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大友克洋監督/映画『AKIRA』がアニメ界に与えた影響とは


■あらすじ『1982年、関東地区に新型爆弾が使用され、第三次世界大戦が勃発。それから37年経った2019年。東京湾上に構築されたネオ東京は翌年にオリンピックを控え、かつての繁栄を取り戻しつつあった。そんなある夜、金田をリーダーとする暴走族グループが敵対する組織:クラウンと派手な争いを繰り広げていると、仲間の鉄雄が奇妙な小男に遭遇し、突然バイクが大破!鉄雄は重傷を負った。しかしアーミーの軍用ヘリが現れ、鉄雄を連れ去ってしまう。テロ活動を行っていたゲリラ兵のケイたちとともにラボへ潜入する金田。だが、既に鉄雄は凄まじい超能力を身につけ始めていた…。軍の大佐が恐れるAKIRAとは何者なのか?驚異的なサイキックパワーを手に入れた鉄雄の運命は?原作者の大友克洋が自ら監督を務め、リアルな人物像や圧倒的な映像表現で海外の観客にも衝撃を与えたハイ・クオリティ・アニメーション超大作!』


本日は、大友克洋監督が手掛けた初の劇場用長編アニメーション『AKIRA』について取り上げてみたい。この映画は日本のアニメ史を語る上でも外すことの出来ないエポックメイキングな作品であり、海外では押井守監督の『攻殻機動隊』と並んで「ジャパニメーションの代表格」と評されるほどの有名タイトルだ。

何しろ総製作費が10億円、総作画セル枚数が15万枚、総カット数が2200カットという当時としては破格の規模で作られており、現在でもこのクラスの大作アニメは(ジブリを除けば)滅多にない。映画のスケール的にも技術的にも、間違いなくアニメーションの歴史における重要なターニングポイントと言えるだろう。

まず、参加したスタッフが凄まじい。

作画監督なかむらたかし作画監督補に森本晃司、原画に井上俊之沖浦啓之橋本晋治、うつのみやさとる、北久保弘之、植田均、遠藤正明、竹内一義、本谷利明、青山浩行高坂希太郎、大塚伸治、二木真希子福島敦子大平晋也田中達之梅津泰臣金田伊功など、現在でも一線で活躍する凄腕アニメーターが集結!

本編の終盤(鉄雄の体に異変が起こり巨大化するシーンの辺り)では、当時『となりのトトロ』の作業を終えたばかりのスタジオジブリのスタッフまで参加し、さらなる作画のクオリティアップに貢献している。

AKIRA』を作るために日本中からこれらの優秀なアニメーターが数多く集められ、当時は「他のアニメ制作に支障が出る」とさえ言われたらしい。だが、それでも大友監督の要求レベルがあまりにも高すぎて、ついていける人間は限られていたという。

なかむら氏は『風の谷のナウシカ』の冒頭シーン(王蟲の接近に気付いたナウシカメーヴェに飛び乗って空高く舞い上がり、ユパを助けに行く辺り)などを描いたベテランだが、「『AKIRA』では基本的に大友さんが原画マンから上がってきた全てのレイアウトを修正し、その段階でキャラクターのラフも入れていた」と語るぐらい大友監督のスキルは高く、仕事も早かったらしい。

なかむら氏によると「大友さんがいなければ公開日までに間に合わなかった」とのことだが、同時に大友監督の発案による「リップシンクロ(声優の演技を先に収録し、その声に合わせてアニメーターが口の動きを作画する方式)」が作業量を増大させたため、スタッフは大変な苦労を強いられた模様。

また、”カリスマアニメーター”と呼ばれている井上俊之氏は「制作に入った時に大友さんが”最低でも『工事中止命令』ぐらいのレベルにはしたい”と仰ってたんですが、僕は”最高に良くて『工事中止命令』だろう”と思っていたので(笑)。これは厳しい!と焦りました。どう考えても技術的な差がありすぎたので」とコメントしている(それぐらい大友監督の要求レベルが高かったのだろう)。

迷宮物語

「ラビリンス・ラビリントス」「走る男」「工事中止命令」の3本を収めたオムニバス・アニメ

困難だったのは作画だけではなく、原作の「緻密に描き込まれた多数のビル」を描かねばならない美術担当者も相当に苦労したらしい(以下、美術監督の水谷利春氏のコメントから抜粋↓)。

「普通なら、ガラスの光った感じで誤魔化してしまうようなビルの窓一つでも、照明とか、机の上に乗っている小物まで克明に描いてあるんです。しかも、普段は中景からロングっていうのはボカして見せるんですけど、大友さんの場合、手前に大きなビルがあって、その後ろに何千階という高層ビル群がある。そういう奥行きを出すのが難しかったですね。手前のビルの窓を3ミリぐらいで描くと、遠くの方は0.5ミリぐらい、さらにその奥にビルがあると、もうどうしていいのか……」 (『AKIRA』劇場用パンフレットより)

このように、今までのアニメとは全く違う『AKIRA』の制作は困難を極め、スケジュールがどんどん遅れていった。さらに出来上がった画を撮影するのも大変で、『AKIRA』は重ねるセルの枚数が非常に多く、通常の3倍にもなったという。

当然、ゴミやホコリを取るのに余計に時間がかかり、しかもマルチ・プレーンやモーション・コントロール、オプチカル合成など、手間のかかる作業が山のようにあったせいで、撮影ミスや作画ミスが多発したのである。

そのため(今でこそ高い完成度が賞賛されている本作だが)、劇場で公開された時点ではまだ修正すべき箇所が残っている状態で、大友監督としては非常に不本意な出来栄えだったらしい(僕は地元の映画館で観たんだけど、最初のシーンからいきなり絵がガタついていたので「あれ?」と思ったのを覚えている)。

自分の作品に徹底したこだわりを持つ大友氏は、これらのミスを見過ごすことが出来なかった。なんと映画の公開後にわざわざ1億円の追加費用を投じ、200カット以上のリテイクを加えた「国際映画祭参加版」と呼ばれる”修正バージョン”を作り上げたのだ。

修正と言ってもカットを増やしたり削除したりといった大掛かりなものではなく、「セル位置のズレによる画面のガタつき」や「色の塗り間違い」など細かいミスが多かったようだが、それらを修正することで、さらに完璧な作品に仕上げることを望んだのである。こだわりが凄い!

これだけの費用と手間暇をかけて、大友克洋が『AKIRA』で目指したものはなんだったのか?シンプルに答えるなら「リアリティを追求したアニメーション」ってことになるのだろう。

しかし単に「実写的なアニメを作る」というだけでなく、画面に映る光景があたかもカメラのレンズを通して見ているかのような、まさに「現実世界をそのままアニメで再現」しようとしていた感じが見受けられて興味深い(以下、大友克洋のインタビューから抜粋↓)。

当時のチャレンジとして、レイアウトを取る際、レンズとフレームを意識したというのがあります。望遠にするか広角にするか。カメラのレンズを決めるということは、映画の表現に大きな違いが出ます。ただ人が立っているだけのカットも、背景がきちんと写る広角と、背景をぼかして見えなくする望遠では、カットそのものの意味が変わってくる。レンズを変えるだけで演出の意図が違ってきます。 (「アキラ・アーカイヴ」より)

このような望遠・広角レンズの概念やカメラアングルという考え方は、『AKIRA』製作当時はあまり一般化していなかったが、今では当たり前にように使われており、間違いなく『AKIRA』の前と後では、アニメの制作スタイルそのものに大きな変化が生じているのだ。

もちろん、『AKIRA』以外にもリアリティを追求したアニメは存在する。だが、『AKIRA』の凄さは「2コマ打ち」でなめらかな動きにこだわったり、「リップシンクロ」で声優の台詞とキャラの口の動きを完璧にマッチさせる等、他のアニメではやらないようなことを積極的にやっていたことだ。

その効果は直ちに「ディテール」として画面に反映され、過剰な密度感が観る者に圧倒的なインパクトを与えたのである。80年代は他にも「ディテール」にこだわったアニメが多数製作されたが、『AKIRA』の場合は「動き」も「セリフ」も「背景」も「音楽」も、ありとあらゆるものが過剰だった点で一線を画していたのだ。

元々、原作の『AKIRA』は漫画雑誌『週刊ヤングマガジン』に連載され、そのディテールの凄まじさに多くの読者が度肝を抜かれた衝撃作である。その原作者が自ら手掛けたアニメーションなのだから、作品のクオリティーにこだわるのは当然と言えよう。そしてそのこだわりのパワーこそが、世界に通用する作品を生み出す原動力でもあったのだ。

そんな『AKIRA』は観客だけでなく、現場のアニメーターたちにも多大な影響を与えた。あまりにもカッコいい『AKIRA』の作画を見て、「俺もやってみたい!」とマネする人が続出したのである。中でも、特に多くのフォロワーを生み出したのが以下のシーンだろう。↓

主人公の金田とジョーカーが互いにバイクで急接近し、交差した瞬間、金田は巧みなテクニックでバイクを「ズザザザザー!」と豪快にスライドさせながら停止する…というこの場面。

予告編で何度も流された有名なカットで、金田のクローズアップから一気に後退していく様子がダイナミックかつ丁寧な作画で描かれている。

路面を削るタイヤが煙を上げ、金田がバイクと自分の体重のバランスを取り、足を地面にこすらせている様子。そして超伝導バイクの未来感をアピールするため、前輪部分にスパークが走る描写など、一瞬の中に詰め込まれた情報量の多さで観る者全てを圧倒した、実に見事なカットである。

原画をアニメーターの植田均が描き、作画監督補佐の森本晃司が修正を入れたこのシーンは多くのアニメーターに衝撃を与え、同時に様々なアニメでパロディ化されたという。

では具体的にどんな風に模倣されたのか?それらのアニメを以下にまとめてみたので参照していただきたい。もちろんシチュエーションはバラバラで、キャラクターも全く違うわけだが、どう見ても『AKIRA』のこのシーンを再現したとしか思えない映像がいくつも存在しているのだ。





いかがだろうか?大友克洋監督が作り上げた超大作アニメーション映画『AKIRA』が、どれほど多くのクリエイターたちに影響を与えていたか、これでお分かりいただけたと思う。日本だけでなく、海外のアニメーターや動物までもが本作のアクションを参考にしていることからも、いかに偉大なアニメであるか疑う余地はないだろう。実に素晴らしい!

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