■内容『どん底だった映画スタジオを、私はこうしてトップに押し上げた!ソニーで長いこと電機製品を売ってきた私が、突然命じられた片道切符の「出向」。行った先は、業界最下位にあえぐアメリカの大手映画スタジオだった――。日本人初のハリウッド経営者として、瀕死のコンテンツ産業を救うさまざまな方策を編み出し、見事トップを争う会社へと立て直した著者の、工夫と粘闘のサクセス・ストーリー!』
先日『ゴジラで負けてスパイダーマンで勝つ』という本を読みました。『ゴジラ』といえば、ハリウッド版のゴジラが今年の7月に日本でも公開されるんですけど、今から16年前に世界的な規模で公開されたゴジラ映画があったことを覚えている人はいるでしょうか?
ソニー・ピクチャーズ・エンタテインメント(SPE)は、1989年にソニーがコロムビア・ピクチャーズ・エンタテインメントを48億ドルで買収して設立した映画会社です(元はコロムビア・ピクチャーズとトライスター・ピクチャーズ)。ところが、その後作られたウォーレン・ビーティ制作・主演の『バグジー』や、スティーブン・スピルバーグ監督・ダスティン・ホフマン主演の『フック』などがことごとく失敗。
93年に公開されたアーノルド・シュワルツェネッガー主演のアクション超大作『ラスト・アクション・ヒーロー』に至っては、50万ドルの費用を投じて「NASAのロケットに映画のタイトルをプリントして打ち上げる」という前代未聞の大規模な宣伝活動を行ったにもかかわらず、映画は全くヒットしないどころかメチャクチャに批判されまくり、巨額の赤字を叩き出してしまいました。
そしてとうとう、SPEの経営基盤を揺るがす大事件が勃発。それが悪名高きハリウッド版『ゴジラ(GODZILLA)』です。1億3000万ドル以上の製作費を掛け、史上最多の3300スクリーンで封切られたこの映画は、関係者の期待も虚しく全米で大コケ。変わり果てたCGゴジラのデザインに「こんなのゴジラじゃねえ!」とファンの怒りが爆発し、当初想定していた利益に全く届かないばかりかソニーに深刻なダメージを与えてしまったのです。
そこで、悪化の一途を辿っている経営状態を立て直すべく、野副正行氏(元SPE社長)がロス行きを命じられました。この本は、著者の野副氏がどのようにしてハリウッドで成功を収めたのか?大ヒット映画を生み出す秘訣とは何か?など、映画ビジネスにおける勝ちパターンを独自に分析・検証したドキュメンタリーなのですよ。例えば、野副氏は映画を冷静に”商品”として捉え、個々の作品をジャンルや予算規模で分類できる”テンプレート”があれば、リスク管理や事業理解の難しさを緩和できると考えました。
また、映画の当たり外れを正確に予測することは極めて難しいが、金融の世界における”分散投資”の根拠となるポートフォリア理論を映画制作の計画にも応用できるかもしれないと思い立ち、年間の投資資本に対して、どのように調整すればリターンすなわち興行収入が最大化するかを計算によって導き出そうと考えたのです。
そして、過去に公開された映画の膨大なデータ(SPEだけでなく他の会社の映画も含む)をコンピュータに入力し、スタッフ・出演者・製作費・内容・興行収入などを細かく分析。そこから、赤字と黒字を分ける損益分岐点を超えて伸びていく確率が高いのは、様々な要素がどのように組み合わさった場合だったのかを徹底的に追及したのです。
こうして、独自の方法論で”必勝パターン”を生み出した野副氏は、『メン・イン・ブラック』、『チャーリーズ・エンジェル』、『スチュアート・リトル』など次々と大ヒット作を世に送り出し、ついにサム・ライミ監督・トビー・マグワイヤ主演の『スパイダーマン』を制作。全世界で8億ドル以上ものとてつもないメガヒットを叩き出し、SPEの経営回復に大きく貢献しました。実は、この『スパイダーマン』が完成するまでには色々な紆余曲折があったんですけど(当初は『007』を撮る予定だったとか9.11の影響とか)、そういう裏話も含めて非常に興味深いエピソードが書かれています。なかなか面白い本でしたよ(^.^)
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