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押井守監督『イノセンス』ネタバレ感想/解説

押井守監督『イノセンス』
押井守監督作品『イノセンス』より
■あらすじ『人間とロボットが共存し、電脳ネットワークが整備された近未来都市。ある夜、少女型のアンドロイドが暴走し、所有者を惨殺する事件が発生する。人間のために作られた機械がなぜ人間を襲ったのか?内務省公安九課に所属する刑事バトーは、相棒のトグサとともに捜査を開始した。自身が全身を義体化したサイボーグであるバトーは、捜査の過程で様々な人形=ロボットと出会い、その存在に托された意義について思いを巡らせる。捜査を妨害するハッカーに苦しみながらも、バトーとトグサは事件の核心に迫ってゆくが、そこには驚愕の事実が隠されていた!宮崎駿大友克洋と並び、日本のアニメーションを世界に名立たる文化へと押し上げた鬼才・押井守監督の劇場最新作!』



1995年にとある長編アニメーション映画が劇場公開された。タイトルはGHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊。その先鋭的で斬新な映像表現は、日本のみならず海外で絶大なる評価を得て、ついには米ビルボード誌でセルビデオチャート1位を獲得するという、日本の映像作品としては初の快挙を成し遂げたのである。

さらにジェームズ・キャメロンウォシャウスキー兄弟といった名立たるハリウッドの監督たちに多大な影響を与えるなど世界的な話題となり、“押井守”の名前は大きくクローズアップされる事となった。本作はその押井監督が、9年ぶりの長編アニメーション映画として満を持して世に送り出した待望の最新作だ。

この映画を見た多くの人が、映像、音響の素晴らしさに圧倒され、日本のアニメーションが世界の頂点にあることを改めて思い知らされた事だろう。しかし一方で、映画のセリフで引用される難解な言葉に翻弄されて、「チンプンカンプンだ!」と感じた人も多いと思う。確かにこの作品はハリウッドのアクション映画のように単純明快な物語ではない。

実は本作に限らず、押井守監督作品には常にいくつものテーマや暗示、引用といったものが埋め込まれており、その混沌とした世界観が独特な魅力となっているのだ。また登場人物たちの語る哲学的なセリフや古典文学からの引用などは、一見映画を複雑にしているように見えるが、同時に映画をより豊かなものにもしている。まさにそれこそが“押井ワールド”であり、押井監督の狙いなのだ。

さて『イノセンス』を観た人がまず驚くのは、その圧倒的なヴィジュアル・イメージだろう。尋常ではないレベルの映像表現の数々は、あまりにも凄すぎて完全に「どうかしてる!」としか言いようが無い。今回は黄瀬和哉西尾鉄也沖浦啓之といった一流アニメーターを3人も作画監督に迎えているので当然なのかもしれないが、その緻密極まりないヴィジュアルにはド肝を抜かれる事間違い無しだ。

しかしその分、製作の苦労もハンパではなかったようで、DVDのオーディオ・コメンタリーで「もう何もコメントしたくない」と監督が泣き言を言うぐらい、現場は大変な状況であったらしい。

中でも一番つらかったシーンは“食料品店”の場面だそうだ。元々このシーンは「3次元の箱庭を作ってデジタル撮影したらどうなるか?」という発想から作られたものだった。しかし「難しい事は分かっていたが、想像を遥かに上回る膨大な作業量に目まいがしそうだった」と言うぐらい、筆舌に尽くしがたい困難が待ち受けていたのである。

簡単に言えば「コンビニの中にある商品全部をスキャナーで取り込み、一個ずつ3Dオブジェクトを作って貼り付けていく」という、気の遠くなるような作業なのだ。最終的なテクスチャの数はなんと4000枚以上!CGの担当者は押井監督からこの内容を聞いた瞬間、「絶対にやりたくない!」と思ったそうだ。作画監督西尾鉄也に至っては「何を夢みたいなことを言ってるんだ、この人は?」と呆れ返って言葉も出なかったらしい。

案の定、やってもやっても作業は終わらず、結局この1シーンだけで完成までに1年以上もかかってしまったのである。だが日本でもトップクラスのクリエイターたちが集結し、準備期間2年間、実制作期間3年間を費やして作り出された超絶的な映像世界は、いまだかつて誰も見た事がない究極のクオリティを誇っていると断言できるぐらい素晴らしい。まさに完全無欠の映像美!

また、この映画ではスタジオ・ジブリ鈴木敏夫が、プロデューサーとして参加している事も話題となった。「プロダクションI・Gの石井社長に騙されて、ノーギャラで仕事を引き受けるハメになりました(笑)」と鈴木氏は語っているが、長年の友人である押井監督の為に、積極的に協力したようである。

だが、押井監督から「映画の内容には口を出すな」と警告されたにもかかわらず、鈴木氏は従来通りのやり方を貫き、どんどん口を出していったのだ。例えば、映画のタイトルは当初『攻殻機動隊2』だったのだが、「海外でいくら評価が高くても、日本でたった12万人しか動員していない作品の続編が売れるハズないだろ!」と言い放ち、『イノセンス』に変えさせてしまったのである。

その他にも「主題歌を入れよう」とか「セリフを変えてくれ」とか「もっとエピソードを増やせ」とかその要求は止まる所を知らず、挙句の果てには「メインヴィジュアルに犬を出そう!」とまで言い出した。元々押井監督が考えていたメインヴィジュアルは“人形”の絵だった。

しかし「これでは女性の観客に対するアピールが弱い」との意見で、急遽“犬”の絵が追加されたのだ。押井監督はそんな鈴木氏の提案する様々な意見に当初は反発していたが、熱心な説得工作に「なるほど、それもそうだな」と最終的には納得してしまったのである。鈴木氏の恐るべき交渉力には脱帽するしかない。

しかし残念ながら、これらの熱心なプロデュース活動が効を奏したとは言いがたい。鈴木氏としては「一人でも多くの人に映画を観てもらいたい。押井守をメジャー監督にしたい」という強い気持ちがあったと思われるが、出来上がった映画は今まで以上に押井守の作家性が爆発しまくっていたからである。押井映画のファンならともかく、宣伝に釣られてやってきた一般の観客が、いきなり理解できる内容とはとても思えない。

事実、僕が観に行った時は若いカップルや年配の夫婦など、どう見ても押井作品とは縁が無さそうな人たちで劇場は一杯だったが、当然の如く上映終了後は皆「狐に摘まれたような顔」をしていたのである。せっかく映画公開に合わせて行われた大々的な宣伝活動のおかげで前作よりも観客動員数が増えたのに、肝心の映画自体が大衆を拒むような内容ではどうしようもない。

これほどの超大作になっても尚、自分のスタイルを貫き通すその信念は立派だと思うが、メジャーになるどころか、巨大なマイナーになっただけという気がするなあ。しかし国内の評価はともかく、この映画のおかげで海外からのオファーが殺到したらしい。だが今のところ、「ハリウッドでは自由に映画が作れないから」という理由で片っ端から断っているようだ。やっぱり大物なのか?

尚、「どーしても『イノセンス』のストーリーが分らない!」という人には士郎正宗の原作:『攻殻機動隊』を読む事をお薦めする。第一巻のエピソード6「ROBOT RONDO」が、この映画のベースとなった物語だ。ただし、かなりの部分で映画と異なっている上に、士郎正宗のマンガ自体が一筋縄ではいかない雰囲気を醸し出しているので十分注意が必要だ。とにかく読む人を選ぶマンガなんだよ、コレが(笑)しかも第二巻はもっとワケが分らん(いや、面白いんだけどね)。

ところで本日、いつものように映画に関する本を買い漁っていたら、とんでもない本を発見した。タイトルは『「イノセンス」METHODS押井守演出ノート』。なんとこの本、映画の1カット毎に押井監督自身が詳細な解説をつけた解説本なのだ!その内容は「このカットにはこういう演出意図がある」とか「何故こういう構図になったかと言えば」とか、レイアウトが表現している意味を何百カットにも渡って実に細かく分析しているのである。

つまり「恐ろしく詳しい究極の映画解説書」なのだ!いままで色んな映画の本を見てきたが、ここまで徹底的に一本の映画を解説し尽くしている本は始めてだ。と思ったら、『パトレイバー2』でも同じ本が既に出ているらしい。いったい誰が買うのか?って思わず買ってしまいましたが(笑)。

←ちょっと見づらいが、右側には監督のコメントがぎっしりと書き込まれてます。

しかし、本の帯に「映像制作を志す全ての人に」と書かれている所を見ると、現場スタッフやアニメーターを目指す人の為に作られた「実践的レイアウト教本」といった感じである。とにかく、この本に書かれている膨大な量の「うんちく」を読めば、なぜ押井監督の映画があれほど“密度が濃い”のか、その理由がイヤでも分るハズだ。映像にしても内容にしても、常軌を逸した情報量の多さであると言わざるを得ない!

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