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『スター・ウォーズ フォースの覚醒』はなぜ大ヒットしたのか?


昨年末に公開され、現在も絶賛上映中のスター・ウォーズ フォースの覚醒』が、全世界の興行収入でついに20億ドル(約2340億円)の大台を突破したらしい。これは大変な快挙で、ディズニーの重役も大喜びだとか。なんせ過去に20億ドルを超えた作品は、ジェームズ・キャメロン監督の『アバター』(27億ドル8800万ドル)と『タイタニック』(21億8680万ドル)の2つしかないのだから。

『フォースの覚醒』は、そんな歴代映画史上ナンバー3の記録を打ち立て、さらにこのままの勢いが続けばナンバー2を追い抜くのも時間の問題と言われている(中国での成績が思ったより伸びなくて厳しいという説もあるが)。いすれにしても北米では既に歴代ナンバー1を獲得しており、ウォルト・ディズニー・スタジオ史上最高のヒット作であることは間違いない。

ではいったい、『フォースの覚醒』はどうしてこんなにヒットしたのだろう?映画を観た人の反応は、「最高!」と絶賛する人から「つまらん!」と酷評する人まで様々な評価が入り乱れ(アメリカでは概ね好評らしいが)、中国ではあまりヒットしていないことを考えると、単に「映画が優れているから」という理由だけではなさそうだ。

そこで、本作を撮ったJ・J・エイブラムス監督の経歴を改めて見てみると、劇場初監督作品が『ミッション・インポッシブル3』で、以降も『スター・トレック』、『スター・トレック イントゥ・ダークネス』など、有名映画の続編やリメイク(リブート)が多いことが分かる。

一応、オリジナル作品として『SUPER8/スーパーエイト』を撮っているが、これもある意味、敬愛するスティーブン・スピルバーグ監督のオマージュが詰まった「スピルバーグ風映画の再生産」と考えれば、”一種のリメイク作品”と言えなくもないだろう。

このことから、J・J・エイブラムス監督は「作家性が希薄」、「オリジナリティが無い」などと批判されることもあるようだが、『フォースの覚醒』においてはそういう”作家性の希薄さ”が、むしろプラスの方向に働いているような気がして興味深い。つまり、自身の作家性を抑えて、”ファンが望む理想のスター・ウォーズ像”を作り出すことに徹したからこそ、多くの観客に受け入れられたのでは?と考えられるのだ。

事実、『フォースの覚醒』の脚本を書く際は、『帝国の逆襲』や『ジェダイの帰還』を手掛けたローレンス・カスダンに依頼、音楽はジョン・ウィリアムズ、音響効果はベン・バート、そしてミレニアム・ファルコン号に関しては、『帝国の逆襲』でファルコン号を作った美術監督のマーク・ハリスを起用し、まるで考古学者が古代の遺跡を発掘するかのような緻密さで、細かい部品まで忠実に再現させたという。

また、J・J・エイブラムス監督はジョージ・ルーカスアーカイブを訪れた際、使われなかった素材やアートワークをひたすら探しまくり、目ぼしいアイテムを見つけては『フォースの覚醒』で再利用するなど、過去の資産に相当こだわっていたらしい(新型Xウィングのデザインは『エピソード4/新たなる希望』の製作準備中にラルフ・マクウォーリーが描いたコンセプトアートを流用したもの)。

さらに、映画本編に投入されたオマージュの充実ぶりに至っては、もはやファンが歓喜の涙を流すほどの素晴らしさ!タイ・ファイターやスター・デストロイヤーなど、旧三部作に出て来たメカの数々を微妙に形を変えつつ再登場させ、お馴染みのライトセーバー戦も復活、おまけにミレニアム・ファルコン号に乗ったハン・ソロとチューバッカが大活躍するという、まさに「どうだ!お前らこれが観たかったんだろ?」と言わんばかりの映像の数々に古参のマニアも大満足。「ありがとうございましたッ!」と言うしかない。

各シーンに仕掛けられた”小ネタ”については、いちいち書くとキリが無いので割愛するが、一つだけ挙げると、『新たなる希望』のファルコン号に設置されていた立体映像の「モンスター・チェス(ホロチェス)」が今回も出て来る。ただしコレ、CGではなくオリジナル版を作ったフィル・ティペットが、わざわざエピソード4の時と同じモデルを新しく作り直し、当時と同じくストップモーション・アニメで撮影しているのだ!

あまりにも過剰な”旧作リスペクト”に「そこまでやるか?」と驚嘆せざるを得ないのだが、そもそもこの場面はそれほど重要じゃないというか、はっきり言ってストーリーの進行には全く関係ないシーンであり、今なら人形を1コマ1コマ動かして撮影するよりも、CGを使った方が早く簡単に出来ただろう。にもかかわらず、敢えて昔のままのやり方で人形アニメを作らせるというこだわりが凄い!

もう、ここまでくると「J・J・エイブラムスの単なる自己満足なのでは?」という気さえしてくるんだけど(笑)、細部まで徹底してこだわり抜いているからこそ、旧作のファンから多くの支持を得たことは疑いようがなく、それこそが大ヒットに繋がる要因でもあったのだろう。某映画評論家はこれを見て「(ファンに対する)過剰接待だ」と言っていたが、まさにそんな感じである(笑)。

元々、J・J・エイブラムス監督はアメリカのテレビドラマ『LOST』で注目された若手クリエイターだった。『LOST』は、劇中に様々な”謎”を散りばめ、視聴者の興味を引っ張り続けることで大人気を博し、シーズン1からシーズン6まで6年もの長期間に渡ってヒットし続けた連続ドラマである。

このドラマでJ・J・エイブラムスが目指したものは、徹底した”ユーザー本位主義”であったらしい。そのため、まずドラマの内容を後から変更が出来るように敢えて緩く作っておき、その後「視聴者の反応に合わせてフレキシブルにチューニングしていった」とのこと。この方法により、ユーザーが望む(あるいはユーザーが驚く)斬新な展開を次々と生み出し、大ヒットドラマへと成長させたのだ。

ちなみに『LOST』は、1話を作るために当時(2004年)テレビドラマとしては破格の10億円以上を費やし、業界関係者を震撼させたという。無人島に墜落した飛行機をよりリアルに見せるため、廃棄された本物の飛行機を購入、ロケ地のハワイへ運ぶだけで2000万円も掛かったそうだ(後に、「新作ドラマで10億円も使うなんてあまりにもリスキーだ」との理由で番組担当者がクビになったほど)。

そしてJ・J・エイブラムス監督は『スター・トレック』でもこの”ユーザー本位主義”を貫き、製作スタッフとして熱狂的なスター・トレック・マニア(所謂トレッキー)を採用し、徹底的に過去のシリーズをリサーチさせ、「『スター・トレック』を映画化する上で絶対に外せないポイントは何か?」を研究しまくったという(その結果、ファンから高い評価を得て続編も製作決定)。

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つまり、J・J・エイブラムス監督は「俺好みの映画を作りたい!」という自分本位の欲求よりも、ファンの意向を優先させるユーザー本位のスタンスで映画を作っている稀有な監督だったのだ。こういう商業主義的な製作姿勢に対し、「クリエイターとしてどうなのか?」という意見もあるかもしれないが、続編やリブート作品では絶大な効果を発揮することは間違いない。

ましてや、『スター・ウォーズ』はJ・J・エイブラムス監督にとっても特別な存在であり、彼自身が幼い頃からの”大ファン”だったのだ。それ故に、「自分が撮りたいスター・ウォーズ像」と「ファンが求めているスター・ウォーズ像」が、かなりの精度で合致していたことも効果的に作用したのだろう。こうして完成したのが『フォースの覚醒』なのだから、ファンが納得しないはずがない。

まあ、「旧作へのリスペクトが強すぎて、終盤の展開がほとんど『エピソード4』と同じになってる」等、気になる部分も無くはないんだけど、ここまでやってくれたら文句は言えないというか、文句を言ったらバチが当たりそうなので自重しておく(笑)。ただ、次回作ではせめてキャプテン・ファズマの活躍場面をもう少し増やして欲しいなあ(^.^)


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