■あらすじ『古代ローマの時代、世界でもっとも美しい宝石と呼ばれた“クリムゾン・ハート”。それは現在、“光の首飾り”と“真紅のルビー”に分けられ、それぞれ老盗賊ドーソンとアジアの闇社会を牛耳るMr.プラムックの所有物となっていた。互いに相手の秘宝を狙い合う2人だったが、ついにMr.プラムックがドーソンの暗殺に成功し、“クリムゾン・ハート”が復活する。ドーソンの仇をとるべく、秘宝の奪還に乗り出すルパン三世(小栗旬)。しかし、その先には予想外の結末が待ち受けていた…!TVアニメ版でも知られるモンキー・パンチの国民的人気漫画を、小栗旬・玉山鉄二・綾野剛・黒木メイサ・浅野忠信など豪華なキャスティングで実写映画化したアクション・エンタテインメント超大作!』
小栗旬主演の実写映画版『ルパン三世』を観て来ました。いや本当は3週間ぐらい前に観たんですが、なかなか記事を書く気力が湧かなくて放置してたんですよ(理由は察してください…)。久々の北村龍平監督作品ということで、それなりに楽しみにはしてたんですけどねえ。
まず、本作に対する僕の個人的なスタンスを述べておくと、北村龍平監督の作品はだいたい観ています。特に『VERSUS(ヴァーサス)』は今でも大好きな作品で、DVDを買って何度も繰り返し観るほどお気に入り。まあ、上戸彩主演の『あずみ』や『ゴジラ FINAL WARS』なども一応劇場で観ましたが、そちらは割とどうでもいい感じでしたね(笑)。
一方、そんな北村龍平監督に対する世間一般の評価は結構厳しくて、今回の『ルパン三世』に関しても公開前から「絶対にコケる!」「間違いなく駄作だ!」などと陰口を叩かれ、さらに前田有一の『超映画批評』では「100点満点で3点」という信じられないような低評価を下される等、全くいい噂が聞こえてきませんでした。ところが、いざ公開されてみれば、初登場でいきなり第2位という見事なスタートを記録!週末2日間で観客動員33万5148人、興収4億4412万1700円という素晴らしい成績を叩き出したのですよ。その後も順調に客足を伸ばし続け、現時点での累計興収は15億円を突破し、なんと早くも”パート2の企画”が動き出しているとか。
北村監督曰く、「続編では今回あまり見せていない峰不二子のお風呂シーンをもっと増やしたい(笑)。不二子が全裸のまま誘拐される場面から物語をスタートさせようと思う。スケジュールを合わせて2年後には作りたいね」とやる気満々なコメントを連発。
また、先日ロサンゼルスにて開催されたインターナショナル・プレミア上映会では、約600人の観客から拍手喝采を浴び、「ハリウッドの観客は善し悪しがハッキリしている」とご満悦の様子。映画が大ヒットしたことで、普段から自信過剰気味だった北村監督の態度が、ますます大きくなってるような気がします(笑)。
確かに、僕が劇場へ観に行った時も、かなりのお客さんが入っていたのでヒットしていることは間違いないようですが、映画の内容自体は正直「う〜ん……」と首を捻らざるを得ない感じでしたねえ。この現象をどう解釈すればいいのか?北村監督が考える「面白い映画の定義」と「観客の嗜好」が一致してきたということなのか?
その辺の事情はよく分かりませんけど、とりあえず僕がこの映画を観て感じたことをできるだけ客観的に書いてみたいと思います。以下、ネタバレしてるのでご注意を!
まずキャスティングについて。有名な原作漫画を実写化するわけですから、当然「誰がルパンを演じるのか」については最も気になる部分でしょう。しかも、アニメ版は山田康雄さんのイメージが定着しているので、そこから外れた途端に「ルパンじゃない!」と言われてしまう可能性が大きいわけですよ。
そんな厳しい条件の中で、小栗旬さんはかなり健闘していたんじゃないかと思います。なるべくルパンの雰囲気を再現しつつ、でも単なるモノマネにはなってないという、絶妙なバランスを突いてきているなと感じました。何より、主役の座を張れるだけの”華”がある。ここが重要なのではないかなと。
ぶっちゃけて言うと、たぶん誰がルパンを演じても、ある程度の批判は避けられなかったと思うんですよ。だったら「中途半端にルパンに似ている普通の役者」よりも、「ルパンにはあまり似ていないが確実に客を呼べる小栗旬」に主役をやらせようと決めた制作側の判断は正解だったのかもしれません。
ただ、小栗さん自身はルパンを演じることに抵抗を示していたらしく、オファーを2回も断ったそうです。しかし、最終的には映画のプロデューサーであり、小栗さんの事務所の社長でもある山本又一郎氏から「やってくれ」と懇願され、断り切れずに引き受けたとか。確かに、社長命令には逆らえないよなあ(^_^;)
そんな小栗さんとは対照的に、ルパンの相棒役の次元大介を演じた玉山鉄二さんはノリノリだった様子。最初に玉山さんがオファーを受けた時点では、誰が次元役を演じるのかまだ決まっていませんでした。しかし、「次元をやりたい!」と切望していた玉山さんは、スタッフ面接の際に一番次元っぽい帽子をかぶって必死にアピールしていたらしい(残念ながらスタッフにはスルーされた模様w)。
雰囲気的な面で言うと、(今回のメンバーの中では)玉山さんの次元が最もアニメのイメージに近いですね。着ている衣装も現代劇を演じる上で違和感が無く(ルパンの赤ジャケットはさすがに現実世界では無理がありすぎw)、立ち振る舞いも次元っぽい。声がもう少し渋ければ更に完璧だったと思います。
それに対して、石川五ェ門役の綾野剛さんは微妙な感じでしたねえ。もともと「着物に刀」という現実離れしたキャラクターなので、誰がやってもハードルが高い役ではあるんですが、それにしても「原作と違いすぎる」という印象は拭えません。このキャスティングはもうちょっと検討すべきだったのでは…?
そして、ある意味主役のルパン以上に注目が集まったのが峰不二子役の黒木メイサ。なんせ、”セクシーなヒロイン部門”ではダントツの知名度を誇り、お色気キャラの代表みたいな峰不二子を演じるわけですから、注目されるのも当然でしょう。しかし、黒木さんはどちらかというと「知的で男勝りな女」という印象が強く、「峰不二子に合わないのでは?」と言われていました。
実際に観てみると、確かにアニメの峰不二子とはイメージが違います。お色気シーンも一応あるものの、むしろ”戦う女”としての側面が強調され、ミラ・ジョヴォヴィッチとかアンジェリーナ・ジョリーみたいな路線を目指しているように感じました。でもまあ、これはこれで「カッコいい女性キャラ」を表現していると考えればアリなのかも。
一方、ルパンの宿敵:銭形警部を演じた浅野忠信さんは、全身から「コレじゃない感」が漂いまくり(苦笑)。実は、浅野さん自身は「俺がルパンの実写版に出るなら次元役だな」とずっと思っていたそうです。もともと実写化の話が出る前から、浅野さんの知人からも「もし忠信がやるんだったら絶対に次元だろ」と言われ、ルパンのアニメを観る時も常に「自分が次元を演じたらどうなるか」を意識しながら観ていたとのこと。なので、銭形警部のオファーが来た時は「えっ!次元じゃなくて銭形?」とビックリしたらしい。
これは僕も全く同じ意見で、浅野さんが出演するなら絶対に次元大介を演じさせるべきでした。玉山さんの次元も悪くはないんですが、浅野さんに比べたらやはり渋さが足りません。浅野さんの方も何とかアニメの銭形を再現しようと頑張っていたものの、どこからどう見ても銭形には見えず…。正直、銭形警部のキャスティングはちょっとガッカリでしたねえ。
じゃあ、どんなキャスティングなら納得なのかと言われれば、人によって意見は違うでしょうけど、僕の考えた「実写版ルパン三世」の配役は以下のような感じになります。
●銭形警部=杉本哲太
ちなみに、実写版『ルパン三世』のキャスティングは最終決定まで何度も変更が繰り返されたらしく、その度に出演者のスケジュールが調整し直され、なかなか企画が進展しなかったそうです。最初の構想では、次元役にオダギリジョー、石川五ェ門役に藤原竜也、銭形警部役に香川照之、そして峰不二子役に沢尻エリカという豪華な配役が予定されていました。
しかし、諸般の事情で一旦リセット。その次には、次元役に妻夫木聡、五ェ門役に瑛太、銭形役に筧利夫、そして峰不二子役に長澤まさみという、これまた強力な配役が実現しそうになったものの、やはり色んな事情で頓挫してしまう。最初の構想が2009年頃らしいので、実現まで4年も掛かったことになるわけですね。
さて、キャスティングについてはそんな感じですが、肝心の内容の方はどうかと言うと、これがまあ、”いつも通りの北村龍平映画”って感じでツッコミどころ満載でしたよ(苦笑)。
とにかく、アクションの分量が異常に多くて、アクション → 場所移動 → アクション → 場所移動の繰り返しでストーリーが進んでいきます。普通の映画は「ストーリーあってのアクション」だと思うのですが、北村監督の場合は、「まずアクションありき」で作られているのが凄すぎる(^_^;)
おまけに、肝心のアクション自体もかなり微妙な感じで「ここでそのアクション必要か?」と思うような場面が続出するのですよ。しかも、金の掛け方がハンパじゃない。映画序盤、香港のトーマス・ドーソンの屋敷に泥棒仲間が集まるシーンがあるんですけど、この豪華な屋敷が既存の建物じゃなくて、なんと本作のために建てられたオープンセット!
ドーソン邸の正面の外観や、広大な庭の噴水やロータリーも全てバンコクの郊外に新築で建てられたセットだったのです。「発砲や弾着や爆破シーンを思い切り派手に撮りたい。そのためには既存の建物ではダメだ!」という北村監督の要望で、約2カ月かけて大規模なオープンセットを建て込んだそうですが、「そこまでして撮らなければならないシーンなのだろうか?」との疑念は拭えません。
言うまでもなく映画予算には限りがあるため、勢いに任せてバンバン使っていると「途中で予算が無くなった」というハメに陥るわけですが、案の定、本作も途中で予算(及びスケジュール)が足りなくなり、プロデューサーから「カーアクションのシーンをカットしてくれ」と言われたらしい。これを聞いて北村監督が大激怒!「じゃあ俺は何を撮ればいいんだ!」と詰め寄り、強引にカーアクションを撮ってしまいました。
実際に問題のチェイスシーンを観てみると、確かに無いよりはあった方がいいかな、とは思いましたが、2台の車が激しく接触するアクションの後でも、車体には傷一つ付いていないなど、どう見ても不自然な状況になっているのです。急いで撮影したためにこうなったのか、それともフィアットを壊したくなかったからなのか、本当の理由は分かりませんけど、こういう杜撰なところも北村監督っぽい感じですねえ。
その他、細かいツッコミどころを挙げていくときりが無いので割愛しますが、一番気になったのは「キャラクターが多すぎる」という点でしょう。今回の物語は、ルパン一味だけでなく、別の犯罪者たちと協力あるいは敵対しつつ、ドラマが進行していきます。
なので、ある程度登場人物が増えるのはやむを得ないんですが、それにしても必要の無いキャラが多すぎる!特に酷いのが、映画がもうすぐ終わりを迎えるタイミングで突如ルパンたちの仲間に加わる天才ハッカー:ヨゼフ(ジャエンプロム・オンラマイ)。「え?こんなところで新キャラを投入するの?」とビックリしましたよ。さすがの小栗ルパンも「てか、アンタ誰?」と思わず突っ込むほどの有様です(笑)。
実はこの人、地元タイでは有名なコメディアンで、タイでの撮影中に(何らかの事情で)急遽出演が決まったらしい。しかし、エキストラとかカメオ出演(嫁の山田優w)ぐらいならまだ分かりますが、飛び入り参加の現地人が正式な登場人物として途中から物語に絡んでくるなんて、常識的に考えて有り得ないでしょう(脚本も書き直さなければならないし)。なんかもう、映画の作りがあらゆる部分において”いきあたりばったり”に感じられ、それが一番残念でしたねえ。
さらに不満な点は音楽が違うこと。ルパン三世と言えば、アニメ版でお馴染みの”あのテーマ曲”を思い浮かべる人も多いでしょう。大野雄二さんが作曲した有名な「ルパン三世のテーマ」はいまだにアニメファンに親しまれている名曲ですからね。
ところが、「ルパン三世のテーマ」の著作権はアニメシリーズを放映していた日本テレビの関連会社が保有していたため、実写版『ルパン三世』を製作するTBSには「使用許可を出せない」と断られたらしい。困ったTBSサイドは、結局ミュージシャンの布袋寅泰さんに依頼し、新しい「ルパン三世のテーマ」を書き下ろすことになったそうです。
まあ、これはこれでいい曲なんですが、やはり”あのテーマ曲”でなければしっくり来ないというか、逆に大野雄二さんの曲を使っていれば、実写版でもかなり”ルパン三世らしさ”がアップしていたと思うので、ぜひともあの曲を使ってもらいたかったですねえ。
逆に良かった点は、映画が始まる前の「映画泥棒」の映像が「ルパン・バージョン」に変わっていたことです。泥棒のルパンが「映画を盗む行為」に注意を促すという、ある意味「お前が言うな」の世界ですが(笑)。正直、あのカメラ男は見飽きたので、他の映画でもこういうバージョン違いを流して欲しいと思いました(^.^)
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