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観客を騙し討ち?この映画の予告編はアウトかセーフか?


全国の劇場で大ヒットしたディズニーアニメ『ベイマックス』は、6週連続で1位を獲得し、観客動員700万人、興業収入は90億円を突破するなど、凄まじい盛り上がりを見せたが、公開直後から”ある問題”を指摘されていた。それは映画の予告編である。

予告編とは言うまでもなく、映画の内容を多くの人に知ってもらう目的で流す映像であるが故に、映画と同じ内容でなければ話にならない。ところが、『ベイマックス』を観た人の多くが「予告編と違いすぎる!」、「ヒューマン・ドラマかと思ったらアクション映画だった」、「これはCM詐欺と言わざるを得ない!」などと違和感を覚えたらしい。

まあ、この件はすでに色んなところで話題になってるし、ここで改めて書くようなこともないだろうから、状況を詳しく知りたい人は下記のブログが非常に分かりやすくまとめてあったので参考までに。

「BIG HERO6」はなぜ「ベイマックス」なのか? ハートフルな国内宣伝にロケットパンチ!(「YU@Kの不定期村」より)


で、この問題を簡単に要約すると、


1:「予告編では少年と可愛いロボットの交流が中心であるかのように宣伝している」
2:「しかし、実際には集団ヒーローの活躍を描いたアメコミ・アクション映画だった」
3:「これは予告編詐欺ではないのか?」


というものである。なぜこんな予告編になってしまったのか?という疑問に関しては、「YU@Kの不定期村」さんの記事にも書いてあるように、「『アナ雪』が当たったのであの路線を狙った」ということと、「アメコミ・ヒーロー映画はヒットしにくい」、そして「『妖怪ウォッチ』に対抗するために女性客をターゲットにした」などが主な理由だろう。その結果、ヒーロー性や子供向け要素を排除し、女性に受ける「ハートフル・ドラマ」を強調した予告編が出来上がったのではないかと推測できる。

この予告編がアウトかセーフかについては、色々意見が分かれるかもしれない。まあ、「本編と全然違うじゃん!」と怒っている人もいたようだが、個人的には「そこまで間違ってないだろう」という感じだった。別に嘘をついているわけじゃないし、予告編に出ていたようなシーンもちゃんとある。ただ、本来見せるべき情報を全部は見せていないだけなのだ。

思うに、この問題の本質は「予告編を作る側が情報を意図的にセーブしている」という点なんじゃないだろうか?そして、それは『ベイマックス』だけでなく、最近の映画全般に当てはまるのではないかと。昔の予告編は観る人の期待を必要以上に煽り立てる過剰な宣伝方法が問題になっていたが、近年は「見せたくない情報を隠す予告編」が主流になっていると感じることが多い。


■最近の予告編がいろいろ隠してる件
例えば、リドリー・スコット監督の『プロメテウス』の場合、「『エイリアン』の前日譚」という内容にもかかわらず、予告編ではそのことにほとんど触れることなく、まるで”完全オリジナルのSF映画”であるかのように宣伝していた。理由としては、「シリーズ物の作品は過去の映画を知らない人が興味を持ってくれないから」ということや、「”ホラー”であることを前面に出すと観る人を限定してしまう」などの事情が関係しているらしい。

だが、この予告編を見て「”人類の起源”の謎に迫る壮大なSFドラマ」かと思った一般の観客は、「ヘンなモンスターが暴れ回るホラー映画を見せられて想定外だった」と困惑していた模様。

また、ブラッド・ピット主演のワールド・ウォーZの場合も、「大量のゾンビに人類が襲われる」という内容なのに、予告編ではゾンビのゾの字も出さず、大規模災害パニック映画のように宣伝していたのである。これも『プロメテウス』と同様に、「”ゾンビ映画”ということが知られてしまうと、それだけで敬遠する人が出てくる(観客動員に影響する)から」との考えによるものらしい。

これらの予告編を見て思うのは、「観客に対して不誠実なのでは?」ということだ。ブラピの新作を観たい人がいて、もしその人が”ゾンビ嫌い”だったらどうするのか?映画が始まって「あ、これゾンビ映画だったんだ!」と気付いても既に遅い。「事前に調べてないから自己責任だ」とか「聞かれなかったので言ってないだけ」などの言い分もあろうが、そもそもユーザーに重要な情報を提示しない時点で予告編の役割を全うしているとは言い難く、「誠実さに欠ける」と言われても仕方がないだろう。

これはもちろん、製作側の責任ではなく、配給・宣伝側の責任だ。予告編自体は専門の業者が作っているとしても、「観客動員を阻害するような要素はできるだけ排除したい」という宣伝担当の思惑が働いたことは疑いようがない。しかし、こんな”騙し討ち”みたいな方法でお客さんを劇場へ呼び込むことが、果たしてセーフと言えるのだろうか?


■この予告編はアリなのか?
まあ、映画の予告編におけるこうした”情報操作”は、過去から現在に至るまで当たり前のように横行しているので、いまさら目くじらを立てることもないかもしれない。ただ、期待していたものとは違う本編を見せられてガッカリしたお客さんが確実にいる以上、これを”是”とすることにはどうしても抵抗がある。

自分の実体験から一例を挙げると、2004年に公開された押井守監督の長編アニメーションイノセンスがまさに”情報操作”の極致であったと思う。この映画は、1995年に公開された『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』の続編であり、当初は『攻殻機動隊2』というタイトルで製作が進められていたらしい。

ところが、これに異を唱えたのがスタジオジブリのプロデューサー鈴木敏夫だった。彼は「日本でたかだか12万人しか観ていない映画のタイトルをつけたって売れるわけがないだろう!」と一喝し、強引に作品名を変えさせてしまった。そして、「『イノセンス』が『攻殻機動隊』のパート2」という事実をわざと伏せたのである。

さらにローソンやピザハットなど多数の企業とタイアップを図り、徹底した宣伝活動を展開。街のあちこちには『イノセンス』のポスターや映像が溢れ返った(もちろん『攻殻機動隊』の件は隠したままで)。その結果どうなったか?物凄くお客さんが入った。観客動員数は70万人を超え、実に前作の7倍以上という快挙を成し遂げたのである。

しかし観客の評価は最悪だった。そりゃそうだろう。『イノセンス』は『攻殻機動隊』の続編である関係上、前作を観ていなければ内容が全く分からない作りになっている。にもかかわらず、続編であることを隠して宣伝してたんだから、「意味がわからん!」と批判されるのは当たり前だ。

そもそも押井守監督の作風自体が一般の人には理解し難いものなのに、ローソンやピザハットで宣伝したってその特性が伝わるはずがない。案の定、僕が観に行った劇場でも、小さい子供や若いカップル、あるいは年配の老夫婦など、どう見ても押井守のことなんか1ミリも知らないような人ばかりで席が埋まっていたため、「ああ、この人たちは宣伝に騙されて来てしまったんだろうなあ…」と気の毒になった。


■アウトかセーフか?残るモヤモヤ感
僕は別に「このような宣伝は全面的にアウトだ!」と否定したいわけではない。むしろ鈴木プロデューサーがやったことは、商業映画の宣伝戦略としては決して間違っていないと思う。映画を作って公開する以上、ヒットさせなければ意味がないし、普段あまり映画に興味を持っていない人にもアプローチをかけて劇場に来てもらうことは確かに重要だ。もし鈴木氏の戦略がなければ、『イノセンス』はアニメオタクにしか注目されず、ひっそりと上映終了していたに違いない。

だが例えそうだとしても、伝えるべき情報を隠してまで大勢のお客さんを呼び込むことが果たしてアリなのか?それは”騙し”ではないのか?という違和感や疑念がどうしても拭えないんだよなあ。う〜ん……。というわけで、すっかり話が長くなってしまったが、最後に近年で一番びっくりした予告編を紹介したい。その名はオーガストウォーズ』

おそらく、この予告編を見た多くの人が、変形する巨大ロボットと人類との壮絶な戦いを描いたトランスフォーマーみたいなSFアクション映画を想像したのではないだろうか?僕もそう思った。だが、『オーガストウォーズ』は全くそんな映画ではないのだ!

2008年8月、グルジア軍とロシア軍との間で大規模な軍事衝突が起こった。この「南オセチア紛争」は別名「8月戦争(August War)」とも呼ばれ、本作はこの紛争を元に製作されている。つまり、『オーガストウォーズ』は実際に起きた南オセチア紛争を背景とし、その戦いに巻き込まれる人々の姿を丁寧に描いた物語で、真面目な戦争映画なのだ。

しかしこの予告編を見る限りにおいては、どう考えても『トランスフォーマー』のパチモンにしか見えない。もちろん、他の映画の画像を適当にくっつけたわけではなく、ちゃんとこういうシーンも出てくる。だから嘘はついてないんだけど、戦争映画を『トランスフォーマー』に誤認させるほどの情報操作は「CM詐欺」としか言いようがない。これは完全にアウトじゃないのかなあ(^_^;)

オーガストウォーズ [Blu-ray]
Happinet(SB)(D) (2014-01-07)

パッケージの画像も詐欺くさい(笑)。amazonのカスタマーレビューにも書いてあるように、この映画自体の評価は非常に高いのだが、あまりにも内容とかけ離れた宣伝のせいで正しく認知されていない。それが残念だ。

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