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『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』をもっと楽しむための制作裏話


■あらすじ『突如世界を襲った未曾有の大災害“セカンド・インパクト”。この影響で人類の半数近くは死にいたり、世界の各地には大破壊の痕跡が刻みこまれた。やっと平穏な日々が戻ったと思われたとき、14歳の少年・碇シンジは父親の碇ゲンドウから第3新東京市へ呼び出される。葛城ミサトと名乗る女性の車で特務機関NERV(ネルフ)の本部へと連れていかれ、父と3年ぶりの再会を果たすシンジ。そこでシンジはゲンドウから巨大な人型兵器を見せられた。それがシンジと人造人間エヴァンゲリオン初号機との出逢いであった……!』


本日、金曜ロードSHOWにて『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』が放映されます。1997年の『Air/まごころを、君に』以来、10年ぶりとなる2007年に公開された本作は、TVシリーズの第1話から6話を踏襲しつつも、設定や台詞などに多数の追加・変更が見られ、「リビルド(再構築)」の名が示す通り”新たな出発”であることを印象づけました。

というわけで、本日は『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』の制作にまつわる様々なエピソードや苦労話を集めてみましたよ。


●大誤算!まさかこんな大変な作業になるとは
今回の『新劇場版』では、「総監督:庵野秀明」、「監督:鶴巻和哉 摩砂雪」というスタッフ編成になっています。中でも鶴巻さんは前作の『エヴァ』で副監督を務め、フリクリトップをねらえ2!でも監督を務めるなど、過去のガイナックス作品に重要なポジションで関わってきた大ベテラン。なので、庵野秀明から「監督をやってくれ」と依頼された時も、当初の予定では「TV版の総集編的な内容で新作カットも少ししかない」と言われていたこともあり、「楽勝だろう」と思っていたらしい。

ところが、実際に作業を始めてみると、TV版の素材では劇場用の画質に耐えられないことが判明し、大幅に新作カットが増えてしまいました。おまけに、庵野総監督が「ただの総集編じゃ面白くないからラストを変えよう」などと言い出したため、スタッフは大混乱!過去の原画も作画監督によって大部分が手を加えられ、そのまま使えるカットは結局1枚も無し。背景美術に至っては、なんと約99%を描き直すという酷い有様。これにはさすがの鶴巻監督も「話が違う!」と涙目になったという。


●監督、伊豆の合宿所に軟禁される
大幅な計画変更を余儀なくされ、急遽現場を立て直すために伊豆にあるサーファー用の合宿所みたいな場所でカンヅメにされた鶴巻監督。ここで新作と旧作のコンテをまとめる作業をやらされた鶴巻さんは、当時の状況を次のように語っています。

携帯は圏外だし、一番近いコンビニまで徒歩で1時間ぐらいかかるし、もう完全に秘境ですよ(苦笑)。1週間ぐらい幽閉されてたんじゃないかなあ。たしかに作業は捗りますよね。なんせ仕事以外に何もやることがないので(笑)。

樋口真嗣が描いた渾身の絵コンテがボツ
『新劇場版:序』で一番大きく変更されたのは、終盤の「ヤシマ作戦」に関するパートでした。この重要なクライマックスシーンを担当したのが、『ローレライ』や『日本沈没』でお馴染みの樋口真嗣さん。ところが、やる気満々の樋口監督は凄まじい勢いで絵コンテを描きまくり、一般市民の動きや派手な銃撃戦、エヴァのダイナミックなアクションシーンなど、TV版では描けなかった要素をどんどん追加していったのです。その結果、絵コンテの分量は膨大なものとなり、「こんなもん、まともに作ったら3年かかるよ!」と鶴巻監督が悲鳴を上げる非常事態に。結局、せっかく描いたコンテの大部分がカットされてしまいました。残念!


●第6使徒の変形シーンは再現不可能?
今回の『新劇場版』では使徒もCGで作られていますが、一番苦労したのが第6使徒の変形シーンだったそうです。CGIを担当した小林浩康氏曰く、「あのシーンは樋口さんの絵コンテを元に作ったんですけど、まったくとんでもないコンテでした(笑)。読んでみたら”三次元に棲む人間には知覚も理解もできない挙動でバタバタと折りたたまれていく”と書いてあったんですよ。そんなの、どうやって再現すればいいんですか?我々は三次元の人間なのに(苦笑)」とのこと。 結局、試行錯誤の末に3DCGを駆使して変形シーンは完成。樋口真嗣のムチャな要望に見事に応えた名場面に仕上がっています。

●第6使徒の元ネタ
では、樋口真嗣さんは第6使徒の変形をどこで思いついたのでしょうか?実は、ダグラス・トランブルが特殊効果を担当したSF映画アンドロメダ…』に登場する病原体のイメージを立体的に見せる方向で膨らませたそうです。曰く、「映画では平面的な動きだったが、三次元で作ったらどうなるんだろう。三次元でありながら四次元のデザイン。正確な動きをするんだけど有機的、というイメージだった」とのこと。

●シンジとのシンクロ率が高すぎる!
碇シンジ役を演じた声優の緒方恵美さんは、キャラクターに入り込み過ぎるあまり、時々奇妙な体験をするらしい。劇中、使徒の熱線攻撃を受けてエヴァが焼かれ、シンジが大火傷を負って絶叫するシーンがあるのですが、その芝居をシンジになり切って演じていると、なぜか喉がヒリヒリと痛み出したそうです。そこで翌日、耳鼻科に診察に行ったら、”気管の一部がヤケド状態になっている”と診断されたという。どんだけ役とシンクロしてるんだ(笑)。


庵野秀明の姿に感激する林原めぐみ
綾波レイ役を演じた林原めぐみさんは、前の『エヴァンゲリオン』が終わって以来、ゲームやパチンコなどで毎年のようにレイを演じていたので、『新劇場版』の話を聞いた時も「正直、”またか”と思いました(苦笑)」とあまり乗り気ではなかったらしい。しかし、久しぶりに庵野総監督に会ったら「庵野さん、靴履いてるよ!って。それが一番びっくりしました。デカいことですよ〜、これは。今までは真冬でも裸足にサンダルでしたからね。いやもう、ようやく人間になったんだなあって(笑)」とビックリしたそうです。


宇多田ヒカルのテーマ曲
かねてより「大のエヴァファン」を公言していた宇多田ヒカルは、『新劇場版』のテーマソングの依頼に大喜びしたらしい。主題歌『Beautiful World』の歌詞については以下のようにコメントしています。

「もしも願い一つだけ叶うなら、君の側で眠らせて、どんな場所でもいいよ」って部分は、どのキャラにも当てはまるセリフとして書いたつもりだったから(映画の世界観に)はまるなって思ってたのね。

でも良く考えたら、私としてはやっぱり親と子の間の気持ちかなと。特に”碇ユイ寄りの綾波レイ”としてのシンジへの気持ちっていうのが、私の中では一番強い色としてあり、それをメインの私の気持ちとして自然に歌詞に書いてたんだなあって何となく気付きました。

●”電線マン”と呼ばれた男
もともと『エヴァンゲリオン』の背景には電信柱や電線やケーブルが数多く描かれていましたが、『新劇場版』ではそれらが大幅に増え、第3新東京市は電柱だらけになってしまいました。この電柱を毎日ひたすら描いていたアニメーターが田中達也さんで、社内では”電柱作監”とか”電線マン”などと呼ばれていたそうです。

田中さん曰く、「自分で電柱の写真を撮りに行って、それを資料にして描いてましたよ。庵野さんがディテールまでこだわって欲しいというので、ビスの一本一本まで丁寧に描き込みました。ほとんどシルエットになって見えないと思うんですけど(笑)。何本ぐらい描いたかは覚えていません。カットごとに全部違う電柱を描いていたので。最終的にはもう、資料を見なくてもソラで電柱を描けるようになりましたからね(笑)」とのこと。


貞本義行もびっくり!現場はまさに修羅場だった!
今回、キャラクター・デザイナーの貞本義行さんは『エヴァ』の漫画連載とスケジュールが重なったため、作画作業には参加できませんでした。ところが、ようやく単行本の直しが終わってスタジオへ行ってみると、なんと作業が全然終わっていないことが発覚!以下、貞本さんの証言より。

映画の公開が9月で僕がスタジオ入りしたのが6月。かなり仕上がってるんだろうなあとワクワクしてたのに、「嘘でしょ!?」ってぐらい進んでなかった。ラッシュを観てもコンテ撮のままのカットがたくさんあったし。で、こっそり鶴巻に「大丈夫なの?」って聞いたら、「このままだと確実に間に合いませんよ!」と完全にテンパッてる(笑)。

もともと『エヴァ』って、TVシリーズの頃からスケジュールがきつくて苦労してたんです。「もう間に合わない!」とか言いながら皆で必死にやってましたから。でも、『序』はその時点でまだ350カット以上も残ってて、計算するとTVシリーズ以上にキツいわけですよ。「あんな状況でよく完成したなあ」と逆に驚きましたね(笑)。

というわけで、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』の制作現場はスケジュールが非常にタイトでスタッフは大変だったそうですが、この状況は『破』の時にもそのまま引き継がれ、改善するどころかますます酷い修羅場が待ち受けていたらしい。

そして、最新作の『Q』に至っては、11月17日公開にもかかわらず、なんと10月末の時点でもまだレイアウトの直しをやっていたとか。まさに究極の綱渡りアニメ!果たして公開日までに間に合うのでしょうか?


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