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庵野秀明監督『シン・ゴジラ』ネタバレ映画感想/評価


■あらすじ『ある日突然、東京湾横断道路アクアトンネルが崩落する重大事故が発生。ただちに総理執務室にて緊急会議が開かれ、内閣総理大臣補佐官赤坂秀樹竹野内豊)ら閣僚たちによって地震や海底火山などの原因が議論される。そんな中、内閣官房副長官矢口蘭堂長谷川博己)は巨大生物の可能性を指摘するものの、「現実味がない」と即座に却下されてしまった。しかしその直後、正体不明の巨大な生物が海上に姿を現わし、政府関係者を愕然とさせる。のちに“ゴジラ”と呼称されるその巨大不明生物は日本に上陸し、凄まじい破壊力で街を蹂躙していった。政府は緊急対策本部を設置するが、有効な解決策を見出せないまま状況は悪化していく。一方、米国国務省が大統領特使のカヨコ・アン・パタースン石原さとみ)を派遣。世界各国も事態の推移と日本政府の対応に強い関心を示す中、ついにある要求が日本に突き付けられた。果たして人類はこの脅威から日本を守ることは出来るのか?「エヴァンゲリオン」シリーズの庵野秀明が脚本と総監督、「進撃の巨人」の樋口真嗣が監督と特技監督を務め、世界的怪獣キャラクター“ゴジラ”を12年ぶりに復活させた特撮怪獣アクション超大作!』



先月7月29日に劇場公開された庵野秀明監督の最新作シン・ゴジラが、土日の2日間で観客動員41万2,302人、興行収入6億2,461万700円を記録したそうです。これは2014年夏に公開されたギャレス・エドワーズ監督のハリウッド版『GODZILLA ゴジラ』を上回る好成績だとか。

また、初日を合わせた3日間の成績は動員56万4,332人、興収8億4,567万5,500円を突破し、興行成績ランキングで初登場1位を獲得するなど、スタート直後から驚異的な大ヒットを飛ばしているらしい。いや〜、すごいですねえ。

さらに観た人の反応も上々で、「面白い!」「過去最高のゴジラ映画だ!」などと絶賛の声が上がっており、漫画家の島本和彦先生に至っては「庵野…オレの負けだ…」と勝手に敗北宣言まで出してしまう有様(庵野監督と島本先生は大阪芸術大学時代の同級生なのです)。



というわけで、僕も『シン・ゴジラ』を観て「うわあああ!これは凄い映画だあああ!」と衝撃を受けた一人なんですけど、はっきり言ってこの映画、ネタバレなしで観た方が絶対に面白いので、まだ観てない人はすぐに劇場へ行った方がいいと思いますよ(^_^)

※以下、『シン・ゴジラ』を観た僕の印象を箇条書きで列挙してみます。
※ネタバレしてるので未見の人は気を付けて!


庵野秀明樋口真嗣
まず正直に白状すると、初めて庵野さんと樋口さんが新しいゴジラを監督するという話を聞いた時、「うわ…」と思ったんですよ。いや、本当に申し訳ないんだけど、「大丈夫かな?」って感じだったんですよね。

今、テレビ等で庵野さんを紹介する場合、「あの『エヴァンゲリオン』の庵野秀明監督がゴジラを…」みたいな説明になってるじゃないですか。でも、アニメの実績はともかく、実写映画の実力はどうなんだろう?っていう。

過去に庵野監督が手がけた実写映画は『ラブ&ポップ』、『式日』、『キューティーハニー』などですが、「面白い!」「傑作だ!」という評価はほとんど聞いたことがないし、僕自身も実写版の『キューティーハニー』を劇場で観て、「うッ…これはキツイ…」と感じたほどですから。

そして樋口さんの方は、ファンから猛烈に批判された実写版『進撃の巨人』の監督でしょ?まあ確かに特撮方面では、『平成ガメラ』三部作で見事な映像効果を生み出したことは有名です。でも、僕の中では、あくまでも「実写版『キューティーハニー』の庵野秀明と、実写版『進撃の巨人』の樋口真嗣」なわけで…。

だから正直、この二人の名前を聞いた時は嫌な予感しかしませんでした。「アニメの要素をたっぷり盛り込んだオタク臭いゴジラになってるんじゃないかな〜?」と。しかし、実際に『シン・ゴジラ』を観てビックリ!めちゃくちゃ面白いじゃん!

ゴジラ初登場シーンを見た瞬間、当初感じていた不安は完全に吹き飛び、その後はひたすらスクリーンに釘付け状態!今はもう「庵野さん、樋口さん、ごめんなさい!僕が間違ってました!」と心の底から謝罪したい心境です。むしろ期待していなかった分、余計に感激しましたよ。


●プロフェッショナルたちの物語
では、「いったいなぜそんなに面白かったのか?」と言うと、理由の一つはこの映画全体が”専門家の視点”で統一されているからでしょう。

基本的に怪獣映画といえば、突如日本に怪獣が現れ、一般市民が被害を被り、家族と死別したり、恋人と離れ離れになったりする姿を描きつつ、博士が出てきて対策を考え、自衛隊(またはそれに類する架空の組織)の活躍によって怪獣の殲滅に成功し、日本に平和が訪れる…みたいな展開がセオリーじゃないですか?

ところがなんと、『シン・ゴジラ』ではメインの登場人物が政治家・自衛隊ゴジラ対策チーム等の”専門家”のみで、一般市民がほとんど出て来ません(逃げまどうシーンだけ)。そして、「危機的状況に陥っている家族や恋人を必死で救い出す」等の、いわゆる”人間ドラマ”が一切描かれていないのですよ。ええええ!?

つまり本作では、そういう感動的なドラマを全てカットし、ひたすら「状況の積み重ね」だけでストーリーを進めているのです。長谷川博己石原さとみのような美男美女をキャスティングしたら、普通は(映画会社の要望で)少しぐらい恋愛要素を入れたりするものですが、そういった要素すら排除しているのですから、実にストイックな怪獣映画と言わざるを得ません。

そして、大勢の専門家たちが各々のスキルを存分に発揮し、「ゴジラ退治」というインポッシブルにも程があるミッションに全力で挑む、その姿のなんたるカッコ良さ!そう、この映画は「一致団結して困難に立ち向かう人々」を描いたプロフェッショナルたちの物語であり、まさに”怪獣映画版プロジェクトX”なのですよ!

●会議シーンが面白い
怪獣が現れると対策会議が開かれ、「どうやって倒すか?」を話し合う、いわゆる”会議シーン”。怪獣映画にはお約束ですが、普通は単に”段取り”として見せるだけで、長く描くことはまずありません。ところが『シン・ゴジラ』の会議シーンは異常に長い!もはや「会議シーンこそが映画のメインだ」と言わんばかりの長さです。

しかも驚くことに、この会議シーンがめちゃくちゃ面白いのですよ!刻々と状況が変化する中、大勢の政治家たちがゴジラの対策を巡ってもの凄い早口で会話を繰り広げし、それを絶妙なカメラアングルと目まぐるしいカット割りでテンポ良く見せていく、まさに庵野演出の真骨頂!

この辺のテイストは、恐らく庵野監督が敬愛している岡本喜八監督の影響でしょう。なにしろ初監督作品の『トップをねらえ!』も、岡本監督の『激動の昭和史 沖縄決戦』に対するオマージュで溢れ返っていたぐらいですから。

例えば、『沖縄決戦』の「米艦艇が多すぎて海の色が見えない!」「船が七分に海が三分だ!」というセリフを、「敵の数が多すぎて宇宙が黒く見えない!」「敵が七分に黒が三分だ!」と言い換えるなど、『トップをねらえ!』の後半部分が”ほぼ『沖縄決戦』”と化しているのは有名な話です。

岡本作品の魅力とは、まさにこういった会話シーンや会議シーンの面白さであり、短いカットを積み重ね、登場人物の名前や肩書をいちいちテロップで表示し、膨大なセリフの応酬で場面を進行していく独特の映像表現が多くの映画ファンを魅了したのです(以下の記事も合わせてどうぞ↓)。

庵野秀明監督と岡本喜八監督の貴重な対談

つまり、『シン・ゴジラ』の会議シーンにおける素早いカット割りや独特のリズム感、そして固有名詞の過剰なテロップ表示などは、ほぼ全て岡本喜八監督作品からインスパイアされたものと思われ、特に『日本のいちばん長い日』の影響が顕著に表れていました(岡本作品と見比べてみるのも一興かと思います)。

ちなみに『シン・ゴジラ』では、ゴジラの正体の重要なカギを握る研究者・牧悟郎役として、なんと岡本喜八監督が登場!と言っても、写真のみなんですけどね(庵野さんのリスペクトが凄いw)。


●ドラマが無いとダメなのか?
シン・ゴジラ』に対する意見はもちろん絶賛ばかりじゃなくて、批判的な感想も出ています。そのうちのいくつかを見てみると、「ドラマが無いからつまらない」「会議シーンばかりで退屈」など、主に怪獣シーン以外のパートが批判されているらしい。確かにこの映画では、恋愛や家族愛など、感動的に盛り上がるような場面はほぼ出て来ません。

もし従来の定石に従うなら、「長谷川博己石原さとみのラブシーン」や「竹野内豊が涙を流しながら家族の身を案じるシーン」や「斎藤工が命懸けで一般市民を救出するシーン」や「人気アイドルの無意味なゲスト出演シーン」などを入れ、エンディングにEXILEの主題歌を流せば、もっと幅広い層にウケる映画になっていたでしょう。

だがしかし!そんな映画は今までに腐るほどあったわけですよ。特に怪獣映画の場合は、メインの怪獣シーン以外のパートを埋めるために、やたらと家族愛だの何だの余計なドラマを入れたがる傾向が強く(日本だけじゃなくてギャレゴジも同様)、そんなシーンを見る度に「ああ、またいつもの愁嘆場が始まったか…」とウンザリしていました。

シン・ゴジラ』は、そういうエモーショナルな場面を敢えて入れなかったのです。これを「盛り上がりに欠ける」と見るかどうかは人それぞれでしょう。ただ、今までの怪獣映画には無い、新たな地平を切り開いた功績は素直に評価すべきじゃないかなあと。結局のところ、会議シーンだけでも魅力的に見せることは可能だし、ドラマが無くても十分に映画として成立するわけで。

去年、『マッドマックス 怒りのデス・ロード』が公開された時も「ストーリーがほとんど無い」「行って帰って来るだけの映画だ」と批判する人がいましたが、「それのどこが悪いのか?」と言いたいですね。まさにシンプル・イズ・ベストでしょ。


ゴジラがすごい
ゴジラ映画における最大の注目ポイント、それは「ゴジラをどれだけ恐ろしく、強そうに描けているか」という点ではないかと(観客はそういうゴジラを観に来ているわけだから)。ところが本作では、初登場シーンからいきなり予想を裏切る衝撃的なヴィジュアルをぶち込んできたのです。

普通、ゴジラが登場する時って「お〜、ゴジラ出た〜!」みたいに盛り上がるじゃないですか?でも、この映画でゴジラが初めて画面に現れた瞬間、「……え?なにコレ?」ってなりましたからね。いや、マジで声が出てしまいました(笑)。たぶん、他の人も同じ反応だったんじゃないかなあ(^_^;)

目玉が大きく、深海魚みたいな造形の不気味な怪獣が、巨体をくねらせながら東京の街を這いずり回る映像を見て、「あれ?ゴジラ単体の話だと思ってたんだけど…」「まさかこいつとゴジラが戦うの?」「つーか、こいつ何?」と数秒間、思考が混乱しましたよ(笑)。

60年以上にも渡って活躍してきた人気怪獣ゴジラは、その知名度の高さ故にイメージが固定されていて、今さら普通に登場シーンを見せたところでインパクトは弱い。そこで「ゴジラとはこうである」という観客の思い込みを逆手に取って、全く予想外のものをいきなり見せつける、このアイデアが実に秀逸でしたねえ。

つまり、形態の変化を見せることで、「ゴジラとはこうである」という固定概念を一旦リセットし、「強くて恐ろしいゴジラ」という認識を再構築してみせたわけです。いや〜、凄い!この発想には脱帽せざるを得ません!本当に画期的な見せ方だと思いました。

庵野監督は初代ゴジラ(1954年)の大ファンで、「怪獣映画は一作目の『ゴジラ』がベストだ。怪獣映画としての完成度や素晴らしさは、最初の『ゴジラ』にすべて集約されている」と語っています。もしかして、62年前の観客が初めてゴジラを見た時に味わった驚きと衝撃を、現代の観客にも体験してもらいたかったんじゃないかなあ。

●放射熱線がプロトンビーム
ゴジラが口から放射熱線を吐くシーンは、間違いなくゴジラ映画における見せ場の一つでしょう。歴代ゴジラも派手に熱線を吐きまくっていましたが、本作のゴジラもエグいです(笑)。熱線というか、文字通り”光の線”になってますよ。

今までのゴジラの放射熱線を音で表すと「ゴオオオォォォ!」って感じですが、今回は「バシュウウウゥゥゥッ!」みたいな(伝わり難いw)、空気を切り裂く鋭さがあるというか、要するに巨神兵プロトンビームですな(笑)。

庵野監督と樋口監督は本作の前に『巨神兵東京へ現わる』を撮っているので、「当然そういうテイストは入れて来るだろう」とは思っていましたが、予想以上にプロトンビームだったのでびっくりしましたよ(笑)。

もしくは『天空の城ラピュタ』のロボット兵とか。『ラピュタ』の中盤でムスカたちにさらわれたシータを、パズーとドーラたちが助け出すシーンがあるじゃないですか?そこで急にロボット兵が暴れ回り、顔からビームを発射するという。

そのビームの威力が凄くて、一瞬で城の中がメチャクチャになるし、目標を外れたビームが遥か遠くの街の建物を破壊する様子が、シン・ゴジラの放射熱線と似てるんですよね(まあどちらも宮崎駿作品だから、プロトンビームの表現と似てても当り前かw)。

さらに、口だけじゃなくて背中や尻尾からも大量のビームを放出するという、『伝説巨神イデオン』の全方位攻撃(いわゆるカミューラ・ランバン・アタック)みたいなド派手な放射熱線を繰り出しながら、街を蹂躙しまくるゴジラに驚愕!進化しすぎだろ(^_^;)

自衛隊の描写がリアル
本作に登場する自衛隊は非常にリアルです。なんせ庵野さん自身が徹底的にこだわって脚本を書き、少しでも現実と違う個所があれば、その都度自衛隊側に確認を取って何度も書き直した結果、予定より4カ月も脚本の完成が遅れてスケジュールに支障が出たほどですから(笑)。

すなわち、『シン・ゴジラ』で描かれている自衛隊の行動は完全に正しく、それどころか、庵野さんの脚本を読んだ防衛省はシナリオの緻密さに驚き、「これほどまでにリアルに作られた映画で迂闊なことを話したら、それが防衛省の公式な手順だと誤解されかねない」と慎重な対応を余儀なくされたとか。

さらに、陸・海・空それぞれの自衛隊に入念なヒアリングを行い、演習場にもカメラを持ち込み、陸上自衛隊の10式戦車や99式自走榴弾砲、AH-1コブラやAH-64Dアパッチ・ロングボウなど、本物の装備を撮影しているのだからミリオタにはたまりません。

戦闘ヘリが20ミリ・ガトリング砲や30ミリ・チェーンガンでゴジラを攻撃するものの、その程度では全く進行を食い止めることが出来ず、ヘルファイア空対地ミサイルや多連装ロケットシステムM270MLRSなど、自衛隊の制式装備がバンバン出て来る展開に痺れまくり!

これらの映像は、実際に演習場へ行って撮影したものと、CGで作って合成したものが混在しているようです(戦車はほぼCG)。また、庵野監督が飛行中の戦闘機の内部映像を欲しがったため、自衛隊の広報担当者にカメラを渡して「これで撮って来てくれ」とお願いしたという。リアリティを追及するためとはいえ、そこまでやりますか(^_^;)

なお、カヨコ(石原さとみ)が米軍機に乗り込むシーンは、空自の協力で入間基地で撮影されたのですが、「石原さとみが来た」という情報が自衛隊内に広まると、「なぜうちには来ないのだ!」と他の基地の司令から苦情が続出したそうです(笑)。


●CGのクオリティが高い
今回、ゴジラがフルCGで作られると聞いて、最初はギャレゴジみたいな姿をイメージしてたんですよ。生物的でリアルな動きのゴジラになるのかな〜と。でも予告編を見たら着ぐるみ感丸出しのゴジラだったので、「なんだよ、昔の特撮映画のゴジラと変わらないじゃん」と少しガッカリしたんです。

そしたらコレって、庵野さんの指示でワザと着ぐるみ的なテイストや動きを再現していたんですね。驚いたのはスタッフも同様で、今回ゴジラのCGを作るためにわざわざバンクーバーから『アメイジングスパイダーマン』のCGアニメーターを呼び寄せて「筋肉シミュレーション」をやっていたら、庵野さんから「そんなもの必要ない」と言われてビックリしたそうです。

しかも「初代ゴジラは全身がゴムで出来ているので、その質感を再現して欲しい」と要望されたスタッフは、CGのパラメーターを全部ゴムに合わせたり、昔のゴジラ映画を観て「背びれの動きが微妙に違う」など細かい部分まで入念にチェックし、それらをCGで完璧に再現したとのこと。凄いこだわりだ!

また、本作にはヘリコプターや戦車など、自衛隊の装備が大量に出て来ますが、これらの映像はほぼ全てCGだそうです(海上自衛隊護衛艦だけは本物)。最近は3Dスキャナーの精度が上がっているため、演習場に機材を持ち込み、実物の戦車を360度スキャンして、そのデータを元にCGを作成していったという。

その他、ゴジラが街を壊すシーンでは、高層ビルなど画面に映る建物を全てCGで作っているのですから凄すぎる!もちろん、ミニチュアを使って撮影している場面もあるんですけど、日本映画としては尋常でない分量のCGが使われ、しかもそれらが違和感なく画面に馴染んで自然に見えるという点に驚きました。

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●豪華な出演者
矢口を献身的に支える内閣官房副長官秘書官・志村祐介を好演した高良健吾をはじめ、対ゴジラの要となる「巨大不明生物特設災害対策本部」のメンバーに市川実日子環境省自然環境局野生生物課長補佐・尾頭ヒロミ)、津田寛治厚労省医政局研究開発振興課長・森文哉)、塚本晋也(国立城北大学大学院生物圏科学研究科准教授・間邦夫)、高橋一生文科省研究振興局基礎研究振興課長・安田龍彦)など、個性的な役者が大集結した本作。

また政府内関係者も、大杉漣内閣総理大臣・大河内清次)、柄本明内閣官房長官・東竜太)、國村隼統合幕僚長・財前正夫)、平泉成農林水産大臣・里見祐介)、松尾諭(保守第一党政調副会長・泉修一)、渡辺哲(内閣危機管理監・郡山肇)、余貴美子防衛大臣・花森麗子)など、ベテラン俳優が勢ぞろいしています。

その他、ゴジラ侵攻の中で住民に避難を呼びかける消防隊員役で小出恵介、第2戦車中隊長役でミュージシャンのKREVAが出演。ゴジラに立ち向かう第1戦車中隊長の池田役に斎藤工、タバ作戦戦闘団長・西郷役にピエール瀧、さらに古田新太警察庁長官官房長・沢口)、光石研東京都知事・小塚)、松尾スズキ(フリージャーナリスト・早船)。

鶴見辰吾(統合幕僚副長)、手塚とおる文部科学大臣)、嶋田久作(臨時外務大臣)、神尾佑(新政務担当総理秘書官)、三浦貴大(新人記者)、モロ師岡警察庁刑事局長)、片桐はいり(官邸職員のおばちゃん)、元AKB48前田敦子(トンネルから避難する人)など、意外な場所で有名人が登場しているのも嬉しいですね。

当初は「総出演者数は史上最大の328人!」と聞いて、「いや、そんなにいらないだろ…」と思ったのですが、観終わってみると「意味があったんだな」と感じました。つまり、「圧倒的な情報量で全てを埋め尽くす」ということではないかと。

通常の映画ではあり得ないほどのセリフの多さや、本編の大部分を占める会議シーン、自衛隊描写のリアリティや、ゴジラの複雑な造形など、ありとあらゆるディテールを増大させ、映画の密度を限界まで高める。そういう意図があったのではないかと。

実際、2時間の尺の中に目いっぱい詰め込まれた膨大な情報を咀嚼するのに脳の処理能力が追い付かず、内容をじっくり把握するためには2回〜3回繰り返して観なければならないな…と思った次第ですから。やはり『シン・ゴジラ』はとんでもない映画ですよ(^_^;)

あと、ゴジラの生態について見解を述べる識者たちに、なんと映画監督の犬童一心原一男緒方明が出演してるんですけど、普段は役者に厳しく演技指導をしている人たちも役を演じる方は苦手だったらしく、撮影ではNGを連発し、現場は不穏な空気に包まれたという。しかし、業界の大御所なので誰も文句を言えなかったそうです(笑)。


●アニメ版『シン・ゴジラ』が作られていた
今回の『シン・ゴジラ』は、2015年の9月にクランクインして2016年の7月に劇場公開という非常にタイトなスケジュールで製作されました。その皺寄せはCG合成などのポストプロダクションを直撃し、「時間が無さすぎる!」と現場から悲鳴が上がったそうです。そこで活用されたのが「プリヴィズ」でした。

「プリヴィズ(プレヴィズ)」とは「Pre-Visualization(プレビジュアライゼーション)」の略称で、実際に撮影を行う前に、CGアニメーションを使って、「そのシーンがどんなイメージになるのか」を検証する手法のことです。最近のハリウッド映画では『アベンジャーズ』や『ジュラシック・ワールド』など、特にアクションシーンが多い大作映画ではほぼ必ず採用されているとか。

上の画像は『ゼロ・グラビティ』のプリヴィズなんですけど、要するにカメラアングルやカメラの動き、キャラクターの配置やアクションなど、「簡易的なCGアニメを作って映画の完成予想図を確認してみよう」というわけです(これがあることで合成等の作業がやりやすくなる)。

ただ、普通は検証用の映像なんですが、『シン・ゴジラ』の場合は「とにかくスケジュールが無いから、先に全部のシーンをアニメで作って、それに合わせて役者の動きを当てはめていこう」としたらしい。つまり実写版『シン・ゴジラ』よりも前に、アニメ版『シン・ゴジラ』が作られていたのですよ。

しかも、あらかじめ本職の声優に全てのセリフを読んでもらい、音声が入った状態のアニメをきっちり作ったとのこと。まあ、アニメ畑出身の庵野さんにとっては、そっちの方がやりやすかったのかもしれませんね。

なお、庵野さんが書いた脚本を読んだスタッフはあまりのセリフの多さに、「これじゃ尺が3時間を超えますよ!」とシーンの削除を要求。しかし庵野さんは、「絶対に2時間以内に収める。全員早口で喋るから大丈夫だ!」と断言して声優に早口でセリフを読ませたら、本当に2時間で収まってスタッフを仰天させたそうです。


庵野監督の指示が細かすぎてスタッフ困惑
今でこそ『エヴァンゲリオン』で有名な庵野さんですが、昔は『風の谷のナウシカ』や『超時空要塞マクロス』などに参加し、”カリスマアニメーター”として高く評価されていました。特に、『王立宇宙軍 オネアミスの翼』における”ロケット打ち上げシーン”の凄まじさたるや、数百枚もの氷の破片を1枚1枚手描きするという、気が遠くなるような緻密な作画をやり遂げてアニメ業界に衝撃を与えたのです。

そんな庵野さんは、『シン・ゴジラ』でも細かい指示を出してスタッフを驚かせていたらしい。主演の長谷川博己さんは「カメラマンに対して、上に2cmとか右に3cmというように、アングルの決め方がとても繊細なんですよ」と語っており、画面のレイアウトにこだわっていたことが良く分かります。

しかも繊細な指示は撮影が進むにつれてどんどん細かくなっていき、スタッフは困惑。特に、CG制作を担当したVFXスタジオの「白組」は、あまりにも細かすぎる要求に何度もビックリさせられたそうです。以下、白組プロデューサーの井上浩正氏のインタビューより。

一番苦労したのはレイアウトですね。もうプリヴィズとぴったり合わせなければならないんですが、たとえば煙の立ち上がり方とか、むちゃくちゃ細かい。画面を差し棒で指しながら「ここのモクモクをちょっと足してください」とか、「画面全体を1ピクセル上に上げてくれ」とか(笑)。


あと、庵野さんは映像をコマで見るんです。爆発とかも「ちょっとコマ送りにしてください」と。ひとコマずつ見ていきながら「3コマ目を無くしてください」とか。僕らCGやってる人間は物理シミュレーションをしながら作っていきますが、庵野さんにとって映像は1秒24コマの静止画の連続なんですよ。


だから1枚1枚の絵が最終的にどういった印象を与えるのかを熟知している。僕らの作ったCGも1秒24コマの絵として見て、「このコマはいらない。このコマもいらない」ってまさにアニメーターの感覚なんですね。それはもう、すごく勉強になりました。 (「特撮秘宝VOL.4」より)

なお、庵野さんの細かすぎる画像チェックは公開日ギリギリまで続けられ、あまりの作業量に白組スタッフは「これ本当に終わるのかな?」と不安を感じていたらしい(笑)。


核兵器の元ネタはウルトラマン
自衛隊の総攻撃でも退治できないゴジラに対し、映画終盤ではとうとう核兵器の使用が検討される事態になりました。この辺のシーンに関し、政治的な意図や、庵野監督の思想について言及している批評を見かけますが、さすがに深読みしすぎでしょう(笑)。なぜなら、本作は庵野監督が学生時代に作った自主制作映画『帰ってきたウルトラマン』を元ネタにしているからです。

帰ってきたウルトラマン』とは、庵野さんが大阪芸術大学在学中に仲間たち(DAICON FILMのメンバー)と作ったアマチュア特撮映画で、当時、素人とは思えぬ特撮技術の素晴らしさが話題になりました(建物や戦闘機などは全て紙で作られてるんだけど、ビックリするほど出来がいい)。

この庵野版『帰ってきたウルトラマン』のストーリーは、「ある日突然、日本に巨大怪獣が現れ、地球防衛組織に所属するMATが攻撃を加えるものの、怪獣はビクともしない。ついに参謀本部核兵器の使用を命じるが、”日本に核を落とすなんて絶対にダメだ!”と反対する主人公がウルトラマンに変身し、核兵器の投下を阻止して怪獣を倒す」という内容なのです(ウルトラマン役は素顔丸出しの庵野さんw)。

今回の『シン・ゴジラ』は、まさにこのストーリーを現代風にブラッシュアップしたものなので、一部の「憲法改正を正当化するためのプロパガンダ映画だ」みたいな意見は的外れじゃないですかねえ(「エヴァンゲリオンが出ない『エヴァンゲリオン』だ」という感想もありましたが、元を辿れば「ウルトラマンが出ない『ウルトラマン』」だったわけですなw)。

※大好きなウルトラマンを演じることが出来て、嬉しさのあまり満面の笑みを浮かべる若かりし日の庵野秀明総監督↓

ヤシオリ作戦ヤマタノオロチ
映画のクライマックスにて、コンクリートポンプ車など特殊建機を使ってゴジラの口から血液凝固剤を流し込み、活動を停止させるという「ヤシオリ作戦」が実行されました。この作戦名の由来は、日本神話に登場するヤマタノオロチを酔わせるために用いられた「八塩折之酒(やしおりのさけ)」が元ネタと言われています。

そして、大量のポンプ車が”原発”の象徴であるゴジラの活動を必死で止めようとしている映像は、否が応でも3.11のあの場面を想起させ、本作が間違いなく大震災の影響下にあることを実感せずにはいられません。まあ、リアルなシミュレーション映画として見た場合、確かに突っ込みどころではあるんですよ(ゴジラがうつ伏せで倒れたらどうするんだ?とか)。

しかし、あの日あの時、実際に現場で命懸けの作業に取り組んでいた人たちがいたことを考えると、「日本が生きるかどうかの瀬戸際なんだ!俺たちに出来ることは全部やってやる!」という想いを映画の中で再現しているような気がして、思わず目頭が熱くなりました。大げさではなく、本当に「日本を救うために決死の覚悟で働いた人たちがいたんだ」と…。そういう意味でも、実にいいシーンでしたねえ。

ちなみに、庵野さんが『帰ってきたウルトラマン』を撮った後、DAICON FILMは『八岐之大蛇の逆襲(やまたのおろちのぎゃくしゅう)』という自主制作映画を作っています。監督は赤井孝美さんで、特技監督樋口真嗣さん、そして庵野秀明さんはレポーター役で出演。

この『八岐之大蛇の逆襲』はもちろんヤシオリ作戦を連想させるんですけど、その他にも八岐之大蛇の造形がゴジラ第二形態に似ていたり(特に目の感じ)、巨大な怪獣が街を這いずり回るシーンやミニチュアの建物が破壊される様子がそっくりだったり、『シン・ゴジラ』との共通項目が散見して面白いですよ(まあ、樋口さんが特撮を担当しているので似ていても不思議じゃないw)。

なお、『平成ガメラ』三部作を撮った金子修介監督は、樋口真嗣監督と出会うずっと前からこの『八岐之大蛇の逆襲』を観ていて、「なんて凄い特撮なんだ!いつか自分が怪獣映画を撮ることになったら、この人たちに特撮の映像を頼みたいなあ」と考えていたそうです。

●まとめ
本作で描かれているゴジラの脅威は(すでに色んな人が語っているように)、間違いなく3.11を経験した日本の現状を反映したものでしょう。天変地異クラスの巨大災害が起こった場合、我々はどのように対処すべきなのか?そして、災害が発生したことで国際社会から「ある決断」を迫られた時、日本人としてどのように行動すべきなのか?

それら重要な局面を、絵空事とは思えぬリアルな筆致で描き切った庵野総監督の力量たるや「素晴らしい!」としか言いようがなく、もはやアニメの監督であることすら忘れさせるほどでした。昔、映画館で実写版『キューティーハニー』を観た時の脱力感に比べたら、「本当に同じ人が撮った映画なのか?」と疑惑の念が湧くほどのクオリティですよ(笑)。

それから今回、映画の公開前にテレビで『シン・ゴジラ』の特番をやってたんですね。クランクインを直前に控え、大勢のスタッフの前で「何よりも”面白い日本映画”を目指してやっていきたいと思います!」と力強く宣言する庵野さんの姿がとてもカッコ良く見えたんです。でも、まさか本当に”面白い日本映画”を作ってくれるとは!まさに有言実行!

噂によると、本作は近年お馴染みの「製作委員会方式」を採用せず、東宝が単独で資金を調達したらしい。だからこそ、スポンサーからの要望に振り回されることなく、庵野さんの作家性を存分に発揮させることが出来たのでしょう。いや〜、良かった!お見事です!

というわけで、『シン・ゴジラ』を観た僕の感想を簡単にまとめるとこんな感じになりました。まあ「エヴァの音楽使いすぎじゃね?」とか、「石原さとみがアニメのキャラにしか見えない」とか、「”無人在来線爆弾”の語感がすごいw」とか、色々気になる部分はあったものの、概ね「面白い」と言える作品に仕上がっていて大満足。

正直、映画秘宝で絶賛している記事を読んだ時は「ホンマかいな?」と半信半疑だったんですけど、樋口真嗣監督と仲が悪いことで有名な前田有一氏が「サイコーだッ!」とベタ褒めしていたので、「ああ、これは間違いないな」と(笑)。2時間の映画としてはあり得ないぐらいの情報量が詰め込まれているため、観終わった後はとても疲れますが、まさに今の時代に相応しい傑作怪獣映画だと思います(^_^)


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