ひたすら映画を観まくるブログ

映画やアニメについて書いています

マット・デイモン主演『エリジウム』ネタバレ映画感想


■あらすじ『西暦2154年。人口増加と環境破壊で荒廃が進む地球。その一方、一握りの富裕層だけは、400キロ上空に浮かぶスペース・コロニー“エリジウム”で何不自由ない暮らしを送っていた。そこには、どんな病気も一瞬で完治する特殊な医療ポッドがあり、人々は美しく健康な人生を謳歌していた。そんなエリジウムを頭上に臨みながら地上で暮らす男マックスは、ある日ロボットの組み立て工場で事故に遭い、余命5日と宣告されてしまう。生き延びるためにはエリジウムで治療する以外に道はない。そこでマックスはレジスタンス組織と接触し、決死の覚悟でエリジウムへの潜入を試みる。ところがそんな彼の前に、一切の密入国を冷酷非情に取り締まる女防衛長官デラコートが立ちはだかった。果たしてマックスの運命は?「第9地区」のニール・ブロムカンプ監督が「ボーン・アルティメイタム」のマット・デイモンを主演に迎えて放つSFサスペンス・アクション超大作!』



ニール・ブロムカンプ監督の最新作エリジウムを観てきました。この映画、全米では大ヒットしているようですが、日本では評価的にイマイチ盛り上がってないというか、そもそも内容があまり一般受けしないらしく、僕が行った劇場も結構空いてましたよ、トホホ。まあそれも道理で、この監督は”ディテールに対するこだわりがマニアックすぎる”という大きな特徴があるんですよねえ。

まず、ニール・ブロムカンプ監督の映画は全体的に画面が汚いです(笑)。本作も近未来を描いたSF映画でありながら、街は荒廃して常に砂埃が舞っているような、いかにも不衛生な環境が舞台となっています。

そして、そこに登場するメカも驚異的に汚い(笑)。風雨に晒されて表面が錆だらけ、塗装が剥げて下地の金属がむき出しになり、オイルの跡があちこちに付着して、うるさい作動音を響かせながら動きまくるメカの数々。

また、大量に登場する銃火器もAKMアサルトライフル、レミントンM870、ベレッタM93Rなど、現実の銃器メーカーのものをアレンジし、主人公達が乗る車は日産GT-R、富裕層のシャトルはイアリアの高級自動車会社ブガッティ製、医療ポッドはヴェルサーチのデザインを使用するなど、あくまでも我々が暮らしている世界の延長線上にあることを強調しています。

これらの”いかにもそこに実在している感満載のメカ”が架空のSF世界に説得力を与え、揺ぎ無いリアリティを生み出しているのですよ。ガジェット好きにはたまりません!

更に特筆すべきは、これらのデザイン全般が、我が国の誇るSF漫画家:士郎正宗のアートワークから影響を受けていること。まあ、「士郎正宗って誰や?」という人も多いと思いますが、押井守監督作品攻殻機動隊の原作者です。

押井監督によって劇場アニメ化された『攻殻機動隊』は、日本ではイマイチだったものの、アメリカのビルボード誌でビデオ週間売り上げ第1位を記録し、『攻殻機動隊』をパクって『マトリックス』が生み出されるなど、世界中のクリエイターに多大な影響を与えました。

また、別作品のアップルシードも映画化されたり海外版が出版されたり、彼の漫画は非常に人気が高く、いまだにリスペクトされ続けているらしい(どちらかと言えば、日本よりも海外の方が知名度が高いかも)。

ただ、最近の士郎正宗は滅多に漫画を書かなくなって、主に”半裸の女の子が得体の知れない化け物に全身を弄られている絵”ばかりを描くエロ・イラストレーターと成り果てているのが残念(いいかげんに『アップルシード』の続きを描いてくれよ〜)。しかしハードなSF設定とガンアクションと美少女が特徴的な士郎正宗の作風は海外では今でも評価が高く、映画監督にも多くのファンがいるそうです。

・ちなみに、こちらが士郎正宗の最近の仕事です ↓ カスタマーレビューにも書かれていますが、新作漫画を読みたいなあ…ニール・ブロムカンプ監督もそんな士郎正宗ファンの一人で、しかも自分を監督である前に”ヴィジュアル・アーティスト”だと考えているらしく、映画に登場する大量のメカは、全て監督自身がイメージ画を描いているのですよ。

本人曰く、「士郎正宗の描くメカのラインは本当に美しい。18歳の頃から大好きだった『攻殻機動隊』や『アップルシード』のデザインは、すっかり僕の体に染み込んでいる。だから、僕のヴィジュアル・コンセプトには彼の影響が強く反映されているんだ。ちなみに次回作(原題『Chappie』)では、主人公のロボットの耳は『アップルシード』をヒントにしているんだよ(笑)」とのこと(もしかしてブリアレオス?↓)。

僕は前作『第9地区』を劇場で観た時に「なんて凄い映画なんだ!」と衝撃を受けたんですが、その当時からブロムカンプ監督は「ラストに出てくるパワードスーツは『アップルシード』のランドメイトから着想を得ている」と公言するなど、堂々たるオタクぶりを発揮していました。

更に、『AKIRA』や『超時空要塞マクロス』の大ファンであることまでカミングアウトし、『第9地区』ではなんと”板野サーカス”をそのままパクって実写で再現!日本中のアニメファンを仰天させたのです。きっと、ギレルモ・デル・トロ監督と物凄く話が合うんだろうなあ(笑)。

第9地区 (字幕版)

地球に迷い込んだエビ型宇宙人と主人公との数奇な運命を描いた傑作SFアクション!
あと、インタビューで「一番のお気に入り映画は『エイリアン2』と『ロボコップ』だ」と答えていることからも、監督の趣味・嗜好がうかがえますね(笑)。本人曰く、「僕は誰も見たことがない世界へ観客を導くことを常に目指している。その点において、『エイリアン2』はまさに完璧だ。あの映画を観た時、僕はリプリーと一緒に全く知らない惑星に旅をすることが出来たのだから」

「僕にとって『エイリアン2』を超える作品はこの世に存在しない。それから『ロボコップ』や『スター・シップ・トゥルーパーズ』にも物凄い影響を受けている。圧倒的なバイオレンス描写に痺れまくったよ!ここまで説明すれば、もう僕の好みをわかってくれたよね?つまり、マカロニ・ウエスタンとかには全然興味がないってことさ(笑)」とのこと。

その他、『エリジウム』には日本刀や手裏剣(!)や桜の花など、日本を象徴するアイテムが過剰に盛り込まれ、監督の”ジャパニーズ・カルチャー”に対する敬愛の念が溢れ返っていました(この辺は『第9地区』と一緒)。

一方、『第9地区』との大きな違いは、マット・デイモンジョディ・フォスターなどハリウッドの一流スターを配置して大作感が増したこと。そして、「南アフリカにやってきたエビのような宇宙人が難民としてヨハネスブルクに住みつく」という冗談みたいなストーリーとは打って変わり、「格差社会に不満を抱く余命5日の主人公が宇宙を目指して大暴れする」という、スケールの大きな物語になっていることでしょう。

そこで描かれる理不尽なまでの貧困と格差。更に、主人公の生命のタイミリミット、富裕層内部のクーデター、凶暴な傭兵の野望、主人公とヒロインとの関係などが絡められ、緊迫したストーリーが展開していくのです。

しかし、一見”SFアクション超大作”みたいに思わせながら、本質的な部分は『第9地区』と大差なく、相変わらず”不衛生な環境の中で主人公が汚いメカを操りながら大暴れする”という、いつも通りのブロムカンプ映画でした。

ロボコップ』ばりのバイオレンス・アクションも派手で迫力満点!なので、『第9地区』が気に入った人ならそれなりに満足できると思います。逆に、「汚い世界観や人体が粉々に吹き飛ぶグロ描写は生理的に受け入れられない」という人は観ない方がいいかも(^_^;)


以下、気になった場面をネタバレで解説。まだ観てない人はご注意を!


エリジウムがほぼノーガード状態
宇宙に浮かぶ巨大なスペースコロニーエリジウムは、常に地球からの侵入者に対して警戒しているにもかかわらず、なぜかまともな迎撃システムがありません。接近する小型宇宙船をレーダーで発見すると地球にいるエージェントに連絡し、そいつがロケットランチャーを使って宇宙船を撃ち落とすという、非常にアナログな方法で侵入を阻止しているのです。

おまけにコロニー自体も頑丈な外壁で密閉されておらず、居住区と宇宙空間が筒抜け状態なのですよ。一応、「大気を遠心力で抑え込んでいる」という理屈らしいんですけど、これじゃ外から入り放題じゃないですか!地球の重力圏を離脱した宇宙船を地上からロケットランチャーで撃ち落とすってのも相当無理がありますが、エリジウムの防衛体制もかなりヤバいよなあ。

●医療マシンが万能すぎる
ポッドに中に入れば骨折やケガなど、どんな重症患者もあっという間に治ってしまう夢の医療マシン。「皮膚を若返らせる」ぐらいのレベルならまあ分からなくもないですが、後半、顔を半分吹っ飛ばされたクルーガーが元に戻ったのには驚きました。骨や肉はどうやって再生したんだろう?脳さえ無事なら、体全体でも丸ごと復元できるんだろうか?凄すぎる!

●実は『第9地区』と同じだった?
上記で「『第9地区』よりも物語のスケールがアップした」と書きましたが、『エリジウム』のドラマ構成を良く見てみると、実は『第9地区』とほぼ同じであることが分かります。

1、主人公は地球で働いている青年
2、ある日、予期せぬアクシデントにより自分の体に重大な異変が生じる
3、なんとか体を治そうとパワードスーツを身に付けて大暴れする
4、しかし、最終的には幼い子供とその親を助けるために、自分の治療を諦める

つまりどちらの映画も簡単に言うと、貧困・格差・差別などをテーマに、主人公が不運な現状から懸命に脱出を図ろうとする姿を描き、最後は自己犠牲で終わる、というストーリーなのですよ。まあ、低予算だった前作を、設定だけ変えてバージョンアップした、と考えれば分かりやすいかもしれません。ここで、「同じ内容なら製作費が多くてハリウッド・スターも出演している『エリジウム』の方が面白いんじゃねーの?」と単純に思ってしまいそうなんですが、そうなっていないところがミソなんですね(笑)。

第9地区』は映画の作劇がニセのドキュメンタリー(モキュメンタリー)型式で描かれていたため、「難民と化した宇宙人が南アフリカに不法に住み着く」という有り得ない設定が非常に面白く、また作品全体のユーモラスな語り口が、逆に主人公の自己犠牲の精神を強調し、ラストの感動を増幅していました。

ところが、『エリジウム』の場合は、真面目にSF映画を描こうとした結果、有り得ない設定が本当に有り得ないように見えてしまい、ユーモアも消え失せ非常に殺伐とした雰囲気が目立つようになり、ラストの自己犠牲もイマイチ盛り上がっていないのです。話の流れがあまりにも強引すぎる点も、感情移入を妨げている要因の一つでしょう。

例えば、クルーガーと2人の部下がちょっと暴れただけで大混乱に陥るほどエリジウムのセキュリティーが貧弱なら、とりあえず主人公が医療ポッドで体を治せば、レジスタンス達と協力してエリジウムを完全に占拠できたんじゃないでしょうか?だったら、娘の病気はその後治療すればいいんですよ。スパイダーにIDをプシュッ!とやってもらえば自由に医療ポッドを使えるんだから。映画の後半部分はそういう可能性を一切考慮せずにただ暴れ回っているだけなので、主人公達の行動が物凄く短絡的に見えてしまうのです。

また、「脳のデータをダウンロードしたら本人が死ぬ」という設定も、「主人公が自己犠牲を決断するための単なるトリガーにしかなってない」という点でかなり強引。大事なデータを守るためなら、「ダウンロードされそうになったら死ぬ」という仕掛けにしないと、終わった後で死んでも全く意味が無いでしょう。なんのための保護機能なの?

あと、ジョディ・フォスターの扱いが雑ですねえ。敵側の最重要キャラのように思わせておいて、ラストの展開に全く絡むことはないし、他のキャラに何の影響も及ぼすこともないし、挙句の果てにはクルーガーに刺されてあっさり死ぬなんて!せめて最後に主人公と会話させるとか、何らかの形でドラマに絡ませないと、ジョディ・フォスターをキャスティングした意味がありませんよ。

というわけで『エリジウム』には大小様々なツッコミどころが見受けられ、それが感情移入を拒み感動を阻害しているという、非常に残念な状況になっています。映像はハイクオリティだしアクションは迫力満点だし、映画自体の満足度はそれなりに高いんですが、「感動する程素晴らしい作品か?」と問われると「いや、そこまでは…」という感じでしたねえ。面白いことは面白いんですが、個人的には『第9地区』の方が好みかなあ。


エリジウム (字幕版)

※プライム会員は追加料金なしで視聴可


●人気記事一覧
これはひどい!苦情が殺到した日本語吹替え版映画ワースト10
まさに修羅場!『かぐや姫の物語』の壮絶な舞台裏をスタッフが激白!
日本映画のレベルが低くなったのはテレビ局のせい?
町山智浩が語る「宮崎アニメの衝撃の真実」
「映像化不可能」と言われている小説は本当に不可能なのか?


このブログについて(初めての方はこちらをどうぞ)
トップページへ