■あらすじ『国際的マフィアの幹部として偽札造りに明け暮れるホー(ティ・ロン)とマーク(チョウ・ユンファ)。一方、ホーの弟キット(レスリー・チャン)は警官で、偽札組織撲滅の為に活動していた。しかしかつて仲の良かった兄弟はそれぞれ違う道を歩み、取引失敗によってホーは警察に逮捕されてしまう。3年後、出所したホーはカタギに戻る事を決めたが、キットは彼が足を洗った事を信じようとしない。やがて、かつての組織がキットを殺そうとしている事を知ったホーは、マークと共に再び立ち上がる事を決意した。男の友情と憤怒、兄弟の反目と絆が、ヒロイックに、ダンディに、時にはセンチメンタルに、そしてドラマチックに炸裂する!』
現在、映画ファンの間でよく使われるキーワードとして「香港ノワール」という言葉があります(最近では、アンディ・ラウ、トニー・レオンの主演で大ヒットした『インファナル・アフェア』シリーズが有名)。
本作は1986年の夏に公開されるや香港中に爆発的ブームを巻き起こしました。そして香港の歴代興収記録を塗り替える3300万香港ドルを叩き出し、80年代後半の電影界を席巻した記念碑的作品となったのです。
とにかく熱い!ストーリーはもちろん、友情や家族愛、ヤクザ者の悲しみや虐げられた者の復讐という題材も香港映画が過去に手掛けてきたものばかり。それがこれほどまでに“熱いドラマ”として生まれ変わったのは、ジョン・ウーのズバ抜けた演出手腕の賜物と言えるでしょう。
マッチ棒を楊枝のようにくわえるマークの小粋な仕草、スローモーションで血糊が飛び散るペキンパー風の銃撃戦など、全編を彩る様式的な映像美は何度観ても心を奪われます。
もちろん、映画が成功した大きな要因は演技陣のイキの良さにもありました。黒のロングコートにサングラスという出で立ちで颯爽と登場するチョウ・ユンファやティ・ロンのシビレるほどのカッコ良さ。
兄を慕う気持ちをそのまま憎しみに変えたレスリー・チャンや、自信に満ち溢れたリー・チーホンの熱演も見応え十分。中でもテレビ俳優から映画俳優への道を歩んでいたチョウ・ユンファは、当時、自分のポジションに疑問を感じていたらしい。
そんな時、ウーから本作のプロットを聞き、この作品に自分の全てを賭けようと決めたユンファは、マークというキャラクターに積極的に自分のバックグラウンドを注入。鬼気迫る演技で、颯爽としたエリートヤクザがどん底を経験し、再び立ち上がるまでの姿を堂々と演じ切ったのです。
そして、そんなユンファに共感を覚えたジョン・ウーは、当初は単なる脇役だったマークのキャラクターをどんどん書き直し、その結果マークの出番は大幅に増えて、とうとう映画に欠かせない重要人物になってしまいました。
さらに脚本の改訂にともなって、当初は12日間の予定だったユンファの撮影期間も30日以上に倍増する事となったのです。
ところが、いざ撮影が始まってみると売れっ子のチョウ・ユンファは超過密スケジュールで、同時期に別の2作品にも出演しており、午前中は他の作品、午後はこちらというケースが多々あったそうです。
当初のシナリオではユンファ演じるマークには妻がいる設定になっていましたが、時間が無くて妻と関わるシーンを撮影できず、結局マークは独身になったという。
しかしこうした苦労の末に出来上がった作品は、トン・ワイの指導によるかつてない激しいアクションが話題となり、多くの映画ファンを興奮の渦へと叩き込んだのです。
この映画の圧巻は何と言っても壮絶な銃撃シーンでしょう。使用されたマシンガンや拳銃はほとんどがホンモノで、H&K・MP−5A3、ミニUZI、コルトパイソン、SW-M39、ベレッタM92SB、ブローニング・ハイパワーなど12種類にも及ぶ一流ガンがズラリ(当時、ベレッタは米軍正式採用になったばかりで、実質上スクリーンに初登場したのはこの作品が初めてだった)。火薬類もふんだんに使い、香港映画史上空前のバイオレンス・シーンを描き出しました。
特に、夜の波止場のラストシーンはあまりにも激しすぎて香港の映倫から「ストップ!」がかかったほどのド迫力!遠く離れたビクトリア・ピークからも夜空に瞬く花火が見えたそうです。
さらに通常は1台しか使わないカメラを3台同時に回して撮影する事により、圧倒的な臨場感を生み出しました(ワンシーンを複数のカメラで角度を変えて撮影し、その中からベストショットを採用する方法はハリウッドの手法)。これらのバイオレンス・シーンに総製作費500万香港ドルの3分の1近い150万香港ドルが費やされたのです。
それにしても、初めて本作を観た時は腰が抜けるほど驚きました。何しろアメリカ映画以上に銃器が大量に登場し、しかもそれらが快調に作動しているのですから!
また、大昔の西部劇か月光仮面ぐらいしかやらないと思っていた「二挺拳銃」という技を現代に復活させたという功績も大きいでしょう。実際、チョウ・ユンファの二挺拳銃は世界的に衝撃があったようで、その後のアメリカ映画では頻繁に見られるようになりました。
そんなジョン・ウー作品のアクションシーンにおけるカッコ良さの秘密は、スタイリッシュなスローモーション映像とカット割りにあります。恐ろしく緻密に計算されたカット割り、スローモーションと通常速度、アップ、ロングショットのめまぐるしい入れ子構成、そしてアクション・ギミックと飛び散る血しぶきが映える色彩設計!
彼は男の子なら誰でも一度は持つ「銃をバンバン撃ちまくるかっこ良さ」に対する純粋な憧れみたいなものを徹底的に具現化し続けたのです。映画『男たちの挽歌』は、そんなジョン・ウー的スタイリッシュ・ガンアクションが初めて世に出た記念すべき作品だったのですよ。
中でもチョウ・ユンファのダブルベレッタによる風林閣への殴り込みシーンは、後のアクション映画界における全てのガンアクションをその影響下に置いてしまうほどの、凄まじいインパクトを持つ歴史的名場面であると言っても過言ではないでしょう(ちなみに「チョウ・ユンファといえばダブルベレッタ」というのはもはやアクション映画界では常識だが、本作ではブローニング・ハイパワーも使っている)。
ホーを裏切った敵を撃つ為に日本料理店へ乗り込むマーク。料理店の廊下の植木に銃を隠しておき、部屋の戸を開けるなり一味めがけて二挺拳銃を乱射!血しぶきを上げ次々と吹っ飛ばされる組員!
両手に構えたベレッタを全て撃ち尽くすと銃を捨て、廊下の植木鉢に隠しておいた予備の銃を取り出し、追ってくる敵を葬り去る。マッチ棒をくわえ悠然と引き上げようとしたその瞬間、瀕死の組員に右足を撃たれ、くずれ落ちながらも植木に隠した最後の一挺で組員を絶命させる!
自らも傷つき、痛々しく足を引きずりながら血の海と化した修羅場を後にするマーク。飛び散る薬莢、耳をつんざく銃弾の響き、そしておびただしい量の血痕。それはまさにスローモーションが描き出す鮮烈なるバイオレンスとエクスタシー。ああ、何度観ても素晴らしい!
チョウ・ユンファの、美しささえ感じさせる傷だらけの後ろ姿はハリウッド映画を見慣れた観客をも魅了しました。その男らしさ溢れる佇まいこそ、俳優チョウ・ユンファの真骨頂であり、揺るぎ無い“男”の魅力なのです。
そして、本作がファンの心をとらえて放さない最大の理由はやはり、社会の底辺で生きる男と男の友情、命を捨てても通さねばならない男の意地、決して諦めることの無い男たちの敗者復活を描いた“男たちの物語”だからでしょう。
特にホーとマークの再会シーンは号泣必至の名場面!薄暗い地下の駐車場で涙を堪えきれず抱き合う二人の姿にジョセフ・クーのベタなBGMがかぶさると、もう涙腺は緩みっぱなし。キャラクターに対する感情移入の度合いはハンパではありません。
それもそのはず、脚本を書いたジョン・ウーは、ホーとマークのキャラクターを彼自身とプロデューサーのツイ・ハークをモデルとして書いているのです。
中でも、ホーが台湾の刑務所で服役を終えて3年ぶりに香港へ戻ってくるシチュエーションは、実際に台湾シネマシティの製作部長を3年間務め、香港へ戻ってきたジョン・ウー本人と確実にオーバーラップしています。
「俺は3年間待ったんだ!もう一度二人で巻き返そう!」と絶叫するマークのセリフは、まさに自分たち自身の魂の叫びでもあったのです。く〜、泣ける!これぞ男の美学!まさにガンアクション映画史上における金字塔的大傑作!!観てない人はぜひご覧あれ!!!
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