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押井守『THE NEXT GENERATION パトレイバー』ネタバレ感想


■あらすじ『20世紀末、テクノロジーの発達により登場した汎用人間型作業機械“レイバー"は、軍事・産業とあらゆる分野で急速に普及していった。それに伴い急増するレイバーによる事故や犯罪に備え、警視庁は特科車両二課パトロール中隊:通称パトレイバーを設立。そして21世紀、長期的不況により、手間とコストのかかるレイバーは無用の長物となり、大幅に人員を減らした特車二課は、レイバー運用経験の継続のために、かろうじて存続するのみとなっていた。いよいよ課の解散も噂される中、隊員たちは、今日も日々の業務に勤しんでいた…。その誕生から約四半世紀、アニメシリーズの初期OVA、劇場版(1&2)でも監督を務めた押井守を総監督に迎え、完全オリジナルの実写版として今パトレイバーが甦る!』



押井守監督の実写版『機動警察パトレイバーを観ました。「押井監督の実写映画だし、世間の評判も良くないからどうかな〜」と思いながら観たんですが、意外と楽しめましたよ。まあ、一般的な感覚で考えれば到底「面白い」と言えるような内容じゃありませんが(笑)、押井守の人物像を知っている人にとっては色々と興味深い映画だと思います。

まず、1本目のエピソード0からスタート。この話は本編に入る前のプロローグ的な位置付けなので、特に中身はありません(笑)。千葉繁さん演じる整備班・班長のシバシゲオが、全く仕事が無い現在の特車二課の中で、泉野明や篠原遊馬や後藤隊長など、かつての特車二課第二小隊のオリジナルメンバーを思い出しながら、「あの頃は色々な出来事があったなあ…」と当時の様子を振り返る、という展開になっています。

今回の話は初代のメンバーがいた頃から15年後という設定なので、野明も遊馬も出て来ませんが、彼らの”その後”を語るシーンで後ろ姿だけチラッと登場していました。太田功は暴力事件を起こして収監されたとか、後藤隊長は退職後に警備会社を設立するも1年で倒産し、その後は行方不明になっているとか、皆さん色々あったみたいですねえ(笑)。ちなみに、野明は現在35歳で篠原重工のレイバー開発部専属テストパイロットになっているそうです。

しかし、ここで従来のパトレイバーファンは思うわけですよ。「どうしてオリジナルメンバーを出さないんだ?」と。しかも、似たような名前で全然違うキャラクターをなぜ出すんだと。実はこれ、押井守監督がアニメ版のキャラクターを好きじゃなかったからなんですね。それどころか、はっきり「嫌いだった」と言い切ってるんですよ(苦笑)。押井監督としては、一番最初のOVAの頃から本当は後藤隊長南雲しのぶを中心にストーリーを作りたかったんだけど、ゆうきまさみさんやヘッドギアのメンバーから反対されて、それをずっと不満に思っていたそうです。以下、最近のインタビューからコメントを抜粋してみました。

「アニメ版の『パトレイバー』を面白いという人がいるけど、僕はそうは思っていなかった。野明なんて”ロボットフェチの女の子”だよ?それでどうやって性格を作っていくの?そういう不満だらけだった。というか、後藤隊長としのぶさんを除いてはほぼ全てのキャラクターが嫌いだった。だから『パト2』は彼ら(後藤と南雲)を主人公にして話を作ったぐらいでさ。なぜ、他の連中が嫌いだったかというと、あまりにもアニメ的でわかりやす過ぎたから。僕はもっとアニメの初期設定から踏み出したかったし、複雑にしたかったけど、僕以外のメンバー(ヘッドギア)はそういうことに興味が無かったんだ。というか、そういうことが認められなかったんだよ。つまり、今回の実写版では、そういう不満を一気に発散させることが出来たんだ。だから本当にせいせいしてるよ(笑)」 (「TVブロス 2014年4月12日号」インタビュー記事より)

これを読めばわかる通り、押井監督はアニメ版のキャラクターを使って実写版を撮るつもりは最初から無かったんですね。おまけに「パトレイバーなんて大嫌い」と公言していることから、当然パトレイバーが活躍するシーンもほぼありません。これに関しては、以前から「二足歩行巨大ロボット不要論」を繰り広げているだけあって、確固たる主張を貫いています。

「だってね、もう25年以上前になるわけですけど、そもそもこのパトレイバーという作品のスタート地点は、“二足歩行の巨大ロボットが活躍するなんてあり得ない”っていうのを裏テーマみたいにしてたんだから。僕が携わってないところでいつの間にか”パトレイバー大活躍!”みたいになってたけど、でも本当は最初からレイバーは“使えないもの”という前提で、事件現場に持っていくのも渋滞に引っかかって大変だし、現場でもリボルバーなんて役に立たないし…ってところから話を始めたんだよ。だから今回の実写版は本当の意味での原点回帰なんだよ。二足歩行の巨大ロボットなんて、それぐらい使えないものなんだ、誰がこんなもん作ったんだ!ってところから話を始めようぜっていう。だってロボットって本来無人であるべきなのに、人が乗ったら意味ないだろ!って(笑)。本当は顔も足も必要ないんだけどさ。でも日本人はデカいロボットに人が乗って戦うってのが好きだからね。そんなミステイクを警視庁が大マジメにやってしまった、というのが劇中の背景にある物語なんだよ。ここから始めないとリアルは一切出てこないと思ったから。」 (「ニコニコニュース」より)

なお、エピソード0を撮ったのは押井監督ではなく、田口清隆監督なんですけど、脚本を書いたのが押井さんなので全体の雰囲気は押井ワールドそのもの。特に、千葉繁さんが延々と長台詞を喋るシーンは強烈に押井作品を思い起こさせ、良くも悪くも”押井守映画”を実感させる作りになっていました。千葉さんの喋りは、やっぱりこの世界観にハマるよねえ。

ちなみに、田口清隆監督は特撮畑出身のクリエイターで、学生時代から『大怪獣映画 G』や『長髪大怪獣ゲハラ』などの自主制作映画を撮り続け、近年も仮面ライダーウルトラマンなどに関わっているようです(師匠は『ガメラ』シリーズの樋口真嗣。で、樋口監督も押井監督と因縁めいた話が色々あるんだけど、それはまた別の機会にw)。

そしていよいよエピソード1から本編がスタート!と言っても特に何も事件は起きません(笑)。特車二課設立から15年経ってレイバー犯罪も少なくなり、パトレイバーの出番がほぼ無くなった現状において、第二小隊の主な業務は事務処理と草むしりと待機のみ。それ以外の彼らの行動は、ただひたすらメシを食うこと。まあとにかく、登場人物が食事をするシーンがやたらと多いんですよ。なぜこんなにも食べるシーンが多いのか?その理由について、押井守監督は以下のように語っています。

「エピソード1から皆、盛大に食べまくっています。僕は食べるシーンが大好き。ポール・ヴァーホーベンのシャワーシーンみたいなもんです。僕の場合はレストランで気取った料理を食べるんじゃなく、チャーハンとか素麺とかフランクフルトとかを大人数でわあわあ言いながら食べる感じ。食べ方も犬のようにガッつくのが好きで、撮影中も”犬みたいに食え”と指示しました。宮さん(宮崎駿)の作品にもたくさん食べるシーンが登場するけど、そのほとんどの作画が素晴らしい。もし彼の作品に食べるシーンが無かったら、好きにならなかったかもしれない。おそらく宮さん、食べるシーンだけは今でも自分で描いてるんじゃないかな?食べることは宮さんにとってテーマの一つだからね。しかもガツガツ食う系で僕と同じ。そこだけはとても共感してます。」 (「TVブロス2014年4月12日号」インタビュー記事より)

つまり、「物を食べるシーンが好きだからいっぱい撮った」ということなんですね(笑)。とにかく、このエピソード1に関してはもうストーリー云々じゃなく、食べてるシーンしか印象に残りません。ちなみに、コンビニへ出かけた遊馬…じゃなくて佑馬がテレビに流れた緊急速報を見てビックリするシーンでも、画面に何やらグルメ番組みたいな映像が一瞬映ってるんですが、実はこれ映画なんですよ。


辻本貴則監督が撮った『ブシドーマン』というアクション映画で、主人公が食事をしているワンシーンをそのまま使ってるんです。辻本監督は、『KILLERS キラーズ』や『真・女立喰師列伝』など、押井守監督が企画した映画に何度か参加して、その後『ブシドーマン』を撮りました。今回の実写版『パトレイバー』ではエピソード2、4、8を担当しているため、お遊びとして映像を入れたのでしょう(ちなみに『ブシドーマン』も食事シーンが多いですw)。

さて、散々メシを食うシーンばかりを見せられ、「いかげんにしろよコノヤロー!」と観客の忍耐も限界に達し始めた頃、ようやく事件が起こります。しかし、「パトレイバー出動か?」と期待するものの、「誤報でした」とガッカリ。こういうやり取りが何度も繰り返され、「まさかこのまま終わるんじゃ…?」と不安を感じ出したその時、ついにパトレイバー始動!泉野明が操縦席へ乗り込み、巨大メカがキャリアに設置され、サイレンを鳴らしながら事件現場へ急行する様は、まさに機動警察パトレイバー!こういう映像が見たかった!






まあ、実際にパトレイバーが活躍するシーンは少ないんですけど(リボルバーカノンを一発撃って終了)、実物大の巨大ロボが車両に乗せられて道路を走るヴィジュアルが見れただけでも感激しましたよ。次回はもっとアクションシーンが増えると嬉しいですね(^.^)

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