ひたすら映画を観まくるブログ

映画やアニメについて書いています

庵野秀明が『シン・エヴァンゲリオン劇場版』でこだわった特撮表現について(ネタバレあり)

シン・エヴァンゲリオン劇場版

シン・エヴァンゲリオン劇場版


どうも、管理人のタイプ・あ~るです。

さて、ついに3月8日から『シン・エヴァンゲリオン劇場版』が公開されました。

新型コロナウイルスの影響や緊急事態宣言で二度も延期されるという不運に見舞われた本作ですが、長年待ち続けたファンにとっては取るに足らない問題だったようで、月曜日公開という不利な条件にもかかわらず初日の興行収入は8億円を超える大ヒット!

しかも緊急事態宣言が再延長されたばかりなのに、朝から大勢の観客が映画館に詰めかけ(まあ皆さん感染対策はしていると思いますが)、土曜日の公開だった前作『Q』(2012年)よりも興行収入・観客動員数ともに大きく上回るという快挙を成し遂げました。

そんな『シン・エヴァンゲリオン劇場版』について、さっそく多くの人が感想や評価、あるいは”謎の考察”や”ストーリー解説”などの記事を書いているようですが、まだ公開されたばかりでもあるし、今回はとりあえず個人的に観ていて気になった”特撮表現”について書いてみたいと思います。

※以下、ネタバレしているので未見の方はご注意ください!


映画終盤、ロンギヌスの槍を持った第13号機とカシウスの槍を持った初号機が激しいバトルを開始する場面で、なぜか突然、周囲のビルがミニチュアに、背景がホリゾントに、戦っている場所が撮影スタジオみたいになってしまいます。

シン・エヴァンゲリオン劇場版

シン・エヴァンゲリオン劇場版

中でも注目すべきは初号機が突っ込むホリゾントで、これを描いたのがなんと特撮界の重鎮:島倉二千六(しまくら ふちむ)さん!普通の人は「誰?」って感じでしょうけど、すごい人なんですよ。

島倉二千六さんは、『ウルトラセブン』第8話「狙われた街」の夕焼け空や『怪獣総進撃』の富士山、『宇宙刑事ギャバン』の魔空空間など、数々の特撮番組で素晴らしい背景を描き、日本の特撮界を支え続けてきた伝説的な神絵師なのです(特に空模様の表現が巧みだったため”雲の魔術師”などと呼ばれていた)。

『ウルトラセブン』第8話「狙われた街」

ウルトラセブン』第8話「狙われた街」

雲がかかった晴れ模様、シーンに哀愁を与える夕焼け、物語に暗雲を示す夜空など、世界の黒澤明監督をはじめ、数多くの巨匠や日本の歴代特撮監督たちはその見事な空に魅了され、こぞって島倉二千六さんに画を依頼したそうです。

庵野秀明さんも、そんな島倉二千六さんの腕前に惚れ込んで『シン・エヴァンゲリオン劇場版』のこのシーンを描いてもらったのでしょう(なお、島倉さんの本に庵野さんも「僕らは子供の頃からずっと島倉さんの空を観て育ちました」などとコメントを寄せています。非常にいい本なので興味がある方はぜひご一読ください↓)。

しかし、通常アニメの背景は専門の美術スタジオに依頼するのが当たり前で、特撮の背景を描いている人に依頼することはまずありません。では、なぜわざわざ島倉二千六さんに描かせたのでしょう?

実はこの初号機と13号機の対決シーン、「今までのエヴァンゲリオンはこういうイメージで作られていたんだよ」という庵野秀明総監督のメッセージだったんですね。一体どういうことなのでしょうか?

今回、庵野さんは新劇場版を作るにあたり、いくつかのテーマを掲げました。そのうちの一つが「ミニチュア特撮の空間をアニメの世界で再現する」というものだったのです。

庵野さんは自他共に認める特撮オタクで、学生時代から『ウルトラマン』や『仮面ライダー』などの特撮番組にのめり込み、自ら特撮の自主制作映画を作るほどでした。近年も「特撮博物館」を立ち上げ、ミニチュアや小道具等の保存に尽力するなど、特撮好きエピソードは枚挙にいとまがありません。

そして新劇場版が作られる前にも、1クールのオリジナル実写特撮番組を企画し、設定や脚本も考えていたそうです。しかし諸般の事情でボツになり、一緒に企画を進めていた大月俊倫プロデューサーやメカデザイナー出渕裕さんたちと途方に暮れていました。

そんな時、大月さんの携帯に庵野さんから「エヴァの劇場版を作ろう」とのメールが…。庵野さんとしては「オリジナルの特撮番組はなかなか企画が通らない」「だがエヴァンゲリオンなら賛同者を集めやすいし、自分の好きなこともやれるだろう」と考えたようです(直接的な動機としては「会社の運転資金集め」とか「エヴァのコンテンツを育てたい」など色々あったようですが)。

こうして新劇場版の制作がスタート!当時、庵野さんは「僕が実写でミニチュア特撮をやれる確率はかなり低くなってしまった」「ならば、この想いをアニメに持って行くしかない」とコメントしており、意図的にエヴァの世界に特撮テイストを持ち込んだことが伺えます。

例えば、レイアウトを作る際にも「特撮ステージにミニチュアの建物を並べ、そこでエヴァ使徒が戦っている」という光景をイメージし、カメラアングルなども(アニメなら自由にカメラを動かせるのに)、敢えて「実写だとすればどこにカメラを置けるか?」などを想定しながら描いていたそうです。

しかも『エヴァ序』は、「『ウルトラマンタロウ』のミニチュア世界を再現するのが目標だった」「なぜならタロウは特撮ステージが広く、ミニチュアを劇場版から流用しているので出来が違う」など、ひたすら好みの特撮表現にこだわっていたらしい(なお樋口真嗣は「いや、タロウよりもエースの方がすごいだろ!」とマニアックに反論した模様w)。

ウルトラマンタロウのミニチュア

ウルトラマンタロウのミニチュア

さらに『エヴァ破』の時には庵野さんのこだわりがもっと激しくなり、特撮研究所三池敏夫さんに撮影ステージの作り方をレクチャーしてもらったり、わざわざ特撮スタジオへ出かけてミニチュアの写真を撮ったり、本物の図面をもとにCGでミニチュアのビルを作ったり、まさにやりたい放題!

それを聞いた特撮監督の佛田洋さんは「普通は本物のビルの写真を撮ってそれを再現するのに、なぜわざわざミニチュアの再現にこだわるんだ?」と呆れ返ったらしい。これに対して庵野さんは「もちろんリアルなビルをCGで再現することは可能だけど、わざとそうしない。ミニチュアが好きだから(笑)」と答えたそうです。

なので、13号機と初号機の戦闘シーンを見て「CGがショボい」とか「もっと真面目にやれ!」などと批判しても意味がないんですよ。あれはわざとああいう風に表現しているだけで、真面目に”ミニチュア特撮の再現”を追求した結果なんですね。

それから、冒頭の「ユーロネルフ第1号封印柱復元作戦」のシーンでも、エヴァ8号機βが”光るピアノ線”のようなもので吊るされていますが、あれもまさに「着ぐるみを上からピアノ線で吊るしている」という特撮現場の撮影風景を忠実に再現しているのです(こだわりが凄いw)。

なお、庵野さんのこうした「アニメで特撮を再現する」というこだわりは、エヴァから始まったわけではありません。実は初監督作品のトップをねらえ!の頃からずっとこういうことをやり続けていたのです。

例えば『トップをねらえ!』の最終話で、主人公のノリコが乗っているコックピットのモニターが割れると、その中になぜか”蛍光灯”が見えるんです。これは「役者がコックピットのセットで演技をしていたらパネルが割れて中の蛍光灯が見えてしまった」という”特撮現場の舞台裏”をわざわざアニメで再現してるんですね。

トップをねらえ!

トップをねらえ!

さらに監督2作目のふしぎの海のナディアでも同様のことが行われており、第38話のパリ市街戦のシーンについては以下のようにコメントしています。

「このカットを特撮で撮るとしたらどう撮るだろう?」と考え、ロングショットでN-ノーチラス号が飛ぶカットなら、パリ市街のセットを組んでN-ノーチラス号の一尺モデル(約30cm)のミニチュアをピアノ線で操演する…といった感じで画面をイメージし、1カットの映像を作っていった。

ロマンアルバムふしぎの海のナディア』より)

つまり、庵野さんは昔から特撮のセットを脳内に思い浮かべ、「もしこのシーンを特撮で撮ったらどんな感じになるんだろう?」ということを常に意識しながらアニメの画面を描いていたのです(どんだけ特撮が好きなんだよw)。

ちなみに特撮と言えばもう一つ、『シン・エヴァンゲリオン劇場版』のクライマックスで流れる曲「VOYAGER~日付のない墓標」も印象的でした。元々は松任谷由実さんの歌なんですが、どうしてこれが特撮に関係するのか?っていうと、1984年に公開されたさよならジュピターという特撮映画の主題歌なんですよ。

さよならジュピター』は、精巧なミニチュア・モデルやCG映像、モーション・コントロール・カメラなど当時の最新技術を導入した超大作SFドラマなんですけど、世間の評価はイマイチで興行的にもヒットしませんでした。

しかし庵野さんはこの『さよならジュピター』が大好きで、昔の対談で以下のようにコメントしているのです。

さよならジュピター』はダメな映画だと思うけど、僕は好きなんですよ。『エヴァ』の第3新東京市もなぜ”第3”なのかと言えば、『さよならジュピター』に登場する長距離旅客宇宙船の名前が「TOKYO-3」だからです。

あと、予告編ではクライマックスでユーミンの「VOYAGER~日付のない墓標」が流れるんです。それで期待して観に行ったのに「まさかエンディングでちょっと流れるだけとは!」と大ショック(笑)。あそこで歌がかかっていれば、もっと感動できたはずなんですけどね。

(『完全読本 さよなら小松左京』より)

 そして37年後、庵野さんはこの時の不満を晴らすために、『シン・エヴァンゲリオン劇場版』のクライマックスでわざわざ「VOYAGER~日付のない墓標」を流したと思われます。なんという特撮愛!

しかも、この「VOYAGER~日付のない墓標」は歌詞もいいんですよねぇ。

私があなたと知り合えたことを
私があなたを愛してたことを
死ぬまで死ぬまで誇りにしたいから

これは「ゲンドウからユイへ」、「ミサトから加持へ」、「トウジからヒカリへ」、「シンジからアスカへ」など、色んなキャラクターに当てはまる言葉で、まさにこのシーンに相応しい曲だと思います(当然、庵野さんもそういう効果を狙っていたのでしょう)。

というわけで、庵野秀明総監督の特撮に対するこだわりが至る所に詰まった『シン・エヴァンゲリオン劇場版』ですが、このような点に注目しながら観るてみると、また違った楽しさが見つかるかもしれません(ちなみに、ヴンダーが突進するシーンで流れるBGMは1977年に公開された特撮SF映画『惑星大戦争の曲をアレンジしたもので、こちらもお聞き逃しなくw)。

 

●人気記事一覧

type-r.hatenablog.com

type-r.hatenablog.com

type-r.hatenablog.com

type-r.hatenablog.com

type-r.hatenablog.com

『シン・エヴァンゲリオン劇場版』はこうなる?予告編から考察してみた

シン・エヴァンゲリオン劇場版

シン・エヴァンゲリオン劇場版


どうも、管理人のタイプ・あ~るです。

さて、『シン・エヴァンゲリオン劇場版』の公開まで、いよいよ(今日を入れて)あと2日となりました。

前作『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』から約9年、1作目の『序』から数えると実に14年もの長きに渡って描かれてきた新劇場版シリーズが、ついに完結を迎えるわけです。

「果たしてどんな結末が待ち受けているのか?」「シンジやアスカやレイは一体どうなる?」「まさか旧劇場版みたいな展開になるんじゃ…」等々、たぶん全国のファンたちは今やシン・エヴァに対する期待と不安で頭がいっぱいになっていることでしょう(笑)。

そこで本日は、今まで公開された特報や予告編や”冒頭10分”の映像などから『シン・エヴァンゲリオン劇場版』の内容を(妄想も含めながら)予想してみたいと思います。

まあ、3月8日には全てが判明するんですけど、こういうことを色々想像して楽しめる機会もこれで最後なので、少しの間お付き合いください(笑)。

※なお、あくまでも予想(妄想)なので当たっている部分は少ないと思いますが、「本編を観るまで余計な情報はなるべく入れたくない」という人は鑑賞後に読むことをおすすめします(色んな画像も貼っているので)。


まず前作『Q』がどんな終わり方だったか簡単におさらいすると、発動してしまったフォースインパクトをミサトや「ヴィレ」のメンバーたちが必死で食い止めようと奮闘。マリが13号機のエントリープラグを強制排出し、ようやくガフの扉が閉じる。

その後、地上に落ちたシンジ、アスカ、レイの3人はL結界密度が強すぎる現在地から離れることを決め、「リリンが近付ける場所まで移動するわよ」と言って歩き出す…という場面で終わっていました。

ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q

ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q

『シン・エヴァンゲリオン劇場版』ではこの続きが描かれるわけですが、実は冒頭シーンに関してはすでに映像が公開済みなので、どんな内容か分かってるんですよね。

”ユーロネルフ第1号封印柱”を復元するためにパリへ移動したリツコたちは、作戦遂行中にエヴァ44A(航空特化タイプ)の攻撃を受け、限られた時間の中でミッションを継続しつつ必死に応戦。マリが操縦するエヴァ8号機(臨時戦闘形態)の活躍によって何とか復元成功。

シン・エヴァンゲリオン劇場版

シン・エヴァンゲリオン劇場版

パリ旧市街とユーロネルフの施設も元に戻り、エヴァの予備パーツや武器弾薬等を回収します。そして「どこにいても必ず迎えに行くから、待ってなよワンコ君」というマリのセリフでアバンタイトル終了。おそらく、この後シンジたちと合流するのでしょう。

シン・エヴァンゲリオン劇場版

シン・エヴァンゲリオン劇場版

で、ここからが推測なんですが…

 

まずシンジ・アスカ・レイの3人が歩いているシーン。これは多分『Q』のラストの続きで、「L結界密度が強すぎる場所」から徒歩で移動している場面ですね。

シン・エヴァンゲリオン劇場版

シン・エヴァンゲリオン劇場版

周囲が赤いのはコア化しているためで、巨大な手のようなものは「インフィニティの成りそこない」でしょう(エヴァの世界でお馴染みの電柱や線路も映っており、第3新東京市の近くと思われる)。

シン・エヴァンゲリオン劇場版

シン・エヴァンゲリオン劇場版

その途中で、元々クローン故に”自我”というものが一切なかったアヤナミレイ(仮称)に少しずつ”自我”が芽生え始め、拾ったS-DATをシンジに渡したり、コミュニケーションを取ろうとしている様子がうかがえます。

シン・エヴァンゲリオン劇場版

シン・エヴァンゲリオン劇場版

その後、長時間歩き続けたシンジたちは、ようやくヴィレの本拠地(かどうかは分かりませんが)に到着してマリとも再会(もしかすると途中でミサトたちと合流して連れて帰ってもらったのかもしれません)。

シン・エヴァンゲリオン劇場版

シン・エヴァンゲリオン劇場版

何やらシリアスな表情で会話しているミサトとリツコ。そして大量のカプセルが保管されている場所へ移動し、ミサトは一つのカプセルの前で立ち止まる。

シン・エヴァンゲリオン劇場版

シン・エヴァンゲリオン劇場版

このカプセルの中身は「冷凍保存された人間」という説があり、「『序』や『破』に出て来たキャラたち(鈴原トウジ相田ケンスケ等)が再登場するのでは?」と言われているようです(まあ何かを保存しているのは間違いないと思う)。

シン・エヴァンゲリオン劇場版

シン・エヴァンゲリオン劇場版

一方、ネルフではなぜかレイが冬月から拷問(?)みたいな仕打ちを受けています。ネルフに連れ戻されたのか?あるいは自分から戻って行ったのかは不明(なお、このレイはシンジたちと行動を共にしていた”黒波”ではなく、「ネルフの培養槽で作られたクローン」という説もあり)。

シン・エヴァンゲリオン劇場版

シン・エヴァンゲリオン劇場版

そして施設内にはエヴァ13号機の姿も確認できます。『Q』で覚醒した13号機は、シンジのエントリープラグを排出した後、地上に落下しましたが、どうやらネルフが回収・保管していたようです。ゲンドウはこれを使ってファイナルインパクトを引き起こすつもりなのでしょう。

シン・エヴァンゲリオン劇場版

シン・エヴァンゲリオン劇場版

色々あって、ついにファイナルインパクト発動!まあ、サードインパクトもフォースインパクトも起きてから止めてたし、今回も同じような展開になるんでしょうね(むしろエヴァの場合は「〇〇〇インパクトが起きてからが本番」と言っても過言ではないw)。フォースインパクトよりもさらに規模のデカい未曾有の大惨事が勃発し、その影響はとうとう宇宙までに及び始めました。

シン・エヴァンゲリオン劇場版

シン・エヴァンゲリオン劇場版

そこでヴィレはヴンダーを宇宙へ飛ばし、白いプラグスーツに身を包んだアスカとマリが、JA-02機体流用ニコイチ型新2号機αとエヴァ改8号機γにそれぞれ乗り込み、戦闘準備に入ります。

シン・エヴァンゲリオン劇場版

シン・エヴァンゲリオン劇場版

さらに日向マコト青葉シゲルも、黒いプラグスーツ(?)に着替えて互いの拳を合わせ、「死ぬなよ」「お前もな」みたいな会話をしているのでしょうか(「最後の戦いに挑む」というムードが伝わってきますねえ)。

シン・エヴァンゲリオン劇場版

シン・エヴァンゲリオン劇場版

そして、事態はいよいよ最終局面へ!彼らのミッションは「発動中のファイナルインパクトを止めること」であり、大きく開いた”ガフの扉”の中心に突入しようとしている2号機(アスカ)や8号機(マリ)が映っています。

シン・エヴァンゲリオン劇場版

シン・エヴァンゲリオン劇場版

しかし、突如ネルフ側のヴンダーが偽装コクーンを破って出現し、ヴィレのヴンダーに激しい攻撃を加えてきました。双方が至近距離で主砲を撃ち合う壮絶なバトル!が、互いにATフィールドを展開しているのでなかなか決定打に至りません。

シン・エヴァンゲリオン劇場版

シン・エヴァンゲリオン劇場版

ヴィレのヴンダーにエヴァMark.10が取り付こうとするも、アスカとマリの連携プレイでこれを撃退。JA-02機体流用ニコイチ型新2号機αは先端に回転ノコギリが付いたデカい武器を振り回しながら「うおりゃあああああ!」と大暴れ。

シン・エヴァンゲリオン劇場版

シン・エヴァンゲリオン劇場版

よく見ると周囲に大量の「白いエヴァンゲリオン」みたいなものが飛び交っていますが、これは旧劇に出て来た量産機…ではなく、「インフィニティの成りそこない」がファイナルインパクトの影響で再びインフィニティに進化した状態と思われます。

シン・エヴァンゲリオン劇場版

シン・エヴァンゲリオン劇場版

一方、ゲンドウ・シンジ・ミサト・リツコが赤くコア化した場所(セントラルドグマ?)で何かを話し合い、ミサトが左腕を負傷し、ゲンドウは左目を撃たれて重傷を負うという大変な修羅場に!

シン・エヴァンゲリオン劇場版

シン・エヴァンゲリオン劇場版

ゲンドウを撃ったのは、やっぱリツコなんでしょうねえ。旧劇の時も撃とうとしてたし(あの時は失敗して逆にゲンドウに撃ち殺されたけど、今回はリベンジしたわよ!ってことなのかもw)。

シン・エヴァンゲリオン劇場版

シン・エヴァンゲリオン劇場版

死にかけているゲンドウから”衝撃の真相(内容は分かりませんw)”を聞かされたシンジは、再びエヴァンゲリオン初号機に乗ることを決意し、初期のプラグスーツに着替えます。

シン・エヴァンゲリオン劇場版

シン・エヴァンゲリオン劇場版

そしてカシウスの槍を持った初号機と、ロンギヌスの槍を持った13号機が激しいバトルを繰り広げるクライマックスへ!13号機のパイロットについては諸説ありますが、カヲル(あるいはカヲルのダミープラグ)という意見が多いようです(その他「ゲンドウと冬月がダブルエントリーで搭乗している」との意見もw)。

シン・エヴァンゲリオン劇場版

シン・エヴァンゲリオン劇場版

13号機の猛攻撃に苦戦する初号機。だが、突然シンジが覚醒し、目の色が紫に光る!さらに初号機もビーストモードを上回る超獣化形態にチェンジし、ついに13号機を殲滅するのであった(知らんけどw)。

シン・エヴァンゲリオン劇場版

シン・エヴァンゲリオン劇場版

こうして、ようやくファイナルインパクトの完全発動を阻止し、ガフの扉も閉じられました。その後、カシウスの槍とロンギヌスの槍を使って世界を元の状態に戻すことに成功。赤かった大地や海も綺麗な状態に戻っています。

シン・エヴァンゲリオン劇場版

シン・エヴァンゲリオン劇場版

鈴原サクラが心配そうにのぞき込んでいるのは冷凍保存用のカプセルで、中にいるのは鈴原トウジ?もしそうなら感動的な兄妹の再会シーンになりますね。

シン・エヴァンゲリオン劇場版

シン・エヴァンゲリオン劇場版

「リボンを結んでいるシーン」の女子生徒は、おそらく自我が芽生えたアヤナミレイ(仮称)でしょう。初めて制服を着たためリボンの結び方が分からず、誰かに結んでもらっている場面だと思います。

シン・エヴァンゲリオン劇場版

シン・エヴァンゲリオン劇場版

カヲルくんも再登場(おそらく回想シーンかイメージ映像)し、シンジと楽しそうに会話をしています(「おめでとう。やっと安らぎと自分の場所を見つけたんだね、シンジくん」「ありがとう、カヲルくん」みたいな感じでしょうか?)。

シン・エヴァンゲリオン劇場版

シン・エヴァンゲリオン劇場版

そして常夏だったエヴァの世界にも冬が訪れ、寒そうに白い息を吐いている一人の少女が……って誰!?「着ぶくれしたアスカ」「幼少期のアスカ」「アスカの子供」「全く別の新キャラ」など、ファンの間でも意見が分かれているようですが、正直この子の正体に関しては映画を観ないと分かりませんねえ(苦笑)。

シン・エヴァンゲリオン劇場版

シン・エヴァンゲリオン劇場版


というわけで、『シン・エヴァンゲリオン劇場版』の内容を予告編や特報映像から勝手に想像してみたんですが、「ファイナルインパクトが起きるもののシンジやアスカたちが頑張って止める」という大きな流れはたぶん外れてないと思います。

とは言え、シンエヴァの上映時間は2時間34分もあるので、当然ながらここで取り上げたエピソードだけで終わるはずがありません。もっと凄い展開が待ち受けているだろうし、むしろ「予告編に映っていない部分こそが真の見どころ」と言えるでしょう。

あと「エピソードの時系列」や「各キャラクターの生死」など細かいところも不明ですが、ただ旧劇場版ではメインキャラのほとんどが死亡していたのに対し、今回は多くのキャラが生き残るんじゃないかな…という気がします。

『序』が公開された時のスタッフインタビューを読むと庵野さんは新劇場版ではハッピーエンドを目指しているらしい」みたいなことが書いてあったので、それが本当なら幸せなラストになりそうなんですよね(だとすると、やはりあの少女はアスカなのかも…)。

というか、エヴァファンの願いとしては「頼むから旧劇場版のような結末だけは勘弁して!」「今度こそシンジくんやアスカたちを幸せにしてあげて!」って感じなんじゃないかなあ(笑)。全てのキャラが何らかの形で救われる…そういうラストであって欲しいですね。

 

『王立宇宙軍 オネアミスの翼』はこうして生まれた

王立宇宙軍 オネアミスの翼

王立宇宙軍 オネアミスの翼


どうも、管理人のタイプ・あ~るです。

さて本日、BS12(トゥエルビ)で劇場アニメ王立宇宙軍 オネアミスの翼が放送されます。『オネアミスの翼』と言えば、『新世紀エヴァンゲリオン』などで知られるアニメ制作会社「ガイナックス」が初めて手掛けた長編SF映画で、1987年に公開されるや各方面で話題となり、ハリウッドでもプレミア上映されるなど注目を集めました。

しかし驚くべきはその制作スタイルで、「総製作費8億円!」「音楽監督には『戦場のメリークリスマス』の坂本龍一を起用!」などバンダイが社運を賭けた超大作映画にもかかわらず、当時まだ24歳だった山賀博之を監督に抜擢し、他のスタッフも自主制作アニメの経験しかないような若者ばかりだったのです。

普通、これぐらい大規模なプロジェクトになると、経験豊富で実績もあるプロフェッショナルに任せるのが当たり前だと思いますが、一体どうしてこんなことになったのでしょうか?というわけで本日は、『王立宇宙軍 オネアミスの翼』が誕生するまでの特殊な事情について色々書いてみたいと思います。

 

時は1979年。後に『王立宇宙軍 オネアミスの翼』で監督を務める山賀博之さんは当時まだ新潟の高校生でしたが、この頃からすでに「将来は映画監督になろう」と考えていたそうです(理由は「金を稼ぐ手段として最も自分に合っていると思ったから」とのこと)。

そのため、近所の本屋に行って映画雑誌(「スクリーン」)を立ち読みしていると、淀川長治のエッセイに「同じ映画を10回観れば誰でも映画監督になれる」と書いてあったらしい。それを読んだ山賀さんは、早速がんばれ!ベアーズ 特訓中』を鑑賞(当時、地元の映画館でたまたま上映していたため)。 

がんばれ!ベアーズ特訓中 [DVD]

そして、「7回目~8回目以降は映画を成り立たせるためのセオリーとか、約束事がよく見えるようになってきた。”あそこでああいうシーンを入れるなら、その前にこういうカットを入れなきゃダメだろう”みたいな。そして10回観終わった頃には”なるほど、映画ってこういう風に出来ているのか”という感じで、構成や仕組みが完全に理解できたんです」とのこと。

そこから本格的に興味を持った山賀さんは、「よし、これからは必ず10回観るぞ!」と心に決め、”色々な映画を10回ずつ観る”という習慣を卒業するまで続けたそうです(本人曰く、「だから高校時代は1日中映画ばかり観ていましたね」)。

王立宇宙軍 オネアミスの翼

王立宇宙軍 オネアミスの翼

その後、大阪芸術大学芸術学部映像計画学科に入学した山賀さんは、新潟から引っ越して大阪のアパートに住むことになったんですが、大家さんの部屋へ挨拶に行った時、一人の学生に出会いました。その学生こそが、後に『新世紀エヴァンゲリオン』を大ヒットさせる庵野秀明さんだったのです。

しかし、庵野さんは初対面の山賀さんに対していきなり「『機動戦士ガンダム』って見たことあります?」などと聞いてきたので、「なんだコイツは?いい歳してアニメなんか見てるのか?」とビックリしたらしい。

というのも、山賀さんは元々アニメにほとんど興味がなく、しかも大阪芸術大学に来るような人はみんな映画好きなんだろうと思い込んでいたため、「お前、映画の勉強しに来たんじゃないのか?」と訊ねました。しかし庵野さんは映画の話をしないでウルトラマンやアニメの話ばかりしていたのでますます「変なやつだなあ」と思ったそうです。

それからしばらくして、山賀さんはバス停でバスを待っている庵野さんを目撃しました。その時、なぜか手に持ったライターの火をぼんやり見つめており、山賀さんと一緒にいた別の学生は「庵野って気持ち悪いよなあ」「あいつタバコ吸わないくせに、なんでライターなんか持ち歩いてるんだよ…」と宇宙人を見るような目で見ていたらしい。

どうやら当時の庵野さんは周りの人たちから「気持ち悪いやつ」と思われていたようですが、山賀さんはそんな庵野さんに興味が湧いてきて、「何やってんの?」と声をかけました。すると「4枚のリピートでいけると思うんだよね」と答えたので「リピートって何?」と聞き返す山賀さん。

”リピート”とは同じ作画の繰り返しによって動きを循環させる技法で、庵野さんは「4枚の絵があれば炎の動きを表現できる」と考えていたのです。しかし、アニメの知識がほぼゼロだった当時の山賀さんには何のことやら分かりません。

すると庵野さんはカバンから紙の束を取り出して山賀さんに見せました。それは『ルパン三世 カリオストロの城』の動画で、爆発の煙や炎が描かれた複数の絵を指でめくりながら「これをパラパラってやると動いて見えるだろ?」と説明し始めたのです。

それを見た瞬間、アニメのことを全く知らなかった山賀さんは「アニメってこうやって作られていたのか!」と衝撃を受け、そこからアニメ作りに興味を持ち始めたそうです。

王立宇宙軍 オネアミスの翼

王立宇宙軍 オネアミスの翼

その後、庵野さんの知り合いの赤井孝美さんたちと8mmでペーパーアニメなどを作っていると、「DAICON 3のスタッフを探してるんだが、手伝ってくれないか?」という話が舞い込んで来ました。当然、何も知らない山賀さんは「”大根”ってなに?」というリアクション(笑)。

DAICON 3」とは、1981年に大阪で開催された第20回日本SF大会のことで、「会場で自主制作アニメを上映したい。そのためのアニメーターを探しているんだ」とのこと。すると庵野さんがその場で紙にサラサラっとパワードスーツを描いて「こんな感じですか?」と動かして見せたのです。

それを見た大会の実行委員(武田康廣)は「すごいやん!」と大絶賛。「すぐ担当者に会ってくれ」と言われて連れて行かれた4階建てのでっかい家。そこにいたのが、後に『王立宇宙軍 オネアミスの翼』のプロデューサーを務める岡田斗司夫さんでした。

岡田さんは「とにかく凄いアニメを作りたいんや!」と力説し、「あの漫画のあのキャラを出してくれ」とか「あの特撮番組のあのメカを出してくれ」など次々と要望するものの、庵野さんは「そんなに描けませんよ!」と不満顔。

そこで山賀さんが交渉役になり、「ではこのシーンはこういう感じでいきましょう」とか「岡田さんの案はこういう具合に組み入れます」などと意見をまとめ、庵野さんと赤井さんが作画を担当し(山賀さんも背景を描いた)、なんとかDAICON 3オープニングアニメを完成させたのです。

こうして自主制作アニメを作った山賀さんは「次はプロの現場を経験したいな」と考えました。ちょうどその頃、DAICON 3を見たアニメ関係者の間で「すごい素人がいるぞ」と話題になっており、「超時空要塞マクロスという新作アニメに参加しないか?」と依頼が来ていたのです。

しかし、当時の庵野さんと赤井さんは自主制作映画『帰ってきたウルトラマン』の撮影で忙しくて参加できません。そこで山賀さんが「じゃあ俺が行こう」と東京へ行くことになりました(山賀さんは「プロの技術を学んで自分たちのアニメに活かしたい」と考えていたらしい)。

王立宇宙軍 オネアミスの翼

王立宇宙軍 オネアミスの翼

ところが、『マクロス』の現場へ行ってみたら大変な人手不足で、まだ学生の山賀さんにオープニングの絵コンテを描かせるわ、原画や動画を描かせるわ、セルの色を塗らせるわ、挙句の果てには作画の回収や発注作業までやらされたそうです(本人曰く「おかげでアニメ作りのスキルを一通り身に付けることが出来た」とのこと)。

そしてとうとう、最も重要なポジションの”演出”を任されることになりました。それが第9話「ミス・マクロス」です。そこで山賀さんはとりあえずアニメーター不足をなんとかしようと考え、赤井さんに「誰か絵の上手いやつを知らないか?」と訊ねたら、「高校の後輩で東京造形大学に行ってるやつがいる」と。それが前田真宏さん(後に『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』や『シン・エヴァンゲリオン劇場版』の監督を務める)でした。

さらに前田さんの先輩として貞本義行さん(後に『ふしぎの海のナディア』や『新世紀エヴァンゲリオン』などでキャラクター・デザインを担当)もやって来たのです。この二人の絵を見た山賀さんはあまりの上手さにビックリ仰天!「こんなすごい絵を描くやつらが同世代にいるなんて…!」「天才だ!」と衝撃を受けたらしい。

しかし、当時の前田さんと貞本さんはアニメに関しては全くの素人で、いくら絵が上手くてもいきなり原画を描かせるなんて通常はあり得ません。それでも山賀さんは「自分が演出を任されたんだから…」と勝手に二人に原画を依頼し、どんどん作業を進めていきました。

そうしたら元請けのタツノコプロから「勝手なことをするな!」とクレームが入り、なんと山賀さんは『マクロス』をクビになってしまったのです(でも、その頃には大学に戻って「DAICON4」の準備をしなければ…と考えていたので、「分かりました」とあっさり辞めて大阪へ帰って来たらしい)。

そして山賀さんは、プロの現場で得たノウハウを存分に活用し、庵野・赤井・前田・貞本という4人の天才に絵を描かせ、着々と「DAICON4」のOPアニメを作っていきました(しかも『マクロス』を辞める前に、板野一郎美樹本晴彦などに原画を発注していたのだから凄い!)。その結果、プロの作画を凌駕するような、とてつもないクオリティの自主制作アニメが完成したのです。

「DAICON4」OPアニメ

「DAICON4」OPアニメ

DAICON4の出来栄えに手応えを感じた山賀さんは「このメンバーならもっとすごいアニメを作れるに違いない!」と確信し、次回作の構想に着手しました。しかし岡田斗司夫と手を組み「16mmで40分程のオリジナルビデオ作品」「予算は2000万円ぐらい」みたいな企画を考えて色々な会社に持ち込むものの、なかなか実現には至りません。

そんな頃、バンダイ渡辺繁さんに企画を見せる機会がありました。渡辺さんは当時まだ入社3年目の新人でしたが、バンダイが新たに立ち上げた映像部門の新レーベル「EMOTION」を担当していたので、たまたま知り合いだった岡田さんが「こんな企画があるんだけど…」と提案したのです。

それを見た渡辺さんは「面白そうだ」と感じ、さらに岡田さんが「ゆくゆくはスタジオを立ち上げて劇場アニメを作ろうと考えている。よかったら一緒にやらない?」と誘ったところ、「じゃあやってみようか」と乗り気になったそうです(渡辺さんと岡田さんはほぼ同世代なので話がしやすかった模様)。

とは言え、当時の渡辺さんは平社員なので企画を通すのも一苦労。エレベーターで一緒になった役員に話しかけてみたり、同期の鵜之澤伸(後にOVA機動警察パトレイバー』のプロデューサーになる)に相談したり、試行錯誤を繰り返しました。

そんな渡辺さんの努力が実ってパイロットフィルムを作ることが決まり、制作拠点として高田馬場のマンションの一室にスタジオを設立。社名は米子市の方言で「大きい」を意味する「がいな」から「ガイナックス」と名付けられました(1984年12月)。こうして、後にアニメ界を席巻する株式会社ガイナックスが誕生したのです。

王立宇宙軍 オネアミスの翼

王立宇宙軍 オネアミスの翼

それから約4カ月後の1985年4月。完成した4分程のパイロットフィルムを携え、山賀さんと岡田さんはバンダイの山科社長や重役たちがズラリと並ぶ役員会議に出席しました。岡田さんはその席上で、作品の企画意図やアニメ界の市場分析、今の若者たちが何を求めているか、さらに何故この作品が必要なのか等を1時間以上に渡って熱弁しまくったそうです。

岡田さん曰く、「この日のために何度も何度も話す内容を考え、徹底的に検証し、全てのセリフを覚えてプレゼンした」とのこと。そして岡田さんの渾身のプレゼンを聞いた山科社長は「何が何だかよく分からないけれど、何が何だか分からないところが逆にいい」と制作を認めました。

ただし、この時点で劇場用作品を検討していたものの、もし正式に決まればバンダイ初の自社製作映画となるわけで、判断は慎重にならざるを得ません。「制作費は全部でいくらかかるんだ?」と訊ねる山科社長に、山賀さんは「たしか『風の谷のナウシカ』は3億6000万円だったな…」と考え、ナウシカより少ない予算じゃ嫌です」と答えたらしい(つまり「最低でも3億6000万円かかる」とw)。

これに対してバンダイ側は「とりあえず1985年末までに作業した設定やシナリオや絵コンテ製作の費用は出す」という”暫定的なゴーサイン”を下しました(大企業と言えども、さすがに3億6000万円もの大金をポンと出すわけにはいかなかった模様)。なので、最終的に「やっぱり中止しよう」となる可能性もあったのですが…

岡田さん曰く、「そうならないようにするために、とにかくバンダイにお金を出させることが肝心だった。シナリオ開発費として〇十万円とか、パイロットフィルム制作費として〇百万円とか、ちょっとずつでも金を出せば、”その金はどうやって回収するんだ”という話に絶対なる。そうなったらもうバンダイは引き返せない…と渡辺さんが言っていた」とのこと(悪いこと考えてるなあw)。

王立宇宙軍 オネアミスの翼

王立宇宙軍 オネアミスの翼

さて、暫定的とは言え一応ゴーサインは出たので、ガイナックスのメンバーは作業をスタート。この頃、助監督として樋口真嗣さんが参加していました。樋口さんといえば、後に『平成ガメラ』の特技監督や『シン・ゴジラ』などで監督を務めるクリエイターですが、当時は二十歳そこそこの若者でした。そんな樋口さんの目に『王立宇宙軍』の制作状況はどう映っていたのかというと…

「最初は”異世界のデザイン”から始めたんですよ。でもペース配分がメチャクチャで、リイクニが使っている食器のデザインを考えるだけで2ヶ月かかったかと思えば、最後のロケット打ち上げのシーンでは時間が足りなくなって1週間で作ったりとか…大事なのはそっちなのに(笑)。恐ろしく効率の悪い作業でしたね」と振り返っていました。

ただし山賀さんは「本格的な作業に入る前の準備期間でたっぷり時間を使えたのが良かった」「むしろ実質的な時間の大半はデザインに費やしたと言ってもいい」「デザインに費やすことで、作品全体のコンセプトや演出意図などを作画する人に汲み取ってもらおうという方法論ですね」とコメント。

また、ロケットや戦闘機など大きなものからコップやお金などの日常の品々に至るまで、ありとあらゆる物をデザインしまくった結果、『王立宇宙軍』は画面全体が凄まじい情報量で埋め尽くされたのですが、実はこれも山賀さんの思惑通りだったらしい。

山賀さん曰く、「DAICON4で試みたのは、短時間の中で観客が処理し切れないほどの膨大な情報を見せたらどのような効果があるのか?という実験だった。『王立宇宙軍』で使った技術はそれの応用です。つまり『王立』の表現の多くはDAICON4で実験済みだったんですよ」とのこと。すごいな!

王立宇宙軍 オネアミスの翼

王立宇宙軍 オネアミスの翼

その後、『王立宇宙軍 オネアミスの翼』は1986年1月に劇場用長編アニメとして制作することが正式に決定し、本格的な作画作業に突入しました(なお、赤井さんは「8mmの自主制作アニメの次が、なんでいきなり35mmの劇場アニメになるんだよ!?」と納得いかなかったらしいw)。

そして貞本義行さんは大学卒業後に、テレコム・アニメーションフィルム大塚康生宮崎駿高畑勲東映動画系のスタッフが集って『カリオストロの城』や『じゃりン子チエ』などを制作したスタジオ)に入社していましたが、『王立宇宙軍』に参加するために退社。『オネアミスの翼』ではキャラクター・デザインと作画監督を担当することになりました。

ちなみに貞本さんがテレコムに入社した際、あまりにも絵が上手すぎて同期の新人アニメーターたちが自信を失い、「あんな上手い人がいたら、もう僕なんかやっていけません」と言って次々と辞めそうになったらしい。

当時、新人を指導していた大塚さんが慌てて貞本さんを呼んで、「君はいったい何者なんだ?」と問い詰めるほどだったそうです(後に大塚さんは「今まで色んな人の絵を見てきたが、最初から抜群に上手かったのは宮崎駿月岡貞夫、そして貞本義行の3人だけだ」と証言している)。

こうして山賀博之監督のもとに、庵野秀明赤井孝美貞本義行前田真宏樋口真嗣などアマチュア自主映画グループ「DAICON FILM」に関わったメンバーが続々と集結!途中で予算が底を尽き、「制作中止」の危機に追い込まれるものの、岡田斗司夫らがあちこちから借金しまくって何とか作業を続け、ついに『王立宇宙軍 オネアミスの翼』は完成しました(1987年2月4日・初号試写会実施)。

 

というわけで、『オネアミスの翼』が生まれるまでの経緯をざっくり書いてみたんですが、映画を作った経験もない24歳の若者が、総製作費8億円の超大作映画の監督を任され、見事に作り上げてしまうという快挙は後にも先にも例がなく、参加した他の若者たちも含めて、本当に素晴らしい”偉業”だと思います。