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『機動警察パトレイバー2 the Movie』について色々書いてみる(「戦車」「松井」「銃」「犬」など)

機動警察パトレイバー2 the Movie

機動警察パトレイバー2 the Movie


どうも、管理人のタイプ・あ~るです。

さて先日、機動警察パトレイバー2 the Movieに関する記事を書いたら思いのほか長くなってしまったため途中で一旦終了、本日はその続きです(前回の記事を読んでない方はこちらをどうぞ↓)。

type-r.hatenablog.com

前回は、「自衛隊に治安出動が発令されて特車2課が食品の買い占めに走る」という辺りまでだったので、今回はその後の出来事について書いてみますよ(なお、言うまでもなくネタバレしているため未見の方はご注意ください)。


●日常の中にある戦車

機動警察パトレイバー2 the Movie

機動警察パトレイバー2 the Movie

自衛隊の治安出動発令」という前代未聞の事態に陥った東京を描写する際、子供たちが歩いている歩道橋や平凡なオフィス街など、見慣れた風景の中に当たり前のように戦車が入り込んでいる違和感を描くことで、日常と非日常を見事に対比させています。

”戦車”は、”犬”や”鳥”などと同様に押井監督お気に入りのモチーフで、『うる星やつら』や『天使のたまご』など様々な作品に登場していますが、数の多さでは『パト2』が一番でしょう(本作のために戦車学校の校長に取材するなど、戦車について調べまくったとか)。

なお、東京の市街地に戦車を配置した理由について、押井監督は以下のように語っています。

僕の持論は「戦車は市街戦にこそ映える」。なぜかというと、悪役感がアップするから。戦車って、街を走っている姿が最も凶悪なんですよ。

(「シネマの神は細部に宿る」より)

確かに、街の中に存在する戦車はそれだけで威圧感がありますからねぇ(そういえば宮崎駿監督も『ルパン三世』などでやってたような…)。そして同時に、現実の風景が一気に非現実化していく効果も狙っているのでしょう。

ちなみに、押井監督の戦車好きはアニメだけにとどまらず、『アヴァロン』では旧ソ連T-72『ガルム・ウォーズ』でも天使のたまごに出て来た戦車を実寸大で作って登場させました(『アヴァロン』の時は、休憩中にT-72に乗せてもらって大喜びしていたらしいw)。

また、2012年にTVゲーム重鉄騎のプロモーションムービーを依頼された押井監督は、わざわざポーランドまでロケに行って本物の戦車(T-55)を撮影し、「僕は戦車を撮ったり戦車に乗れたりするのであれば、あらかたのことは我慢できるんですよ(笑)」と大満足だった模様。

さらにガメラ2 レギオン襲来でも、当初は押井監督が自衛隊の戦車を撮影する計画だったのですが、諸事情により断念。後に『ガメラ2』を観た押井さんは金子修介監督と対談した際に、「戦車が美しく見えるアングルをことごとく外している」「戦車に対する愛が足りない」などと不満を訴えたそうです(笑)。

●松井刑事はなぜ危険な捜査を続けるのか?

機動警察パトレイバー2 the Movie

機動警察パトレイバー2 the Movie

敵のアジトと思わしき建物に忍び込む松井さん。「器物破損、住居不法侵入、たぶん窃盗…もしかしたら暴行傷害。警察官のやることじゃねえなあこりゃあ」などと言いながら金網フェンスを切断していますが、違法な行為と分かっているにもかかわらず、どうしてここまでやるのでしょうか?

本編では詳しく描かれていませんが、どうやら後藤さんに(「まさか潜り込めってんじゃないだろうね?」の辺りで)上手く丸め込まれたらしく、それについて押井監督は以下のように説明しています。

松井は(アジトに侵入する前に)後藤に説得されてるんですよ。説得というよりは追い込まれているだけですが、「このままだったらとんでもないことになるんだよ。自衛隊が出て来た時点で警察の負けなんだ。アンタ警察官としてそれでいいわけ?それでもいいんだったら俺もやめるけど」って。そんなこと言われて「じゃあやめるわ」なんて言えるわけありません。

松井は完全に仕事人間です。そういう仕事人間は「やめてもいいんだよ?」と言われれば絶対に反発します。「そこまででいい。お前はこの事件(ヤマ)から手を引け」と言われて本当にやめてしまう刑事ドラマはありません。「これは俺のヤマだ!」と必ず反発します。「俺のヤマ」というのは完全な思い込みなんだけど、そういうふうに思い込んだ時点で、実は後藤のような人間に絡め取られてるんですよ。

(「仕事に必要なことはすべて映画で学べる」より)

もともと松井さんは「出世に興味がなく、現場で働くことに何よりも生きがいを感じる昔気質(むかしかたぎ)な刑事」というキャラクターですが、そういう性格を知り尽くしている後藤さんに上手く利用されてたんですねぇ(泣)。

●電話で柘植と会話する南雲

機動警察パトレイバー2 the Movie

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実家へ戻った南雲さんは母親から渡された番号に電話をかけます。その相手は…

「元気そうだな」

柘植行人の声を演じたのは俳優の根津甚八さんですが、押井監督はこのセリフを聞いた瞬間に「根津さんを呼んでよかった」と思ったそうです。

しのぶが電話してきて、「元気そうだな」ってセリフで、離れて暮らしてるわけだからバーッと3年間が見えてこなければいけないわけですよ。僕は根津さんだったらOKだろうと思ってたんですけど、やっぱり根津さんが実際にそのセリフを当てた瞬間、現場のみんなが「ああっ、さすがだね!」っていうふうになったんだよね。

それは、違う世界で場数を踏んだ役者さんじゃないと難しいんですよ。その時は本当に根津さんを呼んでよかったと思いましたね。出会い頭の一言で、柘植というキャラクターを掴んじゃった。そういう力がもの凄くある人でしたね。

(「アニメージュスペシャル GAZO VOL.1」より)

また、このシーンの南雲さんは普段は結んでいる髪の毛をほどき、表情もぐっと女性らしく描かれています。そういうところも注目ポイントでしょう。

●南雲の母の後ろ姿

機動警察パトレイバー2 the Movie

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南雲さんが柘植と電話で話している時、チラッと母親の後ろ姿が映るんですが、何をやっているのかよく分からなかった人がいるかもしれません。

実はこれ、親子電話を使って南雲さんと柘植の会話をこっそり盗み聞きしているシーンなんですね。押井監督によると「ロマン・ポランスキー的な怖さもあるが、このカットでは水槽を見せることがポイントになっている」とのこと。

確かに、よく見ると部屋の奥に水槽があって魚が泳いでるんですが、果たしてこれにはどんな意味が…?何だかますます怖いですねぇ…

なお、押井監督は「しのぶさんの家には父親の姿がなく、母親は出て来るけど後ろ姿しか描かれていない(敢えて顔を見せない)」と述べており、その辺にも何らかのメッセージや思惑があるようです。

●ガラスに映る南雲

機動警察パトレイバー2 the Movie

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柘植と会うために車で現場まで向かった南雲さんがグローブボックスを開けると、内部の明かりでフロントウィンドウに一瞬だけ顔が映るシーン。押井監督によると、絵コンテでは反射した顔までは指示してなかったそうです。

コンテ段階では想定していなかったのですが、レイアウト作業時に演出家がレイアウトマンと相談して付け加えた効果です。こういったアイデアが後から生まれ、実行できるのがレイアウト作業の大きな魅力であり、醍醐味でもあります。

(「Methods パトレイバー2演出ノート」より)

この”映り込み”を提案したのは、長年押井守作品に演出家として参加している西久保利彦さんで、「映り込みは『パト2』の表面的なテーマの一つだった」「リアルな映像を作るというよりも、実写ならば当然そのように見えるはずのものを作画で見せている」「当たり前のことを当たり前にやっているだけ」とのこと(描く方は大変ですけどw)。

この効果は、南雲さんがドアを開けた瞬間に室内灯に照らされて窓ガラスに姿が映る場面でも使われていますが、歪んだ形のまま人物を動かすのは作画的に極めて難しく、アニメーターは非常に苦労したらしい(一瞬なのでお見逃しなく)。

●拳銃を構える南雲

機動警察パトレイバー2 the Movie

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「止まりなさい!」と叫んで柘植に銃口を向ける南雲さん。この時、構えている拳銃(SIG P210)をよく見ると、ちゃんと撃鉄(ハンマー)が起きてるんですよね。こういう細かい描写にも押井監督のこだわりが感じられます。

銃器を扱うシークエンスで、ハンマーのコッキング状態やトリガーに指がかかっているかどうかなどの細部の描写は、通常あまり意にかけられていませんが、観客が気付くかどうかではなく、自信を持って演出するためにも、勉強以前の”教養”として身に付けておきたい知識です。

(「Methods パトレイバー2演出ノート」より)

ちなみに、南雲さんの”拳銃の構え方”に関しては「上体が起き上がりすぎて理想的な構えとは言い難いが、猫背では”絵”になりにくいので敢えて背筋を伸ばしたままにした」とのことです。

●後藤の表情

機動警察パトレイバー2 the Movie

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柘植を乗せた舟が去って行き、取り残された南雲さんは現場に乱入してきた荒川たちに「どうしてここが…?」と訊ねました。

すると荒川は「人は敵意でなく善意ゆえに通報者になる。子供のためなら何でもするのが親だ」と答えます。

つまり娘のことを心配した南雲さんの母親が、柘植と密会しようとしている情報を警察へ通報したんですね(その連絡を受けたのが後藤さんで、さらに荒川にも教えた)。

悲しそうな目をしながら佇む南雲さんを無言で見つめる後藤さんですが、押井監督によるとこれは「しのぶの信頼を裏切ってしまい、負い目を感じている表情」だそうです。

普通、アニメの監督はこういう喜怒哀楽のはっきりしない”微妙な表情”を作中に出すことはあまりしません。実写の場合は役者の演技力に頼ることも出来ますが、「無言で動かないキャラ」の心情をアニメで適切に描くことは極めて困難だからです。

しかし押井監督は「ひと昔前のアニメでは考えられなかったが、現在の作画力やデザインのレベルを以ってすれば、こうした”顔にものを言わせる演出”も不可能ではない」と考え、敢えて難しい表現に挑んだのです。

また、南雲しのぶ役の榊原良子さんもこのシーンの表情が気に入っているらしく、以下のように語っています。

後藤さんについては、わたしはセリフよりも顔の印象が強いんですよ。『パト2』で、南雲さんと柘植さんが密会するのを、後藤さんが裏で手を回して阻止するって場面があるじゃないですか?その時に、後藤さんが悲し気に南雲さんを見つめる表情がとても印象的でした。大林さんのセリフはないんですけど、でも大林さんの息遣いが聞こえてくるみたいで。

(「後藤喜一×ぴあ」より)

●犬のアップ

機動警察パトレイバー2 the Movie

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これまた印象的なカットですが、なぜここで犬の顔を大きく映しているのか?押井監督によると「犬のアップがどうしても欲しかったという監督の個人的欲求によるカットであって、物語上あるいは演出上は全く不要な構図です」とのこと。

つまり、これは「業界屈指の犬好き監督」として知られる押井さんの完全なる趣味によって作られたカットで、当時押井さんが飼っていたバセットハウンドのガブリエル(愛称:ガブちゃん)を登場させたかっただけなんですね(笑)。

なお、押井監督の異常な犬好きは本作だけにとどまらず、『イノセンス』や『スカイ・クロラ』にも似たような犬を登場させ、実写映画『アヴァロン』ではとうとう本物のバセットハウンドが出て来ました。

しかも、『アヴァロン』のロケ地のポーランドにはバセット犬がほとんどいなかったため、350キロも離れた場所にいたバセットをわざわざ連れて来て撮影したそうです(犬を登場させるためにシナリオまで書き変えたらしい)。

挙句の果てには『パト2』のサウンド・リニューアル版を作る際、なんと愛犬ガブちゃんの声を自ら録音し、「犬のアップ」のシーンで使ったというのですからビックリ仰天(クレジットにまで犬の名前を載せてるしw)。

押井監督曰く、「『パト2』の最初のバージョンは全然違う犬種の声だったけど、音効さんにストックがなかったので我慢したんだよ」「サウンドをリニューアルした時にやっとガブの声に変更できた」とのことで、犬に対する執着心が常人の理解を超えてますねぇ(苦笑)。

機動警察パトレイバー2 the Movie

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というわけで本日はここまでです。続きはまた後日書きたいと思いますので、今しばらくお待ちください。

※追記

続きを書きました!(こちらからどうぞ↓)

type-r.hatenablog.com