だったよ。ティッシュを取ってあげたりワインをついだり、どのしぐさも芸が細やかで笑わせてくれる。実に面白い女優だ。

●キムの機転
いい俳優を起用すると、監督が恥をかかぬように救ってくれる。警察でニックがエミリーの両親と会う場面を撮った後、キム・ディケンズ(ボニー役)が怪訝そうな顔で言った。「ボニーはマーゴとは初対面で誰だか知らないはずじゃない?」と。ハッと気付いて大急ぎでマーゴが自己紹介する場面を撮った。まさかのミスだったが彼女のおかげで救われたよ。

●ベンの愛人アンディ
アンディの登場は狼人間のようにしたかった。裏口から侵入してニックに襲い掛かる。当然ながらニックは抵抗しない(笑)。アンディ役を探す際、絶対条件があった。観客を即座に二分するような人が欲しかった。劇場を大きな剣で真っ二つに割る感じだ。女性は「あいつ最低の男ね!」と腕を組みふんぞり返る。一方、男性は肘を付き、アゴを乗せて前かがみになり「気持ちは分からなくもない」と言う(笑)。相手がエミリー・ラタコウスキーならではの反応だ。

彼女を見つけて来たのはベンだ。PVに出演していた彼女を見つけて僕に推薦してくれた。一目見た瞬間、「これは意見が分かれるタイプの女性だな」と思ったよ。それに「気難しいファッション・モデル・タイプだったら困るな」とも。だが、彼女は素直で全く気取らない性格だった。

●ニック、マーゴに浮気がバレる
ここは好きなシーンだ。音を立てずに起き、服を着て10代の彼女をこっそり帰さなきゃならない。寝坊したからだ。寝ぼけてる彼女にベンが服を着せてやる。それが屈折した印象を与えた。身長195センチもの大男が小柄で官能的な愛人に服を着せる。まるで学校へ送り出すようでロリコンっぽい。

扉を一切音を立てずに閉める。そのためにここはアフレコにした。聞き取れないほどのヒソヒソ声だ。バレずに済んだと思った瞬間、マーゴの雷が落ちる。キャリー・クーンのセリフは何度撮り直しても完璧だった。「あんた、何てバカなの!?」の言い方が毎回キマッてた。口をポカンと開けるのはキャリーの案だ。「オエッ」という顔をするのがとても面白い。

「なぜテレビをつけるたびにニックの話題なんだ?」と言われたけど、この前に一瞬だけビデオレコーダーが映ってるよね?マーゴは番組を録画して、いつでも見られるようにしてるんだよ。いつニックが部屋に入ってくるか分からないからね。

●エキストラが凄い
町の広場でニックが演説するシーンはケープジラードで撮った。250人以上のエキストラと2晩かけて撮影したが、カメラの位置を変える際に誰もその場を離れないんだ。これがロサンゼルスなら、エキストラたちはあっという間に散らばる。好きな場所で携帯やiPadをいじるんだ。彼らを現場に呼び戻すのはとにかく骨が折れる。

だが、この町の人たちは違った。集まった地元の人々に撮影の指示をすると、12時間も自分の立ち位置から動こうとしなかった。カメラの位置を変えるから離れていいと伝えても、「楽しいから見てる」と言ってね。普通は1つのシーンに250人もの群衆がいると、管理するだけで大変なんだけど、驚くほどスムーズに撮影できた。エキストラが必要な時はこの町に行くといいよ(笑)。

●予告編をめぐる交渉
長い時間をかけて解決した問題もある。僕の主張が通るまで決して首を縦に振らずに、何カ月もの間交渉したんだ。20世紀フォックスのトップとね。真相を明らかにした後のエイミーの映像は、予告編には使わないことを約束させたんだ。エイミーが失踪する前の回想シーンだけを使い、逃亡中の姿は見せたくなかった。観客にはなるべく白紙の状態で観てもらいたかったから。

1か所だけ許可したのは彼女が水に沈む映像だ。ニックが妻を殺したのか殺してないのか、そこに注目させられるからね。そして人を劇場に集めるためには、観客の期待を煽らなければならない。だから予告編には出来るだけインパクトのある映像を使う必要があった。たしかに効果はあったよ。だが、時にはそれが思わぬ失敗を招く。

予告編を見た観客は、「このヒロインは死ぬかもしれないから感情移入しないでおこう。主人公は信用できない!」という先入観を持ってしまった。つまり、観客は劇場へ来る時、すでに白紙の状態ではないんだよ。しかも特報や予告編、さらにテレビCMにも最初の54分の映像しか使えないわけだから、集客には苦労したね。幸いヒットしたから良かったけど。

●エイミーの変装
昔から映画で気になっていたのは、メガネだけで変装しているところだ。クラーク・ケントもそうだけど、すぐにバレるだろ(笑)。そこで我々はエイミーを別人に見せるため、原作と同様に体重を増やすことにした。スパッツを履き、サイズも2から8にアップ。さらにネズミのような色に髪の毛を染め変え、日焼けして読書用に度数の弱いメガネを買う。これでエイミーは逃げ切れるレベルまで別人になった。

ロザムンドも計り知れない努力をしてくれたよ。わずか15〜20日の間に体重を5〜7キロも増減させたんだ。もちろん安全のため、医師やトレーナーの指導の下で綿密な計画を立ててね。ロザムンドは本当に苦労したと思う。どれほど大変かはデ・ニーロに聞くといい(笑)。

●監督、ベン・アフレックに激怒
ニックが野球帽をかぶってその場を立ち去る場面はヤンキースの帽子にしたかったが、ボストンがホームタウンで俳優としてのプロ意識が無いベンは、それを嫌がった。喧嘩にはならなかったが、製作が4日止まったよ。その間、映画のために何がベストか、彼のエージェントと話し合った。こんなことで皆の足を引っ張るなんて、プロ意識の欠如としか言いようがないね。

●美しく降る雪はCG
このシーンでエイミーが傷付き復讐に走った理由が分かる。許されることではないが、彼女が現実の世界を捨てた理由がここで説明されるんだ。このシーンでは静かで幻想的で完璧な情景を作りたかった。雪の見せ方にもこだわり、真っ直ぐに降る雪をCGで描いた。風に舞ったり横に飛んだりせず、真珠のついた糸のように見える雪。とても美しい映像になったよ。

●パットもCG
エイミーがホールインワンを決めるシーンは難しかった。ホールまでの距離は12メートルほどで、ロザムンドは2回挑戦している。1回目は入ったが強すぎて跳ねてしまった。次に打った時はパットを決めたが、カメラの焦点が合っていなかった。なので結局CGを使った。シンプルなシーンだが、とても手間がかかったよ。

●ロザムンド、本気で殴られて気絶
ローラ・カーク(グレタ役)にとってロザムンドを殴るのは大変だっただろう。ロザムンドはスタントをする時、俳優ではなくなる。殴られてるフリはしない。何テイクも撮ったよ。ローラがロザムンドを気絶させるほど殴る場面をね。採用されたテイクは最高だった。実は壁にはパッドが取り付けられていたんだが、ロザムンドがぶつけられた壁にはそれが無かったんだ。恐らく、ロザムンドは激しく頭を打ち付けて星を見ただろう。叫び声を上げるのも無理はない。

そしてボイド・ホルブルック(ジェフ役)がベッドに押し倒す。テイク15ぐらいまでは彼も丁寧だったが、迫力が出なかった。それで何度もやり直していたが、しまいにはロザムンドが「いいからもっと強く押し倒して!」と。それでボイドは派手に投げ飛ばした。目を見張るほどの迫力が出たよ(笑)。その後、枕を抱えて叫ぶのは彼女のアイデア。愛らしくて落ち着いた外見からは想像できないリアクションだ。こういう怒り方はいいね。

●グミがなかなか当たらない
タナー・ボルト弁護士がベンに何度もグミをぶつけるシーン。この撮影は大変だった。グミがベンの額に当たるショットを撮りたかったんだけど、なかなか当たらなくて何テイクも撮ったよ。多くのショットを撮って、当たったものだけ採用した。観客は「全部当たってる」と思うだろうけどね。

●カジノの客は無関心
エイミーが元彼と再会するシーンは本物のカジノで撮影した。しかも周りはエキストラじゃない。実際に営業中のカジノで撮ったからね。でも、とても上手くいった。アフレコは全くしてないと思う。熱狂的な場所だったが、前景で上手く録音できれば問題ない。カジノで撮影する利点は、誰もカメラを見ないことだ。みんなお金を見てるからね(笑)。彼らにとって重要なのはお金で、映画の撮影に全く興味は無いんだよ。

●アンディは別の映画に登場していた?
ギリアン・フリンが書いた原作小説では、アンディの名字はハーディだった。私はギリアンにそれを指摘した。「アンディ・ハーディはミッキー・ルーニーが演じた『初恋合戦』で使われた名前だよ」と。彼女は「確かにそうだわ!」って驚いてた。関係者の誰もネットで検索しなかったんだろうね(笑)。映画では、アンディ・フィッツジェラルドに変更したよ。

●デジーが殺されるシーン
ここは特に手間の掛かるシーンだった。「撮影が」というより「掃除が」大変だったんだ。2日かけて撮影したんだが、36回も衣装を着替えた。衣装だけじゃなくて、寝具類も36回替えた。枕だって36回取り替えたんだ。理由は見て分かる通り、汚れるからだ。性交の途中でデジーは羊のように惨殺される。掃除は大変だったが、どうしてもやるしかない。でも、苦労した甲斐あっていいシーンが撮れたよ。

●血まみれのエイミーがベンと再会
クレーンと21ミリのレンズを用意して肩越しのショットを撮った。エイミーが気絶し野次馬たちは大騒ぎ。その後、撮影した映像をベンとロザムンドに見せたら「一体どんな映画なんだ?」と唖然としてたよ(笑)。実は、あの映像を彼らに見せたら僕の考えを的確に理解してもらえると思ってたんだ。ところが、見せた瞬間僕の方を振り向いて「これをどう使うの?」と。実に楽しい瞬間だった。彼らはようやく、どんなにイカれた第3幕になるか気付いたんだ(笑)。

●ベンのアドリブ
エイミーが自宅に戻ってから数日後、ニックとイベントに出るシーン。女性キャスターは地元ケープジラードで働く本物のキャスターで、どのテイクも素晴らしかったし、他でも15シーンぐらい出てる。この日はベンに「これからのプランは?」と質問するんだけど、その前に「もう4時間になるぞ」とベンが小声でエイミーに語りかけるセリフは台本にない。面白かったし、カメラマンもその後キャスターに焦点を合わせなかった。おかげで、せっかくの彼女の最後のシーンが台無しになったけどね(笑)。

ベン・アフレックアゴ
「悪い奴のアゴ」の元ネタが何だったかは忘れたが、ずっとベンをからかってた(笑)。この役を受けてすぐ、彼はエージェントに「次は”いい奴のアゴ”を持つ役を頼む」と依頼した。それでバットマン役が決まったんだ(笑)。



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