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エヴァンゲリオン旧劇場版『春エヴァ』と『夏エヴァ』裏話

新世紀エヴァンゲリオン劇場版 Air/まごころを、君に
新世紀エヴァンゲリオン劇場版 Air/まごころを、君に

本日はちょっと昔の話を…

1996年11月1日、都内某所にて劇場版『新世紀エヴァンゲリオン』の製作発表記者会見が行われた。映画の内容は、TV版の24話までを再編集しさらに新作カットを加えた『DEATH編』と、新たにクライマックスシーンを描き直した完結編にあたる『REBIRTH編』の2本で構成される、とのことだった。

その記者会見の席上、庵野秀明監督は「まだ脚本を書いている状態で言えることは一つしかありません、頑張ります!」と報道陣に対してコメントしていた。しかしこの時点で脚本は一行も出来ておらず、どんな映画になるかも全く決まっていなかったのである。

そしてこの時、メカニックデザインの山下いくと氏も同席しており、量産型エヴァについての話も出たのだが、結局山下氏のデザインは採用されなかった。この為、山下氏は劇場パンフレットへのコメント寄稿を拒否し、スタッフロールの肩書きの変更を要求。さらに「月刊ニュータイプ」誌上で自身のオリジナルデザインを公表し、「劇場版のデザインは自分のものではない」と主張する騒ぎにまで発展した。

一方、庵野監督は記者会見後もひたすら脚本を書き続け、なんとか絵コンテ作成までこぎつけたものの、スケジュールは大幅に超過し、すでに公開日までの完成は絶望的な状態となっていたのである。そしてついに、公開のほぼ1ヶ月前の97年2月14日、東映本社会議室にて緊急記者会見が開かれた。

出席者は角川書店代表取締役社長・角川歴彦氏と庵野監督である。開口一番、庵野監督が「当初完結を謳っておきながら、今回の劇場版では完結しないという大変な事態になってしまいました。誠に申し訳ございません!」と謝罪した。

要するに「公開日までに映画が完成しなかったので、とりあえず完成している所まで上映します」ということなのだ。そんな事情で記者会見を開くのも異例だが、敢えて未完成の作品を上映するなど前代未聞。

とは言え、アニメ業界ではこんな”とんでもないこと”が時々起こってしまうから侮れない(現に僕は『ガンドレス』という、想像を絶する未完成映画を見たことがある。あれは完全に”事件”だった)。

この時、庵野監督自身も限界まで追い込まれていたらしく、凄まじいストレスで片方の耳が聞こえなくなっていたそうだ。また、製作状況について聞かれた時も「地獄としか言いようがありません」と答えるなど、現場は凄絶な状態であったらしい。

この謝罪会見後、ファンや関係者は大騒ぎとなったが、逆に「夏まで楽しめる!」と喜ぶファンも多かった模様。タイトルも『DEATH AND REBIRTH シト新生』と『THE END OF EVANGELION Air/まごころを、君に』に変更され(長いのでファンはそれぞれ「春エヴァ」「夏エヴァ」と呼んでいた)、どちらも大ヒットを記録した。

ちなみに興行収入は「春エヴァ」が11億円、「夏エヴァ」が14億5千万円と健闘したのだが、同じ年に宮崎駿監督の『もののけ姫』が113億円というとてつもない数字を叩き出した為にあまり目立たなかったのが残念である。

ところでそんなブーム真っ只中で、僕のエヴァに対する印象はどうだったのかというと、実はTVの本放送を全く見ていなかったのである。当時はすでにTVアニメからは完全に遠ざかっており、「なんか凄いアニメをやっている」という噂にもほとんど関心が無かったのだ(これは現在も変わる事が無く、TVやビデオのアニメはほとんど見ない)。

したがって友人たちが「人類補完計画が…」とか「ロンギヌスの槍が…」などと真剣に話しているのを聞いても「いい年してまだアニメなんか見てるのか」と冷ややかな態度で接していたのだ。

しかしそんな友人たちが最終回で激怒している様子を見て、ちょっと興味が湧いてきた。そして劇場版が公開されると聞いて「試しに見てみるか」という気になったのである。ところが公開初日に劇場へ行ってみると、とんでもない事になっていたのだ。

僕らが行った映画館はビルの4階でかなり広かったのだが、待合所にも人が入りきらず階段にも4階から1階までずら〜っと行列が出来ており、なんとビルの外にまで観客がはみ出ていたのである!

凄い凄いとは聞いていたがまさかここまで凄いとは…。正直帰りたい気持ちで一杯だったのだが、連れの強い要望で結局並んで見ることになってしまった。さてそこまでして見た映画の感想は…

「何が何だかさっぱり分からん!!!」だった。

TV版の総集編的な映画だと聞いていたのでてっきり『ガンダム劇場版』のような映画を想像していたのだが、全然違っていた。それどころか今まで見てきたどんな映画とも異なっていたのである。唯一分かったのは「この映画は完全に狂っている!」ということと「この監督は頭がオカシイ!」ということだけだった。

要するに、本気で“自己表現”を目指していたわけだが、アニメという媒体でここまで自分の内面世界を露呈した映画を作ってしまっていいのか、という事に当時は驚愕したのである。そしてここまで自分を追い込んだ状態でモノを創り、画面に生の自分自身を投影するというスタイルそのものに驚かされたのだ。

この後、友人から録画してあったエヴァを借りて一気に全部見てしまうのだが、興味の対象は本編よりもむしろこんな凄い映画を作った監督の方へと向いていた。

当然の如く「夏エヴァ」も観に行ったのだが、これまた精神を直撃するような凄まじい映画であり、完全に”庵野秀明”の名前が僕の脳内にインプットされてしまったのである(その後『ナディア』『トップをねらえ!』と立て続けに鑑賞し、実写映画も含めて庵野監督作品はほぼ全て網羅することに)。

そして夏エヴァの後、庵野監督は「ラブ&ポップ」「式日」「キューティーハニー」と3本の実写映画を製作している(正確には「流星課長」を入れると4本)。これは夏エヴァを作っている時に「もう実写でなければダメだ!」という結論に行き着いて、風景と映画館の観客の映像を挿入したことがきっかけらしい。

もっとも、完全に実写に移行したわけではなく、「彼氏彼女の事情」や「Re:キューティーハニー」などアニメ作品も作っているので、今後は自分のやりたいことをやりたい方法で実行していくようだ。

また映画の内容にもこだわりが無く、「映画を撮るたびにその路線に飽きる。一回やってしまうと満足するしないに関わらず、納得がいくんです」と述べている。ジャンルにこだわらず「元気なうちに撮れるだけ映画を撮りたい」とのこと。

しかし本人も言っているように、春エヴァ夏エヴァみたいな”異常なテンション”で映画を作ることはもう二度とないだろう。「エヴァを作る時は限界まで自分を追い込み、鬱病を発症するほど異様なテンションになってしまう」とのことなので、そういう意味でも『新世紀エヴァンゲリオン』は唯一無二の奇跡的な作品であったと思う。

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庵野秀明の日常を描いたエッセイ風漫画。抜群に面白い!

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