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押井守監督、『ダンケルク』を語る


どうも、管理人のタイプ・あ〜るです。

さて、クリストファー・ノーラン監督の最新作ダンケルクが、早くもブルーレイ化されることになりました。僕、ついこの前、劇場で観たばっかりなんですけど(笑)。

てことは、まだ一部の地域では絶賛公開中であるにもかかわらず、来月にはもう『ダンケルク』のソフトが発売されてしまうわけですよ。いや〜、早いなあ!

しかも、109シネマズ大阪エキスポシティでは11/18(土)からIMAX次世代レーザー版の再上映が始まるみたいだし、本当にBDの発売日ギリギリまで上映が続きそうな感じですね(^_^;)

ただ、この映画は劇場の大画面としっかりした音響設備で観てこそ真価を発揮するタイプの作品なので、ブルーレイが発売された後でもIMAXで上映していれば客は入りそうな気がします(笑)。

そんな『ダンケルク』ですが、『攻殻機動隊』で有名なアニメーション監督の押井守さんも気に入っているらしく、インタビューで感想を喋ったり、パンフレットにコメントを寄稿したり、色々な場所で本作について語っていました。

中でも、キネマ旬報9月下旬号に掲載された岡部いさく氏(軍事評論家)との対談が非常にマニアックで面白かったので(笑)、本日はその一部をちょこっと抜粋してご紹介しますよ。




押井:スピットファイアが実機を使っているのはわかったんだけど、メッサーシュミットはスペインのやつ(イスパノHA-1112)か。まだ飛べるんですね。

岡部:ええ。イスパノは『空軍大戦略』で使われて以降、とても珍重されています。それに現在、第二次世界大戦の飛行機はアメリカやヨーロッパで投機の対象になっていて、コレクターやレストア屋たちのおかげで市場ができてるんですよ。

押井:スピットはレストアしているところが結構あるんですよね。昔、『スカイ・クロラ』でポーランドへロケハンに行ったときに、退役軍人がやっているレストア屋にスピットが並んでて、そこの親父が「これが2機あれば食っていけるんだ」って話してた(笑)。

岡部:『ダンケルク』のスピットファイアは、初期のⅠ型とⅡ型とⅤ型を使ってるんですけど、この3機は形が似てるから、実際の戦いで使われたⅠ型と見分けがつかないのはいいですね。『空軍大戦略』の時は、Ⅰ型やⅡ型のような古いスピットで飛べる機体は少なかったので、Ⅳ型やXⅣ型といった後期の機体が使われていたんです。

押井:メッサー(の再現度)はどうですか?

岡部:イスパノを基に(ダンケルクの戦いの時の)E型っぽく改造してますね。だから、翼端が四角いんですよ。

押井:まあ、画面じゃほとんどわかんないですよね。

岡部:いや、わかります!

押井:(笑)。それにしても、空戦でCGを使わないのは大したものだし、カメラアングル的に「本当に実機でできるの?」っていうようなところもあって、面白かったね。

岡部:特にすごかったのは、ハインケル(ドイツ軍の爆撃機)のシーンです。かなり大きなラジコン飛行機を使って撮影してるんですが、狙われている船 → ハインケル(ラジコン) → スピットファイア(実機)が一度に画面に収まるシーンで、それぞれの大きさに破綻がない。

押井:あの縦の構図は観た瞬間、CGを使わないと無理だと思った。だから相当計算して撮ったんでしょうね。今まで観たことがない画で、非常に新鮮でした。あと、燃料計をやられて、たえず残りを気にしながら戦ってるところとか、描写としては珍しい。狭いドーバー海峡の上空で、あれだけ燃料を気にして戦う戦闘機ってスピットくらいでしょう。

岡部:いかにもスピットらしい、燃料搭載量の少なさ、航続距離の短さが、まったく説明はないんですが、うまく表現されていましたね。そもそもイギリス本土決戦用の防空戦闘機ですから、仕方ないんですが。

押井:この映画のなにが凄いかっていえば、「物量がすごい」とか「リアル」ということじゃないんですよ。監督の「カメラの前で起こったことを、何が何でも実際にやる」っていう根性。たぶん、ノーランじゃないと許されないと思う。並の監督なら、絶対にプロデューサーは「ダメ」って言いますから。

岡部:まあ、ダンケルクの戦いの映画なのに、海岸でドイツ軍を押しとどめていたフランス兵すらも描いていませんからね(笑)。本来は撤退作戦の主役であるはずのイギリス陸軍も、まったく活躍しない。海岸に寝そべってシュトゥーカ(ドイツ軍の爆撃機)に向かってライフル撃った兵士がいましたけど、すぐに吹き飛んでしまいましたから(笑)。

押井:そういう意味では、かなり視点の偏った、変な戦争映画ですよ。

岡部:ディテールという意味では、面白いところがたくさんありましたよね。たとえば最初の街のシーンで、トミーがドイツ軍の降伏勧告ビラを拾って2,3枚懐に入れるじゃないですか?あれになんの意味があるのかって、そのあと砂浜で用を足して、尻を拭くためなんですよね(笑)。

押井:わかるんだけど、実際に映画で描かれるのは珍しい(笑)。

岡部:それから、民間船の船長ドーソン(マーク・ライランス)の小型船が兵士たちを救うためにダンケルクに向かう途中で、味方の飛行機が飛んで来るシーンがあるじゃないですか。あそこで使われているのは、ブレニム(イギリス空軍の爆撃機)なんですが、イギリスに1機だけ飛べる機体があったので、それをわざわざ飛ばしてるんですよ。でも、そもそもあのシーンって、必要あります?

押井:ないですね(笑)。

岡部:あれはたぶん、「せっかく飛べる実機があるなら飛ばしちゃえ!」っていう”ノリ”だったと思うんですよね。

押井:「やったぞ!」っていう達成感ですよね。そこまでいくと、こだわりというより、一種の誇大妄想に近い(笑)。だから『ダンケルク』、個人的にはメチャメチャ面白かったし、いい映画だとは思うけど、素直に褒めたくないところもあるんです。もちろん、スピットがカッコ良すぎだろ、というのもあるし。そこはもう一回ツッコミを入れておかないと気が済まない(笑)。

岡部:ダンケルクの戦いの史実について知ろうと思ったら、ちょっと肩透かしを食らうかもしれないけど、一通りの流れを知っていれば、濃厚なディテールを隅々まで楽しめる映画ですよね。

押井:そもそも合理的に考えれば、実際のダンケルクの荒れた海で撮影する必要もないわけでね。今なら、オーストラリアかニュージランドでロケするでしょう、普通は。でも、そこを敢えて現地にこだわった。そういう執念や、色んな細部も含めて、あっちもこっちもイギリス人の意地が貫かれている。イギリス人のイギリス人による”変な映画”ですよ(笑)。


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