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庵野秀明が安野モヨコと出会って『シン・エヴァンゲリオン劇場版』はこうなった?(ネタバレ)

シン・エヴァンゲリオン劇場版

シン・エヴァンゲリオン劇場版


どうも、管理人のタイプ・あ~るです。

さて、『シン・エヴァンゲリオン劇場版』が公開されてから3週間が経過し、鑑賞した多くの人の意見をざっと見てみたところ「きちんと終わって良かった」「いいエンディングだった」など、”概ね高評価”という印象ですね。

一方、批判的な感想も当然ながら見受けられ、特に旧劇場版(『Air/まごころを、君に』)が好きな人たちからは「安易なハッピーエンドに逃げている」「こんなのエヴァンゲリオンじゃねえ!」など、辛辣な意見がチラホラと…。

まあ、こういう気持ちも分からなくはありません。実は『シンエヴァ』で訴えているメッセージっていうのは旧劇場版とほぼ同じで「他者とのコミュニケーション」なんですが、その伝え方がもの凄くポジティブになってるんですよね。

前半のパートでは共同体の中で働くことの素晴らしさを訴え、主人公が他者との関係性を回復していく姿を丁寧に描き、さらに父親との長年の確執も解消し、最終的には良きパートナーを見つけて現実の世界へ歩き出すという、非常に前向きな描写なのです。

これに対して、昔からのファン(の一部)は「庵野てめえ自分が結婚して幸せになったからって上から目線で説教してんじゃねえよ!」みたいな反発心を抱いているらしいのですよ(リア充に対する”オタクの嫉妬心”なのかもしれませんがw)。

では、一体なぜ『シン・エヴァンゲリオン劇場版』はここまでポジティブな内容になったのか?というと、すでに多くの人が指摘しているように奥様である安野モヨコさんの影響が大きいと思われます。

過去を振り返ってみると、TV版が終了した頃の庵野さんはことある毎に「アニメファンが嫌いになった」「アニメファンに失望した」などと発言し、旧劇場版の時にも「観客に水をぶっかけるつもりで作った」等、ネガティブなコメントを連発していました。

庵野さんがアニメファンを嫌いになった要因はいくつかあるようですが、そのうちの一つが「作品に対するアニメファンの反応が、期待したよりもレベルが低すぎた」ということらしい(以下、当時のインタビューより↓)

パソコン通信にアップされたファンの感想は、もう途中で読まなくなりました。最初は期待してたんですけど、もう大半がゴミなんですよ。感覚的なものなんですけどね。この中から良いものを見つけるのにすごい労力がいる。読んでいる時間がないんでやめたんです。もっと作品を作る上で参考になるかと思ったんですけど、少しレベルが低すぎましたね。もうちょっとアニメファンって賢いかと思ってたんですが。

僕が出しているセリフのアイロニーも全く理解してもらえなかった。そのまま受け止めてるんですね。コンニャク問答にはまっていって、僕がそう思ってないところまで深読みして、「こうに違いない」とか断定している人がいる。そうじゃないのにって僕は思ってるんですがね(笑)。どんどん作品が一人歩きしていって、その感じが嫌だったんですね。一人歩きはまあいいんですけど、でもそれが大きくなりすぎて、もう僕の責任の範疇を超えていくような感じだった。 『スキゾ・エヴァンゲリオン』より 

庵野秀明 スキゾ・エヴァンゲリオン Kindle版

つまり、『エヴァンゲリオン』という作品はその時の庵野さんの心理状態をダイレクトに反映してしまうが故に、庵野さんがネガティブな気持ちになっている時は作品自体もネガティブな内容にならざるを得ない…ということなのでしょう(旧劇場版を観るとよく分かるw)。

ところがその後、庵野さんは漫画家の安野モヨコさんと出会い、2002年に結婚するんですね。貞本義行さんによると「付き合い始めてから約半年後のスピード婚だった」とか(ちなみに、庵野さんの結婚式には宮崎駿監督が主賓として出席し、「今日の新郎はこんなにキレイな格好をしていますが、初めて会った時は本当に汚くて…(笑)」などと庵野さんに関するエピソードを嬉しそうに喋っていました)。

スピーチする宮崎駿

スピーチする宮崎駿

この結婚によって庵野さんの心境に大きな変化が生まれたことは疑いようがなく、さらに「嫁さんのマンガを読んで衝撃を受けた」と証言(安野モヨコさんの本の中でも以下のようにコメントしています)。

嫁さんのマンガは、マンガを読んで現実に還る時に、読者の中にエネルギーが残るようなマンガなんですね。読んでくれた人が内側にこもるんじゃなくて、外側に出て行動したくなる、そういった力が湧いてくるマンガなんですよ。現実に対処して他人の中で生きていくためのマンガなんです。嫁さん本人がそういう生き方をしているから描けるんでしょうね。エヴァ』で自分が最後まで出来なかったことが、嫁さんのマンガでは実現されていたんです。ホント、衝撃でした。 (『監督不行届』より)

監督不行届 (FEEL COMICS) Kindle版

つまり、「本来はエヴァでこういうことをやりたかったんだけど実現できなかった」、その理由は「当時の自分がネガティブな心理状態だったため、こういうアニメを作れなかった」ということだと思います。

しかし、安野モヨコさんと結婚してポジティブな思考になった庵野さんは、新劇場版で「かつて実現できなかったことをやろう」と考えたらしく、先日NHKで放送されたドキュメンタリー番組の中でもそのことについて語っていました。

自分の状況と作品がリンクするから。ポジティブな方向に行くのであれば、自分の中にそれ(ポジティブ)がないといけない。じゃないと、嘘になっちゃうから。自分の中にあるものが作品の中に入っているから、それは”本物”になるんです。 「プロフェッショナル 仕事の流儀 庵野秀明スペシャル」より

プロフェッショナル 仕事の流儀

プロフェッショナル 仕事の流儀

さらに、2006年に発表された『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』の制作における庵野秀明総監督の所信表明の中でも同様のことを述べていました。

エヴァンゲリオン」という映像作品は、様々な願いで作られています。自分の正直な気分というものをフィルムに定着させたいという願い。(中略)現実世界で生きていく心の強さを持ち続けたい、という願い。今一度、これらの願いを具現化したいという願い。

すなわち『シン・エヴァンゲリオン劇場版』とは、「旧劇場版の時に実現できなかったことを改めて実現したい」「今の自分の正直な気持ちをそのまま作品に込めたい」「現実世界で生きていくための力強いエネルギーを感じ取ってもらいたい」という庵野さんの様々な願いを具現化したものであり、だからこそああいう結末になったのでしょう。

以前から、エヴァ庵野監督のプライベートフィルムだ」などと言われていましたが、安野モヨコさんと結婚してからさらにその傾向が強まった感じですね。ここまで徹底して自分自身を作品に投影しているクリエイターってなかなかいないと思います(しかも、これだけ大規模な劇場アニメで!)。

もはや、エヴァを観に行っているというより庵野秀明を観に行っている」と言った方が正しい状況なのかもしれませんが(笑)、そういう点でもエヴァンゲリオンというアニメがいかに特殊で唯一無二の作品であるか分かるのではないでしょうか。

 

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