■あらすじ『ある日目覚めた時、傭兵のロイスは地上に向かって落下していた。落ちた場所はどこかも分からない熱帯雨林地域。彼が意識を取り戻し、周囲を探索すると同じように降下してきた人物ら7人と合流する。彼らはそれぞれ軍人、用心棒、特殊工作員、ヤクザ、強姦殺人犯の死刑囚などロイスと同じく様々な「殺し」をしてきた人物ばかりであった。いったいなぜ彼らが選ばれたのか?8人のメンバーは周囲を探索するうちに自分たちが降下していた場所が地球とは全く違う未知の惑星であること、そしてこの場所で何者かが『狩り』を行っていることに気づく。果たして生き残るのは誰か?そして彼らは再び地球に戻ることはできるのか?生き残りを懸けた、最強のプレデターと最強の人類との壮絶な戦いが今、幕を開ける!』
本日、金曜ロードSHOWにて『プレデターズ』が放映される。アーノルド・シュワルツェネッガーが主演した1作目の『プレデター』の大ヒットにより、その後、続編の『プレデター2』や外伝とも言うべき『エイリアンVSプレデター』が作られるなど、人気キャラクターとして多くのファンを獲得していったプレデター。
世間的な評価としては、おそらくジョン・マクティアナンが監督した1作目の『プレデター』が一番面白いと思われているのだろう。僕自身も1作目は大好きで、「広大なジャングルで姿の見えない凶悪宇宙人と戦う特殊部隊のメンバー」という設定を聞いただけでもワクワクさせられる。
主人公のロイスがふと目を開けると、なぜか猛スピードで上空から落下している途中だった!という意表を突いた導入シーンでいきなり観客の度肝を抜きまくる本作は、半裸のシュワ知事がバケモノと闘う『プレデター』第1作目の正当な続編だ。
当初はリメイクという触れ込みだったが、劇中で「数年前にヤツの襲撃を受けて一人だけ生き延びた兵士がいる」と語るシーンが出てくることから1作目のエピソードの続きだとわかる。なお、2作目や『AVP』に言及するシーンは無いものの、世界観的に繋がっているのでは?と思わせるシーンもチラホラ出てくるので、設定上は同一時間軸にあるのかもしれない。
内容の方は、「ハラハラドキドキの展開で面白かったです!」と書きたいところなんだけど、どうにも手放しで褒められないんだよねえコレが。「最新の銃火器で武装した8人の戦闘エキスパート達が未知の惑星で凶悪なプレデターを相手に壮絶な戦いを繰り広げる!」という事前情報には期待値MAXだったのに、実際に観てみると「コレジャナイ」感が凄かった。
まず、ストーリー自体がかなり荒唐無稽だ。それはまあいいんだけど、このような大ボラ話に説得力を持たせるためには、出来るだけリアルな要素で周囲を固めなければならない。例えば1作目ではシュワちゃん率いる特殊部隊の活躍を徹底してリアルに描くことで、物語の説得力をしっかり確保できていた(あまりにも特殊部隊をリアルに描き過ぎたため、うっかりSF映画だということを忘れてしまうほどに)。
それに比べて、『プレデターズ』の場合は細部の作り込みがかなり甘い。地球とは全く生態系の異なる未知の惑星が舞台であるにもかかわらず、その風景はほぼ地球と大差無いのだ。生えている木や植物なども全く一緒。
しかもスルーしていれば「地球の植物に良く似た種類なのだろう」で回避できるのに、「この花にはこういう特徴があって…」などと余計な解説を入れる始末。オイオイもう完全に地球の植物じゃん!それともプレデターが大量の植物をわざわざ地球から運んでここに植えたのか!?
プロデューサーのロバート・ロドリゲスによると「地球人が適応しやすいように、地球型の環境を作ったんだ」という設定らしいがそれもおかしい。なぜなら、あの惑星には地球人以外の異星生物も送り込まれているからだ。そいつらは適応できなくてもいいのか?素直に「完全な異世界を再現できるほどの予算が有りませんでした」と言われた方がまだスッキリするぞ。
1作目の時は「ジャングルの奥地に一匹だけエイリアンがやって来た」というかなり小規模なウソだったため、そのウソを成立させるためのギミックも最小限で済んでいた。しかし、今回はウソのレベルが格段にデカいため、少々のごまかしでは追い付かなくなっているのだ。
その結果、「あ〜、なんかハワイみたいな惑星だなあ(実際ハワイで撮影された)。これなら”地球”っていう設定でも良かったんじゃないの?」などと考えてしまい、観ている間中ずっと映画に入り込めなかったよ、トホホ。
まあ、「誰も見た事の無い架空の惑星」を作り出すのは確かに難しいだろう。斬新なイマジネーションが必要だし、何よりもお金が掛かる。しかし、過去にリドリー・スコットが『エイリアン』を撮った時のように、困難を乗り越えてイマジネーションを具現化しようと頑張っている監督は大勢いるし、そういう志の高さは画面に現れるんじゃないだろうか。ジェームズ・キャメロンの『アバター』みたいなクオリティに達することは無理だとしても、もう少し違うアプローチはできたと思う。そこが残念だった。
続いて、キャラクターについて見てみると、8人のキャラはそれぞれ個性的でそれなりに魅力もあるんだけど明らかに”掘り下げ”が弱い。全員が別々の場所から連れてこられたため、誰がどういう人間なのか分からないのは当然だが、話が進んでも相変わらず彼らの背景が見えてこないのは問題だろう。
中でも一番の謎人物はハンゾーである。元ヤクザという設定らしいのだが、セリフが極端に少ないため何を考えているのか分からないし、他の登場人物との交流も描かれない。にもかかわらず、クライマックスでいきなり彼は命懸けで仲間を助けるという重要な行動に出るのだ。
このシーンの不自然さはもう只事じゃあない(「え?なんで?」と思わず目が点になったよ)。「ここは俺にまかせて、お前らは先に行け!」と目で合図を送るハンゾー。一見、良くあるかっこいいシーンの典型だが、ちょっと待ってくれ。君たちはいつの間にそんなに互いを信頼できるようになったんだ?
まあ確かに、少年マンガを読んでいてもこういうシチュエーションは普通に出てくるし、アニメでも「主人公たちを助けるために自己犠牲の精神を見せるライバルキャラ」という場面は感動の涙を誘う定番シーンだ。しかし『プレデターズ』では全く感動できない。いったいなぜか?
例えば(『ジョジョの奇妙な冒険』を知らない人には意味が分からないと思うけど)、『ジョジョ』第2部のジョセフ・ジョースターとシーザー・ツェペリは、最初は互いに忌み嫌い合い、非常に仲が悪かったものの、数々の戦いや修行を経て絆を深め、最終的にシーザーはジョセフを救うために命を落とす。
要するに『プレデターズ』の”ハンゾーが死ぬシーン”は、単に「結果」を描いているだけで途中の「信頼関係が発生する過程」が丸ごと省略されているために、ドラマがドラマとして成立してないのである。これでは感動できるはずがない。
ある有名な映画監督も、「アクションシーンにおいて最も重要なことはアクションそのものではなく、なぜそのアクションに至ったのかという過程を描くことだ」と述べている。つまり、かっこいいアクションシーンだけを唐突に提示されても状況に感情移入できず、観客の心は空しく迷走するだけなのだ。
ハンゾーのシーンもまさに「カッコ良さだけを優先して中身が伴っていない珍場面」として作品のレベルダウンに大きく貢献していると言わざるを得ない(てゆーか、もはやギャグシーンだよw)。
このように、本作の登場人物は描かれ方があまりにも適当過ぎて、個々のエピソードも取って付けたような違和感ばかりが強調されているのだ。ホラー映画の定石パターン通り、8人のメンバーは一人ずつプレデターに殺されていくものの、描写が適当だから感情移入できない。
なので、誰が生きようが死のうがどうでもいい感じになってくる。故に、全体的に緊張感を欠いた印象しか残らないのだ(主人公すら何を考えているのか良く分からないってのは、さすがにちょっとつらすぎる)。
あと、肝心のプレデターに個性が感じられないのもどうなのかと。今回、襲ってくる新プレデターは3体(他、つかまってるヤツ1体)いるんだけど、正直言って見分けがつかない。しかも、今までのプレデターに比べて強くなっている感じが全然しないのだ。
過去のシリーズでは『プレデター2』、『AVP』、『AVP2』と回を重ねる毎にそれぞれ手裏剣(?)や槍など新しい武器が追加されてきたが、今回は何かパワーアップした要素があったっけ?光学迷彩にプラズマ・キャノンにリスト・ブレイド…って1作目と同じやん!「ヤツらは進化する」ってどこがだよ(泣)。
しかし、その一方アクションシーンに関しては概ね不満無し。「さすがロドリゲス!」と納得のガンアクションを堪能できる(監督は別の人だけど)。MPS AA12やシグブレーザーR93など映画では珍しい銃が多数登場しているのもガンマニアには嬉しい。
さらに、1作目でド派手に使用された携行型ガトリングガン(GE M134)も再び登場して豪快に銃弾をぶっ放している。派手なだけで全然役に立たないところも前作と一緒だ(笑)。
というわけで、主に世界観の説得力不足と人物描写の甘さについて不平不満をダラダラ書いてしまったが、元々ロバート・ロドリゲス監督は拳銃をバンバン撃ちまくって「うひょー!かっこいいー!」と大喜びするようなB級映画ばかり作ってきた人なので、ある意味当然の結果と言えなくもない。どうせなら、思い切ってもっとバカバカしいストーリー展開にした方が良かったんじゃないかな。
例えば『フロム・ダスク・ティル・ドーン』とか『プラネット・テラー』みたいに、「8人のメンバーがどこかの山小屋に逃げ込むとプレデターの集団がゾロゾロと襲い掛かってきた!そこで始まる必死の攻防戦!生き延びるのは誰だ!」とかさ。まあ、『プレデター』のファンは激怒するだろうけど(笑)。
ちなみに、予告編では主人公が複数のレーザーポイントを照射されているシーンがあり、数えてみたら全部で12個だった。つまり、計12体のプレデターから同時にロックオンされている状況であろうと推測できる。しかしなんと、映画にこんなシーンは出てこない!襲ってくるプレデターも最大3体で、しかも同時には出現しないのだ(レーザーポイントの照射も1個だけ)。
「いったいどういうことなんだろう?」と思ったら、なんと予告編を制作する会社が勝手に劇中には無いシーンを作り出していたらしい。ええええ!マジか!?
あまり知られていないかもしれないが、映画の予告編は専門の会社が本編の完成前に作り上げる場合が多く、提供された素材を元に、面白そうなシーンを上手く繋ぎ合わせて、観客の期待を煽る予告編を制作(創作?)しているのだ。
その過程で、シーンの時系列を入れ替えたり、本編では使用されない楽曲を使用したり、意図的に作品のニュアンスを歪曲した予告編が出来上がってしまうことも良くある話なんだとか。「思ってた内容と全然違う!」という批判が生まれる裏側には、こういう事情もあったのである。
しかし、例えそうだとしても『プレデターズ』の予告編はちょっと酷い。なんせ、画像を勝手に加工して本編には存在しないシーンを捏造しているのだから。果たしてこういう行為が許されるのだろうか?
問題のシーンはまさに「大勢のプレデターに取り囲まれて絶体絶命の主人公」というシチュエーションであり、「この後、彼はどうなってしまうんだ?」と気になって劇場に駆け付けた観客も大勢いただろう(僕もその一人)。そういう人たちの期待を裏切った責任はいったい誰がとるのか?完全に「予告編詐欺」じゃん!(`Д´) ムキー!
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