■あらすじ『4年前のガメラとギャオスの戦いで両親を失った比良坂綾奈は、今は弟と共に親戚の家に引き取られていた。ガメラに対する憎悪を日々膨らませていた彼女は、ある日古くから伝えられている伝説の神獣が眠る祠の封印を解いてしまう。同じ頃、渋谷上空にガメラと数頭のギャオスが出現。激しい戦いの末、ガメラはギャオスを倒すも、渋谷駅周辺は壊滅状態となった。テレビ中継でその模様を見ていた綾奈は、ガメラに対する憎しみをより一層強くする。すると綾奈が封印を解いた祠で、奇妙な生物が覚醒した。綾奈はそれにイリスと名づけ育てるようになったが、やがて綾奈はイリスの繭に取り込まれてしまう。綾奈の憎悪をエネルギーとして巨大化するイリス。そして京都を舞台にガメラとの最終決戦が開始された…!』
本日、NHKのBSプレミアムで『ガメラ3 邪神<イリス>覚醒』が放映されます。『平成ガメラ三部作』の完結編として1999年に公開されたこの映画は、監督:金子修介、脚本:伊藤和典、特技監督:樋口真嗣という、当時としては最強のスタッフで編成され、その後の怪獣映画に絶大な影響を及ぼしました。
『平成ガメラ』シリーズの素晴らしさは、何といっても怪獣映画の定義を再構築した点にあると言えるでしょう。例えば、怪獣映画ファンから圧倒的に高評価された1作目の『ガメラ 大怪獣空中決戦』の場合は、「もしも現実の世界に巨大怪獣が現れたらどうなる?」という観点から、あらゆる状況を徹底的にシミュレーションしてみせた結果、いまだかつて誰も見たことが無いほどリアルな怪獣映画が誕生しました。
特に、自衛隊の描き方は凄まじく、防衛庁(現防衛省)の協力を得て撮影された戦闘シーンは、本物のF15イーグルが空を飛び、本物の89式戦車が火を吹く圧巻のヴィジュアルを炸裂させています(護衛艦や潜水艦の映像もありますが、海上自衛隊のクレジットが無いので、おそらく防衛庁から借りたライブラリーでしょう)。
さらに怪獣へ攻撃するシチュエーションも、今までの怪獣映画では問答無用でミサイル等をぶっ放していたのに対し、『平成ガメラ』では「武力行使が認められるのは防衛出動の場合に限られている。そして、相手からの攻撃が行われなければ、こちらが攻撃することは許されない!」などと自衛官からいちいち説明が入り、なかなか攻撃しないのですよ。実にリアルだ!
そしてシリーズ第2弾『ガメラ2 ギオン襲来』ではさらにリアリティが向上し、とうとう自衛官が主人公になって悪の怪獣(レギオン)をやっつけるというストーリーになりました。防衛庁も映画製作に積極的な姿勢を見せ、陸・海・空の全ての自衛隊が全面協力しています。
74式や90式戦車が街の中を進んでいく場面は、陸上自衛隊の演習場に電信柱や看板などのセットを持ち込み、”敷地内に街を再現する”という逆転の発想で見事なシーンを実現!こうして撮影されたクライマックスは凄まじい迫力を生み出し、”怪獣映画”というよりも、むしろ”戦争映画”と呼ぶに相応しい傑作に仕上がりました。
そんな驚くべき進化を遂げてきたシリーズもいよいよ完結することに…。しかし第3弾『ガメラ3 邪神<イリス>覚醒』は、意外なことに”恋愛映画”として作られたそうです。えええ!?そ−だったの?実は、『ガメラ1』と『2』は世間の評価こそ高かったものの、興行成績はイマイチでした。
そこで各スタッフは『ガメラ3』を恋愛映画的な方向へシフトすることを検討。『ガメラ』と恋愛映画って何の接点も無さそうですけど、そのきっかけは97年に大ヒットしたジェームズ・キャメロンの『タイタニック』が影響しているという。キネマ旬報1999年3月下旬号に掲載されたインタビューで、特技監督の樋口真嗣さんは以下のように答えていました。
「『タイタニック』を観た時に感じてしまったんですよ。今まで怪獣映画に全く興味を持っていなかった女の子たちが、大勢観に来るような映画にしようと。当たる映画を作ろうと。極論しちゃうと、キネ旬を読むような映画好きの人たちだけが劇場に集まっても、大ヒットにはならないんですよ。
年に1回か2回しか映画館に行かないような人たちでさえ観に行きたいと思うような映画を作らないと、商業としての映画は成功とは言えない。そういう意味では、自分を含めて映画好きが高じて映画を作っているということに対して、根本的な矛盾がそこにあるかもしれません」
「監督の金子さんにも”オレはこう思いますよ”と僭越ながら意見しました。本来なら自分は自分の職分に徹しなきゃいけなかったんですけど、色々なことが気になり出してしまって。『ガメラ2』での自分なりの反省点もあったんですけど、それって実は”どうして当たらなかったのか?”に尽きるんですよ。
押井守さんの新作映画(『ガルム戦記』)の準備に入り、莫大な予算を投下したものをどうにかして回収するには何をすべきかを毎日模索したり、それをやりながら『新世紀エヴァンゲリオン』という、なぜか当たってしまった作品作りに関わったりしている間に、自分の意識がかなり変化してしまって、本来特撮の監督が考えなくてもいいような事まで考え始めるようになってしまったんです」
また、三部作全てのシナリオを書いた伊藤和典さんも、「なぜ『平成ガメラ』は当たらなかったんだろう?」と疑問を抱いていたらしく、「ヒットさせるためにはどうすればいいのか」を真剣に検証した結果、『ガメラ3』を恋愛映画にしようと決意したそうです。以下、伊藤さんのインタビューより。
「自分で言うのもヘンだけど、1作目も2作目も、これだけクオリティが高いのに、どうして一般のお客さんは観に来てくれないのかと思ってね。それは”怪獣映画だからなんだよね”というところから始まって、もっと広く一般のお客さんに見てもらうためにはどうすればいいのかを考えて。とにかく、『ガメラ3』は映画として普遍化させたかったんです」
「刺激になったのは『タイタニック』の大ヒットですね。あれも企画当初は”シェリー・ウィンタースの出てこない『ポセイドン・アドベンチャー』じゃん”って陰口叩かれてて、いざフタを開けてみたら堂々たる恋愛映画だった。ディカプリオのせいもあるかもしれないけど、若い女の人が大挙押し寄せたじゃないですか?『ガメラ』でもそういう作業を一度してみるべきだと思ったんですよ」
「それともう一つ、前々から思ってたんだけど、今回は特にラストバトルと人間ドラマをシンクロさせたかったんです。今までの怪獣映画って、どうしてもラストバトルになると人間側はギャラリーになっちゃう部分があって、それを何とかしたかった。そのこともあって、怪獣を含むちょっと奇妙な三角関係(イリスと綾奈と龍成)を、恋愛映画のフォーマットでやったらイケるんじゃないかという、予感めいたものがあったんです」
そして、樋口さんや伊藤さんと共に3人でこのシリーズのメインとなって作り上げてきた金子修介監督もまた、他の二人の意見を取り入れつつ映画を作っていったそうです。以下、金子監督のインタビューより。
「シナリオの第1稿では今まで通りの『ガメラ』だったんですが、伊藤さんと打ち合わせを重ねるうちに、”イリスと綾奈が融合しちゃったら面白いんじゃないか”という話が出てきて、その後に伊藤さんが”これは恋愛映画だ!”と言い始めたんですよ。僕はしばらくピンと来なかったんですけど、決定稿が出来る頃には”そうだな”と思いまして、結局”恋愛映画”にするべく試行錯誤しましたね」
「最初は、幼体のイリスに綾奈が取り込まれるシーンも、もっと過激な描写を考えていたんですよ。何せ、恋愛映画ですから。イリスの繭の中にいる綾奈を全裸にしようと思って、20分の1も模型を作ってもらったんですけど、何も裸にすることはないなと思い直して、現在の形になっていったんです」
というわけで、『G1』と『G2』は”リアル・シミュレーション怪獣映画”として成功を収めたものの、3作目にして大きく方向転換を図られることになりました。
金子監督によれば、「イリスやギャオスを相手に戦うようになると、『G1』『G2』みたいなシミュレーション的なドラマでは成立しなくなる。そうなると、ちょっとファンタジーの系統に行かざるを得ない。まあ伝奇SFのテイストを持った方向性ですけどね」とのこと。『G3』の雰囲気が前2作品と変わっているのは、こういう事情があったからなんですねえ。
余談ですが、『ガメラ3』で激しい爆発の中からガメラが回転しながら飛び出してくる空中戦のシーンは、宮崎駿監督の『風の谷のナウシカ』(ガンシップが飛び出してくるシーン)からヒントを得て作成されたようです。以下、樋口真嗣さんのコメントより。
「身もフタもないですけど、まさにアレです(笑)。アレがカッコ良くて一回やってみたかったんですよ。でも、自分が”まだまだだな”と思ったのは、あのシーンをワンカットだと思い込んでいたこと。最初は『ナウシカ』のナの字も出さないで再現してみようと、あーでもないこーでもないと打ち合わせしてたんですが、なかなか進まない。それで、もう時間がないから元ネタを観てもらおうと思って借りてきて、”オレがやりたいのはコレだ!”って見せたらカットを割ってるんですよ(笑)。宮崎駿め!
しかも現場的にラクになるように、飛び出してくるのと、クルクル回転してバッと羽根を開くのと、そこから降りてくるのを、それぞれワンカットワンアクションで割っている。これなら確実にできるんですよ、当時のアニメーション技術でも。本来、最低限の労力で最大限の効果を生み出さなければならない職種の者として敗北感を味わいましたよ。20年前の宮崎駿さんの足元にも及ばないなんて…。悔しいです(笑)」
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