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ジョン・ウー監督がアクション映画界にもたらした革命とは何か?『M:I-2』制作秘話

■あらすじ『休暇を楽しんでいたIMFのエキスパート、イーサン・ハント(トム・クルーズ)の元に、司令官スワンベック(アンソニー・ホプキンス)から新たな指令が入る。今回の使命は元IMFメンバーのショーン・アンブローズ(ダグレイ・スコット)が奪った恐ろしい殺人ウィルス:キメラと解毒剤:ベレロフォンを奪還すること。ハントは女泥棒ナイア(タンディ・ニュートン)をメンバーに引き入れ、ルーサー(ヴィング・レイムス)とビリー(ジョン・ポルソン)の協力を得てナイアをアンブローズの元へ送り込むことに成功したが、予想外の展開が待ち受けていた…!トム・クルーズが主演・製作をつとめ、監督には「フェイス/オフ」のジョン・ウーを起用。不可能な任務に挑むスペシャリスト達の活躍を描いたスパイ・アクション超大作!』




本日、日曜洋画劇場で『ミッション:インポッシブル2』が放映されます。前作のブライアン・デ・パルマに替わって今回監督に抜擢されたのは、香港からハリウッドに渡った至高のアクション映画ディレクター:ジョン・ウー

彼の代表作『男たちの挽歌』は、香港マフィアの裏社会の友情と裏切りをドラスティックに描き出し、「香港ノワール」という言葉を世界に知らしめ、ジョン・ウーの名を映画史に刻み込みました。

もちろん、これまでにもそういう映画が無かったわけではありません。しかしハードボイルド映画として世間の注目を集めたのは『男たちの挽歌』が最初であり、本格的に香港ノワールを語れる状況になったのも、この映画の大ヒットのおかげなのです。

そんなジョン・ウー作品の最大の特徴といえば、何と言っても「壮絶な銃撃戦」でしょう。チョウ・ユンファと組んだ一連の『男たちの挽歌』シリーズで娯楽にシビアな香港の映画ファンをも唸らせ、史上最高のヒットを記録。その反響は遠く海外にも波及し、彼に影響を受けたハリウッドの映画監督が次々とオマージュ的作品を連発しました。

ジョン・ウーに感化されたクリエイターは枚挙にいとまが無く、クエンティン・タランティーノは『レザボア・ドッグス』を撮り、ロバート・ロドリゲスは『デスペラード』を撮り、そしてウォシャウスキーは『マトリックス』を撮ったのです。

黒のロングコートを着てサングラスをかけた男が2丁拳銃を撃ちまくる、というジョン・ウーが確立したアクションスタイルは、瞬く間に世界中を席巻しました。『マトリックス』などは『攻殻機動隊』の派生作品として取り上げられる機会が多いのですが、実は『男たちの挽歌』を始めとした香港映画の影響も強く受けているのですよ。

そんなジョン・ウー作品の魅力とは何なのか?というわけで、本日は『ミッション:インポッシブル2』を鑑賞しつつ、彼のアクションシーンにおけるカッコ良さの秘密を検証してみたいと思います。


●特徴的な映像表現
ジョン・ウー作品におけるアクションの特徴は、「スタイリッシュなスローモーション映像」と「カット割り」にあります。単にスローモーションを使うだけでなく、あらゆるアングルから撮られた映像を素早く入れ子にし、同時進行で複数地点の出来事を交互に挿入しているところがポイントと言えるでしょう。

恐ろしく緻密に計算されたカット割り、スローモーションと通常速度、そしてアップとロングショットを切り替えるめまぐるしい構成、さらにアクション・ギミックと飛び散る血しぶきが映える色彩設計など、複雑な要素が混然一体となることで、不思議な映像的快感を生み出しているのです。

特にスローモーションの使い方は絶妙で、『ミッション:インポッシブル2』でも、前半のイーサン・ハントとナイアが車に乗ったまま回転するシーンや、中盤から終盤にかけての銃撃シーンなど、いたるところでスローモーションを使っています。あまりにもスローを多用しすぎて尺が間延びしている気がしなくもありませんが、それこそがまさにジョン・ウー・スタイルなのですよ。

●スローモーションに対するこだわり
ジョン・ウー監督は、アクションシーンを撮影する時に常に9〜10台のカメラを用意し、あらゆる角度からあらゆるスピードで撮影しておいて、編集時にタイミングを見て繋ぎ合わせるそうです。しかも、演じる役者によってスローモーションの速度を変えているんだとか。

たとえば、ジャッキー・チェンのような俳優の場合は通常のスピードで撮るらしい(「観客は素早く動く彼の姿を望んでいるので、スローにする必要がないから」とのこと)。

逆に、チョウ・ユンファトム・クルーズジョン・トラボルタニコラス・ケイジの動きはとてもエレガントなので、「それをスクリーンで効果的に見せるにはスローモーションしかない。俳優ごとに相応しいスピードがあるんだよ」とコメント。

ちなみに、ジョン・ウー監督の中ではスローのコマ数まで決まっていて、「トム・クルーズは120コマだ。アクションがとても美しいから」「ニコラス・ケイジは60コマで、彼の動きはバレエダンサーのようにしなやかなんだ。だから彼が動く時は少しだけ早くする」とのこと。なお、ジョン・トラボルタは96コマ、チョウ・ユンファは120コマだそうです。

2丁拳銃
ジョン・ウーといえば2丁拳銃2丁拳銃といえばジョン・ウーというぐらい、彼の映画には2丁拳銃が欠かせません。元々は西部劇で使われていた射撃テクニックですが、これを現代に復活させた功績が何よりも大きいでしょう。『男たちの挽歌』以降、ハリウッドでも両手に銃を持ったスタイルが定着し、アクション映画の銃撃シーンがどんどん派手になっていきました。

この撃ち方、実戦を想定した場合には確かに疑問が残ります。両手でホールドしないから命中率は下がるし、弾を撃ち尽くした後の弾倉交換(マグチェンジ)にも時間がかかるなど、あまり効果的とは言えません。

ただ、弾切れでホールドオープンになった銃をその場に投げ捨て、バックアップの銃を素早く取り出し、再びバンバン撃ちまくる描写が圧倒的にカッコ良く、リアリティよりもスタイリッシュさを優先させた独特のガンアクションが多くの映画ファンの心を掴み、ジョン・ウー・テイストは凄まじい勢いで広まっていきました。

『ラスト・ボーイスカウト』ではブルース・ウィリス2丁拳銃を披露し、『リーサル・ウェポン3』ではメル・ギブソンまでもがベレッタの2丁拳銃をやらかす始末。これらは完全に”ジョン・ウーの影響”と考えて間違いないでしょう。

なお、ブルース・ウィリスは『ラストマン・スタンディング』でもガバメントの2丁拳銃をやってのけ、ジョン・ウーの影響力の強さを印象付けていました。『ミッション:インポッシブル2』でも当然2丁拳銃がバリバリです。

●回転撃ち
ジョン・ウーの映画では、なぜか銃を撃つ時に体を回転させながら撃っています。射撃の効果としてどんな利点があるのかわかりませんが、映像で見ると確実にカッコいい!『ミッション:インポッシブル2』でもイーサン・ハントが華麗にクルクルと回転していますよ。


●メキシカン・スタンドオフ
1対1、もしくは多対多の戦闘において、至近距離から互いに銃を向け合っている状態を表す言葉で、ジョン・ウーの映画では定番のスタイルとなっていますが、残念ながら『ミッション:インポッシブル2』では未確認。

初期の『挽歌』シリーズには必ず銃の突き付け合いが出てくるし、『フェイス・オフ』では最大8連鎖ぐらいの大掛かりなメキシカン・スタンドオフが出てくるので、興味がある人はそちらをお勧めします(『フェイス・オフ』のワンシーン↓)。


●横撃ち
サイドウェイズ・グリップとかギャングスタ・グリップなど、様々な呼び方があるようですが、銃を片手で、しかも横向きに傾けて撃つスタイルです。実は「ジョン・ウーが発祥ではない」とも言われてるんですけど、真偽の程はよく分かりません(「モーゼル・ミリタリーの馬賊撃ちがルーツでは?」という説もあり)。

●銃の種類がコロコロ変わる?
先程書いた通り、ジョン・ウーと言えば「ベレッタの2丁拳銃」っていうのがファンの間のお約束になっていて、前作ではM8000クーガーを使用していたイーサンですが、本作ではベレッタM92Fを愛用しています(ベレッタとはイタリアの銃器メーカー:ピエトロ・ベレッタ社が販売しているハンドガンのこと)。

ところがこの映画、なぜかシーンによって違う銃が出てくるんですよ。基本的にはM92Fなんですが、ウィルスを盗むために研究所へ侵入するシーンではクーガー、バイクアクションのシーンではセンチュリオン、砂浜での格闘シーンではブリガディアがそれぞれ登場しています。

しかし、なぜ途中で銃が変わっているのか?普通、アクション映画の主人公は自分が使っている銃をコロコロ変更したりしません。『ダイ・ハード』のジョン・マクレーンは一貫してM92Fを使っているし、『ダイ・ハード4.0』でシグP220Rに変えた時には、ずっとP220を使っていました。物語の途中で銃を変えるには「何らかの理由」が必要なのです。でも、『M:I-2』では特に理由も無く主人公が頻繁に銃を変えているんですよ。いったいどうして?

僕の推測ですが、これって「イーサンが銃を使い分けている」というストーリー上の設定ではなく、撮影現場で勝手に取り換えたんじゃないかなと。なぜなら、銃を交換したということを観客に分からせるためには、もっと形がハッキリ区別できる銃を選ぶはずなんです。ところが、センチュリオンとかブリガディアなんて見た目がほとんど一緒だから、いわゆる「ガンマニア」ぐらいしか気付かないんですよ(クーガーはさすがに気付くかな?)。

気付かないということは、わざわざ変える必要が無い、つまり演出的に全く意味が無いということになります。もしかすると、撮影時にスタッフが間違えたのかもしれません(以前『007』の現場でそういうミステイクがあったらしい)。あるいは、単に監督の趣味で交換しただけだったりして。まあ、いずれにしてもガンマニア以外にはどうでもいいことですけどね(笑)。

●白いハト
敬虔なクリスチャンのジョン・ウーにとって、白いハトは”愛と平和の象徴”であり、欠かすことのできない存在であるため、彼の映画には必ず白いハトが出て来ます(初期の作品以外は)。

監督曰く、「ハトは神と人間を繋ぐメッセンジャーでもあり、男たちが命を懸けて闘うときにハトが飛び立つシーンを入れるのは、”魂が救済された”という意味でもあるんだ。そして今回は、イーサンという男の象徴でもある。純粋な心の持ち主で、生きることに情熱を持ち、深く女性を愛する男。それらを、白いハトを使って表現したんだ」とのこと。

ちなみに、ハトが大好きなジョン・ウー監督は、炎の中を飛んでくるシーンを撮影する際、「ハトを危険な目に合わせたくない!」と言い出しため、なんとCG製のハトに差し替えられたそうです(そこまでしてハトを出したいのか!?)。

ジョン・ウーの影響を受けた日本人監督
ジョン・ウーのアクション・スタイルは世界中の映画監督に影響を与えましたが、日本人監督も例外ではありません。その中の一人が、現在大ヒット中の永遠の0』を撮った山崎貴監督です。山崎監督のSFアクションリターナーでは、銃撃戦でスローモーションを多用し、主人公がクルクル回転しながら銃を撃つなど、至る所にジョン・ウーの影響が垣間見えます。

特に驚いたのはクライマックスのアクション。主人公がバイクに乗ったまま敵の車を撃つ場面は、『ミッション:インポッシブル2』でイーサン・ハントがバイクを運転しながら敵の車を撃つ場面と全く同じなのですよ。「よくもまあ、ここまで大胆にパクったもんだ!」と逆に感心してしまいました(^_^;)


●敵役のダグレイ・スコットがまさかの大ケガ!
テロリストのショーン・アンブローズを演じたダグレイ・スコットは、『ミッション:インポッシブル2』に出演するまでアクション大作の経験がありませんでした。

なので、トム・クルーズが自分でアクションを演じている様子を見て自分もやりたくなってしまい、当初はスタントマンが演じる予定だったクライマックスのバイクチェイスを、自ら望んで演じることになったのです。

ところが、猛スピードで爆走するオートバイに乗って急ブレーキをかけるシーンを撮影中、見事に失敗して転倒!首の骨が折れそうになるほどの重症を負い、背中と肋骨を痛めて撮影に復帰するまで1ヵ月半もかかってしまいました。

しかも、ダグレイ・スコットはこの映画の後にX-MEN』のウルヴァリンを演じる予定だったのですが、ケガのせいで撮影に参加できず(『MI:2』の撮影スケジュールも延びた)、替わりにヒュー・ジャックマンウルヴァリンを演じることになったのです。ああ、なんという不運…。

ただ、そのおかげでヒュー・ジャックマンウルヴァリンが誕生したことを考えれば、映画ファン的には幸いだったのかも?いや、でもやっぱりダグレイ・スコットは可愛そうですねぇ(^_^;)

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