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『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』映画感想


■あらすじ『第二次世界大戦中の1939年。ドイツ軍と戦う連合軍は、「解読不可能」といわれる史上最強の暗号機”エニグマ”に苦しめられていた。そんな中、イギリスでは情報局MI6のもとに様々な分野の精鋭が集められ、解読チームが組織される。そこへ現れたのが天才数学者アラン・チューリング(ベネディクト・カンバーバッチ)だった。当初、一人で勝手に奇妙なマシンを作り始め、チームの中で孤立してしまうものの、パズルの天才ジョーン・クラーク(キーラ・ナイトレイ)が加わると、次第に周囲との溝も埋まっていった。やがて解読チームはまとまりを見せ始め、暗号解読まであと一歩のところまで迫っていく。果たして彼らはエニグマを攻略できるのか…?英国政府が50年間隠し続けた、一人の天才数学者の秘密と数奇な人生をサスペンスフルに描いた衝撃の伝記ドラマ!』


※この記事にはネタバレが含まれています。映画を未見の方はご注意ください。


現在、ベネディクト・カンバーバッチマーティン・フリーマンが出演する人気ドラマシリーズの劇場版『SHERLOCK/シャーロック 忌まわしき花嫁』が公開されています。英国BBCで制作されたこの番組は、有名な名探偵シャーロック・ホームズを斬新な解釈で現代に甦らせ、昔からのファンだけでなく新しいファンまで獲得しました。というわけで本日は、同じくベネディクト・カンバーバッチが主演したイミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』(2月20日WOWOWシネマで放送)のお話ですよ。

本作は、第二次世界大戦時にドイツ軍が用いた暗号機”エニグマ”と、その解読に心血を注いだ実在の天才数学者アラン・チューリングの数奇な人生を描いた伝記ドラマです。彼はエニグマの解読に成功し、戦争を終結に導いたことで、結果的に1千万人以上の命を救ったと言われる英雄ですが、その功績は英国の機密事項として世間に一切公表されませんでした。

それどころか、戦後は同性愛の罪(風俗壊乱罪)で警察に逮捕され、裁判で有罪となり(当時のイギリスでは同性愛は違法だった)、ホルモン治療による化学的去勢を余儀なくされたという。そして女性ホルモン注射の投与を続けた結果、最終的には青酸化合物入りのリンゴをかじって死亡してしまいます(自殺と事故の両方の説あり)。

映画では、そんなアラン・チューリングの少年時代から、親友のクリストファー・マルコムに恋をする場面や、ブレッチリー・パークの政府暗号学校でエニグマの解読に従事する様子、さらに第二次世界大戦終結後、ホルモン治療の影響で別人のように変わり果てた姿までを丁寧な筆致で描き出していて、非常に興味深く観賞できました。

でも、この映画は「歴史的事実と異なっている!」という批判も多く、特にジョーン・クラークとの関係性について原作者のアンドリュー・ホッジスは「チューリングの同性愛指向をきちんと描いていない」とコメント。また、チューリングの親族は「クラークはもっと地味な女性でキーラ・ナイトレイの起用は不適切だ」と語っていたそうです(余計なお世話ではw)。

個人的には、「たとえ実話をベースにした映画であっても、面白くなるなら多少の脚色はアリじゃないの?」と考える方なんです。ただ、そんな中でもいくつか気になるシーンがありまして…。例えば、なかなか暗号が解読できなくてチューリングがクビになりそうな状況で、他の仲間たちが「彼をクビにするなら僕たちも辞めます!」とカッコよく宣言するシーンがあるんですけど、いくらなんでも現実の世界であんな青春ドラマみたいな展開はないだろうと(笑)。

それから、ようやく暗号を解読したものの、「暗号解読に成功したことがドイツ軍にバレたら、また設定を変更されてしまう」と考えたチューリングは、輸送船団を見殺しにして機密を守ろうとするんです。そして、その輸送船団に兄弟が乗っている仲間から「それでも人間か!」みたいな感じでぶん殴られるんですが、こんなことは有り得ません。

当時、ブレッチレーパークの暗号解読部隊は軍の最重要機関であり、解読された暗号は1秒でも早く知りたがっていたのです。もちろん、「こちらの成果がドイツ側にバレたら今までの苦労が水の泡だ」と考えているのはイギリス軍も同じですが、「輸送船団を助けるかどうか」は軍が判断すべき問題であって、暗号を解読した単なる数学者に口出し出来るはずがないのです。

あと、アラン・チューリングは開発した解読装置「クリストファー」を使って設定を”逆算”しようとするものの、あまりにも計算する条件が膨大すぎて、とても全部は計算し切れないと判断。そこで「何か特定のワードが含まれていないだろうか?」と考えました。もし、文章の中に毎回使われている決まった言葉があるなら、暗号化する前の文章と暗号化した後の文章を比較して、文字を変換する法則を”逆算”できるからです。

そこで調べたところ、”ある言葉”を発見します。映画では、文章の最後が毎回「ハイルヒトラー」で終わっていることに気付いた主人公が、それをきっかけに暗号の解読に成功し、「やったぞー!」と大いに盛り上がっていました。しかし実際は、ドイツ軍の各戦域で発信されていた天侯情報の中に、「天気」という言葉が毎回含まれていたことがきっかけだったようです。

本来、暗号文の中に決まった言葉を何度も使うということは、容易に元の文章を推測されてしまうため、あってはならないことなんです。つまり、アランは「エニグマの運用に関する致命的なミス」を見抜き、「クリストファー」で設定を逆算することで見事に暗号の解読に成功したのですよ。その際の言葉が「天気」では映画的にあまりカッコよくないので、意図的に変更したのでしょう(ちなみに「クリストファー」という名称も事実と異なります)。

まあ、これらの改変は映画をより盛り上げるための”脚色”ですから、いちいち批判するつもりはありません。ただ映画を観ていて、フィクションなら全く気にならないことでも、「現実に起きた出来事だ」と言われると、あまりにも行き過ぎた脚色は”過剰な演出”に見えてしまい、逆に気持ちが醒めてしまう場合があるので、なるべく控え目にしていただきたいなーと思った次第です。なお、映画自体は大変楽しめました。ベネディクト・カンバーバッチの演技も非常に良かったですよ(^_^)

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