本日、本屋にて気になる本を発見。タイトルは「安彦良和対談集・アニメ・マンガ・戦争」。全530ページにも及ぶ物凄いボリュームだ。安彦良和と言えば『機動戦士ガンダム』のキャラクター・デザイナーとして一世を風靡したカリスマ・アニメーターであり、現在は漫画家として活躍している稀代のクリエーターである。
この本は、安彦氏が様々な著名人とお互いに感じた事を語り合った珠玉の対談集なのだ。そのメンバーは、寺田克也、ゆうきまさみ、萩尾望都、村上隆、貞本義行、高千穂遥、永野護、佐野浩敏、川元利浩、北爪宏幸、池田秀一、古谷徹、福井晴敏、樋口真嗣など、そうそうたる顔ぶれである。
高千穂遥が「ガンダムはSFという概念に当てはまらない」と発言した事に対し、安彦が「じゃあ、SFって何?」と反論するくだりが面白い。また、池田秀一と古谷徹のキャラクターも対照的だ。役になり切る為に、前日から懸命にイメージトレーニングをする古谷が「池田さんは、そんな事全然考えないでしょ?」と聞くと池田は平然と「たまには考えるよ」と答えたりしている。
中でも樋口真嗣との対談が個人的には一番興味深かった。「『ローレライ』の潜水艦って、本当にあったの?」と驚く安彦に、「実在しますが、映画のように砲塔を回した状態で撃つと確実に転覆します」と堂々と言い放つ樋口。他にも面白エピソードが満載なので、興味の有る方は読んでみて下さい。
ちなみに、漫画家としての安彦氏は現在『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』を連載中だが、こちらもまたメチャクチャに面白い。物語自体はアニメのガンダムをベースとしているが、そこに安彦氏独自の解釈を盛り込んでいて、よりいっそう人間ドラマに深みが加わっている。
元々安彦氏は『虹色のトロツキー』や『王道の狗』、『ジャンヌ』など歴史モノを多く手掛けているが、このガンダムももはや“歴史モノ”と呼んでも差し支えないほどの重厚感に満ちている。
また、安彦氏はべらぼうに絵が上手い。アニメーターなので上手いのは当たり前だが、数あるアニメーターの中でも突出した上手さを誇っているのだ。滅多に他人を誉めないいしかわじゅんでさえ、「安彦さんは、本当に絵が上手いよなあ」と誉めざるを得ないぐらいなのだから凄いとしか言いようが無い。特に、魅力ある脇役には定評がある。ランバ・ラルや黒い三連星などおっさんキャラたちの、生き生きとした表情を見よ!
さらに、安彦氏は描くスピードが異常に早い事でも有名だ。なんせ本人が「僕は自分の絵が上手いとは思いませんが、描くスピードだけは誰にも負けない自信があります」と言い切るぐらいなのだから相当なものだろう。
実際、連載中の「ガンダム」は人物から背景まで全て一人で描いているそうだ(スクリーントーンだけは息子が貼っているらしい)。いくら月刊連載とはいえ、尋常ではないスピードである。本人曰く、「この程度の分量なら、アシスタントを雇う必要性を全く感じない」との事。恐るべし、安彦良和!
最新作ではキャスバル・レム・ダイクンがいかにしてシャア・アズナブルになったのか、というドラマの核心部分を描写しており一瞬たりとも目が離せない状態だ!