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板尾創路主演『電人ザボーガー』ネタバレ映画感想/解説


■あらすじ『国会議員の若杉議員を名指しする犯行予告を受け、厳重警備が敷かれる中、サイボーグ組織Σ(シグマ)のメンバー、ミスボーグが現われた。そこに、Σの野望を打ち砕くべく、秘密刑事:大門豊とその相棒:電人ザボーガーが立ちはだかる。互いの宿命を背負い、壮絶な戦いを繰り広げる大門とミスボーグだったが…。1974年から75年にかけてTV放映された伝説的特撮ヒーロー番組を「片腕マシンガール」「ロボゲイシャ」の井口昇監督で完全映画化!衝撃のアクションが現代に甦る!戦え、電人ザボーガー!日本の平和を守るために!』



皆さんは電人ザボーガーという特撮テレビドラマをご存じだろうか?1974年に放映された子供向け番組なので記憶も薄れ、内容もマイナーだったために覚えている人は少ないかもしれないが、「バイクにロボットの顔面がくっ付いている」というアバンギャルドにも程があるデザインが絶大なインパクトを醸し出し、当時多くの子供達に衝撃を与えたのだ。

「バイクが人型ロボットに変形して敵と戦う」という独自のコンセプトは今見ても斬新で、その後アニメでは見かけるようになったものの実写では他に類を見ず、最近になってようやく『トランスフォーマー リベンジ』などで再現するようになったぐらいだ。そう考えると、まさに時代を先取りし過ぎた異色の特撮ヒーローと言えるかもしれない。




そんな『電人ザボーガー』がリメイクされたということで今回観てみたんだけど、予想の遥か斜め上を行く驚愕の展開にひっくり返った!なんなんだ、この映画は!?監督は『片腕マシンガール』や『ロボゲイシャ』の井口昇で、毎度お馴染みのシュールでぶっ飛んだ世界観が本作においても炸裂しまくっている。

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それを見て、「あ〜、また井口監督がやりたい放題やってるよ。どうせ原作なんか無視してるんだろうなあ(苦笑)」ぐらいに思っていたのだ(僕はオリジナルの『ザボーガー』をほとんど知らなかったので)。ちなみに、リメイク版はこんな感じ↓

ところが、映画のエンディングでオリジナル版の映像が流れると、それが本編と全く一緒であることに気付いてビックリ仰天!なんと、この映画は原作の『電人ザボーガー』を忠実に再現していたのである。

たとえば、敵の工作員に「キングアフリカ」という悪役キャラがいるんだけど、目にピンポン玉をくっ付けただけのチープ極まりないコスプレで、「いくらなんでもコレはないわ〜。井口監督、どんだけ手を抜いてるんだよw」と軽く失笑していたのだ(リメイク版キングアフリカの画像がこちら↓)

しかし、オリジナル版を見てみると…↓


うわっ、そのまんまやん!
むしろリメイク版の方がちょっとマシになってるよ!

いや〜、これには本当に驚いた。てっきり監督の趣味でわざとチープにアレンジしてるんだろうと思ったら、まさか原作通りだったとは(笑)。逆にオリジナルの『電人ザボーガー』って、どんだけふざけた番組だったんだよwww

気になって調べてみると、『電人ザボーガー』は『マグマ大使』や『快傑ライオン丸』を作ったピー・プロダクションピープロ)の制作なのだが、当時のピープロは大変な赤字経営で、まともに特撮番組を作る余力がなかったため、別の会社に制作を委託していたらしい。なので画面全体に貧乏臭い雰囲気が漂っているわけなのだが、少年時代の井口監督はなぜかこの雰囲気に感銘を受けたという。

そして映画化が決まった時、「よし!オリジナル版が持っている独特の(貧乏な)テイストを徹底的に再現してやろう!」と心に誓ったそうだ。普通、昔の作品をリメイクする際には、現代風のアレンジを加えてカッコよくしようと考えるものだが、井口監督は逆に70年代の雰囲気をそのまま甦らせることにこだわったのである。

上記のキングアフリカのデザインに関しても、あまりにも酷い原作デザインを見かねたスタッフが「もう少しどうにかしましょう」と提案したにもかかわらず、「変更は一切加えない!絶対このまま再現すべきだ!それがザボーガーの世界観を象徴するものなんだッ!」と強引に押し切って造形担当者に制作を頼んだら、なんと原価50円以下で出来たらしい(笑)。この件に関して、井口監督は次のように語っている。

「オリジナル版が素晴らしいのは、ピンポン玉を輪切りにして目にはめて”サイボーグだ”とヌケヌケと言い張ってるふてぶてしさですよね(笑)。僕はいつも思うんですけど、日本で海外の映画に対抗できるものって何だろうと考えたとき、ビッグ・バジェットでできないアイデアをやることだと思うんです。いくらマイケル・ベイでも、目にピンポン玉をはめ込むことはできないだろう(笑)。やったら映画会社から怒られるだろうと(笑)。それが逆に、俺たちにしかできない強い表現じゃないかと思って、衣装さんにDVDを観てもらって、敵の幹部はそのまんまのデザインで作ってもらったんですよ。」 (「『電人ザボーガー』&ピー・プロ特撮大図鑑」より)

というわけで、リメイク版『電人ザボーガー』は井口監督の意向を全面的に取り入れた結果、オリジナル版の完全再現を目指した凄まじい作品になってしまった。

銀色のタイツに2本の角を生やしたミスボーグのデザインも、今だったらコントの衣装にしか見えないが、井口監督は「あの角がいいんだよ!あれこそ僕が見てきた70年代の宇宙人だ!それをそのままの質感で出す。これは今までのリメイク物では誰も成し得なかったことなんだ!」と力説。その結果、息を飲むほどダサいコスチュームが完成したのである。


このように、映画版の『電人ザボーガー』は、一見すると非常にダサくて貧乏臭い。だが、それはあくまでも1970年代のテイストを再現するためにわざとやっているからで、実際は井口監督のこれまでの作品の中で最も巨大なバジェットを費やしているのだ(本人は「初の1億超えだ!」と大喜びだったらしい)。とは言え、劇場用作品の規模としてはそれほど贅沢な予算があるわけでもなく、現場では常に製作費を切り詰めていたという。

中でも一番苦労したのがトラックを改造したブルドッグ型ロボ「ブルガンダー」で、井口監督としてはどうしても作りたかったものの、さすがにトラックを購入する予算は全くない。そこで、運送会社に勤務している友人にダメもとで「会社のトラックを貸してくれないか?」と頼んだら、なんとあっさりOKが!おかげで、どうにかブルガンダーを登場させることができて大喜び。しかし撮影終了後、ブルガンダー状態のままトラックを返却したら、「あのブルドッグの顔を何とかしろ!」と運送会社から苦情が来たらしい(当たり前だw)。


さらに、映画版は若い主人公を描いた「青年篇」と、年を取った「熟年篇」の2パートに分かれ、ドラマの前半では若手俳優古原靖久、後半は板尾創路演じる”くたびれ果てた主人公”が登場。糖尿病を患い、ギックリ腰に悩まされながらも、赤いヘルメットを被った中年ヒーローが「電人ザボーガー!ゴォーッ!」と叫んで懸命に悪と戦う姿のなんという素晴らしさ!完全に『ごっつええ感じ』の雰囲気を醸し出してますが(笑)。


おまけにクライマックスでは、巨大化した女子高生ロボ(?)の体の上で2台のバイクが激しい死闘を繰り広げるという、何が何だか全く分からないアクションシーンも大炸裂!もちろんこの場面も、原作を忠実に再現したものであることは言うまでもない。うわあああ!


というわけで、本作は井口監督の”ザボーガー愛”が溢れまくった奇跡のロボット・アクション映画になっている。本編の面白さにも驚いたが、それ以上に「70年代にはこんなにフリーダムなヒーロー番組が堂々とテレビで放送されていた」という事実に一番衝撃を受けた。電人ザボーガー恐るべし!

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