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映画『新幹線大爆破』はこうして作られた

映画『新幹線大爆破』

映画『新幹線大爆破


どうも、管理人のタイプ・あ~るです。

さて本日、NHKBSで映画新幹線大爆破が放送されました。もう45年も前の映画だし、BSでは過去に何度も放送されているので「観てる人は少ないだろう」と思ってたんですが、なんとツイッターのトレンドに入っていてビックリ!みんな意外と観てるのね(^^;)

さて、1975年に全国の東映系で公開された本作は、当時としては破格の製作費が投じられ、日本では珍しい本格的な「パニックサスペンス超大作」として話題になりました。

簡単にあらすじを紹介すると、「零細工場の社長だった沖田(高倉健)が経営に失敗して借金を背負い、仲間たちと共謀して完全犯罪を計画。新幹線に爆弾を仕掛け、”走行速度が80km/hを下回ると爆発する”と脅迫したことで、犯人・警察・国鉄の死力を尽くした凄まじい攻防戦が勃発…!」みたいな感じで非常に面白くてスリリングな内容です。

出演者も大スター:高倉健を筆頭に、千葉真一宇津井健山本圭竜雷太、多岐川裕美、志穂美悦子岩城滉一小林稔侍、丹波哲郎北大路欣也志村喬田中邦衛など有名俳優が多数集結し(一瞬しか映らない人もいますがw)、まさに豪華キャスティング!

しかしながら、こういう大規模なパニック映画が日本で滅多に作られないのはそれなりの理由があるんですよねぇ。

というわけで本日は、超大作映画『新幹線大爆破』が完成するまでの”苦難に満ちたエピソード”の数々をご紹介しますよ。

映画『新幹線大爆破』

映画『新幹線大爆破

新幹線大爆破』が公開された1970年代、世間では「パニック大作映画」がブームになっていました。巨大空港を舞台にした『大空港』や豪華客船を舞台にした『ポセイドン・アドベンチャー』、超高層ビルの火災事故を描いた『タワーリング・インフェルノ』などが大ヒットし、日本でも東宝の『日本沈没』が注目を集めていたのです。

そこで当時、東映の社長だった岡田茂は「我が社でもパニック映画を作るぞ!」と思い立ち、タイトルも自分で「『新幹線大爆破』だ!これで行こう!」と決定(ちなみに岡田社長は世間の流行をいち早く取り入れることが大好きで、アメリカで『スター・ウォーズ』が大ヒットしていることを知るやいなや、「日本で公開される前にうちでも作れ!」と命じて宇宙からのメッセージを制作したのは有名な話ですw)。

そんな岡田社長がゴーサインを出した企画ですから、当然スタッフたちは全力で『新幹線大爆破』に取り組まねばなりません。しかし、協力を求めた国鉄(現JR)は「安全をウリにしている新幹線のイメージがダウンしてしまう」と猛反発(まぁ「そりゃそうだろう」って感じですがw)。

東映のスタッフは何とかして協力してもらおうと粘り強く話し合いを続け、国鉄側も「せめてタイトルだけでもどうにかならないか?」と妥協案を出すものの、岡田社長が「絶対にタイトルは変えない!」と突っぱねたため交渉は決裂。結局、国鉄の協力なしで映画を作ることになってしまいました。

 

困ったのは制作スタッフです。なんせ新幹線を主な舞台としたストーリーですから、肝心の新幹線がなければ企画自体が成立しません。そこでどうしたか?

なんと、実際に新幹線を作っている会社から必要な材料を購入し、美術部が撮影所内に本物そっくりの「ひかり号」のセットを組み立ててしまったのです。つーか使ってる部品も本物だから、もはや”本物の新幹線”でしょコレ!スゲーな!

あまりにも巨大すぎて撮影所のスタジオを2つブチ抜いて作った実物大の新幹線のセットは、本物の椅子や壁面や網棚などを発注して完璧に再現しているため、画面では本物と全く見分けが付きません。いくら国鉄の協力を得られないからって、まさか新幹線を丸ごと作ってしまうとは…。今じゃ絶対にこんなこと出来ないだろうなあ(ちなみに部品を売った会社は国鉄からメチャクチャ怒られた挙句、3年間の出入り禁止を食らったらしいw)。

映画『新幹線大爆破』

映画『新幹線大爆破

さらに東京駅のホームも撮影許可がおりなかったため、本物そっくりのホームをオープンセットで再現し、線路が見える場面は西武線など私鉄に協力してもらって撮影したそうです(なお、どうしても必要な場面ではカバンの中にカメラを隠し、無許可のゲリラ撮影で乗り切ったというのだからムチャクチャですなw)。

また「2台の新幹線がすれ違うシーン」などは本物の新幹線でも撮影が難しいため、ミニチュアを使った特撮で対応することになりました。しかしミニチュアとはいえ、12輌編成の新幹線の場合は全長12メートル、それを走らせる線路の長さは300メートルにも達し、撮影所の敷地からはみ出すほどの大きさだったそうです。

このミニチュアが非常に精密でハイクオリティなんですけど、それもそのはず、本作で特撮美術を担当したのは『ウルトラマン』や『ウルトラセブン』などでデザイナーを務めた成田亨さんなのですよ!

成田さんが作り上げたミニチュアセットは細部に至るまで驚くほどリアルで、プロデューサーの坂上順さんも「実写で撮ったカットも入っているが、観客にはミニチュアと実写の区別がつかないだろう。それぐらい上手く出来ている」と豪語していました。

映画『新幹線大爆破』

映画『新幹線大爆破

この特撮シーンで活躍したのが、当時「世界に3台しかない」と言われていたシュノーケル・カメラです。それまでの大きなカメラでは入れなかったような狭い空間にもレンズが入るため、様々なアングルでの撮影が可能になったという。

ちなみに当時のシュノーケル・カメラは、まだCM以外にほとんど実績がなく、長編映画で使われたのは『新幹線大爆破』が初めてだったらしい(数年後に『スター・ウォーズ』でも使用された)。

しかし、シュノーケル・カメラのレンタル料は1日100万円と高額で、それを1ヵ月使用したからカメラ代だけで3000万円。さらにミニチュアの製作費が2000万円、特撮全体のコストは6000万円など、莫大なお金がかかってしまいました。その結果、本作の製作費は東映の作品において過去最大の5億3000万円に達したそうです。うわあああ…

映画『新幹線大爆破』

映画『新幹線大爆破

おまけに撮影スケジュールも非常にタイトで、国鉄との交渉が難航してなかなか進まず、ようやく結論(協力拒否)が出た時には公開日が目前に迫り、「撮影期間が5週間しか取れなかった」とのこと。

監督を務めた佐藤純弥さんによると、「クランクインが遅れたせいで時間が全然なかった」「朝から晩まで撮影し続け、最後の1週間は1日2時間か3時間ぐらいしか寝られなかったよ」「完成したのは封切りの2日前で、本当にギリギリだった」など、大変な状況だったようです。

ただ、佐藤監督自身はそんな状況をむしろ楽しんでいたらしい。

たしかに国鉄に断られた時はガックリきた。でも東映から「やめるか?」と言われたら反射的に「いや、やめない!」って。活動屋っていうのは面白いもんで、ダメだと分かるとさらにやりたくなるんだよね(笑)。撮影所全体が「面白れぇ、やってやろうじゃねえか!」という雰囲気になって。美術スタッフなんかも「東京駅でロケできない?じゃあ東京駅を作ってやらあ!」みたいな感じで、逆に闘志を燃やしてた(笑)。

どうやら現場はノリノリだったようですね(笑)。まあ、そんなわけで様々な困難を乗り越えて『新幹線大爆破』は完成し、無事に全国の劇場で公開されたんですが…なんと全然ヒットしなかった!?

正確に言うと、都心部ではそこそこの客入りだったようですが、地方ではサッパリ。特に、当時はまだ新幹線が通っていなかった北海道や東北などの成績が最悪で、途中で打ち切りになった劇場もあったという。結果、5億3000万円の製作費に対し、配給収入はわずか3億円。東映が社運をかけて制作した超大作映画は、まさかの失敗に終わってしまったのです、トホホ。

しかしながら捨てる神あれば拾う神あり(?)、ダメもとで海外へ持って行ったところ、アメリカやヨーロッパなど世界各国で予想外の高評価!中でもフランスでの成績が凄まじく、同時期に公開された『タクシードライバー』に次ぐ驚異的な大ヒットを記録したそうです。

一体なぜ海外でここまでヒットしたのでしょうか?

実は海外で公開したバージョンは大幅な再編集が施されており、日本版が152分なのに対し、アメリカ版は115分、フランス版に至っては100分という短さ!なんと50分以上もカットされていたのです(どうやら「犯人側の描写」をバッサリ削除したようですが、それってもう全然違う映画になってるんじゃ…?)。

ともあれ、公開時には失敗したものの海外で大ヒットしたことで日本でも再び注目され、その後「月曜ロードショー」で放送されると高視聴率を稼ぎ出し、ビデオ・LD・DVDなどが発売される度に売れ続け、現在に至るまで多くの人が本作に触れるようになったのは、結果的に良かったんじゃないでしょうか。

 

映画監督 佐藤純彌 映画(シネマ)よ憤怒の河を渉れ Kindle版

※今回の記事の一部はこちらの本を参照しています