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『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』の制作裏話


■あらすじ『あえてTVシリーズと同じ出発点からスタートしてみせた新劇場版だが、第2ステージからは大きくポイントが切りかわっていく。新キャラ・新エヴァなどの斬新な要素だけではなく、未知の展開に対応したデジタル時代のエヴァ映像も「破」の大きな見どころだ。物語・映像の両面から「序」で再構築されたはずのあらゆる事象は土台を失っていったん倒壊し、混沌の中から《未来》に向けて刷新されていく。いま、大転換のための幕が上がる!押し寄せる戦慄の展開!エヴァだけが可能とする行先不明のライブ感覚!それがまさに「破」なのである!』


どうも、管理人のタイプ・あ~るです。

さて本日、金曜ロードショーで『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』が放映されます。前作『序』はTVシリーズの映像をブラッシュアップする形で再構築(リビルド)していましたが、本作『破』からはストーリーにも大胆な変更が加えられ、多くのファンを驚かせました。というわけで、本日は『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』にまつわる裏話的なエピソードをご紹介しますよ。



『序』の時は作画の修正やエピソードの組み替えなどに止まり、ストーリー展開的にはそれほど大きな変更は見られませんでした。しかし、今回の『破』では登場人物の設定変更はもちろん、新キャラや新アイテムの導入など、物語そのものに大幅な変化が加えられており、明らかに「今までとは全く違う着地点」を目指して進行しているのです。

当初は庵野秀明総監督もここまで大胆に変更する予定ではなかったようですが、『序』を公開した後の反応があまりにも良かったため、「じゃあ、もうちょっとサービスしちゃおうかな♪」と色気が出てきたらしい。

中でも一番大きく変更されたのが、新キャラの真希波・マリ・イラストリアスだという。鶴巻監督によると、マリはもともと新劇場版をアピールするためだけに作られた軽いキャラで、当初の脚本ではセリフも少なく、ストーリーに絡むこともほとんど無かったばかりか、「北極基地で死んでしまってもいい、ってぐらいの脇役だった」とのこと。

ところが、『序』が予想以上の大ヒットになったため、突然庵野秀明が「もっとマリを活躍させよう!」と大幅な計画変更を宣言。鶴巻監督は当時の様子を「脚本を変更することで当然のように登場シーンは増えていくんだけれど、それでもマリの印象は薄いままだったし、キャラの特徴や性格さえはっきりしないままだったんですよね」と振り返っています。

鶴巻監督の中では、単なるサブキャラ扱いだったマリですが、庵野総監督の要望で急遽重要なキャラへと昇格されました。しかし、もともとバックボーンなど何も考えられていなかったため、この世界の中でどういう位置付けなのか?どんな秘密を知っているのか?など、必死になって考えたらしい。

庵野さんから出てきたマリというキャラは、僕の印象だと加持の女性版みたいなイメージだったんです。エヴァに乗れる加持というか。加持は色々と裏の事情を知っているわけですよね。具体的にそれがどんなものかは分からないけど、人類補完計画というものが進められていて、ゼーレというものがいて、ゲンドウは「人類を守ろう」とか言ってるけど、裏では別の野望も持っている。

そして、それぐらいのことを加持は知っている。庵野さんが当初描いていたマリは、それと同様に、秘密を知っているぶん余裕があるキャラだったわけですよ。だからアスカのようにテンパらないし、戦っている最中でも余裕がある。戦いの目的を知っていれば、「どこまでやれば勝ちになるか」も理解できるので。

こうして、マリの活躍シーンを増やすことになったわけですが、物語に重大な影響を及ぼすキャラを新たに組み込むためには、ストーリーを大幅に改変しなければなりません。しかし、どこか1か所を変えれば別の場所に齟齬が発生し、それを正すためにまた書き直す…という作業を延々繰り返すことになり、スタッフは大変な苦労を強いられたという。

仮設5号機と戦うシーンでさえ最初はもっとおとなしくて、「365歩のマーチ」も無かったし、戦闘を楽しむキャラクター性も与えられていなかった。当然、それじゃストーリーは変わっていかないですし、マリが活躍しているとも言い難いわけですよね。しかも、実際にストーリーを変えようとすると、あちこちに齟齬が出てきちゃう。そこを修正するために、さらに大きな修正が必要になったりして…。本当に、何度も何度も脚本を書き直してました。

作品の完成度を高めるため、頑張ってストーリーを書き換えまくった庵野秀明さん。しかし、迷惑を被ったのは絵コンテを担当した樋口真嗣さんでした。実は「破」の絵コンテはかなり早い段階から作業に入っており、なんと「序」が公開される前には完成していたという(「序」と「破」の制作はほぼ同時進行だったらしい)。

出来上がった「破」のコンテを庵野さんに渡した後、樋口監督は隠し砦の三悪人の撮影に突入。撮影の業務に忙殺され、終わる頃には絵コンテのことなどすっかり忘れていました。ところが、それから約1年後に招かれた「エヴァ新劇場版:序」の完成記念慰安旅行(沖縄)の席上で、庵野秀明から衝撃の事実を告げられたのです。

庵野:「あのさ…、悪いんだけど”破”の絵コンテを描いてくれないかな…」
樋口:「え?1年前に渡したじゃないですか?」
庵野:「いや…実はあの後、脚本を大幅に書き換えちゃって……樋口の描いたコンテが使えなくなっちゃったんだよね」
樋口:「えええ!!!???」

樋口さんが驚くのも無理はありません。なぜなら、こんなことは通常では有り得ないからです。普通、アニメの絵コンテは脚本に従って描かれるため、準備段階で徹底的に打合せを行い、2稿3稿とリテイクを重ね、さんざん推敲した上でようやく”最終完成型”としてのシナリオが絵コンテ担当者に渡されるものだからです(宮崎駿さんみたいにいきなり絵コンテから入る監督もいるが例外)。

その脚本に沿って描かれた絵コンテは(多少の直しが入る場合もあるものの)”決定稿”となり、各スタッフに配られるのです。つまり、出来上がった絵コンテをさらに大きく修正するなどということは、基本的には起こり得ないのです。作画監督松原秀典さんも、『新劇場版』の異常な制作スタイルに驚きを隠せないようで、以下のようにコメントしています。

カラー(エヴァの制作スタジオ)の現場はとにかく特殊で、フィルムに定着するまで答えが出て来ないんです。シナリオ決定 → 絵コンテ決定 → レイアウト決定 → 作画決定ときたら、普通はすべて決定なんですよ。それが、絵コンテにOKが出た後でもまた差し戻して直していたりするし、レイアウトもコンテにないものがたくさん上がっていたり、急に欠番になったり増えたりと全く油断できない感じ(笑)。絵コンテに空白があって、そこを庵野さんがずっとやっていたりとかね。そんなアニメの作り方をしているところは、絶対に他ではないと思いますよ。

しかも、絵コンテが配布された時点で実作業に入るということは、既にかなりの分量が作画されていたということです(なんせ1年も経っているのだから)。使い回しできるシーンはいいとしても、脚本が変わったために使えなくなったシーンも結構多いハズ。実際、鶴巻監督も「ミサトとシンジの別れのシーンとか、あれは恐らく6回ぐらい描き直してますね」などと述べていることから、ヘタすると億単位の無駄な作業費が発生している可能性もあるらしい。

通常の映画製作であればプロデューサーの首が飛んでもおかしくないほどの異常事態ですが、そんなことが可能なのも、今回の新劇場版が映画会社主導ではなく、庵野秀明さんが自分で資金調達しているからです。自分で会社(スタジオカラー)を立ち上げて資金を集め、自分で映画を作る、いわば”自主制作映画”のスタイルだからこそ成せるワザなのですよ。

元々、庵野さんは学生時代から自主制作映画を作っており、会社のシステムが自分のスタイルに合わないことを以前から自覚していました。そして旧エヴァを作った時も、スポンサーや会社側から色々と注文を付けられるのが嫌で嫌で仕方がなかったらしい。

そこで今回は、版権その他エヴァに関するあらゆる権利を手中に収め、映画制作を完全にコントロールできる環境を手に入れたのです(宣伝もスタジオ・カラーが自社で全て行っているため、事前情報が極端に少ない)。

というわけで、史上最強の自主制作アニメとして生まれ変わった『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』は、アマチュアリズムを継承しつつも、サービス精神に溢れるバランスの良い映画に仕上がっていると感じました。TVシリーズの総集編的な位置付けから出発した『序』は、続く『破』で大きな転換点を迎え、『Q』によって更なる”未知の領域”へ突入していったのです。果たして、4部作の完結編となる『シン・エヴァンゲリオン』では、どんなクライマックスが待ち受けているのでしょうか?


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