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『戦場のピアニスト』ネタバレ映画感想/評価

戦場のピアニスト

■あらすじ『ナチス占領下のポーランドを舞台に、ホロコーストを生き延びた一人の天才ユダヤ人ピアニスト、ウワディスワフ・シュピルマンの実話を元にした人間ドラマ』



第75回アカデミーで監督賞他3部門受賞、カンヌ映画祭パルムドールを受賞した感動の大作!などと聞くといかにも「芸術映画」っぽい感じでちょっと退屈な話かな〜と思っていたのだが、意外と見やすい映画だった。

確かに画面は地味で物語は淡々と進んでいくものの、ナチスの目から逃れてひたすら逃げまくるシュピルマンの波乱万丈の人生は、描写のリアリティも含めて大変見ごたえがある。

ただし実話がベースになっているという事もあり、ドラマチックに盛り上がるような場面はあまり無い。そういう意味では「感動の大作」という表現はちょっと違うような気もする。

人が死ぬ場面も大量に出てくるが、常に冷静な視点」で描写しているのが特徴だ。ドイツ兵はまるで事務処理でもするかのように、何の感情も無くユダヤ人を殺してゆく。

そして、大掛かりな戦闘シーンでもわざとらしくカメラが寄ったりすることもない。顔の判別も出来ない程にロングで引いた画で、あくまでも淡々と人が死んでいく様子を描写しているのだ。

これはもちろんシュピルマンの視点であり、彼が体験した事を彼の目を通して観客に見せているのだろう。ではこの映画の面白さはどこか?それは彼の”生き様”である。

普通「戦争を生き延びた」というと、どれだけ生きる事に執着したのかが注目されると思うが、彼の場合は「生への執着」というものがあまりにも希薄なのだ。

これは演じたエイドリアン・ブロディのキャラクターも関係すると思われ(実際のシュピルマンは違うと思う)、あまりにも生きる気力が乏しく見える。

「何が何でも死なないぞ!」というような前向きな姿勢は全く感じられない。では、なぜ生き延びる事が出来たのか?実は彼のピアニストとしての腕前は広く知られており、多くのファンがいたのだ。そんな彼を慕っている人々が寄ってたかって彼を逃がす為に奔走したのである。

つまり、周りの人の善意によって彼は”生かされた”のだ。あるときは警官が、あるときは食堂の親父が、あるときは職場の仲間が、そしてあるときは友人の妹が、彼がピンチになると次から次へと現れては、彼を助け逃がしてくれたといわけだ。まさに人徳の成せるワザ!

極めつけはドイツ軍の将校に発見された時だろう。普通ならば問答無用で射殺されるハズなのに、彼のピアノの腕前に惚れ込んだ将校は、なんと命を助けたばかりでなく、食料や着るものを差し入れしてくれたのだ!これが実話だという事に驚嘆せずにはいられない。戦時中にこんな事があり得るのか?まさに「芸は身を助ける」である。

監督のロマン・ポランスキーも幼少の頃ゲットーを脱走し、カトリック教徒の家にかくまわれながら生き延びたそうだ。その時の「色々な人に助けられた体験」も、映画の中に生かされているのだろう。戦時中の悲惨な状況下にあっても、人の心の優しさは決して失われていない。そんな主張が伝わってくるような映画だった。

ちなみにシュピルマンはこの後、寒さをしのぐためにドイツ軍の将校からもらった軍服を着たまま生活を続ける。そしてソ連軍がやって来た時もそのままの姿で助けを求めたせいで、なんとドイツ兵と間違えられてあやうく撃ち殺されそうになるというミスをやらかしてしまう。服を脱げ!

主演:エイドリアン・ブロディ、監督:ロマン・ポランスキー