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押井守監督の『GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊2.0』はここが変わった!

GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊2.0

GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊2.0


どうも、管理人のタイプ・あ~るです。

さて本日、BS12(トゥエルビ)で劇場アニメGHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊2.0』が放送されます。『攻殻機動隊』と言えば、士郎正宗の原作漫画を『うる星やつら』や『機動警察パトレイバー』などで知られる押井守監督がアニメ化したSFアクション映画で、1995年に公開されファンの間で話題になりました。

ただし、本作の場合は日本よりもむしろ海外での評価の方が高いと言えるでしょう。

実際、欧米では大友克洋監督の『AKIRA』と並んで現在でも人気が高く、1996年にビデオソフトが発売された際にはビルボード誌のビデオチャート部門で全米1位を獲得し、スティーヴン・スピルバーグジェームズ・キャメロンウォシャウスキーなどハリウッドの映画監督にも影響を与え、『マトリックス』の元ネタになったと言われています。

さらにTVアニメ版として『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』が作られ、その後シリーズ化。2004年には映画版の続編『イノセンス』がカンヌ国際映画祭コンペティション部門に選出されたり、2020年にはNetflixから全世界に向けて3DCGの新作が動画配信されたり、ついにはスカーレット・ヨハンソン主演で実写映画化されるなど、その人気はいまだに衰える気配がありません。

GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊2.0

GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊2.0

そんな『攻殻機動隊』が、なんと2008年にフル・リニューアルされました。きっかけは、押井守監督が『スカイ・クロラ The Sky Crawlers』(2008年8月公開)の音響制作のためにスカイウォーカー・サウンドを訪れたことです。

スカイウォーカー・サウンドとは、ルーカスフィルムの1部門としてジョージ・ルーカスが設立した会社で、最新の設備や膨大なライブラリーを持つハリウッドでも有数の音響スタジオです(拠点はカリフォルニア州マリンカウンティ)。

スカイウォーカー・サウンドでの打合せを終えた押井監督は帰国時の空港で、同行していた石井朋彦プロデューサーに「『攻殻機動隊』の音響を、スカイウォーカー・サウンドで全部作り直すことは出来ないだろうか?」と相談したそうです。

押井さん曰く、「音響って大事だからね。映画の中の比重として音が半分ぐらい占めてるから。特にアニメの場合はもともと音が無いので余計に重要。でも日本には、音響に金をかけるという発想がない。どんなに大作でも、音響費となったら途端にプロデューサーはケチになる。”お金かけなくても出来るでしょ”って言うんだけど、そりゃ出来るよ!クオリティに目をつぶればね!って話なんですよ」とのこと。

どうやら押井さんは、昔から日本映画の音響制作に不満を持っていたらしく、「日本のスタジオとハリウッドを比べた場合、残念ながら土台からして作り方が違う。ちょっとこの差は容易には埋まらないだろうというぐらい決定的に違うんです」と語っていました。

まず、そもそも予算規模が違うし、向こうでは1つの作品に専属のサウンドデザイナーが付き、総勢10人ぐらいで3ヶ月間かかり切りになるらしい。一方、日本では一人の担当者が他の作品と掛け持ちしながら2~3人のスタッフを使って短期間で必死に仕上げる…という状況だそうです。

そのため押井監督は、「もちろん日本にも優秀なスタジオはあるけれど、やはりスカイウォーカー・サウンドにはかなわない。あんなすごい音を聴かされてはね」と告白し、さらに音響について考えているうちに「昔の映画の音響をスカイウォーカー・サウンドの技術で全部やり直したらどうなるんだろう?」ということが気になり始めたようです。

GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊2.0

GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊2.0

そこで、押井さんからこのような相談を受けた石井朋彦プロデューサーは、「『攻殻機動隊』をリニューアルして劇場公開するチャンスは『スカイ・クロラ』の公開直前以外にない!」と判断し、帰国後すぐにスタッフ編成を開始。こうして『攻殻機動隊2.0』の制作が決まったのです。

しかしその後、事態は予想外の展開を見せ始めました…!

当初は音響だけリニューアルするはずだったのに、なんと押井監督が「可能な限り映像もリニューアルしよう」と言い出し、大幅な方向転換を余儀なくされたのですよ。

押井さん曰く、「最新の3DCG技術を駆使して『攻殻機動隊』をどこまで変えられるか?ということに興味が湧いた。この際だからあれも変えたいこれも変えたい、やれるところは全部3DCGに変えてくれ!って無茶なことを言ったら、新作カットや合成し直すシーンが膨大に増えた」とのこと。

リニューアルの話が出た2008年頃は、まだアニメのキャラは手描きが多かったのですが、押井監督は「今後はキャラを3D化する流れが加速していくだろう。それは避けて通れない。問題は、リアルなキャラをどうやって3D化するか?ということ。日本人っていうのはある種の”技”を追求するから、リアルなCGでも役者の動きをデジタル化した”モーション・キャプチャー”ではなく、技を駆使した”手付けの3Dアニメ”になるに違いない」と考えたらしい。

そのために、『攻殻機動隊2.0』の中で草薙素子を3D化し、「次の作品のステップアップになりそうな部分に関して、”テストケース”として3Dに置き換えることにした」とのこと(つまり次回作のための”実験”だったのかw)。その結果、本編の90カット以上が新作映像に置き換えられ、キャラクターだけでなく、メカや背景や色調など、ありとあらゆる要素に手が加えられることになったのです。

では一体、オリジナル版と比べて『攻殻機動隊2.0』はどこがどのように変わったのでしょうか?以下、具体的に検証してみました。

 

●ビルの上の草薙素子

GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊2.0

GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊2.0

「素子が義体であることを強調したい」という押井監督の要望に応えて、CGIスーパーバイザーの林弘幸が制作した3DCGの草薙素子。背景のビルも全てCGに置き換え、情報量を大幅に増やしている。

 

光学迷彩の表現

GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊2.0

GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊2.0

オリジナル版では、「ティマ」というフィルターを使って背景が微妙に揺らぐような効果を生み出していたが、『攻殻機動隊2.0』では背景とキャラクターが3DCG化され、より多くのCG素材から合成画像が作られることになった。

 

●外務省のティルトローター

GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊2.0

GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊2.0

ヘリなどの航空機は、わざわざ『攻殻機動隊2.0』のために新規デザインを描き起こした上で3DCGが作られた。また、画面レイアウトも新たに描き直されている。

 

●ダイビングする草薙素子

GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊2.0

GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊2.0

キャラクター以外にも、フローターから出る泡や液体や水中に漂う塵などが光源によって浮かび上がる様子も、全て3DCGで再現された。

 

●ゴーストの表現

GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊2.0

GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊2.0

攻殻機動隊2.0』では、林弘幸の提案で”ゴースト”が視覚化されている。ゴーストは王冠のように脳を取り巻く形で表現され、人形使いの中に発見されたゴーストは他のものより強い光を放っている。

 

●都市の描写

GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊2.0

GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊2.0

「オリジナル版は情報量が足りないんだ。都市の情報量をこれでもか!っていうほど詰め込みたい。そのために都市が出てくるシーンは全てCGにしたいんだよ」という押井監督の要望に応えて、冒頭のシーン同様、ラストカットでも徹底的に映像の情報量が増やされた。

 

※なお、ここに取り上げた例はほんの一部で、上記以外にも多数の場面に変更や修正が加えられています。

 

このように『攻殻機動隊2.0』は当初の計画から大きく逸脱し、元の映像が次々と新作カットに差し替えられていきました。画面のディテールや密度感が増大し、さらにオリジナル版ではグリーン系だった色調が、『2.0』ではアンバー系(琥珀色)に変化したことで見た目の印象もかなり違っています(なお、石井朋彦プロデューサーは「押井監督の要望が追加される度に、CG担当の林さんの顔がどんどん青ざめていった」と証言w)。

ただし、何でもかんでも押井監督の言う通りに変更したわけではありません。

例えば、終盤に登場する公安6課のスナイパーのヘリは非常に素晴らしいアニメーションで「オリジナルのままでいいのに…」という意見が多く、作画監督西尾鉄也さんも「これは変更する必要があるんですか?変えちゃダメだよ!」と猛反対。しかし、押井監督は「いや、基本的に飛び物(ヘリなど)は全部CGにしたい」と言い張ったため、林さん曰く「スタッフみんなで監督を羽交い締めにして止めた」そうです(笑)。

一方、音響の方はセリフ・効果音・BGMなど100パーセント全てがリニューアルされました。担当したのは『Mr.インクレディブル』で第77回アカデミー賞の音響編集賞を受賞したランディ・トムとトム・マイヤーズで、押井監督によると「”全く違う才能で音を付けてくれ”と頼んだ。彼らはオリジナル版の音を敢えて参考にしていない。映像だけを見て、感じた音をそのまま自分たちで作ったんだ」とのこと。

そのため、『攻殻機動隊2.0』の効果音はドアの締まる音から薬莢が地面に落ちる音に至るまで、ありとあらゆるSEを新規に作成。さらに川井憲次の音楽も、コーラスや弦の大編成が全て録音し直され、オリジナルの4チャンネルから6.1チャンネルにリミックスされました。

GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊2.0

GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊2.0

そしてセリフも、草薙素子役の田中敦子をはじめとして大塚明夫(バトー役)や山寺宏一(トグサ役)などオリジナル版の声優たちが13年ぶりに集結し、再アフレコが行われたのですが、特筆すべきは人形使い役に榊原良子が抜擢されたことでしょう(言うまでもなく、この変更は押井守監督の強い希望によって実現しましたw)。

押井さん曰く、「もちろんオリジナル版の家弓家正さんがいいっていうのは分かり切っている。ただ、以前から”良子さんが人形使いを演じたら一体どうなるんだろう?”っていう個人的な興味があった。良子さんがやることで、もっと何か匂ってくるものがあるんじゃないかと…。結果、僕の印象としてはかなり”色っぽく”なった」とのこと。

実際に両方のバージョンを聴き比べてみると、家弓さんの方は「美しい女性の義体から男の声が聞こえる」という意外性にまず驚かされ、さらに家弓さんの朗々たる喋り方と相まって、「人知を超越した神懸り的な存在」を感じさせました。

それに対して榊原さんの方は、「女性の義体から女性の声が聞こえる」という点では違和感がないものの、「人形使いは素子との融合を求めている」という劇中のシチュエーションを考えた場合、ちょっと「百合っぽい雰囲気」が漂ってきて、ラストシーンの意味合いが変わってくるんですよね。

実はこれ、押井監督の思惑通りだったらしく、石井朋彦プロデューサーが「オリジナル版は人形使いと素子の”男と女の婚姻の物語”だったが、『攻殻機動隊2.0』はもっと淫靡な、艶っぽい作品に変化している」と指摘したところ、押井監督はニヤリと笑って「やってみたかったんだ。成功したと思うよ」と答えたそうです。

GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊2.0

GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊2.0

というわけで、『攻殻機動隊2.0』が作られた経緯や変更箇所などについて色々書いてみたんですが、本作に関してはファンの間でも賛否が分かれているようで、「オリジナル版の方が良かった」という意見も少なくありません。

個人的には、効果音やBGMなどの音響全般は迫力が増して良かったと思う反面、映像に関してはヘリやキャラクターを3DCGに置き換えたカットに違和感を覚え、特に草薙素子のCGは手描き作画との差異がちょっと目立ち過ぎかなあ…と感じました。

ただし、押井監督自身は「別にオリジナル版を上書きして最新バージョンに変更したわけじゃない。家弓さんの方も、観ようと思えばいつでも観られる。映画がオンリーワンじゃなきゃいけない理由がどこにあるのか?って話ですよ」とコメントしています。

このことから、どうやら押井さんは「観客が好きな方を選べばいい」というスタンスみたいですね。なので、観る際は『攻殻機動隊』でも『攻殻機動隊2.0』でも、自分の好きな方をチョイスすればいいんじゃないのかな?と思います。

 

この作画がすごい!劇場アニメ『メトロポリス』解説(りんたろう監督・大友克洋)

劇場アニメ『メトロポリス』

劇場アニメ『メトロポリス


どうも、管理人のタイプ・あ~るです。

さて本日、BS12で劇場アニメメトロポリスが放送されます。

本作は、原作:手塚治虫、脚本:大友克洋、監督:りんたろうなど豪華スタッフが参加した超大作SFアニメで、2001年に全国の映画館で公開されました。

劇場版『銀河鉄道999』や『幻魔大戦』で知られるりんたろう監督は、もともとTVアニメ『鉄腕アトム』を制作したスタジオ(虫プロ)の出身ですが、「僕がアトムをやっていた頃はとにかく1週間に1本作ることだけで精一杯で、表現や技術にこだわることが出来なかった」「演出家として、それがずっと心残りだった」とのこと。

 

そんなりんたろう監督が、たまたまNHKの「手塚治虫特集」で大友克洋と対談した際、「手塚アニメにけじめを付けるために、もう一度自分の手で再構築したい」という思いが湧き上がり、大友さんと共に長編アニメーションを作ることを決意したそうです。

そして、「多くの手塚漫画はほとんどアニメ化されているが、初期の作品はまだ残っている」「やるならその辺しかないだろう」と考え、大友克洋も「初期の三部作『ロストワールド』『来るべき世界』『メトロポリス』には手塚さんの世界観の全てが詰まっている」「どうせ作るなら、そういう”一番味の濃いところ”をやるのがいい」と同意。

こうして、手塚治虫が1949年9月15日に発表した名作『メトロポリス』のアニメ化が決まりました。

 

ただ、原作の『メトロポリス』は差別や人工生命、そして科学に対する警鐘など、様々なテーマを含んだ大作ですが、1949年の作品なので描かれている内容をそのままアニメ化するのはやや難しい。

そう考えた大友克洋は「自分なりに少し解釈を変えて、手塚さんの原作にあるエッセンスを上手く現代風に描写できればいいな…という思いでストーリーを再構成しました」とのこと。

そして大友さんは「人とロボットが共存する未来都市メトロポリスで原因不明の火災が発生。主人公のケンイチはそこで謎の少女ティマと出会うが、過激派組織マルドゥク党の総帥ロックに狙われてしまう。果たして彼女の正体は…?」という脚本を書き上げ、各キャラの扱いもかなり変更されました。

劇場アニメ『メトロポリス』

劇場アニメ『メトロポリス

 そんな本作の見どころは、何と言っても”圧倒的に素晴らしいヴィジュアル”でしょう。「初期の手塚治虫の絵を、高度な作画技術と最新のCGテクノロジーを使って完璧に再現したい」と考えたりんたろう監督は、まずキャラクター・デザインを名倉靖博に依頼。

名倉さんといえば、押井守監督の『天使のたまご』で作画監督を務め、「原画マンが逃げ出すぐらい大変な作画でも粘り強く描いていた。あいつは凄い!」と押井監督が認めるほどのスーパーアニメーターですが、そんな名倉さんですら手塚キャラをデザインするのに1年以上かかったらしい。

りんたろう監督曰く、「手塚治虫の初期の絵は、線をちょっと間違えただけで全く違うキャラになってしまうので調整がもの凄く難しい。しかも手塚イズムでもなく、名倉イズムでもない。”その中間を描け”という無理難題をふっかけたんです。さすがにキャラクターを作るだけで1年以上かかりましたね」とのこと。

名倉さんも「メインキャラクターのスタイルが確立されない限り、サブキャラクターのデザインに移行できないんです。まるで暗闇の中で散乱したパーツを一つ一つ手さぐりで探し当てるような、困難極まりない作業が延々と続きました」と大変さを語り、その間に描いたラフデッサンはスケッチブック数十冊に及んだそうです。

 

そして、1997年から本格的な作画作業が始まったんですけど、そこからがまた苦労の連続でした。キャラのディテールが非常に緻密でそれだけでも大変なのに、りんたろう監督は上がった原画に対して、実写並みの”さらなる細かい動きやアクション”を要求したのです。

その結果、総作画枚数は15万枚に達し、膨大な物量が発生しました。本作のために集められたアニメーターは小松原一男沖浦啓之、川名久美子、村木靖安藤真裕、野田卓雄、橋本晋治遠藤正明、井上鋭、仲盛文、笹木信作、戸倉紀元、反田誠二、川崎博嗣、箕輪豊、高坂希太郎川尻善昭金田伊功など、業界屈指の凄腕原画マンばかりですが、それでも前代未聞の作業量に手を焼いたという。

劇場アニメ『メトロポリス』

劇場アニメ『メトロポリス

中でも特に苦労したのがモブシーンで、りんたろう監督と打ち合わせをしていた時に大友さんが、「手塚治虫といえばモブシーンでしょう。アニメ化するならこれをやらなきゃ!」と言って原作の”モブシーンが見開きいっぱいに描かれたページ”を見せたそうです。

しかし、りんたろう監督は「脚本は”何百人”って言葉で書けば済んじゃうけど、描く方は実際に何百人のキャラを描かなきゃいけない。これは大変ですよ。野田卓雄さんって僕より年上のベテランアニメーターの方が引き受けてくれたんで、どうにか出来たんですけど、もう二度とやりたくないですね(苦笑)」と語っており、相当な苦労があった模様。

一体どれぐらい大変だったのか?というと、たとえば冒頭のジグラット完成レセプションのシーン」では、24分の1秒(わずか1コマ)を撮影するためにAセルからZセルまで26枚の原画が描かれ、積み上げられたセルの厚さが数十センチに達するほどでした。

当然、この厚さでは撮影台に乗せて撮影できません。そこで活躍したのがデジタル技術で、当時アニメ会社が導入し始めていたコンピューターを駆使して1枚1枚の原画をスキャンし、大勢のキャラを一つの画面に合成したのです。

こうして、ようやく手塚治虫の原作を再現した見事なモブシーンが完成!試写を見た大友克洋も「地上世界の綺麗さもさることながら、地下のゴチャゴチャした世界がまたすごくて、あそこまで描けていれば文句なし」と絶賛するほどの出来栄えだったそうです(ただしアニメーターの負担は凄まじく、ワンカットを作るのに半年以上かかったらしい)。

劇場アニメ『メトロポリス』

劇場アニメ『メトロポリス

また、本作では背景も重要な要素で、手描きの美術の他に3DCGも多用されました。当然、その作業も困難を極め、超高層ビルジグラット」の映像は、3Dモデルを細かく作り込んだ上で、その中のワンフレームを静止画としてレンダリングし、そこにさらに細かいディテールを描き加え、出来上がった絵をテクスチャーとして3Dモデルに貼り付ける…という非常に複雑な工程を経てようやく完成したものなのです。

ビルのディテールを描き足す際も、窓への映り込みや影などを別々にレンダリングしており、なんと2万枚以上の画像を統合したカットもあるという。すげー!

一方、手描きの美術の方も尋常でない手間暇がかけられ、りんたろう監督の要望で、同じシーンでも角度を変えた背景画を何枚も描かされたらしい。美術監督との平田秀一さん曰く、「描いても描いても終わらないという状況が何年も続きました」とのこと。ツラすぎる…

 

というわけで、りんたろう監督や大友克洋さんのこだわりが全編に渡って炸裂した劇場アニメ『メトロポリス』は、公開当時、その驚異的なヴィジュアル&作画技術に多くのアニメファンがド肝を抜かれました(僕も映画館で観た時、驚いたw)。

しかし興行的にはイマイチで、15億円の製作費に対し、興行収入は7億5000万円と惨敗(海外の評価は割といいようですが、果たして回収できたのだろうか…?)。まあ、クライマックスの大崩壊シーンとか、映像的な見どころは満載なので未見の人はぜひ一度ご覧ください。

 

メトロポリス

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今敏監督『パプリカ』ネタバレ解説 「オセアニアじゃあ常識なんだよ!」とは?

今敏監督『パプリカ』

今敏監督『パプリカ』


どうも、管理人のタイプ・あ~るです。

さて本日、BS12で劇場アニメ『パプリカ』が放送されます。簡単にあらすじを紹介すると「他人の夢を共有できる画期的な装置”DCミニ”が何者かに盗まれた。このままでは現実が夢に侵食されてしまう!真実を突き止めるために活躍する夢探偵パプリカ。果たして犯人は誰なのか…?」って感じの物語です。

本作は『時をかける少女』などで知られる筒井康隆の原作を、『パーフェクトブルー』や『千年女優』などの今敏監督が映画化した長編アニメーション作品で、2006年に劇場公開されました。

公開当時は、夢の中で繰り広げられる様々な活劇や、奇妙で幻想的なイメージを見事に具現化した”パレード”のシーンなどが話題になりましたが、そのハイクオリティーな作画は15年経った今観ても全く色褪せておらず、まさに「圧巻の映像美」と言えるでしょう。

この素晴らしいヴィジュアルを作り上げるために、『もののけ姫』や『千と千尋の神隠し』で作画監督を務めた安藤雅司や、沖浦啓之、濱洲英喜、小西賢一橋本晋治江口寿志井上俊之など(敬称略)、業界屈指の凄腕アニメーターが集結(中でも、パレードのシーンを全て担当した三原三千夫の作画がすごい!)。

今敏監督『パプリカ』

今敏監督『パプリカ』

また、参加した声優(俳優)も非常に豪華で、林原めぐみ江守徹堀勝之祐古谷徹大塚明夫山寺宏一田中秀幸などベテラン勢がズラリ!

特にデブキャラの時田を演じた古谷さんはオファーが来た時に「え?この役を僕がやるんですか?」とビックリしたものの、「今までやったことがないキャラだったので最初は戸惑いましたが、とても楽しかった」とコメントしています。

ちなみに、パプリカと粉川が密会するバーの店員役として原作者の筒井康隆今敏監督が特別出演してるんですが、筒井さんは割とすぐOKが出たのに対し、今敏監督は自らの演技に納得できなかったらしく「何度も自分にNGを出した」とのこと(笑)。

そして音楽は、今敏監督作品には欠かせないテクノ界の巨匠・平沢進が本作でも素晴らしい楽曲を提供しており、「晴れやかすぎて気色が悪い曲」という今さんのオーダーを受けて作った音楽が例の「パレード」なんですね。

今敏監督は「こんな拙いリクエストでも、平沢さんはこちらの意図以上を汲み取ってくれました」と大満足だったそうです。

そんなパレードのシーンは劇中で何回か出て来るんですけど、その前に発端となる”事件”が起きるのです。それが「所長が突然おかしくなる」という発狂シーン。

今敏監督『パプリカ』

今敏監督『パプリカ』

DCミニが何者かに盗まれ、「大変だ!何とかしなければ…」と島所長や主人公の千葉敦子、そしてDCミニを開発した時田が対策を話し合うために所長室に入ると、そこには理事長の乾がいました。

乾はDCミニの盗難をすでに知っていて、「あの技術は危険すぎる。開発は中止だ」と3人に告げますが、千葉敦子は猛反対。そして今後の対応をめぐって意見を交わしていると、急に島所長が奇妙なことを口走り始めるのですよ。

うん、必ずしも泥棒が悪いとはお地蔵様も言わなかった。パプリカのビキニより、DCミニの回収に漕ぎ出すことが幸せの秩序です。五人官女だってです!カエルたちの笛や太鼓に合わせて回収中の不燃ゴミ吹き出してくる様は圧巻で、まるでコンピューター・グラフィックスなんだ、それが! 総天然色の青春グラフィティや一億総プチブルを私が許さないことくらい、オセアニアじゃあ常識なんだよ!

今こそ、青空に向かって凱旋だ!絢爛たる紙吹雪は鳥居をくぐり、周波数を同じくするポストと冷蔵庫は先鋒をつかさどれ!賞味期限を気にする無頼の輩は花電車の進む道にさながらシミとなってはばかることはない!思い知るがいい!三角定規たちの肝臓を!さぁ、この祭典こそ内なる小学3年生が決めた遙かなる望遠カメラ!進め!集まれ!私こそが!お代官様!すぐだ!すぐにもだ!わたしを迎え入れるのだあああ!

 こう叫びながら、所長は3階の窓ガラスをやぶって外に飛び出してしまうのです(幸い、木に引っ掛かったおかげで大事には至らなかったらしい)。

このシーンに出て来るオセアニアじゃあ常識なんだよ!」というセリフのインパクトがあまりにも強すぎて、いまだにネットで取り上げられる機会も多いのですが、初めて観た時は異様なセリフ回しに驚きました。「一体どういう意味なんだ?」と。

他にも「カエルたちの笛や太鼓に合わせて回収中の不燃ゴミが…」とか、「絢爛たる紙吹雪は鳥居をくぐり、周波数を同じくするポストと冷蔵庫は先鋒を…」とか、普通に聞いていたら全く意味が分かりません。

なので最初は「デタラメな単語を並べているだけなのかな?」と思ったのですが、その後のパレードのシーンを見るとカエルたちの笛や太鼓に合わせて不燃ゴミが躍っていたり、紙吹雪や鳥居やポストや冷蔵庫などが次々と出て来るんですよね。つまり所長は「このパレードのことを喋っていた」ということが分かるわけです。

今敏監督『パプリカ』

今敏監督『パプリカ』

今敏監督はこの辺をかなり意図的に演出していたようで、「先にパレードのシーンが出て来ると言葉の意味が分かってしまって怖くない。しかし見せる順番を逆にすることで、直前までコミュニケーションが取れていた人間が急に訳の分からない言葉を話し始めるという”不気味さと滑稽さ”を表現したかった」と説明しています。

また、今敏監督は「以前はきちんとコミュニケーションを取れていた祖母が認知症になった途端に意味不明の言葉を喋り始め、それを聞いた時に大変なショックを受けた」と語っており、おそらく過去の実体験からあのようなシーンを思い付いたのでしょう。

さらに今敏監督は、悪夢の影響を受けた研究所の所員(男女二人)が廊下を行進するシーンでも、「速報!屋根瓦が誘う木陰で昨日を占う未亡人!応答は晴れ!」「まさに活路!展望の秘密は10年ローンの活き作り!」などの”不可解なセリフ”を次々と生み出し、『パプリカ』の奇妙な世界観を強烈に印象付けました。

これまた意味不明に聞こえますが、今敏監督によると「互いに矛盾するような言葉を組み合わせている」とのこと。例えば、「昨日を占う未亡人」とは「普通、占いは未来を占うもの」という意味で矛盾しているし、「10年ローンの活き作り」は「鮮度が命の活き作りで10年はあり得ない」など、監督の中では「ルールに則ったセリフ」になっているのです(なお、これらのセリフを考えるのに丸1日かかったらしい)。

今敏監督『パプリカ』

今敏監督『パプリカ』

あと、今敏監督作品で特筆すべきは、「海外の映画監督にも多大な影響を与えている」という点でしょう。

有名な話ですが、ダーレン・アロノフスキー監督は『レクイエム・フォー・ドリーム』で『パーフェクトブルー』とそっくりなシーンを再現したり(なんと、わざわざ『パーフェクトブルー』のリメイク権まで購入して!)、『ブラック・スワン』でも類似性を指摘されました。

そして『ダークナイト』や『テネット』のクリストファー・ノーラン監督も、「マシンを使って他人の夢の中へ侵入する」という『パプリカ』の設定とよく似たSFアクション映画インセプションを撮っています。

しかも『インセプション』では、「ホテルの廊下で急に人物の体がフワッと浮き上がる」とか、「空間がガラスのように割れて崩れる」など、『パプリカ』のワンシーンを模したかのような描写まで登場(なお、ダーレン・アロノフスキー今敏からの影響を認めていますが、クリストファー・ノーランは特に言及していません)。

インセプション(字幕版)

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※ちなみに、「粉川が廊下を走っていると急に廊下がグニャグニャと歪み始め、粉川の体が沈んでいく」というシーンはキャラが手描きで背景は3DCGなんですが、今敏監督によると「手描き作画と3DCGが上手く馴染まなくて苦労した」「何度も調整を繰り返し、このワンシーンだけでも完成するまで3ヶ月ぐらいかかった」とのこと(こだわりが凄い!)。

今敏監督『パプリカ』

今敏監督『パプリカ』

このように、今敏監督は国内だけでなく海外からも高い評価を受けており、アメリカのタイム誌は「2010年を代表する人」という特集で、J・D・サリンジャーなどと並び今敏監督を選出。

また、カナダ・モントリオールで開催されるファンタジア国際映画祭は、2012年より今敏監督の功績を讃え、アニメーション部門の最高賞を「今敏賞」という名前に変更したそうです。

残念ながら今監督は2010年に46歳という若さで早逝してしまいましたが、残された作品は現在も変わらず世界中のファンを魅了し、没後10年以上経過してもなお、光輝き続けているのです。

今敏監督『パプリカ』

今敏監督『パプリカ』

というわけで、映画『パプリカ』について制作エピソードを中心にいくつか書いてみたんですけど、本作は内容的にも奥が深く、さらに映画的なネタも多いため、正直まだまだ書き足りないんですよねえ(出来れば冒頭から1カットずつ細かく解説したいぐらいなんですが…w)。なので、機会があればまた改めて記事に書いてみたいと思います。



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