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ジェームズ・キャメロン監督作品『トゥルーライズ』映画制作裏話

■あらすじ『政府の最高機密機関オメガ・セクターの諜報員ハリー・タスカーは、家族にはコンピュータのセールスマンと偽り、日々危険な任務をこなしていた。しかし、妻のヘレンは15年目の結婚生活に退屈さを覚え、14歳の娘デイルは不良少女になりかけている。そんなある日、武器商人よりアラブ系のテロリスト集団”紅のジハド”へ1億ドル以上もの使途不明金が流れていることが判明。ハリーと相棒のギブは追跡を開始するが、ショッピングモールで敵に襲撃されて大ピンチに!しかも愛する奥さんと娘までもが事件に巻き込まれてしまった!果たしてハリーは無事に家族を取り戻し、国家の危機を救うことができるのか?傑作「ターミネーター」のキャメロン&シュワルツェネッガーの名コンビが再び放つ、スーパー・エンターテイメント・スパイアクション超大作!』


本日、WOWOWシネマにて『トゥルーライズ』が放映されます。この作品、公開時に劇場で観たんですが、当時は「『ターミネーター』シリーズのジェームズ・キャメロンがコメディ映画なんて撮れるのかよ?」と半信半疑でした。まあ、実際観てみたらいつものキャメロン流アクションが満載で非常に面白かったんですけど、そもそもキャメロンはなんでこういう映画を撮ることになったんでしょうか?

1991年に『ターミネーター2』を大ヒットさせたジェームズ・キャメロンでしたが、製作費がハリウッド史上最高額の1億ドルを突破した事に関しては「現場をコントロールする難しさも含め、あまり歓迎すべき状況ではない」と大作映画の苦労を語り、次回作はもっと簡素で小規模な人間ドラマを手掛けたいと考えていました。

ちょうどその頃、ダニエル・キイスが書いた『24人のビリー・ミリガン』というノンフィクション書籍を読み、「ぜひこれを映画化したい!」と考え、映画化権を持っていたサンドラ・アーカラと25万ドルで契約を結んで自ら脚本を書き始めたのです。

ところがその後、キャメロンは20世紀フォックス社と5億ドルという破格の金額で国内配給契約を結び、業界を騒然とさせました。そしてこのニュースを聞き付けたサンドラが「私との契約料が25万ドルでは少なすぎる!もっとよこせ!」とキャメロンを訴えたのです。これに対してキャメロンは、「くだらない争いで時間を無駄にしたくない。この企画からは手を引くよ」とあっさりスルー。結局『24人のビリー・ミリガン』を監督する話は流れてしまいました。

次にキャメロンの元に持ち込まれた企画が『スパイダーマン』の実写版です。子供の頃からアメコミ版『スパイダーマン』の大ファンだったキャメロンは大喜びでスクリプトを執筆。それを読んだ原作者のスタン・リーも「誰もが知っているスパイダーマンでありながら、実に斬新でフレッシュなストーリーだ!」と絶賛したそうです。

しかし、製作実現に向けて動いていたカロルコ社が倒産したため、結局この話もボツに。そして、99年にソニーが『スパイダーマン』の権利を獲得し、その後サム・ライミ監督の手によって映画化された際、キャメロンの考えたアイデアの多くが採用されることになったのですが、スタッフクレジットを見てもなぜかキャメロンの名前は載っていません。

普通、ハリウッドでは脚本家がクレジットを巡って争うのは日常茶飯事で、全米脚本家協会の下す決議でも訴えが認められるパターンが多いそうです(認められたらその分のお金がもらえるので、みんなバンバン訴えるらしい)。実際、『スパイダーマン』の場合も多数の脚本家がクレジットを主張しましたが、キャメロンは初めからこの争いには加わりませんでした。なぜでしょう?後日、あるインタビューでこの件を尋ねられたキャメロンはこう答えたそうです。

「そんなことをしたら相手に失礼じゃないか」

う〜ん、かっこいい!まあ、『スパイダーマン』が公開された2002年の時点では既に『タイタニック』でボロ儲けしていたので、お金に興味が無かっただけかもしれませんが(笑)。そんなこんなで色々な企画が出たり消えたりしている間に、20世紀フォックスがイラつき始めました。5億ドルもの契約金を支払ったのに、全然次回作を撮る様子がないからです。

そんなある日、アーノルド・シュワルツェネッガーから1本のビデオを渡されました。タイトルは『La Totale!』。マイナーなフランスのコメディ映画でしたが、それを観たキャメロンは大興奮!「これを元にすれば、アクション・コメディ版の007が作れるぞ!」と。実はキャメロンは『007』シリーズが大好きで、コメディ映画を撮ることにも興味を持っていたのです。こうして『トゥルーライズ』と名付けられた新企画がスタートしました。

しかし、いざ脚本作りに取り掛かってみると、「自分にはユーモアのセンスが欠落している」ということに気付き、急遽コメディ作家チームをスタッフとして採用。さらに、コメディが出来る役者を多数キャスティングし、彼らのアドリブを作品内に取り入れることで弱点を補おうと考えました。

ハリー・タスカーの相棒ギブ役を演じたトム・アーノルドは、元々コメディ番組の脚本家だったのですが、その腕前を買われて役者として出演。そして、ヒロイン役には「知的でセクシーでコメディエンヌとしての才能もある」という理由でジェイミー・リー・カーティスに決定、見事なボケぶりを発揮しています。

こうしてコメディ映画を撮るための準備は着々と進行し、いよいよトイレの銃撃シーンから撮影開始!実はこの場面、当初の脚本では半ページにも満たない短いシーンで、撮影スケジュールも1日しか確保していませんでした。

ところが、撮影の2日前にセットを訪れたキャメロンはいきなり「セットが小さい!」などと言い出したのです。「トイレ・シーンはあまり重要ではない」と思っていたプロダクション・デザイナーは大慌て!改めてキャメロンのイメージを確認すると、今の3倍の大きさに拡張しなければならない、ということが判明しました。突貫作業でトイレを改造するスタッフ達。

さらに撮影スケジュールもどんどん延びて、3日目になってもまだスタッフはトイレで仕事をしていたのです(初日からスケジュールがオーバーしていることを聞き付けた20世紀フォックスの重役が慌てて現場を見に来るほどでした)。

結局、このシーンの撮影は5日もかかってしまいましたが、トラブルはこれだけで終わらず、その後のシーンでもことごとくスケジュールは遅れ、とうとう全員24時間働きっぱなしで誰も家に帰れなくなるという酷い状況に!

当然、スタッフからは苦情が殺到し、出演者の奥さんからも「早く夫を解放して欲しい」とクレームの電話までかかってくる有様。詐欺師の役で出演していたビル・パクストンに至っては、あまりにもスケジュールが超過しすぎたため、自分の出演シーンの合間に現場を抜け出し、別の映画をまるまる1本撮り終えて戻ってきたほどでした。

また、スケジュールの遅れとアクションシーンの複雑さは無関係ではありません。これまでのキャメロン映画は過剰なほどのアクションで有名でしたが、その評判を伝説までに高めたのが『トゥルーライズ』終盤のアクション・シーンなのです。

特に、7マイル・ブリッジにおけるヘリコプターと車のチェイス・シーンは未だに語り草になるほどの凄まじさ!主演女優のジェイミー・リー・カーティスをヘリからぶら下げ、時速70マイル(約112キロ)で橋の上をぶっ飛び、そのヘリから身を乗り出して自らカメラを回しているキャメロンの姿を見たスタッフは全員「クレイジーだ!」と仰天したそうです。

そんな本作の中でも特筆すべきは、マイアミ上空を縦横無尽に飛び回るハリアーの活躍場面でしょう。ハリアーは英国BAE社が開発したV/STOL機で、垂直離着陸が可能な上に、空中停止(ホバリング)出来る特殊なジェット戦闘機です。

米国マクダネルダグラス社はBAE社と提携し、独自にハリアーを発展させたAV-8Bを生み出し、米海兵隊に採用されました。本作では米海兵隊の協力を得て、キー・ウェストの海兵隊VMA-223ハリアー部隊から三機を借り受け映画に登場させています。

しかしハリアーを借りる為に製作陣は大きな負担を被るハメになってしまいました。乗員の安全を保障するという条件でハリアー自体のレンタル代は無料だったのですが、燃料代が一時間につき15000ドルもかかってしまう上に、地面が熱で溶けるのを防ぐ為の着陸パッドの製作などで、ハリアー関係の費用は総額50万ドル以上に達したのです。

挙句の果てには、高さ約90メートルの高層ビルの屋上にクレーンでハリアー(レプリカ)を設置し、その上にアーノルド・シュワルツェネッガーを乗せて演技させるなど、ムチャな撮影を強行しまくりました。

結局、スケジュールと予算を大幅に超過した『トゥルーライズ』は、またしても「ハリウッド史上最高額の製作費」(1億1500万ドル)を記録し、当初キャメロンが考えていた「簡素で小規模な人間ドラマ」とは大きくかけ離れたバブリーな超大作映画に成り果てていたのです、トホホ。

結果的に『トゥルーライズ』は公開初日から大ヒットを飛ばし、あっという間に製作費を回収できたものの、ジェームズ・キャメロン自身はその後も『タイタニック』と『アバター』で「製作費史上最高額」の記録を更新し続け、「簡素で小規模な人間ドラマ」を撮れそうな雰囲気は全くありません。さすがに3億ドルの映画を撮ったら、もう低予算映画は撮れないよなあ。しかし、サム・ライミが『スパイダーマン3』を2億5800万ドルで撮った後に、わずか3000万ドルで『スペル』を製作したことを考えると、実現の可能性が無いわけではないかも?

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