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現場は大混乱!『スペシャルID 特殊身分』ネタバレ映画感想


■あらすじ『黒社会を牛耳るホン(コリン・チョウ)の組織で潜入捜査を続けている香港警察のチェン・チー・ロン(ドニー・イェン)。ある時、組のブツを盗んだ兄弟分サニー(アンディ・オン)を捜し出すようホンから命じられ、彼を追って中国・広東省へ向かった。そこで中国警察の女刑事ジン(ジン・ティエン)と捜査協力をすることになったロン。やがてサニーと再会を果たしたものの、彼の命を狙う殺し屋が現れ大乱闘に!果たしてロンは事件を解決することが出来るのか?香港を代表する世界的アクション・スター、ドニー・イェンが壮絶アクションを繰り広げるクライム・サスペンス超大作!』

本日、TOKYO MXのテレビ番組「キネマ麹町」でドニー・イェン主演のアクション映画スペシャルID 特殊身分』が放送されます(「キネマ麹町」についてはこちらをどうぞ→公式サイト)。

イップ・マン 序章』〜『イップ・マン 継承』では華麗なカンフーを見せ、近年は『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』や『トリプルX:再起動』など、ハリウッド大作での活躍も目覚ましい世界的なアクション・スター:ドニー・イェン

そんなドニーさんが主演した本作は、『SPL 狼よ静かに死ね』と『導火線 FLASH POINT』に続く「現代アクション三部作」の一つとして位置付けられ、MMA総合格闘技)の要素を取り入れたリアルでハードなアクションが特徴です。

高度なアクションを実現するため、ドニー自身がアクション監督を務め、さらにスタント・コーディネーターとして『るろうに剣心』の谷垣健治と『るろ剣』のスタントチームが参加し、次々と過激なスタントを炸裂!見応え十分なアクション映画に仕上がっています。

また共演には、『香港国際警察/NEW POLICE STORY』でジャッキー・チェンと戦ったアンディ・オンが敵役を演じ、クライマックスではドニー・イェンを相手に壮絶なバトルを展開しています(『香港国際警察』のジャッキーVSアンディもオススメ!)。

そして『ポリス・ストーリー/レジェンド』でジャッキー・チェンの娘役を演じたジン・ティエンや、『酔拳2』のラストでジャッキー・チェンを苦しめたロー・ワイコン(ケネス・ロー)など、アジアで活躍中の人気俳優が多数出演している点も見どころでしょう(つーかジャッキーの共演者が多いなw)。

ちなみに、『導火線 FLASH POINT』の終盤でドニー・イェンと凄まじい死闘を繰り広げたコリン・チョウが本作で敵のボスを演じてるんですが、残念ながら今回ドニーとのバトルはありません。う〜ん、見たかったなあ(『導火線』のコリン・チョウ↓)。

そんな感じで面白そうな要素が満載ではあるんですけど、内容がちょっと…いやかなり雑で散らかってる印象なんですよね。いったいどうしてこんな風になってしまったのか?実はこの映画、製作中にあり得ないほど様々なアクシデントが勃発し、苦労の末にようやく完成した作品だったのですよ。

まず、当初はドニー・イェンジャッキー・チェン、ドニーと対決する敵役として『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ』シリーズのチウ・マンチェクが出演する予定でした。ところが、撮影開始前にジャッキーが降板。

そして監督のタン・ペンも、「有名なアメリカ映画のあのシーンをやりたい!」みたいな感じで全然面白そうな映画を撮れそうにないと判断され、これまた降板(というか解雇)。このため、大幅な脚本の手直しを余儀なくされました。

その後、チウ・マンチェクも降板したんですが、なんと彼は「ドニー・イェンが勝手に脚本を書き替えた!」「準主役級の扱いだったのに出番を減らされ、一方的に契約を解除された!」などとネットやメディアを通じて批判し始めたのです。

これに対してドニーと映画会社は「そんなことはない。チウ・マンチェクの方こそ、高級ホテルを要求したり、撮影に非協力的だったり、我儘がひどすぎるんだよ!」と猛反論。双方のファンを撒き込んで大論争に発展したのです。

さらに車両部のドライバー同士が酒を飲んでいるうちに口論となり、酔ってケンカを始めた結果、なんと一人が刺し殺されてしまうという悲惨な事件が発生!しかも、どういうわけか「ドニー・イェンの運転手がチウ・マンチェクの運転手を刺し殺した」と報道されてしまい、ますます状況が悪化する有様。

挙句の果てには「亡くなったドライバーの遺族」を名乗る人がロケ現場に現れ、「ドニーのせいでうちの息子が死んだ!」「どうしてくれる!」などと大騒ぎしたため撮影が中断されるなど、様々なトラブルが頻発したらしい。

このように、監督の解雇、脚本の大幅修正、出演者の降板、スタッフ死亡、撮影ストップ、最終的には解雇されたタン・ペン監督が「『特殊身分』の公開中止と損害賠償」を求めて提訴、ドニー・イェンも名誉棄損で監督を訴えるなど、大変な事態になったそうです(裁判はドニー側が勝訴し、映画は無事に公開された)。

結局のところ、今回の騒動は1997年の「香港返還」以降に目立ち始めた「中国人と香港市民の対立」が背景にあると考えられ、映画の合作をきっかけとしてそういう問題が一気に表面化したのでしょう。

いや〜、それにしても凄まじい話ですねえ。スタント・コーディネーターの谷垣さんも「20年以上この業界で働いているが、こんなにヒドい現場は初めてだ!」と驚いたそうですから、よっぽどヒドかったんでしょうね(笑)。

アクション映画バカ一代 (映画秘宝COLLECTION)
谷垣 健治
洋泉社

トラブルの詳細はこちらの本に詳しく書かれています
ただ、そんな状況の中でも、アンディ・オンやコリン・チョウやロー・ワイコンなど男気溢れる面々が「ドニーが困ってるなら助けよう!」とばかりに次々と集結し、そのおかげで逆にアクションのクオリティが上がったと考えれば、「災い転じて福と成す」なのかもしれません。

さて、そんな『スペシャルID 特殊身分』の見どころといえば当然アクションなわけですが、数あるアクションシーンの中でも個人的に好きな場面をいくつか取り上げてみたいと思います。


●ロー・ワイコン戦
映画序盤、ヤクザに拉致された舎弟を助けるために麻雀屋へやって来たドニー・イェンが、ロー・ワイコンと対決するシーン。「ムエタイ使い」という設定のロー・ワイコンは、もともと本物のムエタイ選手だったので説得力が有りまくり!

一方のドニーは、最初は普通に立って戦っていたものの、途中からロー・ワイコンの蹴り技に対抗すべく、床に寝転がって戦う「猪木VSアリ」スタイルに変更。この辺はまだコミカルな印象ですけど、ストーリーが進行するにつれてどんどんハードなアクションになっていきます。

●ヤクザ軍団戦
映画中盤、ドニーが火鍋屋でヤクザの集団に襲われるシーン。たった一人のドニーが建物の中を移動しながら大勢の敵を次々と倒していくという、緊張感溢れるアクションです。狭い場所でいかに効果的に戦うか、素手のドニーが刃物を持ったヤクザ相手にどう立ち向かうかなど、非常に見応えがありました。

このシーンでは日本人のスタントマンが多数参加し、要所で見事なスタントを披露しているものの、ドニーの要求が厳しくて苦労したとか。なお、監督はクラレンス・フォクなんですけど、火鍋屋のシーンに関してはほぼドニー・イェンが監督していたそうです(そもそもクラレンス監督は他の映画の撮影で忙しく、現場にほとんどいなかったらしい)。

●アンディ・オン戦
映画クライマックス、建設中の高速道路で繰り広げられるアンディ・オンとの激闘シーン。殴る・蹴るだけでなく、投げる・関節を極めるなど「打投極」を見事に連係させた名場面となっています。本作最大の見どころであり、現代格闘技を追及してきたドニー・イェン・アクションの、まさに”一つの到達点”と言えるでしょう。

ひとつだけ不満を述べるなら、『導火線 FLASH POINT』で見られたような美しいモーション(いわゆる決めカット)があまりなかったこと。ただしこれはドニーが意図的にやっていたようで、谷垣さんによると、「”蹴り足が曲がってる”とドニーに言ったら、”本物の喧嘩でキックの形を気にするヤツがいるか?”って言われた」とのことなので、”綺麗なフォーム”よりも敢えて”粗い動き”を残すことにこだわったのでしょう。

個人的には『SPL』の「ウー・ジンとの対決シーン」や『導火線』のラストバトルの方が好みなんですが、本作のアクションは説明的なカットをわざと省き、段取り臭さを極力排除した「リアル志向の格闘技」を極めようとしており、そういう点に価値があるんですね。

なので、もし香港アクション映画に興味があるなら、『SPL』と『導火線』と『特殊身分』のバトルシーンをぜひ見比べてみてください。ブルース・リージャッキー・チェンなど、カンフー映画の先人たちによって築き上げられてきたアクションの進化系がそこに見出せると思います(^_^)

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