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『この世界の片隅に』がヒットした4つの要因


現在、片渕須直監督の劇場アニメ『この世界の片隅に』が異常なヒットを記録している。「異常な」というのは、「通常のヒットの仕方とは明らかに異なる奇妙な経緯で」という意味だ。

普通、映画の興行成績は「初週の動員で決まる」と言われており、例えば土曜日に封切られた作品の場合、土日2日間の状況を見て、もし業績が悪ければ「この映画はこの程度の稼ぎか」と劇場側が判断し、翌週から小さなスクリーンに移されたりするという。

このため、公開直前になると主演俳優がテレビに出まくったり、各種メディアに映画の情報を載せまくるなど、映画会社は初週の動員を獲得しようと必死で宣伝活動を展開する。もしランキング上位に入れば、ヒットの可能性が高くなるからだ。

逆に微妙な順位の場合は、もうそこから上昇する可能性がほとんどないから、「最終的な興行収入は○億円ぐらいだろう」との予測が立ち、ある程度見切りをつけられてしまうらしい(低い順位から上がることは滅多にない)。

ところが『この世界の片隅に』は、公開第1週目にランキング10位という不利なスタートだったにもかかわらず、3週目に6位へアップし、さらに4週目には4位になるという、映画史上稀に見る逆転現象を巻き起こしたのだ。

この異例とも言えるヒットに伴い、公開当初はわずか63館だった劇場数が、68館 → 82館 → 87館と徐々に増え続け、現時点では90館を突破!年明けにはなんと公開時の3倍を超える190館での上映が決定しているというのだから凄まじい。

では、いったいなぜ『この世界の片隅に』は、こんなにヒットしているのか?もちろん「いい映画だから」という意見に異論は無い。だが、単に「いい映画」だけの理由で、ここまでヒットするものだろうか?例えば、片渕須直監督の前作『マイマイ新子と千年の魔法』もいい映画だったと思うが、公開時は全くヒットせず、わずか3週間で打ち切られている。

しかし、観た人の評価は非常に高く、熱心なファンたちによって上映継続を求める署名運動が行われ、その想いに賛同したいくつかの映画館が上映継続を決定した結果、2年間に及ぶロングランを成し遂げたのだ。

こういう例を見ると、単に「いい映画」というだけでは、世間で話題になるほどの大ヒットには結びつかないのでは?と思ってしまう。というわけで、『この世界の片隅に』がヒットした要因をいくつか取り上げ、その内容を検証してみたい。


●作品自体の完成度が高い
まず、「映像作品として優れている」ということがヒットの大前提であることは言うまでも無いだろう。どんなに宣伝費をかけても、あるいはどんなに口コミで広めようとしても、そもそも作品自体の出来が良くなければどうにもならない。

その点、本作は極めて完成度が高く、魅力的なキャラクターや、細部に至るまでこだわり抜かれた正確な時代考証、そしてこうの史代の原作漫画を丁寧な筆致で描写した素晴らしい世界観など、どこをとっても見事なアニメーションで、ヒットの要素は十分満たしていると言える。


●監督の執念
片渕須直監督がこの作品にかけていた執念は凄まじく、当初は映画の製作資金が集まらなかったため、自腹で作っていたらしい。本人は「企画が成立するまでの立て替え」と考えていたようだが、いつまでたっても資金調達のめどが立たず、最終的には貯金額が4万5000円まで目減りしたという。

この頃はさすがに「もう限界かも…」と挫折しそうになったらしいが、どうしても映画化を諦め切れず、プロデューサーから子供の学費を借金し、「一家4人で一食100円」という超極貧生活を耐え忍んでいたそうだ(一人100円ではなく、4人の食費が合計100円!)。

こういう情報が伝わったことで、「なんて凄い執念だ!」「片渕監督を応援したい!」と考える人が増え、観客動員に繋がったと思われる。つまり、劇中の登場人物さながらの苦労話が、人々の心を動かす感動的な”ドラマ”として機能していたのだ。


クラウドファンディング
2010年頃から本作の企画を練っていた片渕監督だが、なかなか製作が進展しない。そこで2015年にクラウドファンディングを使ってパイロット・フィルムの制作費用を調達しようとしたら、開始直後から支援者が殺到。

わずか8日間で目標額の2000万円に到達し、最終的には日本全国から3374名、3912万1920円の支援金が集まり、当時国内のクラウドファンディング映画ジャンルとして史上最多人数、最高額を記録したそうだ。

さらに、もともとパイロット・フィルムを作るためのクラウドファンディングだったが、この手法が注目されたことで「映画を観たがっている人がこんなにいる」という状況が可視化され、出資に協力する企業が現れたのである。それが最も大きな効果だったという。


●”のん”にまつわる圧力疑惑
普通、新作映画が公開される際は、宣伝活動の一環として出演者や声優がテレビ等に登場する機会が増えるものだが、本作の場合はなぜかメディアへの露出が極端に少ない(当初はNHKと一部の地方局のみだった)。この不自然な状況に対し、「事務所から圧力がかかっているのでは?」との批判が噴出した。

実際、主人公すずの声優を務めた女優”のん”は、もともと所属していたレプロエンタテインメントに無断で個人事務所を設立し、契約中であるにもかかわらず勝手に独立したためレプロ側が激怒。「能年玲奈」という芸名の使用を禁じられ、東京地裁で現在も係争中らしい。

こういう事情から「事務所の圧力疑惑」が出たと思われ、不公平な扱いに憤りを感じた映画ファンや能年玲奈(のん)ファンが「理不尽な圧力に屈するな!」「メディアが取り上げないなら俺たちの手で宣伝してやる!」とばかりにSNSを通じて拡散していったようだ。

というわけで、ヒットの要因をいくつか考えてみたのだが、本来ならこういう映画を東宝みたいな大手の映画会社が率先して作り、多くの劇場で上映して大勢のお客さんに観てもらうのが最も望ましいのではないか?と思う。

しかし、片渕須直監督が最初にこの企画を提案した時、賛同してくれる会社は皆無だったそうだ。理由は「売れる保証が無いから」。つまり映画会社が映画を作る際には「確実に当たるもの」、あるいは「当たる可能性が高いもの」が最優先されるのだ。

そして多くの場合、「人気のある原作かどうか?」「過去に実績のある監督かどうか?」「有名な役者やアイドルがキャスティングされているかどうか?」などを判断材料にするという。

そんな中で『この世界の片隅に』は、「いい作品にはなるだろうが、当たるかどうかは分からない」「恐らく当たらないだろう」とジャッジされたらしい。要は「ヒットする可能性の低い映画に金は出せない」というわけだ。

確かに、一般的な感覚で言えば『この世界の片隅に』は”非常に地味な映画”に見えるだろう。若い男女の美しい熱愛とか、感動的なドラマとか、派手な音楽とか、かっこいいアクションシーンとか、観客にウケそうな(ヒットしそうな)ポイントが何もない。

だから多くの映画会社はリスクを恐れ、この手の映画にお金を出そうとしなかったのだが、本作の成功によって”映画界のセオリー”が覆された。片渕監督の執念や、クラウドファンディングによって可視化されたファンの熱意が、マーケティング主導の映画作りにカウンターパンチを食らわせたのである。

振り返ってみると、今年は”異例の大ヒット”という言葉をよく聞いたような気がする(ピコ太郎とかw)。話題になった『君の名は。』も、新海誠監督の過去の実績が1億数千万円程度だったため、「ヒットしてもせいぜい10億円ぐらいだろう」と全く期待されていなかったらしい。

また、庵野秀明監督の『シン・ゴジラ』も、「こんな難しいセリフばかりの内容で客が喜ぶわけがない!主人公の恋人や家族たちの人間ドラマをもっと入れてくれ!」と東宝のプロデューサーから要求され、大変なストレスを感じていたそうだ。

この世界の片隅に』と同じく、この2作品も当初は「そんなにヒットしないだろう」と思われていたのだが、予想に反して大ヒット!これは、「過去の実績」や「マーケティング」に頼った従来の映画制作スタイルが既に通じなくなってきていることの表れなのかもしれない。

いずれにしても、監督が作家性を存分に発揮した映画を作り、観客がそれをしっかり評価して世に広めた結果、映画会社も想定できないほどのヒット作がいくつも生まれたという意味で、2016年は映画ファンの記憶に残る年になったと言えるだろう。


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