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『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』を考察!「エヴァの呪縛」とは?


公開から1週間が経過しましたが、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』の快進撃が止まりません。11月17日に公開された本作は、週末の2日間だけで観客動員数77万1764名、興行収益11億3100万円4600円という驚異的な数値を叩き出しました。これは、7月13日に450スクリーンで公開された『BRAVE HEARTS 海猿』のオープニング3日間の11億1917万1350円を上回る好成績で、今年ナンバーワンのメガヒットだそうです。

このスタートの勢いは平日になっても衰えず、公開から4日目の11月20日には早くも累計観客動員は100万人を突破し、110万3443名となりました。興行収益も順調に伸び続け、既に16億円が目前に迫るほどの凄まじさ。この数字は、『序』の興行収益(2日間で2億8042万4200円)や、『破』の興行成績(2日間で5億1298万9000万円)と比べてもズバ抜けて高く、いかに観客が本作を待ち望んでいたかがわかるでしょう。

そんな『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』ですが、観客の反応は賛否両論真っ二つ。公開直後から謎を検証するサイトが乱立し(これはまあ、いつものことですけど)、『序』や『破』の作風から大幅に様変わりした『Q』の内容をめぐって、ネット上では大論争が巻き起こりました。

個人的な感想を一言で述べると、「ああ、やっぱりこうなってしまったか…」という感じですかね。いや、別にガッカリしたとかではなく、想定通りの流れになってきたなという意味で(ストーリーの変貌にはもちろん驚きましたけど)。世間の反応も(案の定と言うべきか)批判的な意見が多いようです。

曰く、「『序』や『破』のような燃える展開を期待してたのに!」とか、「こんなのエヴァじゃない!」とか、「庵野しね!」とか、まさに罵詈雑言の雨嵐。逆に、本作を擁護する声も多数あり、その一つが「もともと『エヴァ』とはこういうアニメだった」というものです。

振り返ってみれば、『新世紀エヴァンゲリオン』のTVシリーズが始まったのが1995年で、今から約17年前。オリジナルを知っている世代でさえ記憶が薄れる程の長い年月が経過しており、ましてやパチンコから入ってきた最近のエヴァファンにとっては『序』や『破』こそが初めて接するエヴァだったりするわけです。”成長型主人公”として分かりやすく描かれていた前作までの展開を見て、「これが正しいエヴァなんだ」と認識しても仕方がないと言える状況でしょう。

しかし、当然ながらエヴァンゲリオンは、「主人公が困難を乗り越えて成長していく姿を感動的に描いたハッピーエンド・ストーリー」などではありません。「最初はスタンダードなロボットアニメと思わせておいて、途中から徐々にキャラや物語が壊れ始め、最後は何が何だかわからないまま終わる」というアニメなのです。

事実、TV版では第6話「決戦、第3新東京市」(ヤシマ作戦)でドラマ的に大きな盛り上がりを見せ、第19話「男の戰い」(対ゼルエル戦)で一つのピークを迎えました。新劇場版の『序』と『破』は、その最大の見せ場をクライマックスに持ってきているのだから、面白くて当たり前なのですよ。

でも、ご存じのようにTV版はこの後、どんどん不幸な出来事が勃発し、登場人物の心象風景を描いた意味不明なビジュアルが続出します。再び物語が盛り上がることはありません。それどころか、精神的にキツイ描写を散々見せられた挙句、謎の解明やストーリーの結末を全部ほっぽり出して「全ての子供達におめでとう」で締めくくるという、驚天動地の最終回を目の当たりにして日本中のアニメファンが大激怒。

この時、ファンは思いました。「全ての謎が解明されてスッキリ終わるようなラストを期待してたのに!」とか、「こんなのエヴァじゃない!」とか、「庵野しね!」とか。そんな批判を受けて、1997年に劇場版『DEATH&REBIRTH/シト新生』が公開されます。制作が間に合わず前編と後編に分けられたものの、TV版では描かれなかった”もう一つのエンディングシーン”を映像化するとのことでファンは大興奮。「これを待ってたんだよ!」とばかりに劇場は連日超満員となり、映画は大ヒットを記録しました。

しかし、その4ヶ月後に公開された後編『Air/まごころを、君に』でファンはまたもや衝撃の結末を目撃するハメになるのです。巨大化する綾波レイ、爆死するミサト、銃殺されるリツコ、エヴァに食い殺されるゲンドウ、溶けてなくなる主要キャラ。そしてシンジの精神世界を映し出すサイケデリックなビジュアルイメージ。なぜか映画を鑑賞している観客自身の姿までもが実写映像として挿入され、最後はシンジがアスカの首を絞めて映画終了。

これを観てファンは思いました。「シンジやアスカが大活躍するようなかっこいい展開を期待してたのに!」とか、「こんなのエヴァじゃない!」とか、「庵野しね!」とか。もうお分かりでしょう。そう、何もかもがあの時と全く同じなのですよ!

今回、新劇場版の制作を開始するにあたって、庵野秀明総監督は所信表明を発表しました。そこには「『エヴァ』は繰り返しの物語です」という一文があります。これは、「物語のループ構造を示したもの」と一般には解釈されていますが、同時に”エヴァを取り巻く状況そのもの”を暗示しているのではないかと。

意味ありげなキャラの言動に心を躍らせ、謎を解明しようと躍起になり、新作が公開されれば我先にと劇場へ詰め掛け、想定外のストーリー展開に対して「俺達が見たかったエヴァはこんなんじゃない!」と拒否反応を示す大勢のファンたち。過去から現在に至るまで、これが何度も何度も繰り返されているのですよ。

また、今回「エヴァパイロットは歳をとらない」という新設定が導入されましたが、ここにも庵野さんの軽い皮肉が垣間見えました。つまり、「お前ら17年前から全然成長してないじゃん」「あの頃と何も変わってないじゃん」っていう。ああ、そうか、そういうことだったのか…。これこそがまさに「エヴァの呪縛」だったのかあああ!

というわけで、今回のエヴァ騒動を見て「何年経っても相変わらず同じことを繰り返してるんだなあ」などと愕然としたんですけど、別にそれがいいとか悪いとかではなく、こういう現象を含めて『エヴァンゲリオン』って作品はやっぱり特別な存在であることを改めて思い知らされた次第です。たしかに、こんなアニメは他に無いし、まさしく唯一無二の本当に稀有なコンテンツですよねえ。けど、いったい僕達はいつになったら「エヴァの呪縛」から解放されるんだろうか(苦笑)。


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