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ドアンザクの鼻はなぜ長い?安彦良和監督作『ククルス・ドアンの島』はこうして作られた!

劇場アニメ『ククルス・ドアンの島』

劇場アニメ『ククルス・ドアンの島』


どうも、管理人のタイプ・あ~るです。

さて現在、全国の劇場で安彦良和監督の最新作機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島』が公開されていますが、この物語はもともとTVアニメ『機動戦士ガンダム』のエピソードの一つでした。

機動戦士ガンダム』といえば、言わずと知れた富野由悠季監督の超有名ロボットアニメで、1979年から1980年まで全43話が放送され、その中の第15話が『ククルス・ドアンの島』だったのです。

なぜ今回、この第15話が劇場アニメ化されたのか?というと、『機動戦士ガンダム』はTV放送後に各エピソードをまとめた映画版が作られ、1981年から全三部作として公開されたんですが、このエピソードはカットされてるんですよ。

もともと第15話は”捨て回”と呼ばれており、安彦良和監督によると「関わったスタッフには大変申し訳ないが、最初から外部に丸投げという扱いを運命づけられた回だった」とのこと。

つまり、毎週1本アニメを放送する場合、当然ながら現場は厳しい制作スケジュールが予想されるので、それを少しでも軽減するために最初からいくつか”捨て回”が用意されている…というわけなのです。

ククルス・ドアンの島』もそういう”捨て回”の一つとして作られ、しかも海外のアニメスタジオに丸投げ&安彦さんのチェックも全く入っていません。そのせいで作画が非常に悪いんですよ。

例えば、アムロの顔がシーンによって違っていたり、フラウやリュウさんなど他のキャラも何だか微妙だったり、全体的に絵柄が不安定なのです。

TV版「ククルス・ドアンの島」

TV版「ククルス・ドアンの島」

機動戦士ガンダム』を放送していた頃のサンライズは、まだアニメスタジオとしては弱小でしたが、安彦さんが多くの回で作画監督を務めていたので絵のクオリティは一応保たれていました。

しかし、第15話は完全にノーチェックで外部の下請けスタジオで制作されたため、このような出来栄えになってしまったのでしょう(安彦さん曰く、「この回は未だにどういうスタッフが参加していたのかよく分からない」とのこと)。

中でも特に物議を醸したのが、ククルス・ドアンが操縦するモビルスーツザクII、通称「ドアンザク」の姿です。

なぜか体型がヒョロリと細長く、”鼻”の部分が奇妙に伸びているなど、明らかに普通のザクとは異なってるんですよ。

キャラが崩れている理由も同様ですが、要するにアニメーターの技術が足りないせいで設定通りに作画できず、ザクの鼻が伸びてしまったんですね。

TV版「ククルス・ドアンの島」

TV版「ククルス・ドアンの島」

このドアンザク、ファンの間では割と有名なんですけど、安彦さんは最近まで知らなかったらしく、「パソコンで作画崩壊と検索するとこの回が出てくるぐらいの代名詞になっていてビックリした」とのこと。

そこで安彦さんは『ククルス・ドアンの島』を映画化しようと決意。「外注に丸投げはしたものの、当時からいい話だなと思っていたのでずっと気になっていた」と語り、自らサンライズの社長に提案してOKをもらったそうです。

もしかすると、TV版の時はスケジュールの都合で全く関わることができなかったから、せめて劇場版では綺麗な作画で作り直そう…と考えたのかもしれません。

ところが、メカデザイナーカトキ・ハジメさんと打ち合わせをしていると、驚くべき提案が飛び出しました。なんと、「ザクの鼻はオリジナル版と同様に長くしたい」と言われてビックリ仰天(以下、安彦監督のコメントより↓)。

カトキさんは独自の世界を築き上げているから、いい意味で彼の提案や言うことは重いんですよね。最初「ザクの鼻を長くしたい」と聞いて「冗談じゃない」って(笑)。

そうしたら「昔のオリジナルのドアンのザクは鼻が長くて、それにこだわっているファンもいるんです」と説得されたんですよ。「そんなの作画が崩れただけだよ」って笑ったんだけど、最後はもうプロデューサーも「異形のザクなんです!」ってノリノリなんですよね。いやぁ、妙に市民権を得ているんだなと(笑)。

総作画監督の田村篤さんもこだわっていて、「ドアンのザクはやっぱり石を投げないと」って言い出すんです。本当に恐ろしいですよ。どこにどんなファンがついているのか分からない(笑)。

(「グレートメカニックG 2022年SPRING」より)

おそらく安彦良和監督としては、作画崩壊していた第15話をリメイクするからには、当然「鼻の長いザクも直さなきゃいけない」と考えていたのでしょう。

しかし、カトキさんや田村さんやプロデューサーから「あれがドアンザクなんですよ」「異形でなければダメなんです」と強く説得され、最終的には「もう勝手にしろ!」と受け入れたらしい(なお、「なぜ異形なのかいまだに分からない」とのことw)。

こうして劇場版『ククルス・ドアンの島』が作られ、キャラクターなど全体的な作画レベルは大幅に向上したものの、ドアンザクだけはオリジナル同様の”長い鼻”がしっかり再現されることになりました。

ちなみに安彦監督が打合せ中、スタッフに「ドアンザクの武器って何だっけ?」と訊ねたら「素手です」「石を投げたり、正拳突きなどで攻撃します」と言われて「そんなバカな!」「ウソだろ?」とすぐには信じられず、実際に第15話を確認して「本当だ…」と衝撃を受けたそうです(笑)。