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鈴木敏夫、高畑勲について語る


最近、以下の記事が話題になっていたので読んでみた(※残念ながら現在は非公開になっているため読むことが出来ないようです)。

鈴木敏夫が語る高畑勲

いや〜、これはすごい!

今年4月に亡くなった高畑勲監督について、ジブリのプロデューサーの鈴木敏夫氏が過去のエピソードを交えながら「高畑勲と付き合うことがいかに大変だったか」を語っているのだが、どれもこれも凄まじい内容ばかりで戦慄させられること間違いなし!

「まわりの人間に対する配慮がない人なので、スタッフがみんなボロボロになる」
「高畑さんにとっては”いい作品を作ること”が全てであり、その他のことは一切考慮しない」
「良くいえば作品至上主義。でも、そのことによってあまりにも多くの人を壊してきた」

鈴木さんは「高畑監督は良い作品を作るために多くの人を壊してきた」と告白し、『火垂るの墓』などで作画監督を務めたアニメーターの近藤喜文氏が「高畑さんは僕を殺そうとした」と泣きながら訴えたとか、恐ろしい逸話が満載だ(なお、近藤喜文氏は高畑監督と仕事をした後、47歳の若さで亡くなっている)。

というわで今回は、この記事に書かれていること以外の「高畑勲監督が行った数々の驚くべき所業」についてざっくりと書いてみたい。


鈴木氏が高畑監督と組んで作った映画は『火垂るの墓』『おもひでぽろぽろ』『平成狸合戦ぽんぽこ』『ホーホケキョ となりの山田くん』『かぐや姫の物語』の計5本。

しかし、その全てで「監督 vs プロデューサー」の激しい戦いが繰り広げられ、1作目の『火垂るの墓』では高畑監督のこだわりが強すぎて制作が大幅に遅れ、ついに未完成のまま映画を公開する非常事態となってしまう。

2作目の『おもひでぽろぽろ』の時にはさらに遅延状態が悪化し、とうとう宮崎駿「高畑監督の方針に従って映画を作っていたら絶対に公開日まで間に合わない!今すぐやり方を変えろ!」と大激怒。

高畑監督は人物のリアルな動きにこだわり、極めて繊細な作画を指示していたのだが、そのやり方では「いつまで経っても終わらない」というのだ(ちなみに、宮崎監督はこの時あまりにも大声で怒鳴ったため体の震えが止まらなくなり、その後3日間眠れなかったらしい)。

3作目の『平成狸合戦ぽんぽこ』の時には、さすがに鈴木氏も「今までのやり方ではダメだ」と考え、本当は夏の公開なのに「春に公開します」と”嘘の予定日”を高畑監督に伝える作戦を実行(わざと締め切りを三カ月前倒しした)。

ところが「これで間に会うだろう」と思っていたら、なんと高畑監督は春の締め切りを余裕でぶっちぎり、サバを読んだはずの「夏公開」にも間に合わないという想定外の事態が勃発!

これには鈴木氏も困り果て、監督と相談した結果、絵コンテから約10分カットすることで作業を短縮し、何とか解決した。しかし、それから数カ月間、高畑監督から毎日「鈴木さんがカットしたせいで映画がガタガタになった」と言われ続けるはめに…(鈴木氏曰く「ノイローゼになりそうだった」とのこと)。

そして4作目の『ホーホケキョ となりの山田くん』の頃になると、もはや鈴木氏も開き直り、「製作は順調に遅れています」という自虐的な予告編をバンバン流す有様。

さらには宣伝のキャッチコピーまで「日本の名匠、高畑勲監督の”とりあえず”の最高傑作誕生!テーマは適当(てきとー)」という、かなりふざけた感じになってしまった。

こうした宣伝方針に対して、高畑監督は一切文句を言わなかったものの、スタッフとして参加していた某ベテランアニメーターが「『もののけ姫』であれほど真面目に”生きろ”って言ってた人が、今回は”てきとー”ってどういうことですか!?」と真剣な顔で抗議に来たらしい。

そして遺作となった『かぐや姫の物語』。鈴木氏が関わった5作品の中では最も難産で、完成までなんと8年を費やし、製作費も50億円(劇場用アニメとしては日本映画史上最高額!)を突破するなど、多くのスタッフが苦労を強いられた超大作映画である。

例によって現場ではトラブルが続出し、あまりにも仕事がキツすぎてアニメーターから苦情が出るわ、高畑監督は脚本をなかなか書かないわ、絶望的な制作進捗表を見せられた鈴木敏夫氏は「吐き気がする」と言ってトイレに駆け込むわ、ムチャクチャな状況だったらしい(詳しい内容は下の記事をご覧ください↓)。
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というわけで、今回の鈴木氏の告白を読んだ多くの人が衝撃を受けたらしく、高畑勲ってこんなにひどい人だったのか」「完全にブラック企業じゃん!」などの批判が殺到している模様。

しかしその一方で、高畑監督が生み出したアニメーション作品における表現の革新性や、後進のクリエイターたちに与えた影響の大きさは計り知れないものがある。

富野由悠季監督は「『アルプスの少女ハイジ』や『母をたずねて三千里』や『赤毛のアン』のような作品が先になければ、日本のアニメは絶対に今の形にはならなかった。僕が『機動戦士ガンダム』に辿り着けたのも高畑作品で修業したおかげ。それは認めざるを得ない」とコメント。

また、ガンダムでキャラクターデザインを担当した安彦良和氏も「個人的には、高畑さんの最良の仕事は『母をたずねて三千里』だと思っている。当時”TVのリミテッドアニメでもやり方次第でこんなにクオリティの高いものが出来るんだ”ということを見せつけられ、本当にショックを受けた。今でも、3カットくらい見ただけで涙が出そうになる」と告白。

他にも多くの映画監督やアニメ業界関係者からその功績を認められており、人間性に対する批判と作品に対する称賛がクッキリわかれているのが興味深い。果たして高畑勲監督の本当の評価はどちらが正しいのだろうか?


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