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松田龍平 酒井若菜主演『恋の門』ネタバレ映画感想

恋の門

月の初日なので、いつものように映画館へGO!今回見た『恋の門』はジャンルで言えば「ラブ・コメディー」になると思うが、今まで僕が見てきた「ラブ・コメ」とは全く趣が異なっていて驚いた。普通「ラブ・コメ」と言えば、「ラブ・ストーリー」と「コメディー」がバランス良く融合している映画、というのが一般的な認識だと思う。

しかしこの映画は「コメディ」のテンションが高すぎて、「ラブ」の要素と完全に分離しているのだ。一言で言えばとてつもなく濃い映画である。とにかく一画面の中における情報量がハンパではなく、よくもここまでディープな映画を作ったもんだと呆れるしかない。

コスプレ好きの恋乃がはまっている格闘ゲームソウルキャリバーⅡ。持ってるゲーム機はXBox。アニソン好きで同人誌作りが趣味でコミケに参加し、劇中のギバレンガーというアニメにはまっている。しかもこの1分にも満たないオープニングアニメを作る為にわざわざガイナックスに発注し、庵野秀明が1千万円をかけて製作したという念の入れようだ。そのテーマソングを歌うのはアニソン界の帝王影山ヒロノブ!さらにコスプレ・イメクラの看板に書かれている文字は
綾波レイ、はじめました」
なんじゃそりゃあああ!?冷やし中華かよ!www

とにかく最初から最後までオタクネタ満載で、「もうお腹いっぱいです!」と思わず謝りたくなるほどのものすごい密度だ。また松尾監督自身若い頃漫画家を目指していたらしく、いたるところに漫画に関するこだわりの深さが見て取れる。特に3人が漫画バトルを繰り広げるシーンに至っては、監督の漫画に対する愛情までが画面から伝わって来るほどの勢いだ。

3人が描く漫画も「ガロ系」「同人誌系」「ジャンプ系」とキチンと区別されている点も素晴らしい。「ディテールの面白さ」という点においては、”その筋の人”にはたまらん映画であることは間違いないだろう(これらのゲームやアニメやマンガの元ネタが分からない人にとっては、逆に鬱陶しいのではないか?と余計な心配をしてしまうぐらい)。

では「映画的な面白さ」についてはどうか?実はこの映画、「ラブストーリー」にしては非常識なぐらいテンポが早い。もともと原作は単行本5冊分なので、そのままでは一本の映画にまとめるのは無理がある。普通だったらエピソードを減らすなり、短くするなりして時間内に収めようとするだろう。

しかし松尾監督は5冊分のエピソードを一本の映画の中で一気に見せ切る方法を選択したのである!そりゃあ展開が早くなるのも当然だ!『タイタニック』を3倍速で見ているようなもんだよ(笑)。

また、監督自身「ラブ・ストーリーのモタモタした展開が昔から嫌いだった」と言っているように、とてもラブ・ストーリーとは思えぬ圧倒的なスピード感が実に気持ち良いのだ。さすが”史上最速のラブストーリー”のキャッチはダテではない!

次に「キャラクターの面白さ」についてだが、これはもう文句のつけようがないぐらいに良かった。非常に個性的なキャラばかりが揃っており、見ていて飽きる事が無い。というより全員どこか狂っていて、まともな人間が一人もいないのだ。主人公の蒼木門(松田龍平)は自称「漫画芸術家」で、石に異常な執着心を持っている、顔はいいがどこか浮世離れした青年だ。

ヒロインの証恋乃(酒井若菜)は一見普通のOLだが、コスプレが趣味の同人誌作家で声優ファンという、どこからどう見ても立派なオタクである。しかしある意味この2人がこの物語の中では一番「まともに近い」と言えるのだから、他のキャラの異常さは押して知るべしであろう。

松田龍平はあの端正な顔でとんでもないボケを次から次へと炸裂させる、そのギャップが猛烈に面白い!酒井若菜はかわいい顔とオタク性癖とのギャップが笑えるのだが、後半大変な事件が勃発し、彼女のキャラが徐々に崩壊していくのである。

その壊れっぷりが実に見事!最終的には堕ちるところまで堕ちて、コスプレ・イメクラの風俗嬢にまで成り果ててしまうのだ(でも本人は楽しそう)。ある意味「最強の汚れキャラ」と呼んでも差し支えないだろう。酒井若菜の凄まじい女優根性には頭が下がる。乳のデカさも規格外だ。

あと、個人的には大竹しのぶのキッチ・キッチンのコスプレに腰が砕けそうになった。何故、大竹しのぶが!?何故、イデオン!?元ネタを分かる人がどれほどいるのか?などと様々な思いが一瞬で頭の中を駆け巡ってしまった(笑)。「日本を代表する一流女優」の面影はもはやどこにも見受けられない。

最後に「総合的な面白さ」について。この映画を見終わって冷静に思い返してみると、実は物語の骨格は「極めて正統なラブ・ストーリー」であるという事に気付き驚かされる。2人の男女の出会いやすれ違い、そして愛が成就するまでを実に真っ当に描き切っており、ある意味ベタと言えるほどの王道的ラブ・ストーリーである(「遅刻しそうになってる女の子がパンを持って走って来る」という20年前の少女マンガをそのまま再現したオープニングに至っては言葉も出ない)。

では「よくあるラブ・ストーリー」とどこが違うのか?普通は「愛か仕事か、どちらかを選べ!」という局面に立たされたとき、悩んだ末に男が「愛」を選択する事によって物語はハッピー・エンドを迎えるのだ。しかしこの映画の主人公には「どちらかを捨てる」という発想など無い。

「俺は全てを手に入れる!恋も漫画もあきらめない!!」と言い放つのだ。実に痛快ではないか!恋愛映画の方程式に新たな解答を提示して見せたのである。徹底的に作り込まれたヴィジュアルとスピーディーな展開によって最後まで一気に見せられてしまう超高速の恋愛映画。これぞまさに新世代のラブ・ストーリーと言えるだろう。

主演:松田龍平酒井若菜松尾スズキ、共演:忌野清志郎小島聖塚本晋也大竹まこと平泉成大竹しのぶ、ゲスト出演:三池崇史三輪ひとみ、小森未来、庵野秀明安野モヨコ尾美としのり田辺誠一片桐はいり市川染五郎内田春菊山本直樹しりあがり寿ジョージ朝倉、監督・脚本:松尾スズキ、原作:羽生生純、主題歌:サンボマスター、劇中主題歌:影山ヒロノブ