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山賀博之『ワンダフルデイズ』映画感想

ワンダフルデイズ

■あらすじ『時は西暦2142年。地球は大気汚染が進行し、常に厚い雲に覆われていた。かつては、この雲の向こうにまばゆい太陽の光が降り注いでいたが、人類によって引きおこされた大きな戦争が天候に影響を及ぼしてしまったのだ。輝かしい光が射し込む日は“Wonderful Days”と呼ばれ、人々の希望の象徴となっていた。大気汚染にさらされ、エネルギー不足に悩みながら、それでもなお止む事の無い人類の争い。選ばれた者たちの都市エコバンとエコバンに住むことを拒否された者たちの町マールでの生存をかけた闘いは、激化の一途をたどっていく。マールの抵抗組織で活動する青年スハは、かつてエコバンで暮らしていたが、ある時、友人シモンの策略に合い街を追われ、今はエコバンを敵に回していた。そんな中、スハはエコバンの都市機能停止をもくろみ潜入するが、そこで警備員の女性ジェイと遭遇する。お互い敵同士だが、実は2人はかつて同じエコバンで生活していた幼なじみであり、スハが「いつかこの世界に青い空を見せてやる」と約束した相手だったのだ。敵として対峙した二人の心は揺れる。そしてまた、彼らの愛を憎しみの目でみつめるシモンの姿があった。スハとジェイ、戦火に引き裂かれた愛し合う二人は、もう一度一緒に青い空を見ることができるのか!?制作期間5年、総製作費13億円。2Dと3Dが絶妙に融合した、韓国発のハイブリッド・アニメーション超大作がここに誕生!』



本作は、2003年に韓国で公開されたキム・ムンセン監督の映画をガイナックスが日本語版としてローカライズし、配給した作品だ。日本語版の脚本と演出を『オネアミスの翼』の山賀博之監督が手掛けている。この映画に関して山賀監督は「『ワンダフルデイズ』は知ってか知らずか、アニメとしては物凄く高度な事に挑戦してしまっている」とインタビューで語っているのだ。

山賀:『あの作品の日本公開権を買い付けようという事になってDVDを買って観た時に「なんて事を考えたんだ!」と、画面に向かって叫んでたんです。「無理だろう」と。それは、あの作品が至ってないという事ではなく、たぶん誰にも出来ない事なんですよ。アニメで描かれた人間の顔っていうのはやはり、眉が吊り上がっていると怒っているとか、口の端が上がっている時は笑っている、てなくらいであって、複雑な感情をアップでなんか描けないんです。


もうどんなに上手いアニメーターを連れて来ても描けない…と言うと、確かに有能なアニメーターに失礼なんですけど、アニメの性質として基本的に成果は上がらない。演出家が考えているほど、効果は出ないんです。『ワンダフルデイズ』はそんな不可能とも思える領域に挑戦している感じがあったので、自分が演出した日本語版では、もう少し感情を単純にしなきゃと思って作ってます。』(講談社ガイナックス・インタビューズ』より)

山賀監督の言う通り、この映画の情報量の多さは確かにタダ事ではない。一目画面を見ただけで、普通のアニメとは違うという事がはっきり分かる。それは、単にキャラクターの感情表現だけには止まらない。一言で言えば“異質”なのだ。

手前に描かれているキャラクターと、奥の背景の質感が完全に異なっている。本来別々であるハズの表現方法が、一つの画面の中に混在する事によって生じる違和感。それは、以前フルCGの背景と手描きのキャラとの合成によって作り出された某アニメーションを初めて観た時にも感じた違和感と似ている。

しかし大きな違いは、本作の背景は実写という事だ。なんと、ミニチュアの背景セットを組み立て、それを撮影した後、コンピューター上でキャラクターを合成しているのである。およそそれまでの常識では考えられない、とてつもない発想だ。「なんて事を考えたんだ!」と山賀監督が叫ぶのも無理はない。

しかし、そこまで苦心惨憺して作り上げた映像が、果たしてどれほどの成果を上げているのか、甚だ疑問だと言わざるを得ない。背景をミニチュアで作る事に意味はあったのだろうか?アップルシードのように、フルCGで製作されたアニメーションがどんどん出てきている昨今、背景に実写並みの質感を出させる事は特に困難ではなくなってきている。

ならば、わざわざ巨大なミニチュアを作る必要など無いのではないか?事実、映画の中ではバイクや飛行機などのメカはCGで作られており、ミニチュア、CG、手描きと三つの異なる要素が混在している。必然的に、ヴィジュアルに統一感が無くなり、観ていて終始落ち着かないのだ。

一方、物語の方は逆に意外と単純で、「幼い頃生き別れになった幼馴染みの男女が最終的にどうなるのか?」といったラブ・ストーリーが主軸となっている。しかし、周りにSF的ガジェットを散りばめているだけで話自体は特に捻りも無く、大体予想通りの結末へと落ち着いてしまう。可も無く不可も無くという感じだ。見た目だけはそれなりにインパクトはあるものの、観終わった後は特に印象には残らない。もう少し、ストーリーの方にも工夫が欲しかったなあ。

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