■あらすじ『1993年、泥沼化する内戦を鎮圧するためソマリアに兵士を派遣したアメリカ。なかなか収束しない内戦に焦り始めたクリントン政権は、10月3日、ついに敵対するアディード政権の本拠地への奇襲作戦を決行するため特殊部隊を投入。作戦はものの1時間足らずで終了するはずだった。しかし、敵の思わぬ逆襲に遭い、ヘリコプター(ブラックホーク)が撃墜されてしまう。敵の最前線で完全に孤立した兵士たちは必死に応戦するが、一人また一人と仲間が倒れていく……。米軍にとってベトナム戦争以来最大の銃撃戦となったこの軍事作戦を、リドリー・スコット監督が“市街地戦”という究極の混沌状況における壮絶な戦闘シーンとして臨場感たっぷりに描き出した衝撃の戦争アクション!』
本日、水曜プレミアシネマで『ブラックホーク・ダウン』が放映されます。ジョシュ・ハートネット、ユアン・マクレガー、トム・サイズモア、サム・シェパード、エリック・バナ、ウィリアム・フィクトナー、オーランド・ブルームなど、錚々たるメンバーが集結したハリウッド超大作ですが、内容は「敵地のド真ん中に落下したアメリカ兵が、ゾンビのように押し寄せてくる敵を必死に撃退する」という、リアルで悲惨な戦争映画です。
なんせ、ストーリーの大半が戦闘シーンですからね。『プライベート・ライアン』のオマハ・ビーチの場面が延々続いてるようなもんですよ。まあ、それもそのはず、特撮を担当したのが『プライベート・ライアン』で例の地獄絵図を再現したニール・コーボールド・スペシャルエフェクト社ですから。『グラディエーター』ではアカデミー視覚効果賞を受賞し、『バンド・オブ・ブラザーズ』で更に戦闘描写に磨きをかけた同社が、再びリドリー・スコットと組んで空前絶後の戦争アクションを生み出しました。リアリティ溢れるその映像はまさに圧巻!
そんなピエトロさんは、リドリー・スコット監督と組んで何年も一緒に仕事をしていたのですが、実は『ブラックホーク・ダウン』の編集をやった後に、一度リドリー・スコットから離れているのですよ。いったいなぜなのか?
ビジュアルに対しては恐ろしいまでのこだわりを見せるリドリー・スコット監督ではあるものの、編集に対しては意外と自由にやらせてくれるらしく、最初に粗編集でフィルムを繋げる段階では”好きなように繋げてくれ”と、そのほとんどをスタッフに任せているそうです。そして、大まかな編集ができたところから、”本格的な編集を始めよう”という段取りなんだとか。ところが、困ったことにリドリー・スコットの映画は撮影素材の量が多すぎるのですよ。
なんせ本編の40倍から60倍に達する膨大な量のラッシュフィルムがあるのだから尋常じゃない。しかも、ただ繋げるだけでなく、ラフに繋いだ4時間から5時間にも及ぶ映像を、いかに2時間のファイナル・カットに仕上げるかが重要なのです。どのシーンをカットしてどのシーンを残すか、シーンを入れ替えたり、撮り直したシーンを追加したり、”どうすれば映画が良くなるか?”といった試行錯誤を半年ぐらいかけておこない、最低でも7〜8回は編集をやり直すのだとか。
しかし完成したフィルムをプロデューサーに見せると、ここを変えろとかあそこをカットしろとか、色んな要求が出てきます。更に”オーディエンス・プレビュー”という覆面試写会がクセモノで、200名ぐらいの観客に出来たばかりの映画を見せてアンケートを採るのですよ。その結果、観客がわからない箇所や反応の悪いシーンがあったりすると、またしてもプロデューサーが再編集を要求してきて再び編集のやり直し。とにかく、ひたすら苦労の連続だそうです。
そんな中でも一番苦労したのがこの『ブラックホーク・ダウン』でした。戦闘シーンだけで90分もの長さがあり、しかもヘリの墜落シーンでは10台のカメラを同時に回していたのでエディターは大混乱。「こんなにフィルムが多いんじゃ、時間がいくらあっても足りないよ!」と悲鳴を上げていたそうです。しかも『ブラックホーク・ダウン』は脚本無しで撮影に突入したため、編集段階では何がどうなっているのか展開が全然分かりません。
結局、総ラッシュ数は80万フィート(約148時間)にも達し、リドリー・スコット自身も全部をチェックし切れないほどの凄まじい分量になりました。それでもピエトロ・スカリアさんは、「戦争映画では100万フィートを超えることが当たり前だからどうってことないよ」と全てのラッシュを黙々とチェックしたそうです。このカオスすぎる状況を見事にまとめた編集は絶賛され、アカデミー最優秀編集賞を獲得しました。
こうして無事に『ブラックホーク・ダウン』を完成させたピエトロさんでしたが、その直後に「少し休ませてくれ」と疲労が限界に達していることを訴えたのです(無理もない)。しかし、リドリー・スコットはすぐに次回作の『マッチ・スティック・メン』に取りかかろうとしていたため、仕方なくピエトロさんは代わりの編集者を推薦しました。それが女性エディターのドディ・ドーンです。
ドディ・ドーンの仕事といえば、クリストファー・ノーラン監督の出世作『メメント』の編集が有名でしょう。物語の結末から映画がスタートし、ひたすら時間を遡っていく独特の編集技法は当時多くの観客の度肝を抜きました。『メメント』を観たピエトロ・スカリアも「なんて素晴らしいバックワード(逆行編集)だ!」と感激してドディを推薦したらしい。
結局、『キングダム・オブ・ヘブン』は劇場公開版とは別にディレクターズ・カット版のDVDがリリースされ、その編集をピエトロさんのスタッフが手掛けることになったそうです。そしてこの後、リドリー・スコット監督は再びピエトロ・スカリアとコンビを組んで、『アメリカン・ギャングスター』や『プロメテウス』など、次々と話題作を作り上げていったのです。やはり、いい映画を作るためには腕のいい編集マンが欠かせないんですね〜。
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